忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第6章 神の器の奮闘記 ~王国復興編~

第73話 てんきの価値は

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 風呂上がりの脱衣所。濡れた髪をタオルでガシガシ拭きながら、俺は玄太と並んで廊下を歩く。

「ふぃー、さっぱりしたな」
「ずぶ濡れの後の風呂って、格別っすね!」

 俺たちがそんなことを言いながら居間に戻ると、空気が変わっていた。テーブルにはすでに全員がそろっていて、ラクターさんの顔がいつになく真剣だった。

「…出たか。すまんが、少し話がある」
「え、なんかあったんすか?」

 俺が椅子に腰かけると同時に、ラクターさんが話を始めた。

「実は、お前たちが晴れ知らずの山に行っている間に情報が入った。コンバイン!地図を」
「はっ!隊長」

 コンバインさんが一枚の地図を広げる。中央には俺たちの農場、そしてその外縁を囲むように赤い印がいくつも記されていた。

「これは…?」

「今朝、城下町に住んでる連絡員から入った情報だ。ゲドが帝国本隊を引き連れ、王国各所に集結しつつある」

 アリスが顔をこわばらせた。

「帝国本隊…!?つまり、農場に本気で攻めてくるつもりってこと?」
「そうかもしれん。これまでは小規模な偵察や牽制だったが、次は違う。…本気で、潰しにくる」

 室内の空気が一気に冷え込む。コンバインさんが、腕を組みながら重々しく口を開いた。

「ゲドはこの農場に執着している。しかも、天貴!お前の力を特に警戒している」
「俺に…?スカイリンクにってことか?」

 自分の言葉に、自分でゾッとする。けど、アリスがすぐにピンときた顔でうなずいた。

「そうか!だから、雨が突然止んだ“晴れ知らずの山”に調査に来てたのかも」
「天貴!帝国は、お前の力を狙っている可能性が高い」

 ラクターさんの静かな声に、俺は思わず体がこわばる。いやいや、ちょっと待て。俺、農業してただけなんですけど!?

「いや。玄太君がここへ来た日のあの黄金の鉄槌。あれは帝国に伝わっているはずだ」

(あれって、ダウンバースト…か?)

 たしかにあれを敵軍隊の中心にぶっ放すだけで、その隊は相当ひるむはずだ。俺は無意識に恐ろしい兵器を持っていたらしい。

「そもそも帝国にとっては、いち農場なんてどうでもいいはずだ」

 コンバインさんが腕を組んで渋い顔をする。

「それでも帝国がここに兵を送る理由…お前以外にねえだろ」
「国土の拡大。支配力の強化。気象を操作できる能力が、戦略的価値を持たないわけがない」

 ラクターさんの言葉に、俺は黙るしかなかった。たしかに、俺の力は……やろうと思えば、国一つ干ばつにできる。

「天貴さんの力が怖いのは、直接的な攻撃だけじゃないの」

 そう言ったのは、シーダさんだった。静かな声なのに、空気がピリッと張りつめる。

「そう。脅しには、もってこいだ」

 コンバインさんがうなずくとラクターさんが話をつづけた。

「“降らせたきゃ言うことを聞け”、“言うことを聞かないなら一滴も降らせない”。それだけで、干ばつ地帯の国は跪い」

 ラクターさんが真っすぐに俺を見つめる。その視線に、背筋がひやっとする。

「戦争は、勝てばいいってもんじゃねぇ。どう勝つか、どれだけ無傷で領土を手に入れられるかが重要なんだ」
「お前の能力は、戦場で剣を振るわずして、町も、城も、国すら明け渡させられる」

「なんなら、小国が大国を脅すことだってできるわね…」
「確かに、神の器に恥じない力だな」

「…そんな」

 運用方法次第で世界がひっくり返るって事か。自分の力なのに、正直怖い。そんなもんを「農場のお天気☆便利スキル」って気軽に使ってた自分を殴りたい。でも、たしかにその通りだ。畑に雨を降らせて作物を実らせる力は、裏を返せば“実らせない”選択もできるってことだ。
 ──誰も傷つけずに、誰かを絶望させる。それが……俺のスカイリンク。けど今は、それすら使えない。
 使うたびに俺の背中の刻印と魔力が染まっていくらしい。あれが進んで、また意識が飛んで……この状況でそんなことになったら余計にみんなに迷惑が掛かっちまう。
 だから今は、怖くて使えない。

「てんぱい…」

 玄太が、心配そうに俺の顔をのぞき込んでくる。無言で頭を撫でてやると、少しだけほっとした顔になって、照れたように笑った。

「…でも、てんぱいは大丈夫っすよ!」
「ん?」

「だって、おれが守りますから!」

 キラキラした目で言われて、何の根拠もないのに不思議と大丈夫な気がしてくる。

「いや、俺がお前を守るんだって…」

 でもその直後、玄太がふっと真顔になった。

「…てんぱい。今はスカイリンク、使えないんすよ!要するに戦力外っすから!」

 その言い方ひどくね?っていや、その通りなんだけど。

「って、お前も一緒じゃねえか!!」
「へへ、バレたか」

 あははとみんなで笑ったけど、急にアリスが真剣になる。

「でも。やつらにそれがバレたらまずいのよね。敵に“撃てない”ってバレたらほんとに囲まれる」
「ああ。わかってる」

 俺は小さくうなずいた。だからこそ、使わないで乗り切るしかないんだ。

「とにかく…!また、てんぱいの体を狙ってるやつが、出てきたってことっすね!」

 いきなり核心を突いてきた玄太の言葉に、俺は思わず盛大にむせた。

「ぶっ!?その言い方やめろ!!なんかすっげー誤解されるから!」
「え?違うんすか?狙われてるのって、てんぱいの“からだ”でしょ?」

「いや、そうかもしんねーけど、もっとマシな言い回しあっただろ!?」

 俺が大げさに身振りで否定すると、アリスが思わず吹き出し、コンバインさんまで肩を震わせていた。

「ふふっ…いつものノリ、戻ってきたわね」
「安心した証拠だな」

 ラクターさんのその一言で、場に少しだけ和らいだ空気が戻ってきた。でもその直後。

「…だからこそ、今のうちに対策を練る必要がある」

 地図を睨みながら、ラクターさんが静かに告げた。ゲドと帝国が本格的に動き出した今、こっちも動くしかない。 
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