忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第6章 神の器の奮闘記 ~王国復興編~

第75話 玄太の戦略 後半

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 何度か会議が終わった後、俺たちは早速、二手に分かれる準備を始めた。

「王宮は動けるやつを選抜するぞ」

 ってことで、王宮への奇襲組は俺、玄太、アリス、ラクターさん、コンバインさんの精鋭チーム。一方、噂の拡散や神の器伝説の演出工作は、ノーグさんの指揮のもと、農夫の中でもダストラの皆さんに協力を仰ぐことになった。
 そして、幼い子やアストラ使いの農夫たちには、あえて普段どおりの作業を続けてもらう。防護柵の仕上げもあるし、いつも通りに見えるってのが一番の偽装になるからな。

「なんか、王宮潜入より噂がどうなるか?の方が緊張するっすね……」

 屋敷から出ていく噂担当の農夫たちを見ながら、玄太がつぶやいた。

「そうだな。嘘を信じさせる芝居って、俺には無理だし」
「あはは!そっすね!てんぱいは顔に出ちゃうっすから!」

「悪かったな!」

 俺、そんなに顔に出ちゃうか?そして、演出工作組でやる気満々で旗を振ってるのは、フリットという兄ちゃん。

「帝国のやつらに一泡吹かせてやる!」

 なんかもう、自分が主役みたいな顔してる。その隣で燃えに燃えてるのは、マーシュというおばあちゃん。

「この時を…この時を、ずっと待っておった!」

 顔にシワはあれど、声も姿勢もピンピンで、どこからどう見ても元気そのものだ。

「ばば達のねっとわーくを見くびるでないぞ? 噂なんてな、口三つあれば一晩で国中に広がるわい!」
「元気なばあちゃんだな……なんか、俺のばあちゃんに似てるかも」

 ついぽろっと口にすると、すかさずアリスが首を傾げてきた。

「あら、天貴にもおばあちゃんがいるのね?」

 何かあらためて言われると、ちょっと照れる。

「天貴や玄太君のご家族は、無事で元気してるのか?」

 ラクターさんが、ふと真顔で問いかけてくる。……珍しいな。俺たちの内情に触れてくるなんて。

「えっと、俺は…ばあちゃんが一人。元気にしてるはず…です」
「おれも両親いないっすけど、姉ちゃんがいるんすよ!」

 玄太が、どこか自慢げに胸を張る。

「…そうか」

 ラクターさんが、父親スマイルしながらうなずいた。

「家族…仲間、名誉、誇り。なんでもいい。守るものがある者は、強い」

 その言葉に、コンバインさんも静かに頷いていた。

「俺は隊長を死んでもお守します!!!」

 いつもの調子でコンバインさんが宣言すると、なぜか負けじと玄太まで声を挙げる。

「お、おれは!てんぱいを守るっす!!!!!」

 勢いよく拳を握って宣言すると玄太に、思わず全員の視線が集まった。

「…なんで急にでかい声になんだよ!」
「だって!おれにとっての家族!守るものは、てんぱいなんすから!」

 真正面から言い切られて、俺は一瞬、言葉を失う。俺だって…お前を!そう思ったけど言葉にできなくて、笑うしかなかった。…なんか顔、めちゃくちゃ熱い。

「ふふっ。ほんとに仲良しね」

 アリスがくすっと笑い、ノーグさんが肩を揺らしてクククッ。

「うむ。よい主従の絆じゃ」

 マーシュおばあちゃんまでしみじみとした顔で言い出す始末。

「主従じゃないですって!!対等だし!」

 思わず机を軽くバンと叩いた俺に、みんなが笑い出した。……でも、今の俺たちにとって、守るものってのは、農場であり、この仲間たちなんだろうな。


 ******

 部屋に戻ると、クータンは俺のベッドの上でのんびりとくつろいでいた。

「クータン、ただいまーっす」

 ドアの音で耳だけぴくりと動く。

「ふむ。甘乳パンの時間かの」
「ふっ、相変わらずだよな。ほら!」

 そう言って、俺は袋から甘乳パンを三つ取り出し、ひとつはクータンに、もうひとつは玄太へ渡す。

「三人で久々に甘乳パンで乾杯だな!」
「っすね!!」

「ふむ。良き趣向じゃ」

 クータンはむくりと起き上がり、嬉しそうに甘乳パンを食べ始めた。

「玄太印となっても、この味は変わらず美味じゃ」
「クータン、久しぶりにゆっくり話せるっすよね!最近、ずっとバタバタしてたから…」
「ふむ。人というのは忙しい生き物じゃの」

 そう言いながらも、クータンは尻尾をふりふりしてて、実は少し嬉しそうだった。

「いや、好きで晴れ知らずに山に二回も行ったわけじゃねえって!」
「ほんとっすね。あ、そうそう、クータン!今度は水の精霊ってのが出たんすよ!」

「…ふむ。それをなぜ驚く?風の精霊在れば水の精霊あり」
「え、まさか。火の精霊とかもいんのか?」

 クータンの反応にありそうな話を振ってみる。

「火、土、光。この世界のあらゆるものに精霊は宿る」
「マジか。改めて考えると本当にゲームの世界だな、玄太」

「そっすね。でも勇者とか魔王とか、そんなもんはいねえんすね」
「ふむ。しかし、神はおるがのぉ」

 俺をチラッと見るクータン。神とか、器とか、いまだに実感なんてない。

「でも、今回はその神になりすますのが作戦っすから!」
「はは…だな!」


 ******

 次の日になると、農場のあちこちで伝説の準備が静かに始まっていた。リビングのテーブルでは、シーダさんが伝令書を何通も手際よく書き上げていた。

「神の器が怒ってる。これ、書き方どうしましょうか? 少し含みを持たせた方が効果的ですよね?」
「神の怒りに触れる国はどこか?空の怒りに触れる国はどこか?…そんな感じで書くのだ」

 ラクターさんの低い声が響く。

「おお、それっぽいっす!」
 
 ラクターさんのアイデアに、玄太が嬉しそうに拍手を送る。一方俺たちは、コンバインさんが地図を指差しながら王宮ルートを説明していた。

「ここが城壁の東側。今は使われていない水路がある。おそらく夜間であれば、侵入は可能だ」
「内部構造は……昔と変わっていなければ、だけどな」

 コンバインさんが険しい顔で言う。

「コンバインさん、お父様!王族はどこに囚われてるか、見当はつく?」
「幽閉されているなら、この離れの可能性が高い」

 ラクターさんが、城の見取り図を指差しながら言う。

「城の東か…外壁に近いわね」
「うむ。もともとは王の静養用に作られた離れだ。帝国がそこを牢代わりにしている可能性は高い」

「警備は?」
「警戒はされているだろうが、本丸ほどではないだろう」

「なるほど…なら、そこを目指すってわけっすね!」

 玄太が勢いよく指を鳴らす。まるでゲームのミッション開始の合図みたいだ。

「なら、この裏手の城壁からの侵入が妥当か」

 コンバインさんが地図に印をつける。当たり前のように「壁から侵入」とか言っちゃう異世界、やっぱりおかしい。

「うわ、壁高そう…」

 壁越えに不安な俺。現代では壁なんて超えないからな。

「大丈夫だ。入るのは容易い。昔ここは城壁登りの訓練をしてた場所だからな」
「か~!あれキツかったんですよね!」

 コンバインさんの言葉に、ラクターさんは「ほらな?」みたいな微笑みを俺に送ってくる。いや、訓練もろくにしてない俺たちは大丈夫ではなさそうだけど。それにしても、王族の救出って言うけどさ、色々不明な点は多い。

「あの。助けるっていうけど、助けた後はどうすれば良いんですか!?」

 思わず聞いてしまった。なんかこう、漠然とした疑問だったけど、口に出した瞬間に妙に現実味が増す。

「…そのまま王座を取る!」

 ラクターさんが短く答える。

「でも、こんな状態で玉座を取り返しても、またすぐ堕とされたら?」
「そこなんだが離れの他にもうひとつ。寄りたい場所がある」

 ラクターさんが離れのそばの四角い建物を指差す。

「ここはかつて、罪を犯した貴族などを幽閉する場所だった。今は反帝国派の人材がいるやもしれん」
「ってことは、ここも同時に解放すれば…!」

 玄太がちょっと楽しそうだ。

「うむ。反帝国派の精鋭で玉座を固めて防衛陣を張らせる」
「天貴!一度だけ、お前にアストラ……スカイリンクを使って欲しい!」

「えぇ!!てんぱい、今封印中っすよ!!」
「うむ、分かっている!一度だけでいい。なにか神の意思による演出、そう言った感じの天候を…」

 その言葉に玄太は納得いかない顔をしつつも、ある一つの天候を思いついた。

「…だったら雪っすかね」

 雪?なんだそれ?みたいな皆さん。

「この世界、雪って降らないんすよね?だから、いきなり空から白いのが舞い始めたら…」
「はは!見たことないなら、みんなビビるるよな」
「玄太さん!その雪ってのは、一体どういう!?」

 アリスが初めて聞く「雪」に興味津々だ。

「攻撃能力は無くて、神の警告って感じにはピッタリの天候っす!ね、てんぱい!」

 玄太が俺の顔を見ながらニヤッとする。

「…玄太。俺やるよ」
「っすよね。分かりました!もし倒れたらおれがおぶって帰るんで!」
「ああ…頼りにしてる」

 俺の一言に、目がキラキラする玄太。

 玉座の奪還に、防衛陣。そこに見たことのない異常な天候に、神の器のウワサ。

「つまり今回の作戦。神の意思によってあるべき形に戻った。そんな演出ね」
「そして、それが帝国の正当性を揺るがすのね」

 アリスがまとめると、ノーグさんの声が静かに響く。空気が再び引き締まった。いつのまにか、誰も冗談を言わなくなっていた。

 ──これはただの奇襲じゃない。この世界の歴史を、揺るがす火種になるかもしれない作戦だ。

「…よし」

 俺は深く息を吸い込んで、言った。

「準備を整えよう。城に神の怒りをお見舞いしてやるぜ」
「よーし!てんぱいの伝説、作っちゃいましょー!」

 こうして、農場の一同は二つに分かれ、それぞれの戦場に向けて動き出した。伝説は、ここから始まる。
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