忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第6章 神の器の奮闘記 ~王国復興編~

第82話 玉座に舞う雪 前半

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【アグリスティア王宮・玉座の間】

「制圧完了ーーー!!」

 ラクターさんの声が戦場の終わりを告げた。静まり返る玉座の間に石床に倒れるゲドの兵たち。まもなく開かれた正面の扉に、丸っこい影が現れた。

「…王!!」

 誰かの声に振り返ると、アリスに連れられた王様と王女、メイド数人が玉座の間へと小走りで駆けて来た。

「おお!我が玉座が…!」

 ぽてぽて…と音がしそうな勢いで、まるっと王様が前のめりで走り出す。というか、走ろうとして、バランスを崩しかけた。

「もう!パパったら!」
「陛下!お足元を!」

 セス卿が慌てて支える。

「大丈夫じゃ!さあ、はよぉ玉座へ!」

 王様、興奮マックス。たぶん血圧もマックス。

「ではお掛け下さい、陛下」

 レミス卿が小さく笑いながら言う。ちょっとお茶目。

「…そうじゃな」

 王様がぐっと息を吸った。まんまるの体に、今だけ王の威厳がじんわり宿っている。一歩、また一歩。倒れた帝国兵を避けながら、玉座へとまっすぐ進むその姿はなぜか、すごく格好よかった。そして、王様は少しだけ手を触れ、確認するようにその椅子を見つめて、ゆっくりと腰を下ろした。

「…ふぅ、ただいまじゃ」

 ギシッと重く音を立てる玉座。側近の人も何人かの兵も、自然と膝をついてた。いや俺もつられて一瞬、手を胸に当てかけた。

「陛下…」

 リゼリア王女がそっと口を開く。

「おかえりなさいませ、王様」
「ふふ、まったく…苦労賭けたの」

 目頭をぬぐう王様。リシェル王女もくすっと笑ってる。──ああ、なんていうか。心に、じんわり熱いもんが来る。でもって、隣で玄太が小声でつぶやいた。

「まるっとした背中でも、カッコいいんすね」

「ああ…だな」

 うん、俺も今だけは素直にそう思ったよ。まるっとしてても、王様は王様だってな。……だけど。

「…まだ、終わってないっすよね」

 玄太の声。隣にいた俺をちらっと見て言った。うん?と思った瞬間だった。

「天貴!」

 アリスが、すっと前に出てきて、俺を見つめた。真っ直ぐな目で。

「いまこそ、神の器の出番よ」
「は?」

 アリスの指が、上を差した。

「空は、あの天窓で繋がってる」

 見上げれば、開いたままの天窓。そこから朝の空が覗いている。

「玉座奪還の瞬間に神からの啓示。今よ、神の器さん」

 アリスの言葉に、リゼリア王女が静かに続けた。

「この場にいた誰もが見るのです。神の器が、王国の空に奇跡を起こす瞬間を」

 玄太が小さくうなずいた。目がいつになく真剣だった。

「てんぱい…!」
「…あぁ。分かった」

 みんなが俺を見てた。農場の仲間たちも、王族の人たちも、兵士たちも。自分でもわかった。ここでやらなきゃ、いつやるんだって話。

 俺はそっと目を閉じて、両手を空に掲げた。

「スカイ……リンク」

 静かにそうつぶやいたけど少しの間、なにも起こらなかった。天窓の外は、ただ静かに青く広がってるだけで風も、音も、気配もない。

(…やっぱ、ダメなのか?)

 うっすらと、そんな不安がよぎる。

「天貴、信じてるわ」

 アリスの声が、そっと背中を押してくれる。神の器なんて、そんな大層なもんじゃないって自分でも思ってた。でもいま、この瞬間だけはみんなの希望を、俺が繋ぐんだ。俺はもう一度、目を閉じて強く空に気持ちを向けた。

(空……おい、空!聞いてるか?みんなの希望を…奇跡を降らせてくれ!)

 天窓の向こう。空の高みで何かが震えたような気がした。光がきらりと線を描く。すると俺の目の前に「ふわり」と白い粒がひとつぶ。

「……きた」

 気が付けば、天窓の先からいくつもの白い粒が玉座に舞い落ちてくる。

「……綿?」

 リゼリア王女が空を見上げながらつぶやく。

「お姉さま、これ冷たい…綿じゃないよ!」

 リシェル王女が、手のひらに落ちた雪を見つめてる。

「天貴!これって一体…!?」

 アリスが俺に振り返ろうとしたけど、気が付けば、玉座の間全体に静かに真っ白い雪が舞い降りていた。

「っ…すごい…!」
「氷の羽のようだ…」

 アリスの目が潤んでいた。リゼリア王女も口元に手を当てて言葉を失っている。

「これは…雪だ」
「雪…?」

 この世界に初めて降る雪に、誰もが言葉を失っていた。

「てんぱい…お、おれ、こんなきれいな結晶雪…初めて見ました!」

 玄太の声が震えてる。お前、泣いてんのか?

「これが…これが、神の奇跡…!」

 誰かがそうつぶやいた時、王様が玉座から立ち上がり俺の前に歩いてきた。そして、ぽとりと手のひらに落ちた一片の雪を見つめながら言った。

「天より舞い降りた白き奇跡…これが、神の器の加護か…」

 俺は、首を横に振った。

「ちがいます。俺だけの力じゃない。みんなでここまで来たんだ」

 この雪は、俺たち全員で勝ち取った希望の証。アグリスティア王国に、神の奇跡が訪れた瞬間だった。 
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