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第6章 神の器の奮闘記 ~王国復興編~
第83話 玉座に舞う雪 後半
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アグリスティア王宮に、雪が舞い降りた。
王様が玉座にドスンと腰を下ろし、王女たちがその横に立つ。ラクターさんたち側近勢もズラッと揃って、なんていうか、ひとときの勝利ムードってやつだった。けれど、その空気は一人の兵士の報告によってすぐに変わった。
「セス卿!ご報告が!」
「ふむふむ…なに?妃が動いた、と」
セス卿が低くつぶやくと、その言葉に場の空気がピリッと緊張を帯びる。
「妃って…裏切ったって人?」
俺が思わず確認すると、ルード老が苦い顔でうなずいた。
「うむ。ゲドと通じ、王宮を内側から崩した張本人じゃ」
「ある意味、真のボスって感じだな」
「てんぱい!しーっっすよ!王女様が…」
「ママ…」
「……あ」
小さな声でリシェル王女がぽつり。隣のリゼリア王女も、目を伏せたまま動かない。そりゃそうだよな。自分の母親が裏切って国が落ちたとか、どんな人生ハードモードだよって話だ。
「妃が何を思って動いたのか。わしはまだ信じたくない気持ちもある」
誰も何も言えなかった。
「だからこそ確かめたい。この子らのためにも、真実を」
うん。たしかにそれは王様にしかできない役目だ。父親としてそして一人の男としてって感じなんだろう。静かにうなずいたのはラクターさんだった。
「ならば、策を講じましょう。取り繕われても厄介だ」
その言葉にレミス卿が顔を上げ、即座に提案する。
「では王のみを玉座に残し我らは姿を隠しては?あの女が誰のために何をしたのかを、己の口から語らせるのです」
「ふむ。ゲドの名が出た瞬間、答え合わせになるかもな」
「うむ…それが一番確実だ」
セス卿もうなずき、ルード老も眼を細める。
「まったく、芝居は嫌いじゃが…妃の本音を引き出すには最高の舞台だの」
王様も意を決したようだ。
「ではアリス殿、おぬしらは王女方と共に後方の部屋で待機だ。天貴君と玄太君もな」
「了解です」
アリスがぴしっと背筋を伸ばし、俺と玄太に目配せをしてから、王女たちを連れて玉座の背後へと向かった。みんなステルスモードで王妃様と王様の修羅場を観察だ。そして、玉座の間に残されたのは、王様ひとり。
雪はまだ、ゆっくりと舞い続けていた。
カツ…カツ…カツ…。
高いヒールの音が、玉座の間に乾いたリズムで響いた。真っ白い雪の舞い落ちるこの空間には、その足音は逆に異物のようだった。
「王よ、なぜあなたがここに?」
扉の奥から現れたのは真っ赤なマーメイドドレスに身を包んだ女性。華やかすぎるほどの化粧に高価そうな黒い毛皮の肩掛け。
「妃か……」
「何を呑気な!そこは、ゲド様の席のはず!」
玉座に座る王様を見て、王妃の足が止まった。
「うんにゃ。もとよりここはわしの玉座じゃろぅ?」
とぼけたように返す王様、だが目は笑ってない。というか、さっきまでまるっとしてた背中が、今は妙にカッコよく見える。
「あり得ないわ!あなたは幽閉されていたはず!」
「そうじゃ。お前はわしを見捨て玉座を売り渡したせいじゃ。子どもたちまで置き去りにして」
王妃様は王様と目を合わさずに腕を組んでいる。
「ち、ちが……」
「言うな。わしは妃の本音が知りたいだけじゃ」
王妃の表情がピクリと動いた。でもすぐに、顔がひきつるような笑みに変わる。
「……ふふ、何を今さらそんなことを。私はね、この国じゃこれ以上美しくなれないのよ」
「なんじゃと?」
「そうよ。あの帝国の女たちを見なさいな!宝石、香水、美容術!あの人たちはね、どんどん綺麗になっていくのよ。なのに私は…!」
「そんなことで、お前は国を売ったのか?」
「だって、あなたでは無理だったじゃない!資金も、贅沢も、夢も!ゲド様は違うのよ!」
王妃の声が、ヒステリックに震えた。
「妃よ…お前は、それで満たされたのか?」
「ええ!ええとも!私はあの方と共に、もっともっと美しくっ」
そのときだった。
「……うそっ」
声がした。小さな、小さな声。振り向くと、リシェル王女がアリスの腕をぎゅっと握りしめて震えてた。その隣から、リゼリア王女が毅然とした態度でゆっくりと前へ出る。
「…母上」
冷たく、それでもどこか苦しそうな声だった。
「あなたが美しさのために私たちを捨てたというのなら、今その美しさでこの玉座を奪い返してみせてください」
リゼリア王女の冷たい言葉に王妃は、一歩後ずさった。
「ママは十分綺麗なのに!ママのバカバカ!」
「だ、黙りなさい!あなた達だって大人になれば分かるわ!」
「もう、言い訳はいりません」
リゼリアの言葉が、ばっさり断ち切った。その瞬間、場の空気が変わった。みんなが静かに、けど確実に敵を見る目になってた。そして、王様がゆっくりと、玉座から立ち上がった。
「妃よ…お前にとって子らも夫も、美しさの前には不要なんじゃな」
「……な、なによっ!?」
「ならばここにお前の居場所はもう、ない」
王様がそう言い切った瞬間。
「よくぞ言いました、王様!」
その声と同時に、玉座の間の左右にある重厚な扉がバン!と音を立てて開いた。そこからぞろぞろと現れたのはセス卿、ルード老、レミス卿。かつての王国の側近たちが、次々に姿を現す。全員が今、王の元に戻ってきた。
妃の目が、明らかに揺れた。
「な、なに?あなたたち、投獄されていたはずっ!」
「いいえ、妃殿下。我々は解放されたのです。王の真の家臣により」
レミス卿がラクターさんを見ながら冷ややかに告げた。
「おっしゃ!女狐ざまぁって感じっすね!てんぱい!!」
玄太。こいつ、なんかちょっと楽しそうだぞ。
「いや、そのテンションで合ってるか?今?」
俺はちょっと小声で突っ込んでおいた。そして、王妃は玄太と真逆のテンションで完全に固まってた。
「ど、どうしてそんな、あり得ない!ゲド様が…ゲド様がいる限り、あなたたちに勝ち目など──!」
「ふむ。ゲドはいま、この場にいないぞ?」
セス卿の言葉が、刃のように突き刺さる。
「その間に、我らは王の玉座を奪還した。そして、あなたの罪もこの場で明らかになった」
「ち、違う!これは誤解よ!私はただ王妃として、母として、美しくあるべきと……」
「母上」
リゼリア王女の声が、ぴしゃりと場を割った。
「もうおやめ下さい。あなたの美しさは、王国は必要としません」
「リゼリア…!」
王妃の顔が、はじめて本気で動揺した。
「陛下」
レミス卿が一歩前に出る。
「この者に王宮への立ち入りを禁じ、今ここに勅命をもって放逐を」
「う、うむ…仕方ない」
少し動揺している王様に居直るお妃様。
「ふんっ…」
そして、王様を見下すように小さく笑った。
「くだらない!!たかが玉座に座ったくらいで国を取り返した気になるなんて!」
「なんじゃと!?妃よ、おぬしはまだ…!」
「私には、ゲド様がいる。帝国が…私にはまだ…!」
そう吐き捨てるように言うと、王妃はひとつ背を向けた。
「王妃よ。お前にはこの空が、この白い奇跡が見えぬのか?」
「っは……?な、なによ…これ?」
ふと妃の手のひらに、ふわりと白い粒が落ちる。
「綿…?…違う…冷たい…」
王妃が、背を向けたまま何かに気づいたように足を止めた。
「これは神の奇跡、そして警告じゃ。道理に反し同盟国アグリスティアを奪った帝国に対する、な」
その瞬間、天窓から差し込む光の中に、無数の白い雪が舞っているのが見えた。
「神の…警告ですって!?」
「そうじゃ」
王様が、重く、静かに言った。
「アグリスティアの空が応えたのじゃ。この玉座のあるべき形と…そして、帝国の歪みに」
その声に、王妃の肩がぴくりと震えた。
「そ、そんな…天が…神が、あなたの味方をするなど!」
王妃が振り返った。まるで、あり得ないものを見るような目で玉座に降る雪を見つめていた。でも、その中心にいるのはゲドではない。今は凛々しいまるっと王様だ。
「お主が信じた美と力が、どれほど空虚なものか。この空が示しておろう?」
「……っひ!」
それは「天罰」とか「敗北」とかそういうんじゃなくて、自分が信じていたものすべてが音を立てて崩れていくのを感じた顔だった。
その瞬間。
「さあ」
リゼリア王女が、一歩、雪の舞う玉座の階段を降りてくる。
「セス卿」
「っは。王女様」
「この婦人は、もはや母でも妃ではありません」
王妃が、息をのんだ。
「アグリスティアの名において、今この場を最後に王宮への立ち入りを禁じます」
「リゼリア…あなた、母にそんな口を!」
「…その資格は、あなたが捨てたはずです」
リゼリア王女の声は、静かだけど鋭かった。灰色の瞳は、氷みたいに冷ややかだ。
「…セス卿。すぐに手続きを」
王女はもう一度、はっきりと言った。
「ま…ママァーッ!」
去り行く母のうしろ姿に、リシェル王女は思わず叫んだ。
(リ、リシェル…!)
しかし王妃は、幼い我が子に振り返ることも出来ず、その場をただ黙って立ち去るしかなかった。白い雪の舞う中を、孤独に歩いていく姿を誰も追いかけようとはしなかった。
王様が玉座にドスンと腰を下ろし、王女たちがその横に立つ。ラクターさんたち側近勢もズラッと揃って、なんていうか、ひとときの勝利ムードってやつだった。けれど、その空気は一人の兵士の報告によってすぐに変わった。
「セス卿!ご報告が!」
「ふむふむ…なに?妃が動いた、と」
セス卿が低くつぶやくと、その言葉に場の空気がピリッと緊張を帯びる。
「妃って…裏切ったって人?」
俺が思わず確認すると、ルード老が苦い顔でうなずいた。
「うむ。ゲドと通じ、王宮を内側から崩した張本人じゃ」
「ある意味、真のボスって感じだな」
「てんぱい!しーっっすよ!王女様が…」
「ママ…」
「……あ」
小さな声でリシェル王女がぽつり。隣のリゼリア王女も、目を伏せたまま動かない。そりゃそうだよな。自分の母親が裏切って国が落ちたとか、どんな人生ハードモードだよって話だ。
「妃が何を思って動いたのか。わしはまだ信じたくない気持ちもある」
誰も何も言えなかった。
「だからこそ確かめたい。この子らのためにも、真実を」
うん。たしかにそれは王様にしかできない役目だ。父親としてそして一人の男としてって感じなんだろう。静かにうなずいたのはラクターさんだった。
「ならば、策を講じましょう。取り繕われても厄介だ」
その言葉にレミス卿が顔を上げ、即座に提案する。
「では王のみを玉座に残し我らは姿を隠しては?あの女が誰のために何をしたのかを、己の口から語らせるのです」
「ふむ。ゲドの名が出た瞬間、答え合わせになるかもな」
「うむ…それが一番確実だ」
セス卿もうなずき、ルード老も眼を細める。
「まったく、芝居は嫌いじゃが…妃の本音を引き出すには最高の舞台だの」
王様も意を決したようだ。
「ではアリス殿、おぬしらは王女方と共に後方の部屋で待機だ。天貴君と玄太君もな」
「了解です」
アリスがぴしっと背筋を伸ばし、俺と玄太に目配せをしてから、王女たちを連れて玉座の背後へと向かった。みんなステルスモードで王妃様と王様の修羅場を観察だ。そして、玉座の間に残されたのは、王様ひとり。
雪はまだ、ゆっくりと舞い続けていた。
カツ…カツ…カツ…。
高いヒールの音が、玉座の間に乾いたリズムで響いた。真っ白い雪の舞い落ちるこの空間には、その足音は逆に異物のようだった。
「王よ、なぜあなたがここに?」
扉の奥から現れたのは真っ赤なマーメイドドレスに身を包んだ女性。華やかすぎるほどの化粧に高価そうな黒い毛皮の肩掛け。
「妃か……」
「何を呑気な!そこは、ゲド様の席のはず!」
玉座に座る王様を見て、王妃の足が止まった。
「うんにゃ。もとよりここはわしの玉座じゃろぅ?」
とぼけたように返す王様、だが目は笑ってない。というか、さっきまでまるっとしてた背中が、今は妙にカッコよく見える。
「あり得ないわ!あなたは幽閉されていたはず!」
「そうじゃ。お前はわしを見捨て玉座を売り渡したせいじゃ。子どもたちまで置き去りにして」
王妃様は王様と目を合わさずに腕を組んでいる。
「ち、ちが……」
「言うな。わしは妃の本音が知りたいだけじゃ」
王妃の表情がピクリと動いた。でもすぐに、顔がひきつるような笑みに変わる。
「……ふふ、何を今さらそんなことを。私はね、この国じゃこれ以上美しくなれないのよ」
「なんじゃと?」
「そうよ。あの帝国の女たちを見なさいな!宝石、香水、美容術!あの人たちはね、どんどん綺麗になっていくのよ。なのに私は…!」
「そんなことで、お前は国を売ったのか?」
「だって、あなたでは無理だったじゃない!資金も、贅沢も、夢も!ゲド様は違うのよ!」
王妃の声が、ヒステリックに震えた。
「妃よ…お前は、それで満たされたのか?」
「ええ!ええとも!私はあの方と共に、もっともっと美しくっ」
そのときだった。
「……うそっ」
声がした。小さな、小さな声。振り向くと、リシェル王女がアリスの腕をぎゅっと握りしめて震えてた。その隣から、リゼリア王女が毅然とした態度でゆっくりと前へ出る。
「…母上」
冷たく、それでもどこか苦しそうな声だった。
「あなたが美しさのために私たちを捨てたというのなら、今その美しさでこの玉座を奪い返してみせてください」
リゼリア王女の冷たい言葉に王妃は、一歩後ずさった。
「ママは十分綺麗なのに!ママのバカバカ!」
「だ、黙りなさい!あなた達だって大人になれば分かるわ!」
「もう、言い訳はいりません」
リゼリアの言葉が、ばっさり断ち切った。その瞬間、場の空気が変わった。みんなが静かに、けど確実に敵を見る目になってた。そして、王様がゆっくりと、玉座から立ち上がった。
「妃よ…お前にとって子らも夫も、美しさの前には不要なんじゃな」
「……な、なによっ!?」
「ならばここにお前の居場所はもう、ない」
王様がそう言い切った瞬間。
「よくぞ言いました、王様!」
その声と同時に、玉座の間の左右にある重厚な扉がバン!と音を立てて開いた。そこからぞろぞろと現れたのはセス卿、ルード老、レミス卿。かつての王国の側近たちが、次々に姿を現す。全員が今、王の元に戻ってきた。
妃の目が、明らかに揺れた。
「な、なに?あなたたち、投獄されていたはずっ!」
「いいえ、妃殿下。我々は解放されたのです。王の真の家臣により」
レミス卿がラクターさんを見ながら冷ややかに告げた。
「おっしゃ!女狐ざまぁって感じっすね!てんぱい!!」
玄太。こいつ、なんかちょっと楽しそうだぞ。
「いや、そのテンションで合ってるか?今?」
俺はちょっと小声で突っ込んでおいた。そして、王妃は玄太と真逆のテンションで完全に固まってた。
「ど、どうしてそんな、あり得ない!ゲド様が…ゲド様がいる限り、あなたたちに勝ち目など──!」
「ふむ。ゲドはいま、この場にいないぞ?」
セス卿の言葉が、刃のように突き刺さる。
「その間に、我らは王の玉座を奪還した。そして、あなたの罪もこの場で明らかになった」
「ち、違う!これは誤解よ!私はただ王妃として、母として、美しくあるべきと……」
「母上」
リゼリア王女の声が、ぴしゃりと場を割った。
「もうおやめ下さい。あなたの美しさは、王国は必要としません」
「リゼリア…!」
王妃の顔が、はじめて本気で動揺した。
「陛下」
レミス卿が一歩前に出る。
「この者に王宮への立ち入りを禁じ、今ここに勅命をもって放逐を」
「う、うむ…仕方ない」
少し動揺している王様に居直るお妃様。
「ふんっ…」
そして、王様を見下すように小さく笑った。
「くだらない!!たかが玉座に座ったくらいで国を取り返した気になるなんて!」
「なんじゃと!?妃よ、おぬしはまだ…!」
「私には、ゲド様がいる。帝国が…私にはまだ…!」
そう吐き捨てるように言うと、王妃はひとつ背を向けた。
「王妃よ。お前にはこの空が、この白い奇跡が見えぬのか?」
「っは……?な、なによ…これ?」
ふと妃の手のひらに、ふわりと白い粒が落ちる。
「綿…?…違う…冷たい…」
王妃が、背を向けたまま何かに気づいたように足を止めた。
「これは神の奇跡、そして警告じゃ。道理に反し同盟国アグリスティアを奪った帝国に対する、な」
その瞬間、天窓から差し込む光の中に、無数の白い雪が舞っているのが見えた。
「神の…警告ですって!?」
「そうじゃ」
王様が、重く、静かに言った。
「アグリスティアの空が応えたのじゃ。この玉座のあるべき形と…そして、帝国の歪みに」
その声に、王妃の肩がぴくりと震えた。
「そ、そんな…天が…神が、あなたの味方をするなど!」
王妃が振り返った。まるで、あり得ないものを見るような目で玉座に降る雪を見つめていた。でも、その中心にいるのはゲドではない。今は凛々しいまるっと王様だ。
「お主が信じた美と力が、どれほど空虚なものか。この空が示しておろう?」
「……っひ!」
それは「天罰」とか「敗北」とかそういうんじゃなくて、自分が信じていたものすべてが音を立てて崩れていくのを感じた顔だった。
その瞬間。
「さあ」
リゼリア王女が、一歩、雪の舞う玉座の階段を降りてくる。
「セス卿」
「っは。王女様」
「この婦人は、もはや母でも妃ではありません」
王妃が、息をのんだ。
「アグリスティアの名において、今この場を最後に王宮への立ち入りを禁じます」
「リゼリア…あなた、母にそんな口を!」
「…その資格は、あなたが捨てたはずです」
リゼリア王女の声は、静かだけど鋭かった。灰色の瞳は、氷みたいに冷ややかだ。
「…セス卿。すぐに手続きを」
王女はもう一度、はっきりと言った。
「ま…ママァーッ!」
去り行く母のうしろ姿に、リシェル王女は思わず叫んだ。
(リ、リシェル…!)
しかし王妃は、幼い我が子に振り返ることも出来ず、その場をただ黙って立ち去るしかなかった。白い雪の舞う中を、孤独に歩いていく姿を誰も追いかけようとはしなかった。
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