忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第6章 神の器の奮闘記 ~王国復興編~

第86話 てんぱい、狙われる!?

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【アグリスティア王宮・夜会の間】

 風呂から出た俺たちは、まるで別人みたいになってた。スーツでもない、ツナギでもない。

「これ、貴族レベルのマジ正装ってやつ…だよな?」

 鏡に映った自分に、思わず問いかけたくなる。いや、この服がカッコいいのは分かる。分かるけどなんでこんなにピチピチしてんだよ!なんか恥ずかしいぞ、これ。

「はぁ…ピチピチでセクシィ~…じゃなくて!そ、それ、てんぱいじゃないみたいっすね」

 とか言う玄太は玄太で、王族用のタキシードみたいなやつを着せられて、なんかもう…七五三みたいにピカピカしてた。

「おれの正装着、王様が即位する前のお古みたいっす!」
「お前は…まあ、あれだな、うん」

「ちょっ!なんすかそれ~!」

 そして、そんな俺たちの前に現れたのは…。

「お待たせしました、神の器様」
 
 その姿を見た瞬間、思わず息が止まりかけた。いつもは軽装の冒険着姿のアリスが、今日は王宮仕立てのドレスをまとってた。髪も結い上げられて、ティアラみたいのまで付けちゃって。

「…おい、玄太。今、アリスがアリスじゃないみたいになってるぞ」
「ほんとっすね…なんか女優の広瀬リンみたいっす!」

 確かに!いつもの農場女子スタイルより別人レベルで綺麗なんだけど。

「あら、玄太さん。その広瀬リンさんって言うのは、どちらの美人さんなのかしら?」
「めっちゃ綺麗でかわいい人っす!今のアリスさんなら戦えます!」

「ふっふ~ん!よろしい!」

 そうこうしてるうちに、祝宴の間に通された俺たちは、目を疑った。

「て、てんぱい…!これが異世界の本気メシ!」
「おう…。見た事ないご馳走だぞ、玄太…!」

 でっかいホールに、これでもかってほど豪華な料理の山。テーブルには肉の塊、フルーツの盛り合わせ、焼きたてパンが山盛り!更にデッカいケーキがあちこちに!まさしく祝宴の最上級みたいな完璧セット!

「っしゃあああ!開戦じゃあああ!!」
「こら!まだ食うな玄太!王様の挨拶の前だってば!」

「えぇぇぇ!ラム肉が俺を呼んでるんすよぉぉ!てんぱい!!」
「だから、まだだって!おあずけ!!」

「キャイン…!」

 そんな俺たちを笑って見守る王族の皆様。そして挨拶が始まった。

「本日は、わが王国の玉座奪還を祝い……」

 まるっと王様の挨拶が、始まった。

「この日を再び迎えられたのは、みなのおかげじゃ。心より感謝する」

 王様の言葉って、こう…なんか重みあるなぁ。

「さぁ、皆のもの!今宵は思う存分楽しむが良い!」

 王様の一言により、会場のみんながわーっと好き勝手に動き出した。拍手!乾杯!どこからか始まる音楽!

「よし、玄太!食うか!!」
「はい!!おれ、いろいろ取ってくるっす!てんぱいは席取っといてください!」

「おう、頼んだ!」

 庶民の俺たちは、おやっさん農場の食堂のような立ち回りで品の欠片もなし。瞬時に好立地のテーブルを見極め席を二つ確保。そんな感じで玄太を待っていると……うん?

(ヒソヒソ…)

 ……おかしい。なんか、空気おかしい。

(ヒソヒソヒソヒソ……)

 確かに今日はいろいろ頑張ったよ?神の器とか言われて、奇跡っぽいのも降らせたし、風呂で鬼ごっこもしたし。

「きゃっ…あの方が神の器様よ…!」

 でも、これは一体…?

「素敵…あれが空から天使の羽を呼んだ…」
「ほら見て、目が合った…!」

 俺を見る貴族女子の目、みんなキラキラ…いや!ギラギラしてるんだけど!?そんな俺の横を、いいとこのお嬢さん風を演じて、すまし顔で歩くアリス。

「おいアリス!?なんか俺すごい注目されてる!?」
「当然よ。貴方は奇跡を呼んだ神の器なんですもの」

「いや俺、噂の的とかそっち系の覚悟できてないんだが!?」
「ま、うまくあしらうのも男子の勤めよ!あ、王女様だ!挨拶してこよーっと!」

 そう言って王女姉妹の方にルンルンで駆けていくアリス。

(は、薄情な…!)

 こっちはひたすら慣れない正装で汗かいてんのに、周りの貴族レディたちが次々と花のような笑顔で視線を送ってくる。なんかもう、視線の質量で潰されそう。

「て、てんぱいぃぃ~~~!」

 玄太が泣きそうな顔で駆けてきた。

「ど、どうした、玄太!?」
「聖堂騎士の男たちが、なんかぁ…」

 そう言って俺たちの方を見る礼装の男子グループを指さす。あれは一緒に玉座を取り戻した騎士団員たちか?

「てんぱいに訓練されたいとか、お風呂で見て惚れたとか…ファンが急増してるんすよぉ!」
「騎士団員!?え~……男子まで…!?」

「神の器としてのカリスマが全方位に刺さってるんす!やばいっす!」

 嘘だろ…?女子からはアイドルの推しを見る目、男子からは憧れとかいう名目で好意をぶつけられ、俺は今ここにきて人生最大のモテ期を迎えているらしい。

(今まで玄太にしかモテた事無かったからなぁ…なんてな)

 すると、意を決した赤茶髪の若獅子みたいな男の騎士がスタスタと近づいて来た!

「天貴殿、よければゆっくりと神の御心について話しませぬか?」

「おお…見ろ!時期聖騎士団長と名高いリオック様が行ったぞ!」

 なんかすごい騎士が来たらしい。しかも負けじと貴族女子数人もいそいそと応戦。

「天貴さま!今度わたくしたちのお茶会に…」
「いや、神の御心もお茶会も、ちょっと興味が…」

 なんだこの祝宴!男も女もギラギラじゃねえか!貴族女子と騎士が俺を狩りに来てる!

「男子にお茶会は似合わん…さぁ俺の元へ…!」

 めっちゃグイグイくるな。流石時期騎士団長…ってそんなこと言ってる場合じゃない!

「て、て…てんぱいは……」
「ん?玄太?」

 玄太が沸々して…これはまさか!?おいまさか、やめろよ?ここ、王宮だからな?自重しろ?


「てんぱいは……おれのもんだぁぁぁ!!」
「や、やっぱりーーー!」

 玄太がすごい顔で吠えながら、両手をバタバタさせて俺に近づく騎士と女子を払いのける。

「おい玄太、落ち着け!これ、そういう意味で好かれてるわけじゃないだろ!?……だよな!?」
「どう見てもそういう意味っす!てんぱいに色目使う奴は全員おれの敵っす!もはや帝国!」

 そして、俺の手をガシィィッと握った。その眼光、さっきの戦闘んときより鋭くないか?

「おれのてんぱいに指一本触れてみろ!ただじゃおかないっす!」

「…おお。あの丸っこい男子、なんと忠義深い!」
「付き人の忠誠、我々も学ばねば…!」

 なぜかハチャメチャ玄太にも尊敬の眼差しがぶつけられてる。

「つ、付き人じゃねえし!」
「やめろぉぉ!火に油注ぐな!それに、学ばなくていいから!」

 ―そのとき、遠くの壁の陰で。

「……ぷぷ。天貴ったら、大人気ね」

 アリスが手扇子を口元に当ててくすり。

「想定の三倍ね。これはすごいですわ」

 リゼリア王女がクールに分析。

「わぁぁ!玄太さんってば、天貴様が大好きなんですね!かわいい~!!」

 リシェル王女は俺たちを見ながらキラキラ笑顔で拍手してた。

「それはそうとアリス様?あなたも貴族男子がみんな狙ってますわよ?」
「え!?貴族の…?嘘でしょ!?」

 伯爵家、男爵家、色んな名家の息子達がアリスを見て、目がトロンとしている。

「わ、私は、ああいうナヨナヨした男はちょっと…」
「あら?脱いだら意外とすごいかもよ?」

「えー!貴族の方でもいい人いますよぉ?」

 いつもと違う女子会のノリに、アリスは初めて年頃女子の楽しみを知るのであった。

 一方、俺と玄太は…。

「てんぱい!こうなったら御馳走は諦めて、二人で駆け落ちするっすよ!」

 そう言って俺の手をガシィッと引っ張って全力で走り出す玄太。

「うそおおお!?ローストビーフが!ステーキがぁぁぁ!」
「我慢っす!てんぱいを魔の手から守る方が大事っす!」

「ああぁ!天貴殿!どちらへ!?」

 ドドドドドドッ……!

 こうして、俺たちは会場から逃げるように姿をくらました。


 ******

 そして城内の廊下。煌びやかな祝宴会場を飛び出して、玄太に手を引かれるまま、俺は王宮の渡り廊下を全力疾走していた。

「はぁはぁ…ちょ、まて玄太!そんなに走らなくても、もう騎士団来てねえだろ?」
「甘いっす!きっとステルスで追って来てますっ…あいつらプロっすから!」

「そこまでして!?」

 ほんと、もう神の器とかいうこの看板、俺の人生で一番重たい荷物になってる気がするんだけど!

「おい、じゃあそこ……そこに隠れようぜ」
「妙案っ……こっちもステルスで対抗っすね」

 ぐるっと曲がった中庭の裏、使われてない小部屋の影に二人で隠れる。
 俺は息を整えながら、じっと玄太の顔を見た。

「ふぅ…ま、センキュ!とりあえず助かったぜ」
「だって…!なんか、もう無理だったんすよ…」

 突然、玄太がスンッとうつむいた。見れば、その目はちょっとだけ潤んでた。

「てんぱい…めちゃかっこよくて…みんなに囲まれてて…」
「…玄太?」

「てんぱいがおれの目の前で誰かに取られるとか…そんなん、ぜってえ耐えられないっす」

 まっすぐな目で、俺の方を見てくる。

「おれは…てんぱいが笑ってくれてたらそれでいいって思ってたんすけど…」
「……ん?」

「やっぱ無理っす。ずっと『おれのてんぱい』って言わせてほしいっす…」

 ああもう。こんなん反則だろ。お前、なんでそんな顔すんだよ。

「ったく…取られるってなんだよ、バカ玄太だな」
「へへ…バカっす」

 肩を並べて腰を下ろす。さっきまでの大騒ぎが嘘みたいに静かで、ひんやりした石の床が心地よかった。

「でも…」

 ぽつりと玄太が言った。

「いつか、ほんとに誰かに取られる日が来ても…てんぱい、それでもおれのこと忘れないでほしいっす」

 珍しく弱気な玄太。なんだよ、らしくねえな。

「…そんな簡単に…取られねぇよ」
「……へへ」

「本当に……バカだな」

 俺はそっと、玄太の頭に手を置いた。

「お前がいてくれたから、俺、ここまで来れたんだからさ」

 玄太の目が見開いて、それから、ふにゃっと緩んだ。

「おれ…やっぱてんぱいとこうしてるだけで、幸せっす」

 ああもう。こいつ、ほんとに手がかかる。けど、だからこそ、目が離せない。

 ……ぐぅ~…ぅ…。

「……あっ…」
「はは……腹、減ったっすね」

 こうして、俺と玄太は小部屋の影で大笑い。

「ほとぼり冷めたら、戻って食いまくろうぜ?」
「はい!!てんぱいの好きな肉団子みたいのもあったっすよ!」

 俺たちの小さな駆け落ちは、雪が降る静かな中庭の裏でほのぼのと落ち着いた。
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