忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第7章:アルカノア農場戦記

第90話 神の声より、ぬしらの声を

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(ふむ。今日も、ぬしらは騒がしいのう)

 我は布団という極上の寝床で今日も騒々しく起床する。

 天貴と玄太が、見慣れぬ人間の雄と何やらバタバタしておる。騒がしいのは、もはや日課じゃ。

「てんぱい!こうなったら朝風呂でも行きましょう!大した事ないって見せつけてやるんすよ!」

「おお!付き人殿、それはナイスアイデア!」

「いや、大した事ないは傷つくわ!!」

 ……まったく。また暑苦しい奴が増えたの。

「おぉぉ!なんか可愛らしい仔牛がおるぞ!!」

「クータンっす!こう見えて予言するすごい仔牛っす!」

「なんと神妙な!さすが器殿のペット!!」

 ふむ。かつて我は予言と偽り、神の声を届けるだけの存在であった。

 そして、三日で命が尽きるはずだった。言葉を伝えて、それで終わるはずだった。

 ──されど。

 その命が尽きなかった日から、何かがズレ始めた。

 神の声はもう聞こえない。いや、聞かぬように閉ざしている。

「天貴殿!このリオックの事も、ペットとしてこの部屋に置いてくだされ!」

「いや、無理」

「ぷっ……めげないっすね、この人」

 それは神ではなく、天貴と玄太を我のあるじとしたからじゃ。

「おいクータンも朝風呂行くっすよ!」

「おい待て。話を勝手に進めるな!」

 神の声よりぬしらの騒がしい声の方が、我にはよほど心地よい。

「さぁ天貴殿!ファランクスを解除して目覚めの湯浴みにいざ!」

「いや、俺のエーテル見たいだけだろ!」

 かつての我が知る神託よりも、ずっと“生きている”人間の声。

「え?何なに?天貴のエーテルってなに?」

「いや!アリスはそこに興味を持つな!」

「えー!ひどーい!私にも見せなさいよ!天貴のエーテル!!」

「年頃の女子が言っていいセリフじゃねぇぞ」

「あのアリスさん?エーテルってのはつまりっすね……」

「……な、なによ?」

 笑ったり叫んだり、急に黙ったり。喜怒哀楽に支配された人間というのは忙しい生き物じゃ。

 それが見ていて楽しいのところじゃな。

「……えぇ!?エーテルってつまり、アレ!?」

「うむ。大胆な御息女だ。流石将軍の娘」

「み、見たかないわよ!!そんなの!!」

「お、俺だって見せたかないわ!!」

 この混沌こそが、ぬしらの……そして我の、日常というものなのじゃろうな。

 神が見ておれば、こう言うかもしれん。

 ──「無駄な日々」と。

「てか、そんなもん見せたって無駄だろ!!」

「いや!!俺が喜ぶ!!無駄ではない!!」

 ……うむ、我もそうは思わぬ。無駄ではない。

 この命が、天貴と玄太の傍らにある限り。無駄かどうかは、神が決めることではない。

(……だから我は、おぬしたちとの生を選んだのじゃ)

 誰に許されたわけでもなく。誰に命じられたわけでもなく。ただ、自分の心で決めたのじゃ。

 それは、かつての我には決してできなかった選択。神に背く、愚かで尊き行い。

 その時。

「てんぱーい、風呂は置いといて朝飯どうします?」

「うーん、今日は甘乳パンかな!」

 おお、こやつらが我の命を繋いだ品を、今朝も選ぶとは。

「それ、クータンと同じこと言ってるっす」

「いや、どうせお前も甘乳パン食うだろ」

「なんだその艶かしい名のパンは!このリオックもご一緒しますぞ!」

 む…!この男、甘乳パンを絶滅させそうな程食いそうじゃの。

「リオックさん10本位食いそうで怖いっすね」

「む……?その雄に食わせてはならん!」

「ぷっ……ぶはははは!流石食いしん坊コンビ」

 真顔で静かに言った我に、天貴は思わず吹き出した。

 それでよい。ぬしが笑えるのなら、それでよい。

(やはり、悪くない選択をしたのじゃ)

 ふむ。今日も騒がしい一日が始まるようじゃな。
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