96 / 188
第7章:アルカノア農場戦記
第96話 不穏な足跡
しおりを挟む
バタンッ!
玄太がドタバタと走り去ったあと、俺はしばらくベッドに座って、ボケ~っとしていた。
「……なんなんだよ、まったく」
布団に置き去りにされたぬくもりが、逆に虚しい。毎朝毎朝「くっつくな!」って怒ってたくせに、いざ隣が空っぽになると……これだよ。
(いや、勘違いすんなよ!?別に寂しいとかじゃないから)
気を紛らわせるように立ち上がると、俺はブルーストライクを腰に付けて、外へ出た。
見慣れた畑道、いつもの中庭、朝の作業が始まりかけてる風景。なのに、今日は全部が静かに感じる。
「……はぁ」
どうにも調子が出ない。なんて考えてた、そのときだった。
「ふんふんふ~ん♪」
ん?……鼻歌?
声のする方を見ると、畑の縁で土をいじってるアリスの姿が見えた。
作業服に袖まくりして、風に揺れる髪。朝の光を浴びて、なんかやたら絵になってる。
「……朝から楽しそうだな」
つい、声が出てしまった。
「え? あ、天貴おはよ!」
「お、おう。おはよ……」
アリスはにこっと笑ったけど、その目が一瞬だけどこか遠くを見ていた気がした。
「………?」
この目。これはアレだ。未来視モード。
「……なんか、視えたのか?」
「うん……。でも……よく分からない……はっきりとは言えない」
出た、曖昧でイヤな感じのやつ。
アリスの先見って能力は、未来のビジョンが少し見えるだけで過程は分からないらしい。「こうなるから、こうしろ!」って分かりやすく指示してくれたら……いや流石にそれはチートすぎるか。
「……ねえ天貴。今日の空、ちょっと変な感じじゃない?」
「いや、普通に晴れてるけど?」
「でも……なんか濁った青空っていうか。言葉にできないけど、胸の奥がざわざわする感じ……」
アリスは空に手をかざす。
「ほら、アカボシが泣いてるような……」
「……おいそれ、めちゃくちゃ嫌な予感じゃねぇか」
空を見る俺もつられてざわっとする。
「あら?そういえば今日、玄太さんは?」
「ん?ああ、あいつは今朝から買い出し班に混ざって行っちまったよ」
「ぷっ!置いてかれて拗ねてるのね?」
「はぁ!?ち、ちげーし!!」
反射で否定したけど、なんかもう全体的にペース狂いっぱなしだ。玄太がいないだけで、俺のテンポってこんな崩れんの……?
──「てんぱい!今日の作業は……!」
──「腹減ったっすね!飯食いましょー!」
──「風呂行くっすよ、てんぱい!」
……思い返せば、あいつの声で、俺の生活って動いてたんだよな。
やばいじゃん、俺。よく考えたら、どんだけアイツ基準で回ってたんだよ。
朝の光はまぶしいのに、風だけが妙に冷たい。
そして間もなく、アリスの「いやな予感」は思いっきり的中してしまうのだった。
***
【アルカノア農場・昼下がり】
昼の作業がひと段落して、広場にはのんびりした空気が流れてた。
桶の水で顔洗ってるやつ、昼飯の支度してるやつ、木陰でうたた寝してるやつ。どこにでもある、平和な昼下がりだった。
……だった、はずなんだけど。
「……あれ?買い出し班がまだ戻ってきてないよな?」
誰かの何気ないひと言で、場の空気がピクッと揺れた。
「もう昼過ぎてんぞ?」
「今朝、けっこう早く出たよな?まだ戻らんのか?」
「寄り道してんだろ。干し肉屋に捕まってんじゃね?」
「今日って……三人で行ったんだよな?誰か先に戻ってきそうだけど」
その言葉に、俺の手が止まる。
(いつもの三人…?)
いや、今朝は玄太もついてったはず。クータンのカゴを背負って、元気に駆け出していったぞ?
いやいや、よくある遅れだろ。玄太がはしゃぎすぎて買い食いとかしたりしてさ……。そうに決まってる。
そう思おうとするけど、なぜか胸の奥がざわざわして仕方なかった。
そのとき。
「天貴殿、失礼いたします!」
リオックが広場の端からまっすぐ歩いてきて、俺の前に膝をつく。
「ただいま巡回より戻りましたが、少々気になる報せがございます」
「……え、怖いな。なんだよ」
「本日、小規模な集落で少人数の行方不明が相次いでおります。畑へ出た者が正午を過ぎても戻らず、連絡も取れないと」
「……それ、どこの村?」
「確認できたのは、周辺で三ヶ所。中でも、リューグ村の者たちは港に買い出しに出たまま戻らないと……」
買い出しに出たまま、という言葉に思わず体が反応した。
(……いや、まさか)
「そこのダストラ二名が、夜明けに仕入れに出たきり、姿が確認されていないとのことです」
喉が、きゅっと詰まった。
「……今朝の買い出し組が行ったのって、どこだった?」
俺の問いに、近くにいた農場民が顔を見合わせる。
「たしか……香辛料と塩の補充って言ってたから、シーランじゃなかったか?」
「そこ、港の方だぞ」
別の声がぽつりと呟く。
その瞬間、背筋を氷水でぶちまけられたみたいに冷たくなった。
もしかして。
いや、でも、まさか。
だけど、港の近くへ向かったかもしれない玄太達が今朝から戻ってない……?
ドクン、ドクンと心臓が跳ねる。
「リオック!!港までの一番近いルートは!?」
自分でも驚くほど強い声が出た。
「はっ!農場を出て、城下方面とは逆の南の街道を進めば急げば!一刻ほどで到着できます!」
「分かった、すぐ行く!!」
「て、天貴殿!?」
何か事件に巻き込まれてる!?今朝の玄太の顔が、ずっと頭から離れなかった。
いつもの調子で「てんぱーい」って笑ってた、あの顔。クータンのカゴを背負って出て行った時の朝の光の中の後ろ姿。
「いなくなるなんて絶対ありえねぇ……!見つけるまで、戻んねぇからな、玄太!!」
気づけば俺は、地面を蹴って全力で走っていた。
玄太がドタバタと走り去ったあと、俺はしばらくベッドに座って、ボケ~っとしていた。
「……なんなんだよ、まったく」
布団に置き去りにされたぬくもりが、逆に虚しい。毎朝毎朝「くっつくな!」って怒ってたくせに、いざ隣が空っぽになると……これだよ。
(いや、勘違いすんなよ!?別に寂しいとかじゃないから)
気を紛らわせるように立ち上がると、俺はブルーストライクを腰に付けて、外へ出た。
見慣れた畑道、いつもの中庭、朝の作業が始まりかけてる風景。なのに、今日は全部が静かに感じる。
「……はぁ」
どうにも調子が出ない。なんて考えてた、そのときだった。
「ふんふんふ~ん♪」
ん?……鼻歌?
声のする方を見ると、畑の縁で土をいじってるアリスの姿が見えた。
作業服に袖まくりして、風に揺れる髪。朝の光を浴びて、なんかやたら絵になってる。
「……朝から楽しそうだな」
つい、声が出てしまった。
「え? あ、天貴おはよ!」
「お、おう。おはよ……」
アリスはにこっと笑ったけど、その目が一瞬だけどこか遠くを見ていた気がした。
「………?」
この目。これはアレだ。未来視モード。
「……なんか、視えたのか?」
「うん……。でも……よく分からない……はっきりとは言えない」
出た、曖昧でイヤな感じのやつ。
アリスの先見って能力は、未来のビジョンが少し見えるだけで過程は分からないらしい。「こうなるから、こうしろ!」って分かりやすく指示してくれたら……いや流石にそれはチートすぎるか。
「……ねえ天貴。今日の空、ちょっと変な感じじゃない?」
「いや、普通に晴れてるけど?」
「でも……なんか濁った青空っていうか。言葉にできないけど、胸の奥がざわざわする感じ……」
アリスは空に手をかざす。
「ほら、アカボシが泣いてるような……」
「……おいそれ、めちゃくちゃ嫌な予感じゃねぇか」
空を見る俺もつられてざわっとする。
「あら?そういえば今日、玄太さんは?」
「ん?ああ、あいつは今朝から買い出し班に混ざって行っちまったよ」
「ぷっ!置いてかれて拗ねてるのね?」
「はぁ!?ち、ちげーし!!」
反射で否定したけど、なんかもう全体的にペース狂いっぱなしだ。玄太がいないだけで、俺のテンポってこんな崩れんの……?
──「てんぱい!今日の作業は……!」
──「腹減ったっすね!飯食いましょー!」
──「風呂行くっすよ、てんぱい!」
……思い返せば、あいつの声で、俺の生活って動いてたんだよな。
やばいじゃん、俺。よく考えたら、どんだけアイツ基準で回ってたんだよ。
朝の光はまぶしいのに、風だけが妙に冷たい。
そして間もなく、アリスの「いやな予感」は思いっきり的中してしまうのだった。
***
【アルカノア農場・昼下がり】
昼の作業がひと段落して、広場にはのんびりした空気が流れてた。
桶の水で顔洗ってるやつ、昼飯の支度してるやつ、木陰でうたた寝してるやつ。どこにでもある、平和な昼下がりだった。
……だった、はずなんだけど。
「……あれ?買い出し班がまだ戻ってきてないよな?」
誰かの何気ないひと言で、場の空気がピクッと揺れた。
「もう昼過ぎてんぞ?」
「今朝、けっこう早く出たよな?まだ戻らんのか?」
「寄り道してんだろ。干し肉屋に捕まってんじゃね?」
「今日って……三人で行ったんだよな?誰か先に戻ってきそうだけど」
その言葉に、俺の手が止まる。
(いつもの三人…?)
いや、今朝は玄太もついてったはず。クータンのカゴを背負って、元気に駆け出していったぞ?
いやいや、よくある遅れだろ。玄太がはしゃぎすぎて買い食いとかしたりしてさ……。そうに決まってる。
そう思おうとするけど、なぜか胸の奥がざわざわして仕方なかった。
そのとき。
「天貴殿、失礼いたします!」
リオックが広場の端からまっすぐ歩いてきて、俺の前に膝をつく。
「ただいま巡回より戻りましたが、少々気になる報せがございます」
「……え、怖いな。なんだよ」
「本日、小規模な集落で少人数の行方不明が相次いでおります。畑へ出た者が正午を過ぎても戻らず、連絡も取れないと」
「……それ、どこの村?」
「確認できたのは、周辺で三ヶ所。中でも、リューグ村の者たちは港に買い出しに出たまま戻らないと……」
買い出しに出たまま、という言葉に思わず体が反応した。
(……いや、まさか)
「そこのダストラ二名が、夜明けに仕入れに出たきり、姿が確認されていないとのことです」
喉が、きゅっと詰まった。
「……今朝の買い出し組が行ったのって、どこだった?」
俺の問いに、近くにいた農場民が顔を見合わせる。
「たしか……香辛料と塩の補充って言ってたから、シーランじゃなかったか?」
「そこ、港の方だぞ」
別の声がぽつりと呟く。
その瞬間、背筋を氷水でぶちまけられたみたいに冷たくなった。
もしかして。
いや、でも、まさか。
だけど、港の近くへ向かったかもしれない玄太達が今朝から戻ってない……?
ドクン、ドクンと心臓が跳ねる。
「リオック!!港までの一番近いルートは!?」
自分でも驚くほど強い声が出た。
「はっ!農場を出て、城下方面とは逆の南の街道を進めば急げば!一刻ほどで到着できます!」
「分かった、すぐ行く!!」
「て、天貴殿!?」
何か事件に巻き込まれてる!?今朝の玄太の顔が、ずっと頭から離れなかった。
いつもの調子で「てんぱーい」って笑ってた、あの顔。クータンのカゴを背負って出て行った時の朝の光の中の後ろ姿。
「いなくなるなんて絶対ありえねぇ……!見つけるまで、戻んねぇからな、玄太!!」
気づけば俺は、地面を蹴って全力で走っていた。
0
あなたにおすすめの小説
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)
N2O
BL
執着王子 × 異世界転生魔法使い
魔法使いが逃げられなくなる話。
『上』『中』『下』の全三話、三連休中に完結します。
二万字以下なので、ショートショート𖤣𖥧𖥣
Special thanks
illustration by okiagsa様(X:@okigasa_tate)
MBM様(X:@MBMpaper)
※独自設定、ご都合主義。あしからず。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる