忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第7章:アルカノア農場戦記

第97話 港へ向かって

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「待ってろ!玄太ぁぁぁ!」

 農場の門を蹴飛ばす勢いで飛び出しかけた、その時。

「どうした!天貴!」

 目の前に、ちょうど王宮から戻ってきたラクターさんとコンバインさんが現れた。

「何かあったのか!?」
「ったく、朝っぱらから大声で走り出すとか、若ぇってのはいいがよぉ…って顔、やべぇな。何があった!?」

「玄太が戻ってない!朝から買い出しに出たっきりで!そんで、港の近くで行方不明が出てるって!」

 二人の顔色が一気に変わる。

「港だと…?」
「おい、そりゃ冗談じゃねえな……港近辺は帝国側の影響も強ぇ場所だぞ?」

「帝国だって!?もう待ってられねぇ!俺一人でも行く!!」

 俺が再び駆け出そうとした、そのとき。

「お待ちください、天貴殿!!」

 背後から、リオックが風のように駆けてきた。

「器様に同行すべく、追って参りました!」

 俺の目の前にぴたりと止まり、跪いて、真っ直ぐな目で言い切る。

「港は不穏な気配が濃く、帝国の動きも読めません。お一人では行かせられません」
「うむ、そう言う事ならリオックがいれば安心だ」

 ラクターさんが静かにうなずく。頼もしい援軍が来たことで、一瞬だけ緊張が和らいだ気がした。けれど、その目はすぐに現実を見据えている。

「四人で動くと目立つ。ここは、分かれて動くべきだな」

 ラクターさんが腕を組んで静かに言う。

「港に異変があるとすれば、本当に帝国が動いてる可能性がある。そっちの現場確認は天貴とリオックに任せる」

 俺とリオックは同時に頷いた。

「俺たちは王宮に戻り状況を確認する。農場や港だけじゃなく国全体の空気が怪しい」

 その言葉に、また胸がざわついた。やっぱり、これはただ事じゃねぇのか。けど、そんな空気を払うようにコンバインさんが俺の胸にポンッと拳を当てて笑った。港に着いたら、案外元気にてんぱ~い!どうしたんすかぁ?ってオチかも知れねえしな。

「…よし!」

 見つけて帰る。それだけだ。俺が拳を握ってうなずくとすぐ隣でリオックが一歩前に出た。

「馬の準備はできております。すぐにでも出発可能です」
「…頼りにしてるぞ、リオック!天貴を頼む!」

「光栄です」

 俺は一度後ろを振り返る。農場。いつもの景色。笑い声のある日常。だけど、あいつの姿がない。

「待ってろよ、玄太。すぐ迎えに行くからな」

 大丈夫。今ならまだ間に合う。

「行くぞ、リオック!」
「はっ!天貴殿!」

 今度こそ俺は、迷いなく駆け出した。


【リオック視点】

 港へ向かう道を、俺たちは馬で全力で駆ける。

「急いでくれ!リオック!」
「お任せを!」

 農場を飛び出してから、少し経ったが、まだ目的地は遠い。

 タカタッタカタッタカタッ…馬は快調に走っている。天貴殿をその腕に抱きしめたまま、俺は風を切って進んでいた。この任務は重要だ。付き人たちの安否を確かめ、器様の不安を拭い去る。騎士として、これ以上なく尊き役目である。

 ──だが。

(ふぉぉぉ!なんという密着感!)

 器様のお身体ってば!しなやかで、キュッとしていてそれなのに割としっかりした肉付き!

(これは、最高の抱きごこち!)

 この腕の中に器様がいる。俺の体で包み込むようにむぎゅっと収まっている!脇腹。肋骨。背骨。そして尻!なにもかもが俺の体越しにくっきり伝わってくる。

(あぁぁ!ダメだ!今は大人しくしていろ!俺のエーテルよ!)

 ああ、しかし!天貴殿の命の熱が!魂の鼓動がぁぁぁ!

 ふわっ…!

(…匂いもする!太陽に干した若草のような…いや、これは器様の素肌の…)

 もはや拝礼すべき領域。しかもこの状況!馬が揺れるたびに俺の腰と器様の腰が当たる。擦れる。俺の腿に、天貴殿の柔らかい尻がぽふっ…ぽふっ…と落ちては跳ねて…。

(この振動は…この反復運動は…これは…)

「神事!!」

 馬上にて、器様と交わす聖なるリズム。律動、接触、密着、そして──!!

「うはっ…!」

(だめだ…このまま揺られながら交神の儀へと至るやも)

「おい、リオック。なんか変な声出てなかった?」
「いえ、何も。揺れが強いので、少々馬を抑えておりました」

 完璧な返答。表情、涼しげ。だが心中は違う。

(本当に抑えているのは、俺の暴れ馬でございます!)

 手綱を掴みながらも膝で器様をガッチリホールド。片手だけでも手綱を離して抱きしめたい!

(このまま馬を止めていっそ…!)

 いや、今はそれどころではない!器様の付き人が由々しき事態!己の欲望を解放する時ではない!ゆえに、ただ走る!全神経を集中して、腕と太腿で器様を支え続ける。

 ああしかし。揺れる身体を支えるたびに、器様の体温が俺の中に入ってくる。

(尊い…いや、もう言ってしまおう。これは、これは…)

「スケベすぎる!!!」
「…んあぁ!?何て!?」

「いえ!すべてが過ぎる!と申しました。風も、距離も、時間も…すべてが尊く過ぎ去っていく!」
「ふぅん。哲学ってやつか?」

「はっ!騎士道精神にございます」
(…ふぅ、危なかった!)

 タカタッタカタッ…カカッ…!

「うわっ!」
「おっと!大丈夫ですか!?天貴殿」

「おう!」

 馬が小石やらぬかるみを踏むたびに、俺の股間の前で軽く跳ねる器様。

(あぁ!今の揺れで俺のエーテルが…)

 平静を装いながら、俺は騎士として走る。器様をその腕に抱きながら、馬上で一騎駆け。しかしこの距離、この体勢、この湿度。

 ああ!なんたる悪魔的官能!

(不謹慎ながら、せめて港に着くまでは…抜け駆けを許せ!付き人よ!)


 【天貴視点】

 港が近づくにつれ、道が舗装から土に変わり、潮の香りが鼻をくすぐってくる。

「なあ、リオック!このまま正面から突っ込んでも大丈夫か?」
「突っ込む、ですか…」

「ああ、どう思う!?」
「お許しとあらば、いつでも突っ込む準備はできております!!」

「よっしゃ!行くか!」
「はっ、はひぃ!!」

 なんかさっきから変だぞコイツ!?ちらっと視線を送ると、リオックはやたら真剣な顔をして手綱を握っていた。だけど頬がほんのり赤い。気のせいかもしれないけど…いや、気のせいじゃない。絶対なんか変だ!!

(…でもまあ、今は玄太が優先だ!)

 俺はギュッと前を見据えて、強く言い聞かせる。絶対見つけて、無事に連れて帰る!
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