忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第7章:アルカノア農場戦記

第98話 ダストラ男子と発情騎士

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 港は、やたらとにぎわっていた。

「よし!ここからは歩きだな。おいリオック!早く降りろよ!」

「っは、はひ!しばしお待ちを!(静まれ!我がエーテルよ)」

 リオックの声が一瞬だけ上ずった。まさか、この賑わいの中に、騎士にしか分からない何かが!?

「どうした!?なんかヤバそうか!?」

「い、いえ!下半身が少々……!」

「なんだよ!馬には慣れてんだろ?」

 リオックの腿を確認するように覗き込む。

「あっ!天貴殿、あまり直視なさらぬように!!」

 リオックが慌てて、股間を隠すように馬から降りて立ち上がった。

「いやいや、大丈夫かよ!痺れたってレベルじゃない動きだぞ!?」

「その、天貴様の背後で長時間密着していたため血流が……いや、痺れが……!!」

「そっか……悪ぃ、俺も初めてだったからさ。いろいろ、加減が分かんなくて」

「い、いえええええっ!!」

 リオックが突然、顔面を真っ赤にして天を仰いだ。

「そ、そんな!初めてを、俺なんかに!?」

「はぁ?」

「いえっ!?なんでもございません!!(天貴様の初めて……なんと甘美な響き!いかん!この心臓、保たぬ!!)」

 慌ててマントを握りしめ、リオックは全力で下半身を隠した。

「おい、マジで大丈夫か?調査はこれからだぞ?」

「も、問題ありませんっ!この程度、器様の初めての重みに比べれば……!」

「重かったか?いや、馬に直接乗るなんて、初めてだったからな……世話かけたな」

「めっっっそうもございません!!」

(うわああああ!!もっと踏んでください器様ァァァァ!!)

 リオックが心の中で勝手にぶっ飛んでいるのを知らず、俺は首をかしげた。

 気を取り直して港を見渡すと、カゴを担いだ人たちが行き交い、魚が跳ねて、カモメがうるさく鳴いてる。干物屋の煙が鼻をついて、リオックがむせてた。

「こほこほっ!し、失礼!」

「ああ。でも、なんか普通じゃね?」

「はい。パッと見る感じ、特に異変はございません」

 なんだこの平和っぷり。拍子抜けするレベルだ。

「……じゃ、ちょっと聞き込みしてみっか」

「了解です!では私はあちらのほうを」

 分かれて聞き回ること数十分。戻ってきたリオックの顔が、少しだけ険しくなってた。

「おう、リオック!どうだった?」
「天貴殿!いくつか共通する話がありました」

 俺も頷く。

「昨日の午後あたりに、ダストラ限定の仕事があるって勧誘が来てたって話、三人から聞いた」

「こちらも同様です。詳しい内容は不明ですが、全員ダストラに声をかけていた、との証言でした」

「だよな。んで、ふと思ったんだけどさ」

 俺は顎に手を当てる。

「今朝聞いた、人がいなくなったって話。あれ全員、ダストラじゃなかった?」

「はっ!各村の行方不明者も、皆ダストラ。偶然にしては……いや、偶然ではありえませんな」

 リオックが真顔で頷く。さっきまで股間を隠して腰が引けてたやつとは思えないキリッとっぷりだ。

「くっそ……まさか、ダストラだけ狙って攫われてんのか? でも、なんのために?」

「それが分かれば苦労しません。が……妙な話も聞きました」

「妙な話?」

「はい。仕事の募集主が“奇跡の石を見せる”と、そう言ってたらしいのです」

「奇跡の石……?」
「……その石って、どんな物か聞いたか?」

「いえ。そこまでは。ただ……詳しく聞いたダストラが歓喜して着いていったとか……」

「……マジかよ」

(そのレアアイテムな響きやべぇな。玄太がほいほい行っちゃいそうじゃねえか……)

 黙って俺の出方を待つリオックを横目に少し考えた。

「……よし、決めた」

「天貴殿…?」
(考えてる顔もステキです)

「俺がダストラのふりして、その勧誘に乗る。罠かどうか確かめる」

「んなっ!?それはお待ちください!」

 リオックが慌てて前に出る。

「危険すぎます!そんなことは私が代わりに!」
「お前、その凛々しい姿でダストラのふりは無理あるだろ?」

「り、凛々しいッ!?」
(器様が俺を凛々しいって!?ふぉぉぉ)

「いや?見るからに高官って感じだし、誰がダストラだなんて信じるかっての!」

(なんでコイツ、今一瞬顔がふにゃってなった?ま、いいや)

「そ、そんなことは…」
「ある!」

 俺は即答した。即断即決即ツッコミ。

「よしリオック!お前が主人で俺がダストラの召使い!どうだ!?」

「そ、それは!なんといういやらしい設定…!」
「は?いやらしい?この設定、おかしいのか?」

「いえ!いえいえいえ!」

 何か知らんが顔真っ赤にしてマントを握るなよ。

「ってことで、一芝居うつ!行くぞ、ご主人様!」
「うぅ…器様ァ…!」

 リオックが半泣きで震えてるけど、もう時間はねえ。

 俺はツナギのポッケから手ぬぐいを取り出して、頭に巻く。ついでに、ちょっとだけ背中も丸めて、気怠そうな雰囲気を出してみる。

「よし。見た目は完璧だな。完全に貧乏ダストラ系男子!」
「っっ…なんと淫靡なジャンル……ッ!」

「よしリオック、主人の演技任せたぞ。俺を罵ってくれ!」
「っか、かしこまりました!(ぁああああああ)」

「いや、もっと口調それっぽくな?」
「っは!で、では」

 軽く咳払いをして、キリッと顔つきが変わるリオック。

「足元を這いつくばれ!俺を求めろ!この無能がァ!」
「お、おう……やるじゃねえか」

 ──その日、港町に新たな主従が誕生した。

 そして数時間後、港で一番やべぇ噂話が生まれることになるとは、まだ誰も知らなかった……。
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