忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第8章:アルカノア農場戦記 ~因縁の戦い~

第108話 赤い眼帯の漢

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【アルカノア農場】

 ちょうどその頃、王宮へ出向いていたラクターとコンバインが、農場へ戻ってきた。

「お父様!」

 アリスとシーダ、情報管理のミミがノートを抱えて出迎える。

「おかえりなさい!それで、王宮は何て?」

 アリスが間髪入れず問いかける。

「うむ。やはり港周辺での失踪が目立つそうだ」

 ラクターがジャケットを脱ぎながら答えた。

「東の方へ連れて行かれるのを見た者が、何人もいたらしい」

「ダストラ…、東方面……でふね…」

 コンバインが続け、ミミはペン先を走らせる。一言も漏らすまいと必死だ。

「失踪はこの数日で三十人近い……いずれもダストラだけが消えているようだ」

「玄太君たちを探しに行った天貴達はどうした?まだ戻らないのか?」

「ええ…まだよ。まさか、うちの買い出し班も…」

「ふむ。玄太たちも、港でさらわれた」

「ええ!?玄太さんが!?それ大変じゃない!早く助けないと!」

 突然の情報に、アリスが身を乗り出した。

「我も危うく船で連れられるところであったが……」

「まぁ……怖い」

「ヒョイヒョイと逃げおおせたのじゃ」

「……え?」

 全員の動きが止まる。

「そういえばさっきから……」

 声の主を探すように、シーダとアリスが顔を見合わせる。

「……今のって、誰?」

 ミミがペンを止め、窓の外を指差した。

「あの……あれって…」

 そこには、淡く透けた仔牛。半透明のクータンが、フワッと浮かんでいた。

「ク、クータン!?いつの間に!」

 シーダが素っ頓狂な声を上げる。

「クータンさん、玄太さん達と買い出し班について行ったって!」

「うむ。これは思念体じゃ。長話は後にして、今すぐ動くのじゃ」

「そ、そうね。さっき、船で連れられたって言ったわね?」

「うむ。玄太と他の連中は大きな水の彼方じゃ」

「海…?船か……よし」

 ラクターは顎に手を当てる。

「港に古い知り合いがいる。あの男なら、まだ舟を持っているはずだ」

「知り合い?」

 アリスが首をかしげる。

「まぁ、ほとんど海賊だがな」

「……それ、また厄介そうね」

 ラクターがにやりと笑った。

「厄介なほうが、話は早い!コンバイン、準備を!先回りして早馬も出してくれ!」

「はっ!隊長!」

「ふむ、急ぐのじゃ。港にて待つ……」

 ラクターが上着を羽織り直すと、クータンの思念体はすうっと消えた。

「では、アリス!お前たちはダストラが連れ去られた場所を突き止めてくれ!」

「……分かったわ、お父様!」

 そう言い残してラクターとコンバインは再び馬を走らせる。そして、リビングには女子三人だけが残った。

「これは悠長にしてられないわね」

「ええ!ミミ、早速だけとエコーハントを遠距離で使える?」

「は、はひ!性能は落ちまふが、やってみまふ!」

 ミミはアストラ・エコーハントを起動し、机の上に広がった光の地図を囲む。

「……女子だけの追跡捜査ってわけね」

「ええ!必ず突き止めるわよ!」

【港】

 潮の匂いとカモメの声が響く港。

 壁にもたれ、遠くの桟橋を睨んでいた。リオックは隣で剣の柄を握り、いつでも動ける体勢だ。

 ポゥ……。

 そのとき、俺の膝の上で、クータンが淡く光った。

「ふぅ…」

「クータン、戻ったか!」

「ぬしら、よく聞け。ラクターとコンバインが舟を出す手はずを整えに港へ向かっておる」

「……よし!」

「さすがは、ラクター殿」

 そのままふたりは港の一画でラクターの到着を待った。

 ****

「…ん?」

 ふと沖に目をやると、黒い帆を掲げた見るからに怪しい船が近づいてくる。

「黒船?貿易船か?」

「いえ、貿易船にあのような出立は見たことがありませぬ」

 陽を背にした黒塗りの船体。ゆっくりと港へ滑り込んでくるが……ただの貨物船にしては甲板の人数が多すぎる。

「……怪しいな」

「怪しい、ですな」

 目を合わせた瞬間、俺とリオックは同時に木箱の陰へ身を隠した。

 やがて船が接岸し、武装した連中が次々と降りてきた。……全員ゴツい。背負った木箱や麻袋からは、金属がぶつかる鈍い音がする。

 そして最後に降り立ったのは、一際デカい男。真っ赤な外套、背に刃こぼれした大剣、そして顔には一際目立つ赤い眼帯。

 黒船から降りた軍団は、港の一角を占拠し始めた。中心の赤い眼帯は、視線だけで周囲を支配している。

「……あの木箱、まさか」

 俺たちは息を潜める。

 大男が部下に何か命じ、数人を桟橋の奥へ向かわせた瞬間、胸がざわついた。

「……玄太たちかも」

 気づけば俺は立ち上がっていた。

「天貴殿、お待ちを!!」

 リオックの声を背中で聞き流し、港の中央へ踏み出す。

「お前ら、何を運んでいる!?」

 俺の声が響いた瞬間、武装集団のざわめきが波のように広がる。

 その奥から赤い眼帯がゆっくりと顔を上げた。

「なんだぁ小僧!?」

 低くて重い声。まるで地の底から響くようだ。

 奴が一歩踏み出すと、それだけで周囲の部下が左右に道を開けた。

「お前が船長か!」

「…答える義理はねぇな」

 巨漢は俺を頭から足先まで値踏みするように見やる。

「お前ら、最近港で攫ってるだろ!何人も……ダストラばかり!」

「…さあな。いちいち覚えちゃいねぇ」

「答えろ!」

 俺が一歩踏み出すと、奴は口角を吊り上げ、わざとゆっくりと手を上げた。

「おめえみてぇな威勢のいいガキは嫌いじゃねえが……囲め」

 その合図ひとつで、部下たちが一斉に動く。半円を描いて取り囲み、武器に手をかける音が重なった。

「くっ……こいつらやっぱり!」

 鋼の擦れる金属音が潮風に混じって耳を刺す。背後でリオックが剣を抜く。

「器様に無礼はさせん!」

 だが巨漢は微動だにせず、笑みを深めて俺たちを睨み続けた。

「やれ!」

 その合図ひとつで、部下たちが一斉に動く。半円を描いた包囲が一気に狭まり、武器を構えて突っ込んでくる。

「……来るか!」

 リオックが剣をひるがえし、最初に飛び込んできた二人の剣筋を紙一重でいなし、柄尻で腹を突く。

「んぐっ…!」

 息を詰めたような呻き声が上がり、海賊が地面に転がった。だが、間髪入れずに別の部下が横から槍を繰り出す。

「邪魔だ!」

 天貴がブルーストライクを片手に、一瞬で間合いを詰め、巨漢の首元へ刃を突きつける。

「……速ぇな」

 低く笑った巨漢の右腕が、ほぼ同時に振り上がる。

 振り下ろされる寸前で止まった巨大なオノの刃が、今度は天貴の首筋すれすれにあった。

 互いの首元の刃の間を、わずかに海風だけが通り抜ける。

「やるな小僧」

「玄太は…どこだ!?」

 緊張が頂点に達したその瞬間…!

「そこまでだ!!」

 港口から響いた声が、張り詰めた空気を断ち切った。
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