忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

文字の大きさ
113 / 188
第8章:アルカノア農場戦記 ~因縁の戦い~

第113話 二番目でもいい男

しおりを挟む
 ロブの止血にみんなが慌ただしく動き出す。

「月白草を腕に!そっとだ!」

 けど、俺の頭ん中はそれどころじゃねぇ。玄太を連れ去られたって聞いた時から、胸の奥が燃えてしょうがねぇんだ。

「よし、止血をしたら船に!他の者も連れ出せ!」

 ラクターさんの声が飛ぶ。わかってる、みんなを安全に戻すのが先だってのは。

 ……でも。

「お、俺は玄太を追う!みんなは農場に……!」

 気づけば勝手に口が走ってた。体も前に出てる。

 だが、返ってきたのは雷みたいな怒鳴り声だった。

「バカ野郎!!お前ひとりで何ができる!」

「っく……でも!」

 拳を握りしめる。言葉が喉まで出かかるのに、歯の奥で砕けちまいそうだ。今すぐにでも追いたいんだ。あのクソ野郎どもをぶっ飛ばして玄太を取り返したい。

「一旦農場に戻って情報の整理と作戦を練る!」

 ラクターさんの声が鋭く突き刺さる。俺の焦りなんざ意に介さねぇ調子で。

「玄太君が心配なのはわかるが、人質って言うなら殺しはしない」

 わかってる……頭じゃな。

 けど心臓は暴れ馬みたいに暴れて、足を動かせって急かしてくる。

「でも、このまま逃げられたら……」

「天貴ぃぃぃ!!」

 怒声が壁を震わせた。思わずビクリとする。

「てめぇ、自分だけの想いで突っ走る気か!」

 ラクターさんの顔は真剣そのもの。まるで親父に怒鳴られてるみてぇだ。

「仲間全員で生き残る道を考えろ!玄太君だって、それを望んでるはずだろうが!」

「……っ!」

 ぐうの音も出ねぇ。
 わかってんだよ……でも抑えきれねぇんだ。胃が焼けるみてぇに焦燥感が暴れて、心臓はちぎれそうなくらい急かしてくる。

(クソッ……クソッ……!)

 リオックが心配そうに俺を見つめていた。何も言わねぇが、その視線が余計に胸に刺さる。

 歯噛みしながら残ったダストラたちを連れて塔を出る。急ごしらえで船に乗り込み、農場へ戻るしかなかった。

「チッ……急げ…急げ……!」

 吐き捨てる俺を、ラクターさんは腕を組んで睨みつける。親父みてぇなその目が、悔しいけど……俺の足を縛っていた。

 *****

【同刻・リオック視点】

「てめぇ、自分だけの想いで突っ走る気か!」

 ラクター殿の怒声が塔の壁を震わせた。

 塔そのものが揺れるような怒声に器様の肩が小さく跳ねる。その悔しげなうつむきに、私は胸を鷲づかみにされた。

(あぁ……叱られてうなだれる器様!なんと痛ましい……!)

 従者としては涙が出そうだった。けれど、もう一つの感情が、胸の奥で荒れ狂っている。

(なんと愛おしい……!今すぐ抱き寄せ、髪を撫で、頬ずりして「さあ、おれの胸でお泣きください」と耳元で囁きたい……!その涙が落ちるなら、たとえ舌で受け止めようとも構わぬ!)

 いや、我ながら不謹慎……だが……ッ!

(その涙も吐息も、この身の血肉に変えて永遠に抱きしめたい……!誰にも渡すものか、たとえ付き人といえど……!)

 頭の中でせめぎ合う二つの欲求。守護の誓いと、抑えがたい崇拝。

「クソッ……クソッ……!」

 ラクター殿の叱責に耐える器様は、唇を強く噛みしめていた。その横顔は、まるで光に浮かぶ彫像のよう。

(あぁぁ!その唇ごと噛まれたい……!)

 私が煩悶している間にも、塔の中は慌ただしく動いていた。

 ダストラたちを連れ、我らは急ごしらえの船に押し込まれる。血に濡れた者、疲労で足元も覚束ない者。誰もが重い空気に飲まれていた。

 器様は無言で甲板に立ち、帝国のある地を睨んでおられる。拳を握り、歯を食いしばり、今すぐ飛び出したいという衝動を必死に押し殺して。

(あぁ……!出来れば二人で飛び出して差し上げたい……!)

 私の手は何度も伸びかけた。肩に触れて「大丈夫です」と伝えたかった。しかし、震える器様の肩を掴んでしまったら、そのまま抱き寄せて離せなくなりそうで……!

「チッ……急げ……急げ……!」

 器様の吐き捨てる声が、甲板の上に血のように落ちる。

 その背を、ラクター殿が腕を組んで見据えていた。冷徹で、けれど親御のような眼差し。まるで鎖のように器様の足を繋ぎ止めている。

(くそぉぉ!付き人!羨ましいぞ付き人!器様の胸中は貴様のことでいっぱいなのだぁぁ!)

 そうこうしているうちに、海賊船は農場付近の海域に差しかかっていた。暗い海面に岬の影が浮かび、潮の匂いに混じって土の香りが鼻を突く。

(あぁ、でも……でも……!)

 堪えきれず、胸の奥で何かが噴き上がる。仲間たちは疲労に沈んだ顔のまま無言で甲板に立ち尽くし、器様もまた、一歩も動かずに暗がりを睨み続けていた。

(羨ましいが……仕方ない!器様が付き人を一番に想うなら……!ならば私は……私はッ……!)

 やがて船が桟橋に軋む音を立て、ようやく止まる。

(二番目でもいいですからぁぁぁ!!)

 叫びは心の中だけに留めた。

 だがその熱は、農場に戻ろうとする今も、海風よりもなお強く燃え続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)

N2O
BL
執着王子 × 異世界転生魔法使い 魔法使いが逃げられなくなる話。 『上』『中』『下』の全三話、三連休中に完結します。 二万字以下なので、ショートショート𖤣𖥧𖥣 Special thanks illustration by okiagsa様(X:@okigasa_tate)        MBM様(X:@MBMpaper) ※独自設定、ご都合主義。あしからず。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

処理中です...