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第8章:アルカノア農場戦記 ~因縁の戦い~
第113話 二番目でもいい男
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ロブの止血にみんなが慌ただしく動き出す。
「月白草を腕に!そっとだ!」
けど、俺の頭ん中はそれどころじゃねぇ。玄太を連れ去られたって聞いた時から、胸の奥が燃えてしょうがねぇんだ。
「よし、止血をしたら船に!他の者も連れ出せ!」
ラクターさんの声が飛ぶ。わかってる、みんなを安全に戻すのが先だってのは。
……でも。
「お、俺は玄太を追う!みんなは農場に……!」
気づけば勝手に口が走ってた。体も前に出てる。
だが、返ってきたのは雷みたいな怒鳴り声だった。
「バカ野郎!!お前ひとりで何ができる!」
「っく……でも!」
拳を握りしめる。言葉が喉まで出かかるのに、歯の奥で砕けちまいそうだ。今すぐにでも追いたいんだ。あのクソ野郎どもをぶっ飛ばして玄太を取り返したい。
「一旦農場に戻って情報の整理と作戦を練る!」
ラクターさんの声が鋭く突き刺さる。俺の焦りなんざ意に介さねぇ調子で。
「玄太君が心配なのはわかるが、人質って言うなら殺しはしない」
わかってる……頭じゃな。
けど心臓は暴れ馬みたいに暴れて、足を動かせって急かしてくる。
「でも、このまま逃げられたら……」
「天貴ぃぃぃ!!」
怒声が壁を震わせた。思わずビクリとする。
「てめぇ、自分だけの想いで突っ走る気か!」
ラクターさんの顔は真剣そのもの。まるで親父に怒鳴られてるみてぇだ。
「仲間全員で生き残る道を考えろ!玄太君だって、それを望んでるはずだろうが!」
「……っ!」
ぐうの音も出ねぇ。
わかってんだよ……でも抑えきれねぇんだ。胃が焼けるみてぇに焦燥感が暴れて、心臓はちぎれそうなくらい急かしてくる。
(クソッ……クソッ……!)
リオックが心配そうに俺を見つめていた。何も言わねぇが、その視線が余計に胸に刺さる。
歯噛みしながら残ったダストラたちを連れて塔を出る。急ごしらえで船に乗り込み、農場へ戻るしかなかった。
「チッ……急げ…急げ……!」
吐き捨てる俺を、ラクターさんは腕を組んで睨みつける。親父みてぇなその目が、悔しいけど……俺の足を縛っていた。
*****
【同刻・リオック視点】
「てめぇ、自分だけの想いで突っ走る気か!」
ラクター殿の怒声が塔の壁を震わせた。
塔そのものが揺れるような怒声に器様の肩が小さく跳ねる。その悔しげなうつむきに、私は胸を鷲づかみにされた。
(あぁ……叱られてうなだれる器様!なんと痛ましい……!)
従者としては涙が出そうだった。けれど、もう一つの感情が、胸の奥で荒れ狂っている。
(なんと愛おしい……!今すぐ抱き寄せ、髪を撫で、頬ずりして「さあ、おれの胸でお泣きください」と耳元で囁きたい……!その涙が落ちるなら、たとえ舌で受け止めようとも構わぬ!)
いや、我ながら不謹慎……だが……ッ!
(その涙も吐息も、この身の血肉に変えて永遠に抱きしめたい……!誰にも渡すものか、たとえ付き人といえど……!)
頭の中でせめぎ合う二つの欲求。守護の誓いと、抑えがたい崇拝。
「クソッ……クソッ……!」
ラクター殿の叱責に耐える器様は、唇を強く噛みしめていた。その横顔は、まるで光に浮かぶ彫像のよう。
(あぁぁ!その唇ごと噛まれたい……!)
私が煩悶している間にも、塔の中は慌ただしく動いていた。
ダストラたちを連れ、我らは急ごしらえの船に押し込まれる。血に濡れた者、疲労で足元も覚束ない者。誰もが重い空気に飲まれていた。
器様は無言で甲板に立ち、帝国のある地を睨んでおられる。拳を握り、歯を食いしばり、今すぐ飛び出したいという衝動を必死に押し殺して。
(あぁ……!出来れば二人で飛び出して差し上げたい……!)
私の手は何度も伸びかけた。肩に触れて「大丈夫です」と伝えたかった。しかし、震える器様の肩を掴んでしまったら、そのまま抱き寄せて離せなくなりそうで……!
「チッ……急げ……急げ……!」
器様の吐き捨てる声が、甲板の上に血のように落ちる。
その背を、ラクター殿が腕を組んで見据えていた。冷徹で、けれど親御のような眼差し。まるで鎖のように器様の足を繋ぎ止めている。
(くそぉぉ!付き人!羨ましいぞ付き人!器様の胸中は貴様のことでいっぱいなのだぁぁ!)
そうこうしているうちに、海賊船は農場付近の海域に差しかかっていた。暗い海面に岬の影が浮かび、潮の匂いに混じって土の香りが鼻を突く。
(あぁ、でも……でも……!)
堪えきれず、胸の奥で何かが噴き上がる。仲間たちは疲労に沈んだ顔のまま無言で甲板に立ち尽くし、器様もまた、一歩も動かずに暗がりを睨み続けていた。
(羨ましいが……仕方ない!器様が付き人を一番に想うなら……!ならば私は……私はッ……!)
やがて船が桟橋に軋む音を立て、ようやく止まる。
(二番目でもいいですからぁぁぁ!!)
叫びは心の中だけに留めた。
だがその熱は、農場に戻ろうとする今も、海風よりもなお強く燃え続けていた。
「月白草を腕に!そっとだ!」
けど、俺の頭ん中はそれどころじゃねぇ。玄太を連れ去られたって聞いた時から、胸の奥が燃えてしょうがねぇんだ。
「よし、止血をしたら船に!他の者も連れ出せ!」
ラクターさんの声が飛ぶ。わかってる、みんなを安全に戻すのが先だってのは。
……でも。
「お、俺は玄太を追う!みんなは農場に……!」
気づけば勝手に口が走ってた。体も前に出てる。
だが、返ってきたのは雷みたいな怒鳴り声だった。
「バカ野郎!!お前ひとりで何ができる!」
「っく……でも!」
拳を握りしめる。言葉が喉まで出かかるのに、歯の奥で砕けちまいそうだ。今すぐにでも追いたいんだ。あのクソ野郎どもをぶっ飛ばして玄太を取り返したい。
「一旦農場に戻って情報の整理と作戦を練る!」
ラクターさんの声が鋭く突き刺さる。俺の焦りなんざ意に介さねぇ調子で。
「玄太君が心配なのはわかるが、人質って言うなら殺しはしない」
わかってる……頭じゃな。
けど心臓は暴れ馬みたいに暴れて、足を動かせって急かしてくる。
「でも、このまま逃げられたら……」
「天貴ぃぃぃ!!」
怒声が壁を震わせた。思わずビクリとする。
「てめぇ、自分だけの想いで突っ走る気か!」
ラクターさんの顔は真剣そのもの。まるで親父に怒鳴られてるみてぇだ。
「仲間全員で生き残る道を考えろ!玄太君だって、それを望んでるはずだろうが!」
「……っ!」
ぐうの音も出ねぇ。
わかってんだよ……でも抑えきれねぇんだ。胃が焼けるみてぇに焦燥感が暴れて、心臓はちぎれそうなくらい急かしてくる。
(クソッ……クソッ……!)
リオックが心配そうに俺を見つめていた。何も言わねぇが、その視線が余計に胸に刺さる。
歯噛みしながら残ったダストラたちを連れて塔を出る。急ごしらえで船に乗り込み、農場へ戻るしかなかった。
「チッ……急げ…急げ……!」
吐き捨てる俺を、ラクターさんは腕を組んで睨みつける。親父みてぇなその目が、悔しいけど……俺の足を縛っていた。
*****
【同刻・リオック視点】
「てめぇ、自分だけの想いで突っ走る気か!」
ラクター殿の怒声が塔の壁を震わせた。
塔そのものが揺れるような怒声に器様の肩が小さく跳ねる。その悔しげなうつむきに、私は胸を鷲づかみにされた。
(あぁ……叱られてうなだれる器様!なんと痛ましい……!)
従者としては涙が出そうだった。けれど、もう一つの感情が、胸の奥で荒れ狂っている。
(なんと愛おしい……!今すぐ抱き寄せ、髪を撫で、頬ずりして「さあ、おれの胸でお泣きください」と耳元で囁きたい……!その涙が落ちるなら、たとえ舌で受け止めようとも構わぬ!)
いや、我ながら不謹慎……だが……ッ!
(その涙も吐息も、この身の血肉に変えて永遠に抱きしめたい……!誰にも渡すものか、たとえ付き人といえど……!)
頭の中でせめぎ合う二つの欲求。守護の誓いと、抑えがたい崇拝。
「クソッ……クソッ……!」
ラクター殿の叱責に耐える器様は、唇を強く噛みしめていた。その横顔は、まるで光に浮かぶ彫像のよう。
(あぁぁ!その唇ごと噛まれたい……!)
私が煩悶している間にも、塔の中は慌ただしく動いていた。
ダストラたちを連れ、我らは急ごしらえの船に押し込まれる。血に濡れた者、疲労で足元も覚束ない者。誰もが重い空気に飲まれていた。
器様は無言で甲板に立ち、帝国のある地を睨んでおられる。拳を握り、歯を食いしばり、今すぐ飛び出したいという衝動を必死に押し殺して。
(あぁ……!出来れば二人で飛び出して差し上げたい……!)
私の手は何度も伸びかけた。肩に触れて「大丈夫です」と伝えたかった。しかし、震える器様の肩を掴んでしまったら、そのまま抱き寄せて離せなくなりそうで……!
「チッ……急げ……急げ……!」
器様の吐き捨てる声が、甲板の上に血のように落ちる。
その背を、ラクター殿が腕を組んで見据えていた。冷徹で、けれど親御のような眼差し。まるで鎖のように器様の足を繋ぎ止めている。
(くそぉぉ!付き人!羨ましいぞ付き人!器様の胸中は貴様のことでいっぱいなのだぁぁ!)
そうこうしているうちに、海賊船は農場付近の海域に差しかかっていた。暗い海面に岬の影が浮かび、潮の匂いに混じって土の香りが鼻を突く。
(あぁ、でも……でも……!)
堪えきれず、胸の奥で何かが噴き上がる。仲間たちは疲労に沈んだ顔のまま無言で甲板に立ち尽くし、器様もまた、一歩も動かずに暗がりを睨み続けていた。
(羨ましいが……仕方ない!器様が付き人を一番に想うなら……!ならば私は……私はッ……!)
やがて船が桟橋に軋む音を立て、ようやく止まる。
(二番目でもいいですからぁぁぁ!!)
叫びは心の中だけに留めた。
だがその熱は、農場に戻ろうとする今も、海風よりもなお強く燃え続けていた。
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