忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第8章:アルカノア農場戦記 ~因縁の戦い~

第114話 世界よりも、まず君を

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「シーダ、ロブさんはどう……?」

 アリスが不安げに問うと、シーダさんは桶をギュッと持ち直して答えた。

「ええ、だいぶ落ち着いたわ。……まだ顔色は悪いけど、止血はなんとか。食事もとれたし」

 その言葉に場が少し和らぐ。だが、血のにじんだ包帯が痛々しさを物語っていた。
 シーダさんはそれを手に、静かに風呂場へと消えていった。

(あぁ…っくそ!本当はそれどころじゃねえんだけど……)

 ──農場に戻ってきたはいいが、俺の気分は最悪だ。すぐにでも玄太を追いかけたいのに、足止めくらって農場で作戦会議とか……イラつくにも程がある。

 机に広げられた地図を前に、アリスが口を開いた。

「ところで。ゲドたちが帝国に戻ってたら、どうする?」
「むぅ、そうなると手が出せなくなるな」

 はぁ?手が出せない?冗談じゃないって!

「いや、それはねえよ!この件、ぜったい帝国は関与して無いだろ!?」

 俺の咄嗟の言葉に、全員の視線がラクターさんへ。

(おいおい、俺スルーかよ!?なんでラクターさんの答え待ちなんだよ!?)

 ラクターさんは冷静に答える。

「確かに。帝国は神の器に手を出すなと言った。ちゃんと兵も引いている」

 そうだそうだ!

「ゲドが帝国には黙ってさ、勝手にやってるに違いないぜ!」

 机を拳でドンと叩くと、ラクターが重々しくうなずいた。

「妥当だな。そうなるとゲドは帝国に戻れないはず」

 ラクターさんがそう言うと皆は納得したように頷く。ほら見ろ!俺の方が先に言ったんだから信用しろっての!

「で、狙いは俺だろ!?」

 あの野郎、神の器って存在に一泡吹かせられたのを根に持ってやがるんだ。

「だったら、すぐにでも────」

 言いかけた瞬間、突然バンッ!と扉が開き、泥まみれの農夫の少年が転がり込んできた。

「どうした!?」
「こ、これ……なんか兵士が来て!!」

「兵士だと!?」

 ラクターさんが巻紙を受け取り、目を走らせて顔をしかめた。

「……青巒の森の湖に来い。ガキは預かっている」

 その内容に俺は、居ても立ってもいられなくなった。

「来たな、早速!!」
「待って、湖……?なぜそんな場所に?」

 アリスが水を刺す。そんなんどうだっていい!考えてる間にも、玄太が泣いてんだよ!!

「その湖とやらに突撃だ!帝国軍じゃねえんだ、俺たちの戦力ならゲドごとき!」
「簡単に言わないの!罠かもしれないんだから!」

 アリスが声を張る。わかってんだよ、罠ってことぐらい。

「罠?上等だ!どんな仕掛けでもまとめてブッ壊してやりゃいいだろ!」
「天貴!!玄太さんが心配なのはわかるけど、冷静になりなさい!!」

「っぐぬぬ!」

 なんだよアリス、その言い方。すぐに冷や水ぶっかけやがる。

(ってか、歳下の女子に叱られるとか、勘弁してくれ!)

 その時、リオックが低く口を開いた。

「天貴殿。罠、と簡単におっしゃいますが……ロブ殿が語った“化け物”の件をお忘れでは?」
「化け物……?」

 アリスが息をのむ。俺も思わず顔をしかめた。胸の奥に、いやな記憶が蘇る。

 ──片腕を失い、血まみれの顔で呻いていたロブの姿。

「誰も化け物の実体は確認しておりません。ですが、ロブの証言によれば……ダストラを喰らって成長すると」
「ダストラを!?そんな特性の魔物、聞いたことない……」

 化け物が待っている。その事実に胸の奥がきしんだ。
 もし玄太が、そいつの餌にされたら──。

(ックソったれ!なんでこんな時にアストラが使えねえんだよ!!!)

 リオックは冷徹に続ける。

「ゲドが正面から剣を交える男だと?むしろ、湖に我らを誘き寄せ、その化け物をぶつける。そう考える方が自然かと」

「敵は……バケモンってわけか」
「ならば救出班には相応の戦力が要る、か」

 ラクターが低く言う。だがすぐ、アリスが強い声で続けた。

「でも!農場の戦力は削れない!ゲドの狙いは天貴だけじゃない、農場も同時に潰すつもりなのよ!」

 コンバインが短くうなずく。

「うむ。アリス嬢の言う通り。この農場が堕ちれば、王国を堕とすのも簡単だからな」

 ラクターさんも短くうなずいた。

「むしろ、最終的な目的はそっちだろう」
「──ようするに、湖に戦力を釣り出して、その間に農場を堕とす算段か」

 ……ちっ。確かにその通りだ。ぐうの音も出ねぇ。

 俺をおびき出して、神の器を消す。そのうえ農場まで潰されたら……アグリスティアは一発で干上がる。

「そうよ、もうここはただの農場じゃないの!」
「いまや王国の食料庫であり、最後の砦だ」

 そんな農場が落ちちまえば、まさに急所をぶち抜く一撃だ。

「くそ……!やり口がえげつねぇ!」

 玄太のことしか頭になかったけど……頭に血が上って、そこまで考えが回らなかった自分にも腹が立つ。

(……いや、でも!考えずにいられるかってんだ!あいつがどんな顔で泣いてるかも分かんねえで、落ち着けとか無理に決まってんだろ!)

 けどもし農場がやられたら、すべてが終わりだ。玄太を助け出せたって、その後あいつに食わせるメシもねぇ、帰る場所すらなくなっちまう。
 そんな結末、笑えるか?助け出した玄太を抱えて振り返ったら……俺と玄太以外、全部灰でしたって?

「……フザけんな。冗談にもならねぇ……」

 結局どっちか片方だけじゃ意味がねぇんだ。

 玄太も、農場も、国も……全部そろってなきゃ、結局まとめて崩壊する。

 でも、それでも。俺にとっては、まずは玄太だ。あいつは、俺のために人生捨てて、異世界に追っ掛けて来たんだ。俺があいつを助け出さねえことには……どんな理屈も、クソもねえ!!
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