116 / 188
第8章:アルカノア農場戦記 ~因縁の戦い~
第116話 閉ざされた館と、迫る炎
しおりを挟む
夜の農場を後にした俺は、シェパの背にまたがりクータンを抱えて闇を駆け抜けていた。
「速ぇ……!」
姿勢を少しでも上げると、体全体に風がぶち当たる。体が振り落とされそうになるたび、必死でシェパの毛にしがみついた。
「天貴よ、我を落とすでないぞ」
腕の中でクータンが目を光らせて呟く。
「分かってるって!けど、危ねえって分かってて、なんで着いてきたんだよ!?」
「ふぁみりぃの危機に駆け付けるのは当然じゃ」
まぁ、そうかもなんだけど。クータンって戦力になるのか?なんて思ったけど、言うのはやめた。
「なぁクータン……玄太、無事だと思うか?」
沈黙のままいくつかの枝葉が頭上を掠める。
「ふむ……気休めの言葉が欲しいか?我らを敵視する者の手にあるならば、保証もあるまい」
俺は唇を噛んだ。
「しかし、そうならぬよう飛び出したのじゃろ」
「そうだ……!あいつは生きてる!絶対に」
でも玄太は泣いてる。1人で震えてる。それでも、あいつは俺を信じて待っている。
「絶対、間に合うよな!うん!」
そう心に誓った瞬間、森の木々の合間から、水面がちらついた。夜の月を映す黒い湖面。
青欒の湖。
シェパが速度を緩め、湖畔へと滑り込む。
「シェパ…?ここか……!」
息を呑む。
そこにあったのは、外観は立派な洋館風。だが窓という窓は分厚い板や鉄格子で覆われており、まるで中に何かを閉じ込めているように見える。
「なんだよ、ここ……」
森の中に取り残された異様な存在感。その奥から、かすかに、低いうなり声のようなものが響いてくる。
「ぬしよ……感じるか?」
「……ああ」
背筋に悪寒が走る。
「こやつ、ただの館ではないぞ」
クータンが俺の腕の中で目を細めた。
「分かってる。……けど、行くしかねえだろ」
シェパの鼻先も館に向かって震えている。動物の勘なのか、あの建物を前にして明らかに警戒していた。
俺はシェパから降りてクータンを肩に乗せ直すと、息を吸い込んだ。
「玄太、俺はもうお前のそばにいるぞ…!」
ギギギギギギ………
湖畔に月光が照り返す中、洋館の鉄の扉を力任せに押し開ける。軋む音と共に異様な空気が鼻先をなでる。
「よし、入った!」
正面から駆け込んだ瞬間だった。
──ガチィィン!!
「っ……!?」
振り返った時にはもう遅かった。
扉はひとりでに閉じ、無数の錠が噛み合うように光っていた。外からではなく、中から封じ込められた感覚。
「っく、開かない!?」
扉は押しても引いてもびくともしない。
「ぬしよ……これは入った者を逃さぬ牢ぞ」
肩の上でクータンが低く呟いた。
館の中は薄暗く、冷たい石の壁が続いていた。空気が淀み、誰かの息遣いのような湿った音が漂ってくる。
「……上等じゃねえか。だったらここでぶっ壊して、玄太を連れ出すだけだ!」
叫んだ声が館の奥へ吸い込まれる。返ってくるのは、不気味にこだまする自分の声と、どこかでかすかに響いた呻き声のようなものだった。
******
【同刻・青巒の森のはずれ】
「ゲド様!何者かが湖の館へ足を踏み入れました!」
「……くく、入ったか。計画通り……」
低く笑む。
湖の廃館には劣等感に蝕まれた神喰いの器を潜ませてある。民に讃えられし神の器様が無事で済むはずがない。
「隊長、兵の準備は整いました!」
闇の奥から声が返る。ゲドが顎をしゃくると、森の影に潜んでいた軍勢が一斉に現れた。
ザッザッ……ザッ……。
松明が掲げられ、炎の赤が兵の顔を照らす。
ただの兵だけではない。火のアストラを持つ者たちが列に並び、両の掌から橙の火を揺らめかせていた。
「……指示通り、火のアストラ持ちを揃えたか」
「はっ、二十名以上を投入しております」
そこへ別の副官が前に出て、声を潜める。
「しかしゲド様!報告では……農場の柵はアルカウッドで作られているとか」
副官の声にゲドが鼻で笑う。
「そうよ。アルカウッドは属性耐性が高い。並の火炎ではびくともしない」
「では……どう攻めますか?」
ゲドは赤黒い瞳を細め、にやりと笑った。
「逆に好都合だ。燃えぬ柵は外から封じれば檻となる。そして、農場の中を火の海にしてやればよい」
背後の兵たちがどよめく。
「用意はしてあるな?」
兵士たちが押し出してきた荷車。その上には鉄の輪で固められた巨大な樽が並んでいた。蓋の隙間から、火薬と油が混じり合ったような、鼻を突く匂いが溢れ出す。
「デスファイアの樽……!」
兵たちの間にどよめきが走る。油と火薬の匂いが、夜気を刺すように漂った。ゲドは赤黒い瞳を細め、口角をにたりと吊り上げる。
「そして……これだ」
覆いが外される音。暗がりの中に、異様な影が姿を現した。
木組みと鉄枠で組まれた巨体。縄と梁が悲鳴をあげるほどに張り詰め、まるで獣が喉を鳴らして獲物を待つかのよう。
「大投擲器……」
誰かが震える声を漏らす。
「そうだ。農場そのものを焼き尽くす為の爪牙よ」
兵の誰かが思わず息を呑む。ゲドはその反応を楽しむように、わざと低く笑った。
「こいつで農場内にデスファイアを叩き込めば……奴らは逃げ場を失い、燃え盛る檻の中で灰と化す」
兵たちの顔に戦慄が走る中、ゲドの嗤いだけが夜に響いた。
「天を操る小僧は湖で足止め。農場にこの炎、防ぐ術はない」
兵たちの喉がごくりと鳴る。樽に詰め込まれた油と火薬が、すでに犠牲者の悲鳴のように思えた。
「……今度こそ、王国の心臓を焼き尽くしてやろう!」
「速ぇ……!」
姿勢を少しでも上げると、体全体に風がぶち当たる。体が振り落とされそうになるたび、必死でシェパの毛にしがみついた。
「天貴よ、我を落とすでないぞ」
腕の中でクータンが目を光らせて呟く。
「分かってるって!けど、危ねえって分かってて、なんで着いてきたんだよ!?」
「ふぁみりぃの危機に駆け付けるのは当然じゃ」
まぁ、そうかもなんだけど。クータンって戦力になるのか?なんて思ったけど、言うのはやめた。
「なぁクータン……玄太、無事だと思うか?」
沈黙のままいくつかの枝葉が頭上を掠める。
「ふむ……気休めの言葉が欲しいか?我らを敵視する者の手にあるならば、保証もあるまい」
俺は唇を噛んだ。
「しかし、そうならぬよう飛び出したのじゃろ」
「そうだ……!あいつは生きてる!絶対に」
でも玄太は泣いてる。1人で震えてる。それでも、あいつは俺を信じて待っている。
「絶対、間に合うよな!うん!」
そう心に誓った瞬間、森の木々の合間から、水面がちらついた。夜の月を映す黒い湖面。
青欒の湖。
シェパが速度を緩め、湖畔へと滑り込む。
「シェパ…?ここか……!」
息を呑む。
そこにあったのは、外観は立派な洋館風。だが窓という窓は分厚い板や鉄格子で覆われており、まるで中に何かを閉じ込めているように見える。
「なんだよ、ここ……」
森の中に取り残された異様な存在感。その奥から、かすかに、低いうなり声のようなものが響いてくる。
「ぬしよ……感じるか?」
「……ああ」
背筋に悪寒が走る。
「こやつ、ただの館ではないぞ」
クータンが俺の腕の中で目を細めた。
「分かってる。……けど、行くしかねえだろ」
シェパの鼻先も館に向かって震えている。動物の勘なのか、あの建物を前にして明らかに警戒していた。
俺はシェパから降りてクータンを肩に乗せ直すと、息を吸い込んだ。
「玄太、俺はもうお前のそばにいるぞ…!」
ギギギギギギ………
湖畔に月光が照り返す中、洋館の鉄の扉を力任せに押し開ける。軋む音と共に異様な空気が鼻先をなでる。
「よし、入った!」
正面から駆け込んだ瞬間だった。
──ガチィィン!!
「っ……!?」
振り返った時にはもう遅かった。
扉はひとりでに閉じ、無数の錠が噛み合うように光っていた。外からではなく、中から封じ込められた感覚。
「っく、開かない!?」
扉は押しても引いてもびくともしない。
「ぬしよ……これは入った者を逃さぬ牢ぞ」
肩の上でクータンが低く呟いた。
館の中は薄暗く、冷たい石の壁が続いていた。空気が淀み、誰かの息遣いのような湿った音が漂ってくる。
「……上等じゃねえか。だったらここでぶっ壊して、玄太を連れ出すだけだ!」
叫んだ声が館の奥へ吸い込まれる。返ってくるのは、不気味にこだまする自分の声と、どこかでかすかに響いた呻き声のようなものだった。
******
【同刻・青巒の森のはずれ】
「ゲド様!何者かが湖の館へ足を踏み入れました!」
「……くく、入ったか。計画通り……」
低く笑む。
湖の廃館には劣等感に蝕まれた神喰いの器を潜ませてある。民に讃えられし神の器様が無事で済むはずがない。
「隊長、兵の準備は整いました!」
闇の奥から声が返る。ゲドが顎をしゃくると、森の影に潜んでいた軍勢が一斉に現れた。
ザッザッ……ザッ……。
松明が掲げられ、炎の赤が兵の顔を照らす。
ただの兵だけではない。火のアストラを持つ者たちが列に並び、両の掌から橙の火を揺らめかせていた。
「……指示通り、火のアストラ持ちを揃えたか」
「はっ、二十名以上を投入しております」
そこへ別の副官が前に出て、声を潜める。
「しかしゲド様!報告では……農場の柵はアルカウッドで作られているとか」
副官の声にゲドが鼻で笑う。
「そうよ。アルカウッドは属性耐性が高い。並の火炎ではびくともしない」
「では……どう攻めますか?」
ゲドは赤黒い瞳を細め、にやりと笑った。
「逆に好都合だ。燃えぬ柵は外から封じれば檻となる。そして、農場の中を火の海にしてやればよい」
背後の兵たちがどよめく。
「用意はしてあるな?」
兵士たちが押し出してきた荷車。その上には鉄の輪で固められた巨大な樽が並んでいた。蓋の隙間から、火薬と油が混じり合ったような、鼻を突く匂いが溢れ出す。
「デスファイアの樽……!」
兵たちの間にどよめきが走る。油と火薬の匂いが、夜気を刺すように漂った。ゲドは赤黒い瞳を細め、口角をにたりと吊り上げる。
「そして……これだ」
覆いが外される音。暗がりの中に、異様な影が姿を現した。
木組みと鉄枠で組まれた巨体。縄と梁が悲鳴をあげるほどに張り詰め、まるで獣が喉を鳴らして獲物を待つかのよう。
「大投擲器……」
誰かが震える声を漏らす。
「そうだ。農場そのものを焼き尽くす為の爪牙よ」
兵の誰かが思わず息を呑む。ゲドはその反応を楽しむように、わざと低く笑った。
「こいつで農場内にデスファイアを叩き込めば……奴らは逃げ場を失い、燃え盛る檻の中で灰と化す」
兵たちの顔に戦慄が走る中、ゲドの嗤いだけが夜に響いた。
「天を操る小僧は湖で足止め。農場にこの炎、防ぐ術はない」
兵たちの喉がごくりと鳴る。樽に詰め込まれた油と火薬が、すでに犠牲者の悲鳴のように思えた。
「……今度こそ、王国の心臓を焼き尽くしてやろう!」
0
あなたにおすすめの小説
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)
N2O
BL
執着王子 × 異世界転生魔法使い
魔法使いが逃げられなくなる話。
『上』『中』『下』の全三話、三連休中に完結します。
二万字以下なので、ショートショート𖤣𖥧𖥣
Special thanks
illustration by okiagsa様(X:@okigasa_tate)
MBM様(X:@MBMpaper)
※独自設定、ご都合主義。あしからず。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる