忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

文字の大きさ
119 / 188
第8章:アルカノア農場戦記 ~因縁の戦い~

第119話 器と器

しおりを挟む
 一方、神喰いが向かった玄関ホール。

「天貴よ、ここは入った者を逃さぬ牢じゃ」

 青欒の館に突入した途端、背後の扉が勝手に閉まり、無数の錠がガチガチと噛み合った。

「おいおい、勝手にオートロックとか聞いてねえぞ!?」

 叫んだ声が館の奥へ吸い込まれる。

 ガラ……。

 そして、静まり返った廊下から返ってきたのは、不気味な反響と奥の闇から鎖を引きずる音。

 ──ガララララ……。

 その不快な響きが、地鳴りのような足音と共にじわじわ這ってくる。

「……出迎えってわけか。けど、ウェルカムドリンクにしては錆くせぇ音だな!」

 俺は反射的にブルーストライクを構えて、腰を落とした。

「来るぞ、クータン!」

 闇がヌラリと揺れる。

 ランプの明かりに浮かび上がったのは、全身を鎖に絡め、四つん這いで床を這う異形だった。その頭部は人のようでいて、空洞の目穴が俺を真っ直ぐに見据えていた。

「えっぐぅ……あれが神喰いの器ってやつか!」

「禍々しい……と言う他あるまい」

 神喰いの器のヤバい見た目に、さすがにクータンの声も硬い。

 胸の奥がざわつく。ただアイツに見られているだけで、押し潰されそうだ。

 ──グォオオオオオォォッ!!

 咆哮と同時に奴が右手をブルンっと薙ぎ払うと、鎖がジャララと蛇のように走り、突っ込んできた。

「ぬし!足元じゃ!」

 クータンの声に、俺はブルーストライクを低く構えて横薙ぎに振り抜く。

 ギィィン!

 金属同士が激突し、火花が飛び散った。衝撃で腕がビリビリ痺れ、背中まで震えが走る。

「ぐ……っ!重っ!さすがにスコップじゃ分が悪りぃ!」

「ぬしよ、気を抜くでない!」

 肩のクータンが吠える。

「分かってる!コイツ、ガチで俺を解体しに来てる!!」

 神喰は鎖を振り回し、壁を次々と粉砕して迫ってくる。飛び散った石片が頬をかすめ、熱い線が走った。血が一筋、視界を赤く染める。

「ちっ……!」

 舌打ちしながら、俺は肩のクータンに振り返る。

「クータン!危ねぇ、物陰に避難してろ!」

 鎖がうなりを上げて床をえぐり、破片が雨のように降り注ぐ。床を蹴って飛び退き、再びブルーストライクを構える。

「けどなぁ……」

 恐怖と興奮で、なぜか笑いがこぼれる。

「俺は、てめぇに食われに来たわけじゃねえ!玄太を取り返しに来たんだよッ!!」

 ブルーストライクが青く閃光を放ち、鎖の闇を真正面から切り裂いた。

 ズシャァァァァ!!!

 神喰の体が大きく仰け反り、火花と血飛沫が散る。

「よっしゃ……!効いたか!」

 でも、手応えを感じたのはそこまでだった。

 ──グギャァァァァァァッ!!

 獣じみた絶叫。

 怒った神喰は鎖を全身に叩きつけるように振り回し、玄関ホールそのものを薙ぎ払った。

「なっ……!広範囲!?」

 柱もろとも壁が砕け、床石が跳ね上がる。暴風のような衝撃が正面から叩きつけられ、俺の体は宙に浮いた。

 ドスゥゥン……!

 背中から石畳に叩きつけられる。

「ぐッ、はぁ……はぁ……!!」

 肺の空気が一気に吐き出され、視界が白く弾けた。ブルーストライクが手から転がり落ち、石床にカランと乾いた音を響かせる。

「天貴よ!!」

 クータンの叫びが遠く聞こえる。

 まともに声が出ない。腕も足も重い。息すらまともに吸えない。

 だが、なおも耳に届くのは不快な鎖の音。

 ガラ……!ガラララ!!

 鎖がうなりを上げ、倒れた俺もろとも床も壁も関係なく薙ぎ払う。

「ぐっ……ああぁっ!」

 俺はそのたびに吹き飛ばされ、石畳に叩きつけられた。

「………いってぇ……死ぬほど痛ぇ………!」

 体中がが焼けるように痛み、唇を噛んでも声が漏れる。血の味が口いっぱいに広がった。

「まだ……玄太にも会えて………ぐは!!」

 立ち上がろうとしても、鎖と衝撃波でなぎ倒されて、何度も床に転がされる。

 ――ドゴォッ!

 俺はそのまま膝をつき、壁にもたれかかった。

「ぬしよ!!」

 物陰に避難していたクータンが、ピョコピョコと近づいて耳元で囁いた。

「やはり単騎では無謀であったか……」

「かもな……俺はもう、こいつを止めきれねぇ……」

 血を吐きながら、耳元にいたクータンを手で押しやった。

「だからお前が行け!玄太を探せ!絶対、一緒に逃げてくれ!」

「しかし、このままでは殺されるぞ?」

「いいから行けって言ってんだ!!」

 叫んだ瞬間、鎖が再び俺を薙ぎ払う。

 ズシャァァァァァァ!!!

「おらぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 その瞬間、俺は鎖とすれ違うように、奴の奥へクータンを思いっきり投げた。それと同時に、壁ごと押し潰されるような衝撃。肺が潰れそうになり、膝が崩れ落ちる。

「ふぐっ………」

「……ぬしぃぃ!!……生きろ……ょ……」

 クータンの声が弧を描きながら遠ざかる。

「っがはぁっ……はぁ………」

(…………頼むぞ、クータン)

 そして、残ったのは俺と、神喰いの器だけ。
 空洞の目穴が、倒れた俺を見下していた。そして、俺の体に巨大な影が覆いかぶさる。

「……いいぜ……来いよ……」

 青ざめた笑いが、つい口から漏れる。本当にここで終わりか。そう思った瞬間、視界の端で何かが光を反射した。

 転がったままのブルーストライク。

 指先が勝手に伸びる。血に濡れた柄をつかみ、最後の力を振り絞る。

 ズブッ!!

 スコップの先端が、異形の眼窩を貫いた。

 獣じみた悲鳴が玄関を揺らし、鎖が乱暴にのたうつ。

「……っは……ざまァ……みろ……」

 吐き捨てた瞬間、身体から完全に力が抜けた。

 ──グオォォォォォォォォッ!!

 怒りで赤黒く染まった神喰の器が、両腕を振りかざす。ぼやけた視界に、ひび割れた天井が映った。

「……玄太……無事で……あれ……」

 衝撃と共に、意識は闇へと沈んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)

N2O
BL
執着王子 × 異世界転生魔法使い 魔法使いが逃げられなくなる話。 『上』『中』『下』の全三話、三連休中に完結します。 二万字以下なので、ショートショート𖤣𖥧𖥣 Special thanks illustration by okiagsa様(X:@okigasa_tate)        MBM様(X:@MBMpaper) ※独自設定、ご都合主義。あしからず。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

処理中です...