忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第9章:アルカノア農場戦記 ~器を満たす者~

第124話 父の背中

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 アリスは震える指で、最後の下着の端に手をかけた。

「おお……!」

「あと一枚!!」

 兵士どもの狂気じみた声が渦を巻く。

「ま、待て、ゲド!!俺の命で……!!」

 かき消される、父の声。

 下着の紐をスルスルと解くと、炎の熱と兵士たちの嘲笑に囲まれ、視界が涙で滲む。
 
(これで……こんなもので、みんなが助かるなら……)

「お安い御用よ!」

 そしてついに、薄い布がするりと肩から落ち、少女の白い肌は炎に晒された。天貴にもらったお父様とお揃いのネックレスだけがキラリと光る。

「おおおおっ!!全部脱いだぞぉ!!」

「っひょおおおお!結構エロい身体してんじゃねえか!」

 兵士たちの狂乱が渦巻く。

 コンバインは歯を食いしばり、握る拳が震えた。だが今飛び込めば、アリスもラクターも本当に殺される。

 それが分かっているから動けない。

「くっ……隊長……!俺はどうすれば……!」

 その無力な呻きに、ゲドの低い嗤い声がかぶさった。

「アリスよ。神の器は……その体にもう手を出したのか?」

 ゲドの視線が、涙に濡れるアリスの裸身をなぞる。

「失礼ね!天貴はそんな事しないわよ!」

「それはなにより……では、毎晩ひとりで慰めているのか?ふはははは!」

 下卑た侮辱の刃が、容赦なく突き立てられた。

「くぅぅ……アリス……すまない……!」

 押さえつけられたまま、ラクターは血がにじむほど歯を食いしばる。両腕を数人の兵に押さえ込まれ、肩も背も炎に焼かれるように軋む。

 それでもなお、視線だけは必死にアリスを追っていた。

「まあ、いいだろう……俺の花嫁として連れ帰ってやる」

 ゲドは鼻を鳴らし、愉悦に唇を歪める。

「わ、分かったわ……結婚でもなんでもしてやるわよ!」

 アリスの声は震え、必死に搾り出した叫びがかすれていた。

「結婚、だと?」

 しかし次の瞬間、ゲドは薄く笑い、冷ややかに吐き捨てる。

「冗談だろう?……メス豚の花嫁として飼ってやろうと言っているのだ」

「んなっ……!?」

 アリスの顔から血の気が引き、肩がびくりと震えた。

「ゲド様!」

 取り巻きの兵士たちが下卑た笑みを浮かべ、声をそろえる。

「ゲド様!飽きたら俺たちに払い下げてくださるんでしょう!?いつもみたいに!」

 その声は卑劣な笑いに塗れていた。女を物としか見ない者たちの、濁った歓喜が燃えさかる炎に負けぬほどに広がっていく。

「ああ、もちろんだ」

 ゲドは冷笑しながら頷いた。指先でアリスを示し、あざけるように言葉を重ねる。

「お前たちも好きに使い回したらいい。その後は、帝国の娼館にでも売り飛ばしてやろう」

 ぞっとする沈黙。

「アリス。自慢の未来視では見えないか?男たちに貪られ、肉の渦に沈んでいく自分の姿が!」

「ひゃははは!」

「あんな上玉、久々だぜ……ッ!」

 少女の頬を伝う涙は、熱気で一瞬にして乾き、次の涙がまた流れる。アリスは胸を抱き締めるように腕を交差させ、立ち尽くすしかなかった。

「なんという外道だっ!!」

 ラクターは地面に押し付けられたまま、娘の屈辱にまみれた行く末を聞かされる。

(娼館?回される?俺の娘が……?)

 かつて将軍として国を守った誇りは、炎と罵声に焼かれ、ただ一人の父としての怒りだけが残っていた。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 ラクターの全身から炎にも負けぬ怒号が迸る。押さえつける兵士を力任せに振り払うと、巨体が閃光のようにその場に立ち上がった。

「ゲドォォォ!!!」

 ラクターの拳がめり込み、ゲドの顎を大きく弾き飛ばす。歪んだ顔は数メートル後方に吹っ飛び、泥まみれの地面に叩きつけられる。

「ふぎゃぁ!!」

 ゲドの瞳が、怒りに燃え上がった。

「っぐ……こいつを殺せ!!焼き払えぇぇぇ!!」

 その号令とともに、周囲の兵が一斉に動く。火のアストラが次々と放たれ、炎の渦が怒涛のようにラクターへ押し寄せた。

「ぐああああああああああ!アリスゥゥゥゥゥ!!」

 炎に呑まれた巨体が悲鳴を上げる。炎に呑まれながらも、ラクターはアリスの前で両腕を広げて立ちはだかる。

「いやぁぁぁ!お父様ぁぁぁぁぁ!!!!!」

 アリスの絶叫が夜空を切り裂いた。

「たいちょおおおおおおおおおお!!!!!」

 コンバインの叫びが炎を震わせる。

 炎の中、ラクターの背中はなおもアリスの前で倒れず立ち続けていた。
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