125 / 188
第9章:アルカノア農場戦記 ~器を満たす者~
第125話 器が割れる音
しおりを挟む
「いやぁぁぁぁ!!お父様ぁぁぁ!!」
私一人が犠牲になれば、それで済むと思っていた。ゲドの奥さんになんて、死んでも嫌だったけど、みんなが死ぬよりはマシだと思った。
でも違った。
男たちの前で裸にさせられ、下品な言葉を浴びせられる。そして、大好きな父の背中が、目の前で炎に包まれるなんて。
「隊長ぉぉぉ!!!」
コンバインさんは父様に体当たりして、ごろごろと二人で転がりながら、炎から助け出してくれた。
「隊長!しっかりしてください!!」
コンバインさんも身体を焼かれながら、お父様の身体を覆い隠すように抱き締めていた。
「そんな……いや……ッ!!」
焦げた匂いにむせながら、それでも両腕を緩めない姿に涙が出た。
「隊長……!あなたを失うくらいなら、俺が何百回でも焼かれた方がマシだ……!!」
その必死の呼びかけすら、ゲドたちの前では見せ物のように見えた。それでもコンバインさんは、自分の背を盾にして火の粉を受け止め続けてくれた。
「お父様ぁぁぁ……」
駆け寄ろうと一歩踏み出した、その時。
「動くな」
ゲドの声が冷たく私を縛った。
「見世物が、勝手に動くな」
足が止まり、涙だけが頬を伝う。
(お父様……お父様……お父様……!)
「ふん……良い眺めだ」
ゲドが炎に照らされながら、ニヤリと口を歪めて近づいてくる。
足がすくむ。
動けない。
駆け寄ったら皆が殺される。
私は泣きながら、ただ立ち尽くすしかなかった。
「丸焦げの父と娘の涙か……まるで舞台の芝居だな」
ゲドの手が、私の肌へと伸びてくる。
(もう……どうなってもいい、かな……)
……その時だった。
炎と煙をかき分けるように、一陣の風が背後から吹き抜けた。
(何……?)
涙と煙で、目がかすんで見えない。いいえ、なにも見たくない。
もう何も……。
*****
「てんぱい!農場、燃えてる!!!」
玄太の声が俺の耳を突き破った。
「ああ……見えてる!……クソッ!」
俺と玄太はシェパの背にしがみつき、揺れる体を必死に抑えた。
立ち昇る黒煙、物が焼ける音、焦げ臭い匂い。全部が胸に殴りつけてきやがる。
(ふざけんな……俺たちの農場……!)
全身が震える。悔しさか怒りか、もう分かんねぇ。ただ、沸々と湧き上がる感情に焼かれてるみたいだった。
「飛び越えろ!シェパ!!」
シェパが柵を越えた瞬間、目に飛び込んできたのは地獄そのものだった。
「……な……っ……」
畑は黒炎に呑まれ、納屋も牛舎も音を立てて崩れ落ちている。羊の鳴き声は悲鳴に変わり、牛は暴れて炎に突っ込み、子供たちは泣きながら大人に抱き締められていた。
いつも笑い声で溢れてた場所が、今は炎に焼かれて地獄の舞台。
「おい……冗談だろ……」
吐き気が喉を上がってくる。信じたくなくても、目の前で全部燃えていく。
「うわ……っうわ……っ!」
玄太が横で息を呑む。
「むぅ……なんという惨状じゃ……」
クータンの声も震えていた。だが、最悪はまだ終わってなかった。
「てんぱい!あっち、正門の方で兵士たちが!」
正門の前がざわついている。怒号と笑い声が入り交じり、異様な光景が目に飛び込んでくる。
「なんだ……裸……?」
兵たちの中心に、裸のまま立たされている女の子の姿が見える。
「……誰だ……?」
一瞬、目を疑った。
まさか……いや、そんなはず……。
でも、涙で濡れた横顔が炎に照らされた瞬間、俺の心臓は締め上げられた。
「……アリス……!」
吐き気と怒りが一気に込み上げる。そして、その正面に立つのは薄ら笑いを浮かべるゲド。
「最初から素直に従っていれば、こうはならなかったよなぁ?アリス」
「………はい」
ゲドの汚ねぇ手が、ゆっくりとアリスの胸へと伸びていった。胸を必死に隠してるのに、震えて泣いてるのに、あの野郎は楽しそうに嘲ってやがる。俺の目の前で、仲間を弄んで…!
そして。その足元では、コンバインさんが黒焦げになった誰かを抱えて叫んでいる。
「隊長っ!返事して下さい!たいちょぉぉぉ!!!」
……は?今、なんつった?隊長?あの黒焦げが?……嘘だろ?まさか、あれがラクターさんだってのか?
「あばばばば!てんぱい……おれ、気がおかしくなりそうっす!」
キィィィ……ィィ……ン
その時、俺の中で何か壊れるような音がした。
「……ああ、俺もだ」
おかしくなりそう?いや、俺はもう、既におかしくなっていたのかもしれない。
「女ぁ!!もっと足広げろぉぉ!!」
なぜって。もはや俺は、ここにいるゴミ共を、どうやって始末しようか?……としか、考えていなかったから。
「ゲド様!もう一人のおっさんも焼きましょうぜ!」
「美しき師弟愛、ここに燃ゆ……か。悪くない見せ物だ」
火のアストラ達が、ラクターを抱いて無防備なコンバインさんの背中に向く。
「てんぱい、ヤバいっす……って、あれ?てんぱい?」
俺は無意識のうちに、下卑た声を上げる兵たちに、背後からゆっくりと近づいていた。
私一人が犠牲になれば、それで済むと思っていた。ゲドの奥さんになんて、死んでも嫌だったけど、みんなが死ぬよりはマシだと思った。
でも違った。
男たちの前で裸にさせられ、下品な言葉を浴びせられる。そして、大好きな父の背中が、目の前で炎に包まれるなんて。
「隊長ぉぉぉ!!!」
コンバインさんは父様に体当たりして、ごろごろと二人で転がりながら、炎から助け出してくれた。
「隊長!しっかりしてください!!」
コンバインさんも身体を焼かれながら、お父様の身体を覆い隠すように抱き締めていた。
「そんな……いや……ッ!!」
焦げた匂いにむせながら、それでも両腕を緩めない姿に涙が出た。
「隊長……!あなたを失うくらいなら、俺が何百回でも焼かれた方がマシだ……!!」
その必死の呼びかけすら、ゲドたちの前では見せ物のように見えた。それでもコンバインさんは、自分の背を盾にして火の粉を受け止め続けてくれた。
「お父様ぁぁぁ……」
駆け寄ろうと一歩踏み出した、その時。
「動くな」
ゲドの声が冷たく私を縛った。
「見世物が、勝手に動くな」
足が止まり、涙だけが頬を伝う。
(お父様……お父様……お父様……!)
「ふん……良い眺めだ」
ゲドが炎に照らされながら、ニヤリと口を歪めて近づいてくる。
足がすくむ。
動けない。
駆け寄ったら皆が殺される。
私は泣きながら、ただ立ち尽くすしかなかった。
「丸焦げの父と娘の涙か……まるで舞台の芝居だな」
ゲドの手が、私の肌へと伸びてくる。
(もう……どうなってもいい、かな……)
……その時だった。
炎と煙をかき分けるように、一陣の風が背後から吹き抜けた。
(何……?)
涙と煙で、目がかすんで見えない。いいえ、なにも見たくない。
もう何も……。
*****
「てんぱい!農場、燃えてる!!!」
玄太の声が俺の耳を突き破った。
「ああ……見えてる!……クソッ!」
俺と玄太はシェパの背にしがみつき、揺れる体を必死に抑えた。
立ち昇る黒煙、物が焼ける音、焦げ臭い匂い。全部が胸に殴りつけてきやがる。
(ふざけんな……俺たちの農場……!)
全身が震える。悔しさか怒りか、もう分かんねぇ。ただ、沸々と湧き上がる感情に焼かれてるみたいだった。
「飛び越えろ!シェパ!!」
シェパが柵を越えた瞬間、目に飛び込んできたのは地獄そのものだった。
「……な……っ……」
畑は黒炎に呑まれ、納屋も牛舎も音を立てて崩れ落ちている。羊の鳴き声は悲鳴に変わり、牛は暴れて炎に突っ込み、子供たちは泣きながら大人に抱き締められていた。
いつも笑い声で溢れてた場所が、今は炎に焼かれて地獄の舞台。
「おい……冗談だろ……」
吐き気が喉を上がってくる。信じたくなくても、目の前で全部燃えていく。
「うわ……っうわ……っ!」
玄太が横で息を呑む。
「むぅ……なんという惨状じゃ……」
クータンの声も震えていた。だが、最悪はまだ終わってなかった。
「てんぱい!あっち、正門の方で兵士たちが!」
正門の前がざわついている。怒号と笑い声が入り交じり、異様な光景が目に飛び込んでくる。
「なんだ……裸……?」
兵たちの中心に、裸のまま立たされている女の子の姿が見える。
「……誰だ……?」
一瞬、目を疑った。
まさか……いや、そんなはず……。
でも、涙で濡れた横顔が炎に照らされた瞬間、俺の心臓は締め上げられた。
「……アリス……!」
吐き気と怒りが一気に込み上げる。そして、その正面に立つのは薄ら笑いを浮かべるゲド。
「最初から素直に従っていれば、こうはならなかったよなぁ?アリス」
「………はい」
ゲドの汚ねぇ手が、ゆっくりとアリスの胸へと伸びていった。胸を必死に隠してるのに、震えて泣いてるのに、あの野郎は楽しそうに嘲ってやがる。俺の目の前で、仲間を弄んで…!
そして。その足元では、コンバインさんが黒焦げになった誰かを抱えて叫んでいる。
「隊長っ!返事して下さい!たいちょぉぉぉ!!!」
……は?今、なんつった?隊長?あの黒焦げが?……嘘だろ?まさか、あれがラクターさんだってのか?
「あばばばば!てんぱい……おれ、気がおかしくなりそうっす!」
キィィィ……ィィ……ン
その時、俺の中で何か壊れるような音がした。
「……ああ、俺もだ」
おかしくなりそう?いや、俺はもう、既におかしくなっていたのかもしれない。
「女ぁ!!もっと足広げろぉぉ!!」
なぜって。もはや俺は、ここにいるゴミ共を、どうやって始末しようか?……としか、考えていなかったから。
「ゲド様!もう一人のおっさんも焼きましょうぜ!」
「美しき師弟愛、ここに燃ゆ……か。悪くない見せ物だ」
火のアストラ達が、ラクターを抱いて無防備なコンバインさんの背中に向く。
「てんぱい、ヤバいっす……って、あれ?てんぱい?」
俺は無意識のうちに、下卑た声を上げる兵たちに、背後からゆっくりと近づいていた。
0
あなたにおすすめの小説
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)
N2O
BL
執着王子 × 異世界転生魔法使い
魔法使いが逃げられなくなる話。
『上』『中』『下』の全三話、三連休中に完結します。
二万字以下なので、ショートショート𖤣𖥧𖥣
Special thanks
illustration by okiagsa様(X:@okigasa_tate)
MBM様(X:@MBMpaper)
※独自設定、ご都合主義。あしからず。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる