忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第9章:アルカノア農場戦記 ~器を満たす者~

第127話 エクリプス・ブレード

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「こんなもんか……」

 そっと腕を下ろす俺を、アリスの腕の中でボーッと見つめる仔牛。

「ふむ。氷の墓標じゃのぉ」

 クータンの言う通り、地面には串刺しにされた兵どもが墓のように並んでて、歪んだ顔のまま凍りついていた。

 動くやつはもう一人もいない。

 ……いや、いた。

 「……さすがは、神の器様といったところか?」

 手を叩きながら余裕をかますゲド。農場に執着し、王国を裏切り、最後は俺に全ての憎悪をぶつけに来た外道だ。

「しかし……雑魚ごときを一掃した程度で、調子に乗るなよ?」

  調子に乗る?はっ、笑わせんな。

 「……別に?ゴミを片づけただけだ」

(ドックン……脈動する背中の天秤)

  軽く返すと、ゲドの鋭い眼光がさらに吊り上がった。

 「ちぃ……っ!生意気な小僧が……!」

  ゲドが剣に手をかけた瞬間、俺は指先をわずかに動かした。

(雹槍……!)

 シュウウウ!

  大気中の水分が形を変え、鋭い槍になって真っ直ぐ奴に向かう。

  シュピン……ッ!

  奴は片手で軽く剣を振り上げ、氷の刃を打ち払った。パラパラと破片が四散して、地面に散らばる。

 「……何のつもりだ?」

 次の槍も、また次の槍も簡単に弾き飛ばされた。兵どもには防げなかった攻撃を、こいつは剣一本で簡単にいなしやがる。

「へぇ。えらっそうなだけあってやるな」

 「ふっ……ではこちらのターンと行こうか?」

  ゲドは片手の剣をくるりと回して見せつけるように肩で構えた。刃にまとわりついた黒い靄が、じわじわと紫に光り始める。

 ギィィン――。

 ただの剣じゃねえ。黒い霧みたいなものが刃にまとわりついて、紫の闇が脈打ってやがる。

「見せてやろう。これが俺の力!エクリプス・ブレードだ!」

 次の瞬間、闇の剣先が蛇のようにうねった。

「そぉら!」

(く……っ!早い!!)

 避けきれない。そう悟った俺は、反射的に風を巻き上げて、自分の体を横に吹っ飛ばす。

 ドンッ!!!……シュバッ……!

「……くっそ!」

 ……肩が熱い。肩にかすっただけでこれか。

「てんぱぁぁぁぁっ!」

 玄太の叫びが背中に刺さる。

「騒ぐな、玄太」

 俺は傷口に手を当て集中的に温度を下げると、冷気が滲み出て血が止まる。氷で蓋をしただけだが、十分だ。

「そんなの……てんぱいの身体がぁ……」

 ゲドはその様子を鼻で笑った。

「凍らせて止血か……器らしい芸当だな。だが、それでどこまで持つ?」

「持つだろ…?お前をぶっ倒すまでくらいなら……よっ!!」

 俺は手を突き上げる。

「青雷!!」

 バチィィィッ!!

 空を割るような雷鳴が落ちた。青白い閃光が一直線にゲドへ突き刺さる。

「当たったか!?」

 だが、雷は奴の刃に吸い込まれ、霧のように散らされてしまった。

「……ぬるいな」

「じゃあ、こっちはどうだ?」

 俺は息を吸い込み、腕で空を薙ぎ払う。

「突風っ!」

 ドガァァァンッ!!

 竜巻みたいな一撃が正面からゲドを叩く。地面の砂と氷が巻き上げられ、視界がぐちゃぐちゃになる。

「……これも無駄か」

 霧の向こうに立つ影は、びくともしなかった。剣を竜巻と逆回転させ、それを相殺した。

(ドックン……脈動する背中の天秤)

「つまらん小細工はやめて、そろそろ始めようか!小僧!!」

 次の瞬間、ゲドのエクリプス・ブレードがさらに禍々しく光る。紫の炎みたいなオーラが噴き出して、刃が三倍に伸びやがった。

 ゴゴゴゴゴゴゴ……!

「ついに本気モードってところか?」

「来い、神の器。お前の力と、俺の力、どちらが上か……試してやろう」

 奴が踏み込むと、凍った地面が砕けた。俺も腰を低くしてブルーストライクを構える。

「てんぱいやめて!!そんな止血のままじゃ、死んじゃうっすよ!」

 やめられるかよ。ここで引いたら、全部が終わるんだ。

「来い!ゲド!!」

 奴の踏み込みと同時に、俺も地を蹴った。

「………っ!?」

 刃と刃がぶつかる寸前、横合いから閃光の剣が飛び込み、俺とゲドの間を断ち割った。

 ガキィィィンッ!

 紫にうねる刃を押し返し、火花が弾け飛ぶ。

「……なに!?」

 ゲドの顔がわずかに歪む。

「天貴殿!!!」

 真っ白な剣を握った影が俺の前に躍り出る。

「リ、リオック!?」

「天貴殿!何も言わずに一人で付き人の救出に行くとは、水臭いですぞ!!」

 キッと睨んだリオックは、剣を振りかざしてゲドを押し返した。

「でも、ここからは俺が護ります!!」

 真上に掲げた刃から、あふれる光が辺りを照らし出す。

「……セラフィック・ブレード!!」

「すげぇ、リオックさん!ただのスケベな騎士じゃなかったんすね!」

 初めて見るリオックの勇士に、厨二心がくすぐられる玄太。そんな玄太に、ニヤリと笑顔で返す。

「見ていろ、付き人よ!これが我がアストラの光!器様に仇なす闇の力を討つための刃よ!」

 ゲドが鼻で笑う。

「光?笑わせるな……俺を拒んだ王国の象徴など、ここで叩き折ってくれるわぁぁぁぁ!!!」

 光と闇の刃が激突した。

 ……ガキンッ!

 リオックのセラフィック・ブレードが輝き、ゲドのエクリプス・ブレードと何度も火花を散らす。

「剣技……!マジですげえ……っす!」

 光と闇が打ち合うたびに、カメラのフラッシュのような閃光と残像が繰り返される。

「……ゲド、お前の気持ちも分からなくはない!王国は光ばかりを崇め、闇を振るう者を認めなかったからな……っ!」

 シュピィィィィ……ン。

 隙をついたリオックの一閃がゲドの中心を捉える。

「ぐふ!!」

 光の斬撃をまともに腹に喰らい、片膝をつくゲド。

「リオックさん!その調子!行けるわ!!」

 押し気味のリオックにアリスの声援が飛ぶ。同時に、リオックは勝機を見たかのように、さらに踏み込んだ。

「アストラで分別されるのは不憫ではあったが、器様を傷つけた者に容赦はせん!!」

 セラフィック・ブレードが更に白く輝き、ゲドに襲いかかる。

「同情か……?」

 だがゲドは、血を吐きながらも鼻で笑った。

「笑わせるな!!」

 ゲドの剣にまとわりついた紫の闇が脈打ち、黒い炎のように膨れ上がる。

「俺はこの力が気に入ってるんだよ!王国が崇める光より、何倍も濃く、深く、強い!」

 次の瞬間、エクリプス・ブレードが黒く唸った。

「んなっ……!無動作で!?」

 飛び込んだリオックに、カウンターで繰り出された蛇のような闇の斬撃を、必死に光剣で受け止める。

 ガキィィンッ!!

 火花のように光が弾けて、その輝きは闇に吸い込まれるように掻き消えた。

 もう一撃。さらに一撃。

「な、なんだこの連撃は!?」

 攻撃を防ぐたびにセラフィック・ブレードの光は削られ、その輝きが徐々に闇に蝕まれていく。

「力が……吸い取られる!!」

「はははは……!黒は、白をも塗り替える!闇は全てを呑み込むのだぁぁぁ!!」

「くっ……ぅぅぅうおおおおっ!!」

 リオックが叫び、全身で踏みとどまる。だが闇の侵食は止まらない。

「光の騎士の優等生よ!これが現実なのだぁぁぁ!!!」

 ゲドが吠え、剣を大きく振り下ろす。

 バギィィィンッ!!

 セラフィック・ブレードは、悲鳴を上げたように強い光を放ち、光彩が弾け飛んだ。その勢いのまま、黒い斬撃がリオックの胸から脇腹へ深々と走り抜ける。

 ズシャァァァ!!

「ぐあああああっ!!」

 血飛沫を散らし、リオックは宙を舞って俺の目の前に叩きつけられる。

「リオック!!」

 思わず声が出た。胸から腹にかけてざっくり裂かれて、血が熱い雨みたいに飛び散ってやがる。息はあるけど、このままじゃ長くはもたねえ。

「て、天貴殿……!俺は……まだ……!」

 必死に立ち上がろうとするリオックの肩を押さえる。

「バカ、動くな!死ぬぞ!」

 優しく撫でるように、リオックの傷口を凍らせて止血する。

「俺は……はぁ…はぁ……死にませんよ……」

「当たり前だ!玄太ぁぁ!リオックを頼む!」

「わ、分かったっす!」

 玄太が駆け寄り、必死にリオックの身体を支えると、血を吐きながらも、はっきりと言い切った。

「天貴殿の……エーテルを拝むまでは死ねませんから!」

「ちょ!こんな時に何言ってんすか!」

「はぁ?……そんなもん、いくらでも見せてやるから、ちゃんと生きてろよ!」

「え?なに?てんぱい?」

「……ふぁぁ……ありがたき……しあ……わせ」

 玄太の腕の中でリオックは意識を失った。しかし、どさくさに紛れたその約束に玄太はギョッとする。

「てんぱい!!勢いでそういう約束するのはダメっす!」

 泣きそうな顔で抗議する玄太と、安らかに気絶するリオック。

「玄太、みんなで遠くへ避難してろ……」

「……はっ!はひ!!」

「ここからは、災害レベルだからな……!」

 二人を置いて、俺はゲドへ向かって歩き出した。
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