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第9章:アルカノア農場戦記 ~器を満たす者~
第134話 神の所業
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テンキの灰色の瞳がわずかに細まる。
「僕ニ、刃ヲ向ケるトハ、不届キな」
次の瞬間、ゲドの剣が宙を舞っていた。青いツナギの男を操る“それ”が、力むこともなく刃をひねり奪ったのだ。
「……コれ、無力な者ノ魂、相当吸ワセタね?」
「なっ……!?」
ゲドは咄嗟にエクリプス・ブレードを握ろうとする。だが、その身体は一息の風で吹き飛ばされた。
「き、貴様……何者だ!?」
ゲドの咆哮が虚しく森に響いた。
答えの代わりに、ゲドに手をかざすテンキ。息つく間もなくゲドの身体は宙に浮き、無造作に地面へ叩きつけられる。
「がはぁ!!」
ゲドは歯を食いしばり立ち上がろうとするが、その頭をまた見えない力が押さえつける。顔を泥に埋められ、呻き声しか出せない。
「……オ前ノ息、臭イよ」
灰色の瞳が、瞬きもせずゲドを冷たく見下ろす。
「んぐ……ぐぐ……」
泥に顔を押し付けられたゲドは呻くことしかできず、その屈辱は土の中に沈んでいった。
「君ミタイな失敗作が、コノ世界の均衡ヲ壊シたンダネ」
テンキの腕がわずかに振られるたび、見えない圧が大地を揺らし、ゲドの体を弄んだ。
「ぐぎぃぃぃぃ……!!」
ゲドは奇声をあげるが、その声すら途中で押し潰された。全身を縛る重圧が骨ごときしませ、肺から無理やり空気を絞り出す。
テンキは奪ったエクリプス・ブレードを手にすると、その黒い刀身を眺める。
「喰ワレた無念……呻イテいルな」
刃にまとわりつく黒霧が、かすかにざわめく。
「か、返せ、卑怯者!それは俺様の……!」
「……ん?コレ?」
テンキはためらいなくその切っ先をゲドの左腕にスッと走らせた。
ッドサ……!
左腕が地面に落ちる。
「……………………ぎゃあああああっ!!」
ゲドの絶叫が森を震わせた。切り離された左腕が痙攣し、泥に血の池が溜まる。
「ドウシたノ?返シてヤッタノに」
テンキの声は淡々としていた。エクリプス・ブレードを軽く振り払うと、刃にまとわりついていた黒霧が血と共に散った。
「ぐ、ぅ……俺様を……誰だと思ってやがる……!」
ゲドは片腕で必死に立ち上がろうとする。
「アハハ!人間ノ身体ッて面白イな」
今度は脚だ。テンキは一歩踏み出し、刃を振る。
ザシュッ。
右腿を膝下から裂かれたゲドが地面に転がり、泥にまみれながらのたうち回る。
「ひぃっ……ぎ、ぎぃあああっ!」
無邪気に、残酷に、刃が次々と浅くゲドの体を刻む。肩、胸、腹。赤い線が増えるたびに、ゲドの悲鳴はかすれて弱っていった。
片足で泥に転がり呻き続けるゲド。その上に無表情で立つテンキを見て、玄太は息を呑んだ。
「て、てんぱい……?あれ、ほんとに……てんぱい……?」
伸ばしかけた手が宙で震える。声は涙で濁り、信じたくない思いと恐怖が入り混じっていた。
「……あの眼……」
アリスの声はかすれ、震えていた。未来を視る彼女の瞳には、あの存在がすでに農場の仲間には見えていなかった。
「天貴どころか……人じゃない」
テンキの灰色の瞳は、二人を見ようともしない。笑いながら剣を振るい、ゲドの肉を裂くたびに血が舞い散る。
「ホラ、立ッテみナヨ!次ハドコにスル?」
嘲る声が響き、ゲドがずるずると這い上がる。しかしその背中は重圧に押さえつけられ、すぐに泥へと叩きつけられた。
「や、やめろ……てんぱいの身体で……!」
玄太の叫びも届かない。その戯れは止まらず、夜の森に響くのはゲドの断末魔と、冷たい嘲笑だけだった。
「……モウ斬ル所、無イネ」
「お、俺様は……ハァ……ハァ……帝国……で……」
テンキは剣を構え直す。灰色の瞳が細められ、静かな光を宿す。
「ジャぁ、終わリ!」
黒剣が一閃し、ゲドの胸を深々と貫いた。
ズブリ、と肉を裂く音。
「……ひぐっ!!?」
ゲドの眼が大きく見開かれ、口から血が溢れる。
「帝国に……神の器を……砕いた……証を……」
ゲドは胸を貫かれてなお、血に濡れた歯を剥き出し喚いた。だが、その声はすぐ血で潰され、赤黒い泡が口端から弾け飛ぶ。
「モウ、お前飽キた」
テンキの声は冷ややかだった。灰色の瞳が刃の先からゲドを射抜く。
ギリリ……と剣をさらに押し込む。
「ぐ、ぶっ……がはぁぁぁぁ!!」
背中から泥を跳ね散らすほど身を仰け反らせたが、それ以上の言葉は出なかった。ゲドの目は血走りながらも開いたまま、最後まで諦めきれない憎悪を宿していた。
「フフ……コレでコノ剣ノ無念モ、果タサレタ」
テンキは淡々と囁き、刀身を強く握り込む。
ギリリ……と鈍い音が響き、黒剣に深いひびが走ると刀身は粉々に砕け散った。
黒霧が弾けるように夜空へ舞い上がる。
うめき声、泣き声、祈り声……幾重もの声が風に混じり、光を帯びた霧となった魂たちは、柔らかに溶け合いながら天へ昇っていく。
玄太は泥に手をつき、その光景を見上げていた。
「……これ……成仏ってやつ……?」
隣でアリスも、涙で滲んだ瞳を上げる。
「……魂が……解き放たれて……行く……」
「うう……ほんとにてんぱい、神様になっちゃったぁ……」
淡い光が一つ、また一つと天に還っていく。解放された魂たちの最後の輝きは、この世のものとは思えない美しさだった。
「僕ニ、刃ヲ向ケるトハ、不届キな」
次の瞬間、ゲドの剣が宙を舞っていた。青いツナギの男を操る“それ”が、力むこともなく刃をひねり奪ったのだ。
「……コれ、無力な者ノ魂、相当吸ワセタね?」
「なっ……!?」
ゲドは咄嗟にエクリプス・ブレードを握ろうとする。だが、その身体は一息の風で吹き飛ばされた。
「き、貴様……何者だ!?」
ゲドの咆哮が虚しく森に響いた。
答えの代わりに、ゲドに手をかざすテンキ。息つく間もなくゲドの身体は宙に浮き、無造作に地面へ叩きつけられる。
「がはぁ!!」
ゲドは歯を食いしばり立ち上がろうとするが、その頭をまた見えない力が押さえつける。顔を泥に埋められ、呻き声しか出せない。
「……オ前ノ息、臭イよ」
灰色の瞳が、瞬きもせずゲドを冷たく見下ろす。
「んぐ……ぐぐ……」
泥に顔を押し付けられたゲドは呻くことしかできず、その屈辱は土の中に沈んでいった。
「君ミタイな失敗作が、コノ世界の均衡ヲ壊シたンダネ」
テンキの腕がわずかに振られるたび、見えない圧が大地を揺らし、ゲドの体を弄んだ。
「ぐぎぃぃぃぃ……!!」
ゲドは奇声をあげるが、その声すら途中で押し潰された。全身を縛る重圧が骨ごときしませ、肺から無理やり空気を絞り出す。
テンキは奪ったエクリプス・ブレードを手にすると、その黒い刀身を眺める。
「喰ワレた無念……呻イテいルな」
刃にまとわりつく黒霧が、かすかにざわめく。
「か、返せ、卑怯者!それは俺様の……!」
「……ん?コレ?」
テンキはためらいなくその切っ先をゲドの左腕にスッと走らせた。
ッドサ……!
左腕が地面に落ちる。
「……………………ぎゃあああああっ!!」
ゲドの絶叫が森を震わせた。切り離された左腕が痙攣し、泥に血の池が溜まる。
「ドウシたノ?返シてヤッタノに」
テンキの声は淡々としていた。エクリプス・ブレードを軽く振り払うと、刃にまとわりついていた黒霧が血と共に散った。
「ぐ、ぅ……俺様を……誰だと思ってやがる……!」
ゲドは片腕で必死に立ち上がろうとする。
「アハハ!人間ノ身体ッて面白イな」
今度は脚だ。テンキは一歩踏み出し、刃を振る。
ザシュッ。
右腿を膝下から裂かれたゲドが地面に転がり、泥にまみれながらのたうち回る。
「ひぃっ……ぎ、ぎぃあああっ!」
無邪気に、残酷に、刃が次々と浅くゲドの体を刻む。肩、胸、腹。赤い線が増えるたびに、ゲドの悲鳴はかすれて弱っていった。
片足で泥に転がり呻き続けるゲド。その上に無表情で立つテンキを見て、玄太は息を呑んだ。
「て、てんぱい……?あれ、ほんとに……てんぱい……?」
伸ばしかけた手が宙で震える。声は涙で濁り、信じたくない思いと恐怖が入り混じっていた。
「……あの眼……」
アリスの声はかすれ、震えていた。未来を視る彼女の瞳には、あの存在がすでに農場の仲間には見えていなかった。
「天貴どころか……人じゃない」
テンキの灰色の瞳は、二人を見ようともしない。笑いながら剣を振るい、ゲドの肉を裂くたびに血が舞い散る。
「ホラ、立ッテみナヨ!次ハドコにスル?」
嘲る声が響き、ゲドがずるずると這い上がる。しかしその背中は重圧に押さえつけられ、すぐに泥へと叩きつけられた。
「や、やめろ……てんぱいの身体で……!」
玄太の叫びも届かない。その戯れは止まらず、夜の森に響くのはゲドの断末魔と、冷たい嘲笑だけだった。
「……モウ斬ル所、無イネ」
「お、俺様は……ハァ……ハァ……帝国……で……」
テンキは剣を構え直す。灰色の瞳が細められ、静かな光を宿す。
「ジャぁ、終わリ!」
黒剣が一閃し、ゲドの胸を深々と貫いた。
ズブリ、と肉を裂く音。
「……ひぐっ!!?」
ゲドの眼が大きく見開かれ、口から血が溢れる。
「帝国に……神の器を……砕いた……証を……」
ゲドは胸を貫かれてなお、血に濡れた歯を剥き出し喚いた。だが、その声はすぐ血で潰され、赤黒い泡が口端から弾け飛ぶ。
「モウ、お前飽キた」
テンキの声は冷ややかだった。灰色の瞳が刃の先からゲドを射抜く。
ギリリ……と剣をさらに押し込む。
「ぐ、ぶっ……がはぁぁぁぁ!!」
背中から泥を跳ね散らすほど身を仰け反らせたが、それ以上の言葉は出なかった。ゲドの目は血走りながらも開いたまま、最後まで諦めきれない憎悪を宿していた。
「フフ……コレでコノ剣ノ無念モ、果タサレタ」
テンキは淡々と囁き、刀身を強く握り込む。
ギリリ……と鈍い音が響き、黒剣に深いひびが走ると刀身は粉々に砕け散った。
黒霧が弾けるように夜空へ舞い上がる。
うめき声、泣き声、祈り声……幾重もの声が風に混じり、光を帯びた霧となった魂たちは、柔らかに溶け合いながら天へ昇っていく。
玄太は泥に手をつき、その光景を見上げていた。
「……これ……成仏ってやつ……?」
隣でアリスも、涙で滲んだ瞳を上げる。
「……魂が……解き放たれて……行く……」
「うう……ほんとにてんぱい、神様になっちゃったぁ……」
淡い光が一つ、また一つと天に還っていく。解放された魂たちの最後の輝きは、この世のものとは思えない美しさだった。
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