135 / 188
第9章:アルカノア農場戦記 ~器を満たす者~
第135話 てんぱい返さない詐欺
しおりを挟む
淡い光が消え、森に静けさが戻る。血の匂いと泥の湿りだけが現実を思い出させた。
「……てんぱい?」
玄太の呼びかけに、見向きもしないテンキ。
「……玄太さん、あれはもう天貴じゃ無……」
アリスが言い終わる前に、玄太は泥だらけのまま駆け寄った。そのまま力いっぱい天貴の身体に抱きついて、その胸に顔を埋めて叫びちらす。
「わあああああ!てんぱいが悪いやつ退治してくれたぁぁぁ!」
「……っちょ!!玄太さん!?」
なりふり構わない玄太アタックに、緊張気味だったアリスはギョッとする。
「ん?ナンダ……コの人間」
テンキの灰色の瞳が僅かに下を向いた。玄太の頭に冷たく視線を落とし、おもむろに手が持ち上がる。
「コレも、排除スルか……」
その瞬間、アリスが鋭く叫んだ。
「うそ!?玄太さん、危ない!!!」
「え?」
玄太は反射的に顔を上げ、思わずテンキと見つめあう。
「っ……!?」
「っ……!」
玄太のクリクリの眼を見た瞬間、振り上げたテンキの手が止まった。空気に揺らぎを残して、ぴたりと動きを失う。
(アレ?今、コノ器、動ケナくナッタ……ナンデ?)
戸惑う、天貴の中の神。その姿に、玄太は息を飲んだ。目の前には大好きなてんぱいの顔がある。
「アリスさん!大変です!てんぱいって……」
「どうしたの!?なにか気づいたの!?」
「神様になってもイケメンだし、やっぱ完璧っした!」
玄太は涙と鼻水まみれの顔でうっとりしながら、しかしハッキリと言い切った。
「……は?」
アリスが思わず素っ頓狂な声を上げる。
「いや!今、そのセリフ言う!?もっと大事なとこあるでしょ!」
アリスは頭を抱えて叫んだ。
「ところで、神様のてんぱい!」
神と思しき存在にもめげない玄太。
「ン?何を言ッテル?ボクの事カ?」
「おれのてんぱい、いつ返してくれるんすか!?出来れば明日にでも返却して欲しいっす!」
「愚カナ……コレより我は、コノ世界を浄化スル必要ガアル」
テンキの口から、低く冷たい声が落ちる。
「浄化……!?うおお、さすが俺のてんぱいっす!ゲドだけじゃなくて、世界まで救っちゃうんすね!」
玄太は勝手に盛り上がって両手を突き上げる。
「玄太さん!?浄化って、それ、そんなキラキラした意味じゃ……」
アリスは顔を青ざめながら能天気な玄太にツッコむ。
「ねぇねぇ。じゃぁ、浄化ってやつ終わったら……おれの大好きな方のてんぱいは、返してくれるんすか?」
玄太はにへらっと笑いながら問いかける。
「………」
だが灰色の瞳は一瞬も揺れなかった。
「……返サナイ。浄化トハ、この世界の人間ヲ、リセットすル事ダ」
「…………は?」
玄太はきょとんと固まり、アリスは真っ青になった。
「玄太さん!やっぱり、すぐその人から離れなさい!」
アリスが必死に手招きするけど、玄太は聞く耳を持たない。
「……え、え?てんぱい返さない!?アリスさん!!これ、詐欺じゃないすか!?危険っすよ!」
「だから、最初からそう言ってるでしょうが!!」
(浄化って、この世界が消えるって事?じゃあおれたちが異世界に来たの、意味不明じゃね?)
頭の中で、情報整理が追い付かない玄太。
「じゃあ、てんぱいを騙してここに呼んだんすか!?この嘘つき神!」
玄太は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってテンキに詰め寄る。その視線の先で、冷ややかな眼差しが玄太を射抜いた。
「……騙シテナド、イナイ。最初カラ、コレガ目的ダ」
「開き直った……!くぅ……やられたぁ……」
玄太は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
「玄太さん!だから言ったのに!!」
アリスは必死に腕を掴んで引っ張るが、玄太はなお天貴の身体にしがみつこうとする。
「でも!でも!!おれ、てんぱい返してもらわないと、このまま引き下がれないっす!!」
「返サヌと言ッテイル……。ソモソモ、お前モ消エルノだ。返シヨウガ無イ」
「……ぐぅ……てんぱいが……おれも消すってのかよ……」
玄太は唇を震わせるが、次の瞬間にはまた顔を擦り寄せ、叫んだ。
「それでも!おれは、死んでも離れないっすよ!!」
「やめなさい、玄太さん!ほんとに消されちゃうから!!」
場の空気は張り詰めたままなのに、二人のやりとりだけがやけに間抜けに響く。
「消されても、離れない!!」
「玄太さん!?どう言う意味、それ!!」
その横で、“てんぱい”を支配した存在は、一切の感情を見せず、ただ二人の人間を見下ろしていた。
「……てんぱい?」
玄太の呼びかけに、見向きもしないテンキ。
「……玄太さん、あれはもう天貴じゃ無……」
アリスが言い終わる前に、玄太は泥だらけのまま駆け寄った。そのまま力いっぱい天貴の身体に抱きついて、その胸に顔を埋めて叫びちらす。
「わあああああ!てんぱいが悪いやつ退治してくれたぁぁぁ!」
「……っちょ!!玄太さん!?」
なりふり構わない玄太アタックに、緊張気味だったアリスはギョッとする。
「ん?ナンダ……コの人間」
テンキの灰色の瞳が僅かに下を向いた。玄太の頭に冷たく視線を落とし、おもむろに手が持ち上がる。
「コレも、排除スルか……」
その瞬間、アリスが鋭く叫んだ。
「うそ!?玄太さん、危ない!!!」
「え?」
玄太は反射的に顔を上げ、思わずテンキと見つめあう。
「っ……!?」
「っ……!」
玄太のクリクリの眼を見た瞬間、振り上げたテンキの手が止まった。空気に揺らぎを残して、ぴたりと動きを失う。
(アレ?今、コノ器、動ケナくナッタ……ナンデ?)
戸惑う、天貴の中の神。その姿に、玄太は息を飲んだ。目の前には大好きなてんぱいの顔がある。
「アリスさん!大変です!てんぱいって……」
「どうしたの!?なにか気づいたの!?」
「神様になってもイケメンだし、やっぱ完璧っした!」
玄太は涙と鼻水まみれの顔でうっとりしながら、しかしハッキリと言い切った。
「……は?」
アリスが思わず素っ頓狂な声を上げる。
「いや!今、そのセリフ言う!?もっと大事なとこあるでしょ!」
アリスは頭を抱えて叫んだ。
「ところで、神様のてんぱい!」
神と思しき存在にもめげない玄太。
「ン?何を言ッテル?ボクの事カ?」
「おれのてんぱい、いつ返してくれるんすか!?出来れば明日にでも返却して欲しいっす!」
「愚カナ……コレより我は、コノ世界を浄化スル必要ガアル」
テンキの口から、低く冷たい声が落ちる。
「浄化……!?うおお、さすが俺のてんぱいっす!ゲドだけじゃなくて、世界まで救っちゃうんすね!」
玄太は勝手に盛り上がって両手を突き上げる。
「玄太さん!?浄化って、それ、そんなキラキラした意味じゃ……」
アリスは顔を青ざめながら能天気な玄太にツッコむ。
「ねぇねぇ。じゃぁ、浄化ってやつ終わったら……おれの大好きな方のてんぱいは、返してくれるんすか?」
玄太はにへらっと笑いながら問いかける。
「………」
だが灰色の瞳は一瞬も揺れなかった。
「……返サナイ。浄化トハ、この世界の人間ヲ、リセットすル事ダ」
「…………は?」
玄太はきょとんと固まり、アリスは真っ青になった。
「玄太さん!やっぱり、すぐその人から離れなさい!」
アリスが必死に手招きするけど、玄太は聞く耳を持たない。
「……え、え?てんぱい返さない!?アリスさん!!これ、詐欺じゃないすか!?危険っすよ!」
「だから、最初からそう言ってるでしょうが!!」
(浄化って、この世界が消えるって事?じゃあおれたちが異世界に来たの、意味不明じゃね?)
頭の中で、情報整理が追い付かない玄太。
「じゃあ、てんぱいを騙してここに呼んだんすか!?この嘘つき神!」
玄太は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってテンキに詰め寄る。その視線の先で、冷ややかな眼差しが玄太を射抜いた。
「……騙シテナド、イナイ。最初カラ、コレガ目的ダ」
「開き直った……!くぅ……やられたぁ……」
玄太は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
「玄太さん!だから言ったのに!!」
アリスは必死に腕を掴んで引っ張るが、玄太はなお天貴の身体にしがみつこうとする。
「でも!でも!!おれ、てんぱい返してもらわないと、このまま引き下がれないっす!!」
「返サヌと言ッテイル……。ソモソモ、お前モ消エルノだ。返シヨウガ無イ」
「……ぐぅ……てんぱいが……おれも消すってのかよ……」
玄太は唇を震わせるが、次の瞬間にはまた顔を擦り寄せ、叫んだ。
「それでも!おれは、死んでも離れないっすよ!!」
「やめなさい、玄太さん!ほんとに消されちゃうから!!」
場の空気は張り詰めたままなのに、二人のやりとりだけがやけに間抜けに響く。
「消されても、離れない!!」
「玄太さん!?どう言う意味、それ!!」
その横で、“てんぱい”を支配した存在は、一切の感情を見せず、ただ二人の人間を見下ろしていた。
0
あなたにおすすめの小説
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)
N2O
BL
執着王子 × 異世界転生魔法使い
魔法使いが逃げられなくなる話。
『上』『中』『下』の全三話、三連休中に完結します。
二万字以下なので、ショートショート𖤣𖥧𖥣
Special thanks
illustration by okiagsa様(X:@okigasa_tate)
MBM様(X:@MBMpaper)
※独自設定、ご都合主義。あしからず。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる