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第9章:アルカノア農場戦記 ~器を満たす者~
第140話 てんぱいを探す旅
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そんなこんなで簡単な荷物をまとめ、農場を飛び出した玄太とリオック。二人の足音だけが続く道は、どこまでも青い空の下へ伸びていた。
「……付き人よ。また飯か?」
横目でリオックが呆れ顔をする。
「ち、ちげーっす!これは……おやつ!」
玄太は慌てて甘乳パンを口いっぱいにほうばった。
「……違いが分からぬ」
「あるんすよ!ご飯はちゃんとしたやつで、これはスイーツ!はいどうぞ!」
リオックは小さく鼻を鳴らしたが、結局パンをひとかけら受け取った。
「ったく……俺は肉食なんだが……」
疑い半分でパンを噛みしめると、ほんのり甘い香りが広がる。
「……うむ。甘い乳が口いっぱいに広がって……悪くはない」
「っしゃ!やっぱ甘乳パンは最強っす!」
玄太の笑顔に、リオックはふっと視線を上に向けた。
空は高く澄んでいる。
(っふ……一人よりは頑張れそうだ)
重苦しい旅路の始まりにしては、悪くない一歩だった。
「……で、リオックさん。おれら、どこに向かうんすか?」
「うむ。そこなんだが……天貴殿に巣食う者は、自らを神だと言った。」
「……っすね……」
玄太が目を丸くすると、リオックは歩を止めずに言った。
「ならば神に近い存在に聞くのが一番か……」
「なるほどぉ……ってか、神に近い存在って?」
「うむ。まずは、アルカ山にいるという精霊に会いに行こうと思う」
「ええっ!?あそこの精霊さん、めっちゃ怖いっすよ!」
玄太が肩をすくめると、リオックが訝しげに目を細めた。
「なんと!?付き人は風の三精霊を知っているのか?」
「はい。前にアルカウッドを仕入れに行った時、直接交渉したんす。で、結構ひどい目にあって……あっ!そうだ!」
ぱっと手を打つ玄太。
「精霊さんなら、晴れ知らずの山にもいるっすよ!」
「……なんだと!?」
リオックの眉がぴくりと動いた。
「……晴れ知らずの山に、精霊がいるだと?」
リオックが低く呟く。
「はいっす。あの山が雨が止まない秘密を探りに行ったときに、洞窟の奥に水の精霊さんにお世話になったんすよ」
「水の精霊……」
リオックは歩を止め、真剣な顔で考え込む。
「はい!水の精霊の女王様があの山の地下神殿に雨水を呼んでるんす!それであの山は雨がやまないんすよ」
「なるほど……精霊の女王ならばこの世界の神に関する手がかりを何か知っているかもしれん」
「でしょ!? しかもアルカ山は行きやすいし……あ、いや、行きやすいっつっても、精霊さんの住む洞窟は水浸しなんすけど……」
「ふむ……」
リオックは腕を組み、うなずいた。
「決まりだ。目指すは晴れ知らずの山!」
「っしゃあ!てんぱいへ一歩近づいた気がするっすね!」
玄太が胸を叩いて笑う。その無邪気さに、リオックも思わず鼻で笑った。
「……道中で死ぬなよ、付き人」
「ひっでぇ!任せとけっす!」
そんな軽口を交わしながら、二人は足を速めた。
*****
晴れ知らずの山・洞窟前
「相変わらずここは、洞窟内までどしゃ降りだな」
「っすね……本来はここが入り口なんすけど、こっちに秘密のショートカットがありますよ!」
玄太が得意げに顎をしゃくる。
「ほう……そんなものが?」
「はいっす!前にこの中で溺れかけた時、ウォルさんっていう精霊さんに教えてもらった抜け道っ……あ!!」
「どうした?付き人」
何かを思い出した玄太の顔が、みるみると茹でたタコのように赤くなる。
「おれ、あの時溺れて意識無くしてたんすけど、そのときてんぱいのファーストキスで……」
「……なぬ?」
リオックの足が止まる。鋭い視線が茹でタコ玄太に突き刺さった。
「お、お前……いま何と?」
「えっ!?えっと……違う、人工呼吸っす!でも、てんぱいの唇が……こう、ブチュッて」
「ブチュッ……だと……羨ましい」
玄太が慌てて手をぶんぶん振る。
「しかし、人工呼吸ならば仕方あるまい……ところで、なぜ俺に報告する?」
「ち、違うんすよ!なんか急に思い出しちゃって!」
リオックはこめかみを押さえ、深いため息をついた。
「なるほど……俺も天貴殿の前で、溺れるしかない、か」
「え!?なんか言いました?」
「……なにも。さぁ、その近道とやらに急ぐぞ!」
玄太に案内され、二人は洞窟脇の茂みをかき分けた。そこには小さな横穴がぽっかりと口を開けていた。
「ここっす!ウォルさんに教えてもらった抜け道!」
「……ほう。確かに、正面突破よりは楽そうだな」
リオックは腰をかがめて中を覗き込む。奥の方からはドドドっと水音が響いていた。
「けど……ちょっと狭すぎません?リオックさん通れるっすか?」
「問題ない。……鎧を脱いで軽装でいく」
「え、パンイチっすか!?」
「剣一本あれば問題ない。衣服は濡れるとおもりになる。付き人も濡れては困るものは置いていけ!」
ならば、と甘乳パンが入ったカバンとリオックの鎧を茂みに隠す玄太。
二人は横穴に突入した。少し進むと、冷たい水が狭い通路を横切って、勢いよく流れている。足を踏み入れた途端、膝まで一気に押し流されそうになった。
「うおお、水流出たぁ!前はこれに流されたんすよ!」
「行くぞ、付き人!気を付けろよ!」
リオックは躊躇なく片足を踏み込み、岩肌に手を掛けて身体を安定させた。
「お、おれも行くっす!」
玄太も続くが、次の瞬間――
「うぎゃあああっ!?流されるーっ!!」
慌てて掴んだのはリオックの腰布。
「おい!脱げるだろう!そこを引っ張るな!」
「し、仕方ねえっす!うわっ、足が浮く浮く浮く!!」
リオックはため息をつきつつ、片腕で玄太を抱え上げるようにして一気に水流を渡りきった。
「……まったく。付き人は手間がかかる」
「す、すんません……でも助かったっす」
肩で息をする玄太の顔はずぶ濡れで、それでもどこか楽しそうだった。
水流をいくつか超えると、一気に空気が変わった。ひんやりと冷たい風が頬をなで、苔の光は水面に揺れて奇妙な文様を描く。
「古い遺跡か……ここが、水の精霊の領域なのか?」
リオックの声は自然と低くなる。
「はい。この先に進むと、教会みたいな神殿があるんす」
玄太が答えるその足元で、どこからか水滴が「ぽちゃん」と落ちる。二人は水滴を拭いながら、遺跡のさらに奥へと足を踏み入れた。
「……付き人よ。また飯か?」
横目でリオックが呆れ顔をする。
「ち、ちげーっす!これは……おやつ!」
玄太は慌てて甘乳パンを口いっぱいにほうばった。
「……違いが分からぬ」
「あるんすよ!ご飯はちゃんとしたやつで、これはスイーツ!はいどうぞ!」
リオックは小さく鼻を鳴らしたが、結局パンをひとかけら受け取った。
「ったく……俺は肉食なんだが……」
疑い半分でパンを噛みしめると、ほんのり甘い香りが広がる。
「……うむ。甘い乳が口いっぱいに広がって……悪くはない」
「っしゃ!やっぱ甘乳パンは最強っす!」
玄太の笑顔に、リオックはふっと視線を上に向けた。
空は高く澄んでいる。
(っふ……一人よりは頑張れそうだ)
重苦しい旅路の始まりにしては、悪くない一歩だった。
「……で、リオックさん。おれら、どこに向かうんすか?」
「うむ。そこなんだが……天貴殿に巣食う者は、自らを神だと言った。」
「……っすね……」
玄太が目を丸くすると、リオックは歩を止めずに言った。
「ならば神に近い存在に聞くのが一番か……」
「なるほどぉ……ってか、神に近い存在って?」
「うむ。まずは、アルカ山にいるという精霊に会いに行こうと思う」
「ええっ!?あそこの精霊さん、めっちゃ怖いっすよ!」
玄太が肩をすくめると、リオックが訝しげに目を細めた。
「なんと!?付き人は風の三精霊を知っているのか?」
「はい。前にアルカウッドを仕入れに行った時、直接交渉したんす。で、結構ひどい目にあって……あっ!そうだ!」
ぱっと手を打つ玄太。
「精霊さんなら、晴れ知らずの山にもいるっすよ!」
「……なんだと!?」
リオックの眉がぴくりと動いた。
「……晴れ知らずの山に、精霊がいるだと?」
リオックが低く呟く。
「はいっす。あの山が雨が止まない秘密を探りに行ったときに、洞窟の奥に水の精霊さんにお世話になったんすよ」
「水の精霊……」
リオックは歩を止め、真剣な顔で考え込む。
「はい!水の精霊の女王様があの山の地下神殿に雨水を呼んでるんす!それであの山は雨がやまないんすよ」
「なるほど……精霊の女王ならばこの世界の神に関する手がかりを何か知っているかもしれん」
「でしょ!? しかもアルカ山は行きやすいし……あ、いや、行きやすいっつっても、精霊さんの住む洞窟は水浸しなんすけど……」
「ふむ……」
リオックは腕を組み、うなずいた。
「決まりだ。目指すは晴れ知らずの山!」
「っしゃあ!てんぱいへ一歩近づいた気がするっすね!」
玄太が胸を叩いて笑う。その無邪気さに、リオックも思わず鼻で笑った。
「……道中で死ぬなよ、付き人」
「ひっでぇ!任せとけっす!」
そんな軽口を交わしながら、二人は足を速めた。
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晴れ知らずの山・洞窟前
「相変わらずここは、洞窟内までどしゃ降りだな」
「っすね……本来はここが入り口なんすけど、こっちに秘密のショートカットがありますよ!」
玄太が得意げに顎をしゃくる。
「ほう……そんなものが?」
「はいっす!前にこの中で溺れかけた時、ウォルさんっていう精霊さんに教えてもらった抜け道っ……あ!!」
「どうした?付き人」
何かを思い出した玄太の顔が、みるみると茹でたタコのように赤くなる。
「おれ、あの時溺れて意識無くしてたんすけど、そのときてんぱいのファーストキスで……」
「……なぬ?」
リオックの足が止まる。鋭い視線が茹でタコ玄太に突き刺さった。
「お、お前……いま何と?」
「えっ!?えっと……違う、人工呼吸っす!でも、てんぱいの唇が……こう、ブチュッて」
「ブチュッ……だと……羨ましい」
玄太が慌てて手をぶんぶん振る。
「しかし、人工呼吸ならば仕方あるまい……ところで、なぜ俺に報告する?」
「ち、違うんすよ!なんか急に思い出しちゃって!」
リオックはこめかみを押さえ、深いため息をついた。
「なるほど……俺も天貴殿の前で、溺れるしかない、か」
「え!?なんか言いました?」
「……なにも。さぁ、その近道とやらに急ぐぞ!」
玄太に案内され、二人は洞窟脇の茂みをかき分けた。そこには小さな横穴がぽっかりと口を開けていた。
「ここっす!ウォルさんに教えてもらった抜け道!」
「……ほう。確かに、正面突破よりは楽そうだな」
リオックは腰をかがめて中を覗き込む。奥の方からはドドドっと水音が響いていた。
「けど……ちょっと狭すぎません?リオックさん通れるっすか?」
「問題ない。……鎧を脱いで軽装でいく」
「え、パンイチっすか!?」
「剣一本あれば問題ない。衣服は濡れるとおもりになる。付き人も濡れては困るものは置いていけ!」
ならば、と甘乳パンが入ったカバンとリオックの鎧を茂みに隠す玄太。
二人は横穴に突入した。少し進むと、冷たい水が狭い通路を横切って、勢いよく流れている。足を踏み入れた途端、膝まで一気に押し流されそうになった。
「うおお、水流出たぁ!前はこれに流されたんすよ!」
「行くぞ、付き人!気を付けろよ!」
リオックは躊躇なく片足を踏み込み、岩肌に手を掛けて身体を安定させた。
「お、おれも行くっす!」
玄太も続くが、次の瞬間――
「うぎゃあああっ!?流されるーっ!!」
慌てて掴んだのはリオックの腰布。
「おい!脱げるだろう!そこを引っ張るな!」
「し、仕方ねえっす!うわっ、足が浮く浮く浮く!!」
リオックはため息をつきつつ、片腕で玄太を抱え上げるようにして一気に水流を渡りきった。
「……まったく。付き人は手間がかかる」
「す、すんません……でも助かったっす」
肩で息をする玄太の顔はずぶ濡れで、それでもどこか楽しそうだった。
水流をいくつか超えると、一気に空気が変わった。ひんやりと冷たい風が頬をなで、苔の光は水面に揺れて奇妙な文様を描く。
「古い遺跡か……ここが、水の精霊の領域なのか?」
リオックの声は自然と低くなる。
「はい。この先に進むと、教会みたいな神殿があるんす」
玄太が答えるその足元で、どこからか水滴が「ぽちゃん」と落ちる。二人は水滴を拭いながら、遺跡のさらに奥へと足を踏み入れた。
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