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第9章:アルカノア農場戦記 ~器を満たす者~
第143話 女王謁見
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やがて、苔の光が淡く揺らめきながら夜は明けていった。泉の水面に映る光が徐々に白んでいき、静かな水の都に朝が訪れる。
「くぁ……朝か……付き人、起きろ」
「んあ……おはよっす」
水のゆりかごで勢いよく身体を伸ばす玄太。
「くぅぅぅ………あっ」
ぷくぷくぷく……伸びの拍子に、玄太のお尻のあたりから小さな気泡が水のゆりかごに浮かび上がった。気泡はゆらゆらと浮かび上がり、ぱちんっと弾ける。
「付き人……?」
「すいません、おなら出ちゃいました……へへっ」
ウォルがくすっと笑い、リオックは呆れたように眉をしかめた。
「……おぬし、水の聖域をなんだと思っておる」
「ふふ。人間の身体はおもしろいわね」
ウォルが肩を震わせて笑い、泉の水面もきらきらと揺れた。
「さ、ふたりとも準備して!女王様が瞑想から戻られたわ」
その言葉に、リオックの表情が引き締まる。
「う、うむ!」
「は、はい!」
玄太も慌てて立ち上がった。
「じゃあ、ついてきて」
ウォルは泉の奥へと進む。水が割れ、まるで参道のように光の道が伸びていく。両脇には小さな水の精霊たちが列をなし、静かに二人を見守っていた。
その途中、水面からぽこんっと小さな影が飛び出した。
「げんたーっ!」
水滴を弾かせながら、小さな少女の精霊が玄太に抱きついてきた。
「おまえ……ミルルか!」
玄太が思わず笑顔で受け止めると、ミルルは嬉しそうに頬をすり寄せて、ぱたぱたと腕を広げた。
「うんっ!ずっと待ってたんだよ!あのね、見せたいものがあって……」
ぴょんぴょん弾むように跳ねるミルルを、ウォルが苦笑しながら手で制す。
「ミルルったら……はしゃぎすぎよ。女王様の前に行くのに」
ウォルの後ろに隠れるようにして、玄太の服の裾をちょんちょんと引っ張る小さな手。
「あれぇ……青いお兄さん、今日は一緒じゃないの?」
ミルルが首をかしげ、泉の参道をきょろきょろと見渡す。
「……てんぱいっすか」
玄太は少し言葉に詰まり、それから苦笑いを浮かべた。
「今日は……一緒じゃないんす」
「えっ……そう……」
玄太がうつむくと、ミルルの瞳がしゅんと曇る。
「でも……げんたが来てくれたから、いいや!」
次の瞬間、ぱっと顔を明るくして玄太の腕にしがみついた。玄太は思わず頭をかきながら笑う。
「はは……ありがとっす」
リオックが横で腕を組み、低くうなずいた。
「天貴殿の名は、やはりここでも強く残っているのだな……」
「そりゃそうっすよ!なんたって、変異体のアメフラシを討伐したんすから!」
「ほぅ……さすが俺の天貴殿だ!」
「いや、おれのてんぱいっすから」
ウォルが軽く咳払いをして二人を促す。
「さて、そろそろ行くわよ!お母さ……女王がお待ちかねよ」
ウォルが泉の奥へと歩み出す。玄太はミルルの手を握り、リオックは背筋を正す。
「よし……気を引き締めろ、付き人。我らは神に最も近い存在に会いに行くのだぞ」
「よく考えたら精霊の女王様っすもんね……なんか、おれ、すっげぇ場違いな気がしてきたっす……」
通路の先は荘厳な気配が満ちていく。
やがて、巨大な水晶の柱に囲まれた大広間へ出た。中央には玉座のような高みがあり、そこに透き通る青の衣をまとった女性の姿が、静かに目を閉じて座していた。
「お連れいたしました……セレヴィア様」
ウォルが深く礼をした。
「お邪魔します……女王様!」
「お初にお目にかかります。私はアグリスティア王国聖堂騎士リオックと申します」
玄太もリオックも慌てて両手を前で組み、小さくお辞儀する。
ゆるやかに目を開いた女王の瞳は、泉の奥底のように深い青。その視線がまっすぐに、玄太とリオックを射抜いた。
「よく来ました、人間の子らよ」
その声は水音のように澄みわたり、広間全体に響き渡った。
「満ちている……なんという神力……!」
波紋のように空気が震え、リオックは無意識に手を胸に当て、深く息をついた。それを見た玄太は、思わず背筋を伸ばした。
「ひぃ……なんか前に会ったときより、すごいっす……」
小声を漏らした玄太の頭を、ウォルがぴしゃりと叩いた。
「っし!」
「は、はいっ!」
女王セレヴィアの視線がゆるやかに二人を包み込む。その深い青は、まるで心の奥底まで見透かすようだった。
「お前たちが求める者……すでに、流れの中で見えております」
その言葉に、リオックは息を呑み、玄太はごくりと唾を飲み込む。
「さぁ。すべてを話しなさい。天貴さん……いえ、神の器に何が起きたのかを」
「くぁ……朝か……付き人、起きろ」
「んあ……おはよっす」
水のゆりかごで勢いよく身体を伸ばす玄太。
「くぅぅぅ………あっ」
ぷくぷくぷく……伸びの拍子に、玄太のお尻のあたりから小さな気泡が水のゆりかごに浮かび上がった。気泡はゆらゆらと浮かび上がり、ぱちんっと弾ける。
「付き人……?」
「すいません、おなら出ちゃいました……へへっ」
ウォルがくすっと笑い、リオックは呆れたように眉をしかめた。
「……おぬし、水の聖域をなんだと思っておる」
「ふふ。人間の身体はおもしろいわね」
ウォルが肩を震わせて笑い、泉の水面もきらきらと揺れた。
「さ、ふたりとも準備して!女王様が瞑想から戻られたわ」
その言葉に、リオックの表情が引き締まる。
「う、うむ!」
「は、はい!」
玄太も慌てて立ち上がった。
「じゃあ、ついてきて」
ウォルは泉の奥へと進む。水が割れ、まるで参道のように光の道が伸びていく。両脇には小さな水の精霊たちが列をなし、静かに二人を見守っていた。
その途中、水面からぽこんっと小さな影が飛び出した。
「げんたーっ!」
水滴を弾かせながら、小さな少女の精霊が玄太に抱きついてきた。
「おまえ……ミルルか!」
玄太が思わず笑顔で受け止めると、ミルルは嬉しそうに頬をすり寄せて、ぱたぱたと腕を広げた。
「うんっ!ずっと待ってたんだよ!あのね、見せたいものがあって……」
ぴょんぴょん弾むように跳ねるミルルを、ウォルが苦笑しながら手で制す。
「ミルルったら……はしゃぎすぎよ。女王様の前に行くのに」
ウォルの後ろに隠れるようにして、玄太の服の裾をちょんちょんと引っ張る小さな手。
「あれぇ……青いお兄さん、今日は一緒じゃないの?」
ミルルが首をかしげ、泉の参道をきょろきょろと見渡す。
「……てんぱいっすか」
玄太は少し言葉に詰まり、それから苦笑いを浮かべた。
「今日は……一緒じゃないんす」
「えっ……そう……」
玄太がうつむくと、ミルルの瞳がしゅんと曇る。
「でも……げんたが来てくれたから、いいや!」
次の瞬間、ぱっと顔を明るくして玄太の腕にしがみついた。玄太は思わず頭をかきながら笑う。
「はは……ありがとっす」
リオックが横で腕を組み、低くうなずいた。
「天貴殿の名は、やはりここでも強く残っているのだな……」
「そりゃそうっすよ!なんたって、変異体のアメフラシを討伐したんすから!」
「ほぅ……さすが俺の天貴殿だ!」
「いや、おれのてんぱいっすから」
ウォルが軽く咳払いをして二人を促す。
「さて、そろそろ行くわよ!お母さ……女王がお待ちかねよ」
ウォルが泉の奥へと歩み出す。玄太はミルルの手を握り、リオックは背筋を正す。
「よし……気を引き締めろ、付き人。我らは神に最も近い存在に会いに行くのだぞ」
「よく考えたら精霊の女王様っすもんね……なんか、おれ、すっげぇ場違いな気がしてきたっす……」
通路の先は荘厳な気配が満ちていく。
やがて、巨大な水晶の柱に囲まれた大広間へ出た。中央には玉座のような高みがあり、そこに透き通る青の衣をまとった女性の姿が、静かに目を閉じて座していた。
「お連れいたしました……セレヴィア様」
ウォルが深く礼をした。
「お邪魔します……女王様!」
「お初にお目にかかります。私はアグリスティア王国聖堂騎士リオックと申します」
玄太もリオックも慌てて両手を前で組み、小さくお辞儀する。
ゆるやかに目を開いた女王の瞳は、泉の奥底のように深い青。その視線がまっすぐに、玄太とリオックを射抜いた。
「よく来ました、人間の子らよ」
その声は水音のように澄みわたり、広間全体に響き渡った。
「満ちている……なんという神力……!」
波紋のように空気が震え、リオックは無意識に手を胸に当て、深く息をついた。それを見た玄太は、思わず背筋を伸ばした。
「ひぃ……なんか前に会ったときより、すごいっす……」
小声を漏らした玄太の頭を、ウォルがぴしゃりと叩いた。
「っし!」
「は、はいっ!」
女王セレヴィアの視線がゆるやかに二人を包み込む。その深い青は、まるで心の奥底まで見透かすようだった。
「お前たちが求める者……すでに、流れの中で見えております」
その言葉に、リオックは息を呑み、玄太はごくりと唾を飲み込む。
「さぁ。すべてを話しなさい。天貴さん……いえ、神の器に何が起きたのかを」
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