忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第9章:アルカノア農場戦記 ~器を満たす者~

第146話 食ってよし、塗ってよし!アロエ大作戦①

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 アロエの群生地に戻ると、三人はさっそく収穫の体勢に入った。

「よーし!じゃあ全部引っこ抜くね!!」

 ミルルが元気よくアロエの根元に手を突っ込むと……。

「あ、待って待ってぇっ!!」

 玄太が慌ててその手をつかんだ。水滴がぱしゃりと跳ね、二人の顔にも冷たい雫が飛び散る。

「わっ!……なんでぇ?いっぱいあるのに!」

「全部抜いたら、次が生えてこないかもしれないっす!こういうのはサステナブルに行かなきゃだめっす!」

「さすて……?何語だ、今の」

 リオックが眉をひそめるが、玄太は構わずアロエの外側の葉を一枚、根元近くから手刀でスパッと切り取った。切り口からとろりと透明な水分が滴り落ち、苔むした石に染みこむ。

「こうやって、外側の大人のやつだけ取る!真ん中の若い芽は残す!そうすりゃまた育って永遠に収穫できるんすよ!」

「へぇ~!げんた、えらい!」

「おう、玄太……地味に賢いではないか」

「いえ、これも姉ちゃんに習ったただけっす!」

「ほう、その姉は賢者なのか?」

「いえ、ただの看護師っす!」

 そんなやり取りをしながら、三人は協力してアロエの葉を一本一本丁寧に切り取っていく。葉を切るたびに瑞々しい香りがふわりと漂い、森の湿った空気と混ざり合う。水底で採れる植物とは違い、生命力がぎっしり詰まっているのが肌で感じられた。

 ――ずしっ。

 玄太が背負い袋に次々とアロエの肉厚な葉を詰め込むたび、その重みが肩にのしかかる。水分を多く含むせいか、見た目以上に手応えがある。

「けっこう……重いっすね、これ……!」

「その瑞々しさゆえであろう。良い薬となるはずだ」

 リオックが静かに言うと、玄太はふと手を止めた。

 汗で濡れた額をぬぐいながら、空を見上げる。水面に反射した光がゆらりと頬を照らし、胸の奥がきゅっと締めつけられた。

(……てんぱい)

 水の都の空は、地上よりずっと青く澄んでいた。静かすぎるほどの静寂が、逆に天貴と一緒に騒いだ日々を鮮明に思い出させてくる。

(おれがこうしてアロエ集めてることだって、絶対いつかてんぱいにつながる。今はそれを信じるしかないっす)

 きゅっと背負い袋の紐を握りしめる玄太。

 その横顔を見て、リオックも小さくうなずいた。言葉を交わさなくても、同じ方向を見ているのが分かる。

「では善は急げだ。農場に戻るぞ、玄太!」

「……はいっす!」

「ミルル!世話になった!」

「うん!げんた、騎士さん!がんばってね!」

 ミルルの励ましに二人はガッツポーズで答えと、その足で女王の間に向かい帰還の挨拶を済ませた。

「てんぱい取り戻したら、また来るっす!!」

「ええ、信じていますよ」

「玄太!アリスにもよろしく言っておいて!」

「うぃっす!」

 玄太とリオックは、セレヴィア女王とウォルに挨拶し、水の都を後にした。

「よし、行くか!」

 背にはアロエを、胸には決意を。

 水の精霊たちがひらひらと舞いながら、二人の背中が見えなくなるまで見送ってくれる。玄太も精霊たちが見えなくなるまで手を振っていた。

「ふぅ……!」

 水流を乗り越えて洞窟を出た瞬間、雨と風が頬に当たった。ヒヤリとした冷たさの奥に、土と草の匂いが混じっている。

「やっぱ、地上の空気は落ち着くっすね」

「うむ。山を下れば雨も止むだろう」

 険しい山道を登ったり下ったりしながら、玄太は背負い袋の重さを肩で受け止め、何度も紐を握り直した。そんな玄太の脳裏に、別れ際の女王セレヴィアの声がよみがえる。

 *****

「神に奪われた天貴さんの居場所は、残念ながら私にも分かりません」

「ですが、あなたたちが天貴さんを取り戻すことは、きっとこの私自身の贖いにもなるのでしょう」

「女王様……」

「どうか、あの子の時の私のように、彼を手放さないでください」

 *****

 玄太はぎゅっと背負い袋の紐を握りしめた。

(大丈夫っすよ、女王様。おれ、死んでもてんぱいを手放さねぇっすから)

 玄太の足取りは、水面に伸びた光のように、まっすぐ前だけを見ていた。隣を歩くリオックの顔付きも、いつになく真剣だ。

「リオックさんって、さすが聖堂騎士さんすね。なんか、頼もしいっす」

「うぅむ……」

 リオックは遠くを見据えていた。その横顔には昔の傷が薄く刻まれており、ぶっとい眉の下の眼光は、まるで戦場に立つ時のように鋭い。

「どうしたっすか?リオックさん」

「いや、このアロエなんだが……」

 リオックは手にしたアロエをじっと見つめたまま、ゆっくりと親指で切り口を撫でた。

「このアロエのヌルヌルで、天貴殿の身体をもみほぐして差し上げたら……」

「……んな!?」

 その言葉に、玄太の脳内に勝手に妄想が流れ始めた。

『あぁ……ヌルヌルしてて、すげえほぐれるぜ……?リオック』

『っは……!天貴殿、では、ここはいかがでしょうか?そぉら!』

『う、ああぁぁ……』

(わわわわ!!ダメダメ!!妄想が暴走してるっす!!)

「リオックさん!!それ、ただのエロっすよね!!」

 しんみりした空気が、一瞬で吹き飛んだ。

「な、何を言う……!天貴殿の疲れた心と体をだなあ……」

 リオックはなぜか胸を張って堂々と言い返してくる。恥じる様子は一切ない。むしろ誇らしげですらある。

(前言撤回。やっぱこの人、ただのスケベっす)

 けれど、玄太はそこでふと思った。

(――でもさ)

 スケベでも何でも、こうして本気で「てんぱいのことを考えてくれる人」が、いったいこの世界に何人いるだろうか。

 変な方向ではあっても、その熱量は確かに本物だ。

 こうして同じ目的に向かって一緒に歩いてくれる人がいる事は、「やっぱありがてぇっす」なんて思う、玄太であった。
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