忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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最終章:崩壊王国の戦い

第151話 神域へ至る鍵

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 勘違いしたまま少女の足音が遠ざかる。深夜の静けさには不釣り合いなその音に、用足しから戻ったリオックが足を止めた。

(……アリス嬢?このような時間に、何事だ?)

 その視線は、自然と玄太の部屋の扉へと向く。

「……声?寝言か?」

 誰かと会話しているような、一方的に吠えているような声。

(……許せ、玄太)

 少しだけ近づき、耳を澄ます。

『クータン!!』

(……クータン……?あの仔牛の名か……?)

 眉間に皺を寄せながらも、そこから先は踏み込まず、ただ静かに息を潜めた。

 そして、扉の向こうでは——

「クータン!まだいるっすよね!?返事して!」

 布団の上で思わず正座になり、お腹を両手で押さえながら、玄太は必死に呼びかける。

「……ここに……おる……」

 微かな声が、お腹の奥――いや、もっと遠く、深いところから滲み出るように響いた。

「な、なあ!そこ、神の領域って、どうやって行くんすか!?」

「……神の領域は……人の侵入を許していない……」

「っっ……!」

 ズキン、と心臓に杭を打たれたような痛みが走った。

「クザンの決めたルールは……この世界では絶対なのじゃ」

「そ、そんなの……ずるいっ!」

 胸の奥が、ひゅうっと冷える。

【人の侵入を許していない】

 その言葉だけで、全身の血が一気に引いていった。

「じゃ、じゃあおれもう、てんぱいとは会えないんすか!?クータンにも……!?」

「……おちつけ……」

「おちつけるわけないっすよ!!」

「……ぬしは……大事な伴侶を……守るのであろう?」

「死んでも守る!神の領域なんて、殴ってでもこじ開ける!楽勝!」

 玄太は枕をポカポカ叩きながら叫んだ。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっているのも気づかない。

「……よい……その意気じゃ……」

 クータンは、かすれた息を混じえながらも、どこか嬉しそうに笑ったような声を漏らした。

「……ゆえに……伝えておくべき……ことが……ある……」

「何!言って!!」

「神の領域は……人の侵入を許さない……神の決めたルールじゃ」

「そ、それはもう聞い……」

「が、同時に……アストラ……これの行使力も……絶対じゃ」

「アストラ……?」

 玄太は一瞬だけ言葉を飲み込み、ぽかんとしたまま顔を上げた。

「……もし、ぬしの内にあるものが……神律に従ったルールに沿ったものであるならば……話は違ってこよう……?」

「え、は!?なに!?内にあるものって!?おれ、バカだから難しいっすよ!」

 静かな部屋に、玄太の裏返った声が浮き上がった。

「ぬしの持つ……アストラじゃ……」

 ――アストラ。

 その言葉は、玄太の頭にすぐには入ってこなかった。

(アストラ?おれが?いやいやいや、馬鹿言うなって)

「お、おれがアストラ!?んなわけ――」

「――否……ぬしは……すでに使って……おる……」

「使ってる?いつ?どこで!?おれなんて、いっつもてんぱいの事で頭がいっぱいで……!」

「それじゃ……その力……」

 心臓が早鐘のように騒ぎ出した。真剣な顔で自分の道を探ろうとしている。

「事実……次元を超え……伴侶の元へ辿り着いたではないか」

「そ、それは……クータンの転移魔法と根性で……」

「根性だけで……転移には……耐えられぬ……」

 お腹の上から聞こえた声が、夜の光に溶けていくように、か細くなった。

「クータン!?どうしたの!声が小さく……」

「もう……我の………意識が……限………界……」

「わわわ、待って待って!おれ、入り口すら分かんねえっすよ!」

「異なる次元に………近い場所…………探せ……」

 その声は、もはや風の擦れる音と区別がつかないほど薄れていた。

(や、やべえ!切れる!まだ大事な事聞いてねえのに!!)

 玄太は、まるで声をつなぎ止めようとするみたいにお腹を抱えた。

「クータン!どこ!?もっと具体的に言って!!」

「ぬしも……よく……知る…………場……………所………………」 

 フッ…………。

「なにそれ!?どこ!?どこっすかクータン!!」

 静寂。

「クータン?」

 クータンの思念は完全に切れていた。

「クータン!!なんか言ってってば!くーたぁぁぁぁぁ!!」

 玄太の叫びが、青い月にまで届くほどの勢いで夜空に突き抜けていった。
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