忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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最終章:崩壊王国の戦い

第153話 てんぱい初めての丘

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「……よし!玄太画伯、描きます!」

 玄太は部屋にあったスケッチとペンを握った。

 花の情報を聞き込みするなら視覚的なヒントがあった方がいい。そう言って、ぐりぐりと勢いよく描き始めるが――

「おい玄太、それは……爆裂のアストラか?」

 背後からのリオックの一言に、玄太の手が止まる。

「ち、違いますよ!花っす!光る花ぁ!」

「む?そうは見えん。これはどう見ても、最上級魔法……爆裂火球だ」

「うぐっ……ちょ、待ってください、今から色塗るんで!」

 玄太は焦りながらも、赤・青・金をぐちゃぐちゃに混ぜて花びらを塗り始める。

「ぃよしっ!完成っす!」

 スケッチにはかろうじて花と識別できそうな三色の何かが、緑色の草原の中に描かれていた。

「……まぁ、絵心はさておき、形は掴めた」

「うぃっす!」

 玄太は絵を胸に抱え、農場中を駆け回った。

「ミミ!この花、どっかで見たことないっすか!?」

「ぶふぉ!奇才の名画……いや、見た事ないでふ」

「ライラはー?」

「え、えーっと……見たことない、かなぁ」

 ベータ、グロウ、コンバインさん……誰も知らないという。

「みんな首をかしげるばかりだな」

「そ、そんな……おれの力作なのにぃ」

 玄太は絵を見つめ、少し肩を落とした。息をつく暇もなく、胸の奥で焦りがじわじわと膨らんでいく。
 だが、リオックは腕を組んだまま、静かに言った。

「俺は城に戻り、独自に調べてみよう。ゲドの件の報告の兼ねてな」

「うぃっす!おれはもっと農場の人に聞いてみるっす!」

「では二手に分かれよう。正午にまた、ここで落ち合うぞ」

 そう言って玄太はリオックと別れ、引き続き聞き込みを開始した。

「アリス!シーダさん!この花、どっかで見たことないっすか!?」

 玄太は勢いよくキッチンに飛び込んだ。手にしていたスケッチを二人の目の前にどんと広げる。机の上のティーポットがカタリと鳴り、アリスとシーダが同時に顔を上げる。

「……げ、玄太さん?これ……何の絵?」

「み、見てのとおり、光る花っす!ほら!赤と青と金で、ここが花びらで……」

「花っていうか……なにかの魔法みたいね?」

 アリスが遠慮がちに眉を寄せる。シーダは腕を組み、じっとその紙を覗き込んでいた。二人の表情は笑っているようで、どこか真剣だった。

「……あれ?」

 小さく、シーダの声。

「どうかしたっすか?」

「ううん、はっきりとは思い出せないんだけど……なんか、この色の組み合わせ、どこかで……」

 その横でアリスも目を細める。

「たしかに、なんか見たことある気がする……どこだったかな」

 ふたりの言葉に、玄太はぐっと身を乗り出した。

「マジっすか!?思い出してください!頼んます!」

「う、うん……待ってたしか……天貴がここに来たばっかりの時……」

 シーダが小さく頷く。

「そう。天貴さんがスカイリンクで初めて青空を呼んだ丘……」

 玄太の目がぱっと輝く。

「てんぱいの初めての丘!?」

「ええ。でも、こんなに大きく咲いてなくて、しおれてたから特に気に留めなかったんだけど……」

「うん、そうそう!でも、確かにこの三色だったわね」

「……そこだ!きっとそこっす!」

 拳を握る玄太に、アリスがエプロンをはずしながら笑った。

「よし、じゃあ今から行ってみましょうか!天貴の初めての丘!」

「マジっすか!?行きましょう行きましょう!」

「ちょっと待って、そんなに慌てて!」

「う、うぃっす!」

 そして玄太は勢いよく玄関を飛び出した。

(てんぱいの初めての丘かぁ。なんか嬉しいな♪)

 丘へ向かう道は、草土がまだしっとりと濡れていた。空を見上げると雲の切れ間から一筋の光が差している。足元に咲く小さな草花の間を、朝露がつたう。

「あの丘まで行くのも、久しぶりね」

 アリスが遠くの空を見上げながら言った。

「そうね!まぁ、特に何があるってわけじゃ……あら?そういえば……」

 シーダは、自分で言った言葉にふっと疑問を抱く。

「あの日、どうして天貴さんはあの丘にいたのかしら?」

「……え?」

 アリスの足音が一瞬止まる。

「ほら、あの丘って何もないし、農場からも結構離れてるじゃない?わざわざ一人で行くような場所かしら?」

「……言われてみれば、そうね」

 顔を見合わせる女子二人。その頭上には、「?」マークが浮かんでいた。

「ねねね!てんぱいが初めてこの農場に来た時、どんな感じだったんすか?」

 玄太の質問に、アリスは頬に指を当てて思い出すように目を細めた。

「ん~、そうね。天貴が初めてここに来たときって確か、スカイリンクが発動しなかったの」

「そうそう。ゲドの策略で、アストラが打ち消されたのよね」

「それって、雨呼びの石……っすよね……ぐぎぎ」

 玄太はイラっとしながらも、真剣に聞いている。

「でも、ある時急に『晴れた!』って飛び込んできたのよ」

 アリスの声が少し弾む。

「あの丘だけは雨呼びの石の影響が届かなくて、スカイリンクが正常に発動したって話だったんだけど……」

「でも、なんであの場所に行ったのかは、私たち聞いてないのよね」

 シーダが言う。

「てんぱいが自分からそこにぃ?ん~?」

(う~ん、確かにおかしいな。てんぱいって散歩とかするタイプじゃないのに)

「ねえ。ところで玄太さんはどうしてその花を探してるの?」

 玄太はハッと小さく息をのんだ。

「いや……説明はあとっす!ぜってーなんかあるっすよ、あの丘!」

 そう言って駆け出す玄太の背中に、朝の風がもう一度吹いた。それはまるで“早くいけ”と、背中を押しているようだった。

「もう、玄太さん!先に行っても場所、分からないでしょ!」

 アリスとシーダも顔を見合わせ、苦笑しながらその背を追いかけた。
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