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最終章:崩壊王国の戦い
第154話 次元に咲く花
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丘へ向かう坂道を上がると、風の抜ける音が強くなる。登り切ったところで、三人の視界がぱっと開けた。
「着いたわ。ここが、天貴さんが初めてスカイリンクを成功させた丘よ」
「ふぅ……案内ありがとっす!」
アリスの言葉に、玄太は目の前に広がる草原を見渡した。風が通り抜けるたび、波のように緑が揺れている。
「ここかぁ、てんぱいの初めての場所!」
玄太はその光景にしばらく言葉を失った。
「ふふ。天貴さん自身も、驚いてたわね」
「そうそう!『え、晴れた!?』って言ってね」
二人が言う声は、どこか懐かしそうだった。その時、丘の上を抜ける風がふっと弱まり、静寂が落ちる。
「……でも、おかしいわね」
「え?」
シーダが足元の草をかき分ける。しかし、草原のどこを見渡しても、花の影も形もなかった。
「あ。そういえば、咲いてないっすね……花」
「ここだと思ったんだけど……」
「もしくは、咲く時期を過ぎたのかしら?」
アリスも膝を折って草の間をのぞくと、玄太もしゃがみ込んで指先で草をなぞった。
無言でしゃがみ込む三人の姿に、玄太は思わず吹き出した。
(っぷ。なんかみんなでこうしてると、てんぱいと行った潮干狩りみたいっす)
しばらく屈んだまま草をつまんでいたら、腰がピキッと鳴った。
「……いてて」
玄太は片手で腰をさすりながら、よろよろと立ち上がる。グッと背を伸ばすと、玄太の頬を風がふっとかすめた。風を追いかけるように丘の向こうまで見渡してみる。
「ところで玄太さん。その花、どうして探してるの?」
「実は……探してるのは、花というより花が咲いてた場所なんす」
「咲いてた場所?そこに何があるの?」
「そこが、おれがクータンと一緒に、この世界に降り立った場所だから……!」
アリスとシーダは、顔を見合わせた。
「この世界に降り立った……って?その、もう少し詳しく聞いても?」
先に口を開いたのはシーダだった。玄太は口を開きかけたが、その前にアリスが一歩進み出た。
「天貴と玄太さんは、この世界の人じゃないんでしょ?」
その声には、どこか確信めいた響きがあった。シーダが目を見開き、アリスの横顔を見つめる。
「アリスは知っていたの?」
「考え方とかで……なんとなく、ね」
玄太は言葉を飲み込み込んで、黙ってうなずいた。
「でも関係ないかなって。二人とも、同じアルカノアの仲間だから」
アリスがニコっと笑うと、シーダも一緒に笑ってうなずいた。
「そう言ってくれて、ありがとっす……。全部、いちから話すっす」
そう言って、玄太はゆっくりと口を開いた。
「てんぱいは、この世界の神ってやつに呼ばれて来たんす。クータンはその神の遣いで……」
アリスとシーダは、おとぎ話を聞く少女のように夢中になって聞いていた。
「そんでおれは、てんぱいの側にいたくて。絶対離れたくないって!……だから、追っかけてきたんす」
言い終えたあと、玄太は小さく笑った。
「……ま、勢いだけで飛び出してきたバカっすけど」
アリスがふっと笑い、シーダが静かに息をついた。
「バカじゃないわ。そんな想い、簡単に貫けるものじゃない」
「そうね……普通の人なら、あきらめる」
二人の言葉に、玄太は照れくさそうに後頭部をかいた。
「いやぁ……でも、本当にすごいのは……ひとりぼっちでここに来たてんぱいっす」
言葉を続けながら、玄太の目が遠くを見た。
「農場の人たちとトマト作って、空晴らして、色んな敵と戦って……おれは、そのてんぱいが作った道を、走って追いかけて来ただけなんす」
「そうね。天貴がいなければ、アルカノアは今ここにない」
玄太はゆっくりと空を見上げた。
「でも、てんぱいもクータンも神のくそ野郎に取られちゃって。おれも結局、ひとりなんすけどね」
そう言って玄太は、靴のつま先で草を踏んだ。
「――ひとりではない」
背後から聞こえた低い声に振り返ると、そこには獅子の如き聖堂騎士が立っていた。
「リ、リオックさん!」
「こっちに向かったと聞いてな」
リオックは足元の草を確かめるように目で追いながら、ゆっくりと三人のもとへ歩み寄った。
「でも無駄足っした。ここじゃなかったみたいっす」
玄太が少し肩を落としながら言うと、アリスが続けた。
「玄太さんの探してる花が、見つからなかったの」
「ここで見た気がしたんですけど……私たちの勘違いだったみたい」
リオックは無言で、風に揺れる草原を見ながら、静かに言った。
「……いや。そうとは限らん」
三人が顔を上げる。リオックの金の瞳が、遠い光を映していた。
「玄太。お前が描いたという花――あれは、次元の花だ」
「じ、げんの……花?」
リオックは静かにうなずいた。
「異界の扉が開くとき、その花は共に咲き、過ぎし者と来たる者の道を結ぶ……古い歴史書の一節だ」
風が、丘を抜けた。
「……つまり、普段は咲いていない。だが今ここに咲いていないからといって、ここではないとは言い切れん」
「なるほど……でもどうやったら、その扉が開くんすかね?」
「すまん。そこまでは……」
玄太の問いに、リオックは肩を落として黙り込んだ。
「じゃあ、逆に咲かせてみたらどうかしら?」
「え?どういうことっすか!?」
玄太が思わず聞き返した。リオックは無言のまま首を傾げている。
「言葉のとおりよ。咲かせちゃうの、無・理・や・り!」
アリスはいつものように、いたずらっぽく笑っていた。
「着いたわ。ここが、天貴さんが初めてスカイリンクを成功させた丘よ」
「ふぅ……案内ありがとっす!」
アリスの言葉に、玄太は目の前に広がる草原を見渡した。風が通り抜けるたび、波のように緑が揺れている。
「ここかぁ、てんぱいの初めての場所!」
玄太はその光景にしばらく言葉を失った。
「ふふ。天貴さん自身も、驚いてたわね」
「そうそう!『え、晴れた!?』って言ってね」
二人が言う声は、どこか懐かしそうだった。その時、丘の上を抜ける風がふっと弱まり、静寂が落ちる。
「……でも、おかしいわね」
「え?」
シーダが足元の草をかき分ける。しかし、草原のどこを見渡しても、花の影も形もなかった。
「あ。そういえば、咲いてないっすね……花」
「ここだと思ったんだけど……」
「もしくは、咲く時期を過ぎたのかしら?」
アリスも膝を折って草の間をのぞくと、玄太もしゃがみ込んで指先で草をなぞった。
無言でしゃがみ込む三人の姿に、玄太は思わず吹き出した。
(っぷ。なんかみんなでこうしてると、てんぱいと行った潮干狩りみたいっす)
しばらく屈んだまま草をつまんでいたら、腰がピキッと鳴った。
「……いてて」
玄太は片手で腰をさすりながら、よろよろと立ち上がる。グッと背を伸ばすと、玄太の頬を風がふっとかすめた。風を追いかけるように丘の向こうまで見渡してみる。
「ところで玄太さん。その花、どうして探してるの?」
「実は……探してるのは、花というより花が咲いてた場所なんす」
「咲いてた場所?そこに何があるの?」
「そこが、おれがクータンと一緒に、この世界に降り立った場所だから……!」
アリスとシーダは、顔を見合わせた。
「この世界に降り立った……って?その、もう少し詳しく聞いても?」
先に口を開いたのはシーダだった。玄太は口を開きかけたが、その前にアリスが一歩進み出た。
「天貴と玄太さんは、この世界の人じゃないんでしょ?」
その声には、どこか確信めいた響きがあった。シーダが目を見開き、アリスの横顔を見つめる。
「アリスは知っていたの?」
「考え方とかで……なんとなく、ね」
玄太は言葉を飲み込み込んで、黙ってうなずいた。
「でも関係ないかなって。二人とも、同じアルカノアの仲間だから」
アリスがニコっと笑うと、シーダも一緒に笑ってうなずいた。
「そう言ってくれて、ありがとっす……。全部、いちから話すっす」
そう言って、玄太はゆっくりと口を開いた。
「てんぱいは、この世界の神ってやつに呼ばれて来たんす。クータンはその神の遣いで……」
アリスとシーダは、おとぎ話を聞く少女のように夢中になって聞いていた。
「そんでおれは、てんぱいの側にいたくて。絶対離れたくないって!……だから、追っかけてきたんす」
言い終えたあと、玄太は小さく笑った。
「……ま、勢いだけで飛び出してきたバカっすけど」
アリスがふっと笑い、シーダが静かに息をついた。
「バカじゃないわ。そんな想い、簡単に貫けるものじゃない」
「そうね……普通の人なら、あきらめる」
二人の言葉に、玄太は照れくさそうに後頭部をかいた。
「いやぁ……でも、本当にすごいのは……ひとりぼっちでここに来たてんぱいっす」
言葉を続けながら、玄太の目が遠くを見た。
「農場の人たちとトマト作って、空晴らして、色んな敵と戦って……おれは、そのてんぱいが作った道を、走って追いかけて来ただけなんす」
「そうね。天貴がいなければ、アルカノアは今ここにない」
玄太はゆっくりと空を見上げた。
「でも、てんぱいもクータンも神のくそ野郎に取られちゃって。おれも結局、ひとりなんすけどね」
そう言って玄太は、靴のつま先で草を踏んだ。
「――ひとりではない」
背後から聞こえた低い声に振り返ると、そこには獅子の如き聖堂騎士が立っていた。
「リ、リオックさん!」
「こっちに向かったと聞いてな」
リオックは足元の草を確かめるように目で追いながら、ゆっくりと三人のもとへ歩み寄った。
「でも無駄足っした。ここじゃなかったみたいっす」
玄太が少し肩を落としながら言うと、アリスが続けた。
「玄太さんの探してる花が、見つからなかったの」
「ここで見た気がしたんですけど……私たちの勘違いだったみたい」
リオックは無言で、風に揺れる草原を見ながら、静かに言った。
「……いや。そうとは限らん」
三人が顔を上げる。リオックの金の瞳が、遠い光を映していた。
「玄太。お前が描いたという花――あれは、次元の花だ」
「じ、げんの……花?」
リオックは静かにうなずいた。
「異界の扉が開くとき、その花は共に咲き、過ぎし者と来たる者の道を結ぶ……古い歴史書の一節だ」
風が、丘を抜けた。
「……つまり、普段は咲いていない。だが今ここに咲いていないからといって、ここではないとは言い切れん」
「なるほど……でもどうやったら、その扉が開くんすかね?」
「すまん。そこまでは……」
玄太の問いに、リオックは肩を落として黙り込んだ。
「じゃあ、逆に咲かせてみたらどうかしら?」
「え?どういうことっすか!?」
玄太が思わず聞き返した。リオックは無言のまま首を傾げている。
「言葉のとおりよ。咲かせちゃうの、無・理・や・り!」
アリスはいつものように、いたずらっぽく笑っていた。
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