忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

文字の大きさ
163 / 188
最終章:崩壊王国の戦い

第163話 器、最後の抵抗

しおりを挟む
 黒く染まったクリスタルの聖騎士は完全に動きを止めた。玄太はスコップを胸にしまい、クータンは胸を張って尻尾を一振りした。

「……っし。俺の勝ちっすね、リオックさん!もうおれのてんぱいにエロい事しないでくださいよ」
「無駄じゃ。本物は地上におるのであろう?」

 二人が広間の奥へ目を向けると、門番の撃破に呼応するように、扉の継ぎ目がゆっくりと光を帯びていく。

 ――ギギギィィィ……。扉は静かに開き、奥の回廊へと続く光の道が現れた。

「よし、次は第三領域っす」
「……ところで、ぬしの旦那はどこにおるのじゃ?」

 クータンの質問に玄太の動きがピタッと止まる。

「え、え~っとそれがぁ……」
「このまま領域を突破した先に、玉座でもあるのか?王を気取る者は大抵そこにおる」

 玄太は苦笑し、肩をすくめた。

「いや、その……この城、玉座がないんすよ。王様がいないんで」
「むぅ?王無き王国など、あり得るのか?」

「おれも最初はビビりましたよ。でも、この国は王のいないまま栄えて、滅んだ国……っていう設定なんす」

 クータンはしばらく黙り、白い広間の瓦礫を見渡す。

「……では、どこに“中心”があるのじゃ。王なき城とは、練乳無き甘乳パンのようなものぞ」
「だから、それを調べに行くっすよ」

 玄太は奥の通路を指し、クータンは頷いた。

「次に向かう第三領域は城の大書庫!答えはそこにあるんす」
「ふむ、書物の間か」

 二人は扉をくぐり抜けて、薄暗い長い回廊へと歩き出した。


 その足音が遠ざかると同時に――

 玄太たちが激闘を繰り広げた広間の、そのさらに深い地下層では……城の最深部に、かつて王国の一部の上層部だけが秘密裏に扱っていた、禁忌の魔力実験室が広がっていた。モノクロの世界の中でひときわ異質な光を放つ紫の導流晶が壁面に埋め込まれ、部屋の中心では巨大な魔力槽が脈打つたび、低い唸りが床を震わせていた。
 その前に立つのは、一人の少年。青い作業着。青い髪。見慣れた背中。

「あと少し……もう少しでこの器に魔力が満ちる……」

 だが、天貴ではない。天貴の体を奪った“創造神”クザン・アストレイ。の異世界を創り出した創造神にして、天貴の体を乗っ取った存在。
 青い髪を揺らしながら、クザンは魔力槽に軽く指を当てた。紫の導流晶が濃く光り、溜め込まれた魔力が天貴の肉体へとゆっくり吸い込まれていく。

(……っ……う……)

 胸の奥からかすかな呻き。天貴の意識が、か細い糸のように浮かび上がる。

「ん?なんだ、覚めたのか?」
(……お前……誰だ……俺の体で……何を……)

「怖いのかい?心配しなくていいよ。この体、ボクが代わりに動かしてあげてるだけさ。君よりずっと上手く、ね」

 意識に怒りが込み上げる。が、声はうまく出ない。指先ひとつ自分の意思で動かすことが出来ない。

(返せ……よ……俺の体……だ!)
「無駄だよ。これはボクが選んだ器だ。君が拒もうと、もうボクで満ちているんだから」

(……はっ……クータン……お前……クータンも……どこにいる……)
「クータン?……ああ、君に派遣したくだん1058号のことか」

「あれは欠陥品だったな。もちろん始末して、この領域から放り投げてやったさ」
(な……に言って……!お前……クータンに……何を……っ)

 クザンは天貴の苦悶など意に介さず、淡々と魔力槽へ手をかざす。紫の脈動が肉体へと染み込むたび、天貴の指先が微かに震えた。

(っく……何してやがる……ここで……この領域って……どこだよ……)
「ここ?ここはボクが創った再現世界だよ。安心して?誰も入ってこれない領域だから」

(お前が創った?………ふざけ……クータン……返せ……)
「この王国はむかし、無謀にもボクに歯向かった国なんだ。ここに僕から奪った魔力が眠っていたからね、再現したのさ」

 クザンの苛立ちに天貴の意識が揺らぎ、刺すような痛みに襲われる。

「でも、人間って面白いね。あんな使い捨ての道具に名前を付けて愛でるなんて、趣味悪いよ」
(……クータンは……道具なんかじゃ……お前……許さない……)

「それにしても、あれはなんで3日過ぎても壊れなかったんだろう。君、なにか心当たりはある?」
(……へっ……とんだ誤算……ってか……ざまあ……みろ…)

「まあいいや。どうせこの世界は全てを洗い流すんだから」
(……なに………洗い……流す……?)

 魔力槽から漏れた紫の光が、天貴の頬を照らす。

「バランスの壊れた世界……失敗した世界……もう一度、洗い流さなきゃ」
(……待て……何を、する気だ……っ)

「全人類の粛正だよ。だって――壊れてしまったものを修復するより、一度“ゼロ”にした方が、楽でしょ?」
(……ゼロって……馬鹿……言うな……)

 クザンの指が軽く魔力槽を叩くと、紫の液体が脈打つように跳ねた。

「君も見たでしょ?この世界の力ある人間が、力なきものを虐げる姿を」
(…………………)

「ボクの作る世界に差別や悲しみはいらないんだ。だから全部壊す。おかしいかい?」
(……でも……それ以上にっ……良いことだって……)

「ふん、偽善かい?ボクが作った世界なんだから、ボクがどうしようと勝手だろ」
(………ざけんな……もう、お前のものじゃ……ない)

 クザンは天貴の苦しげな声を愉快そうに聞き流した。

「君だって憂えていたじゃないか。ま、そのおかげで早く発現ことが出来たんだけどね」
(でも……それでもみんな……生きてるんだよ!)

「でも、ボクがやらなきゃ。僕の器は……この世界を洗い流すためにあるんだから」
(……洗い……流すって……一体何を……)

「あはは!決まってるだろ?カラミティ……いや、君らの言葉だと、スカイリンクだっけ?」
(……!?……やめろ……俺の体で……)

 クザンは楽しくて仕方がないというように肩を揺らす。

「氷塊、嵐、大洪水……!ありとあらゆる天災を呼んで世界をリセットするんだ!」
(俺の……大切な人を………………傷…………けるな………………)

「君は先に沈んでなよ。どうせすぐ、この世界は海から押し寄せる水塊に呑まれる。そんなもの、君だって見たくないだろ?」
(………め……ろ……)

「ストームサージ……もうすぐだ、もうすぐこの器に魔力が満ちる」

 天貴の意識が深く沈んでいく。紫の導流晶が禍々しく明滅し、クザンはその中心で満ち足りた微笑みを浮かべた。

 ―第三領域・大書庫―

「……うわ。なんか湿気っぽいっすね」
「かなり古い書物が眠っておるのじゃろう」

 二人が足を踏み入れたのは、円形に広がる巨大な書庫だった。天井の中央には古びた巨大なシャンデリア。そして、目の前の大通路の両脇には本棚が幾重にも積み重なり、古い紙とインクの匂いが漂っている。

「ここの本のどれかに、進むべき道のヒントがあるんすよ」
「つまり、その1冊を探すというのじゃな?楽勝じゃ」

「いや、それがそうでもないんす……」

 棚と棚のあいだは迷路みたいに入り組んでいて、しかも全部が古くて重たそうな分厚い本ばかり。ゲームで見た大書庫と似てるようでどこか違うその違和感がじんわり背中を冷やしてくる。

(なんかここ、ゲームよりずっと暗い気がするんすけど……気のせいか?)

 玄太は違和感に蓋をしたまま、第三領域の捜索を開始した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)

N2O
BL
執着王子 × 異世界転生魔法使い 魔法使いが逃げられなくなる話。 『上』『中』『下』の全三話、三連休中に完結します。 二万字以下なので、ショートショート𖤣𖥧𖥣 Special thanks illustration by okiagsa様(X:@okigasa_tate)        MBM様(X:@MBMpaper) ※独自設定、ご都合主義。あしからず。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

処理中です...