忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

文字の大きさ
167 / 188
最終章:崩壊王国の戦い

第167話 中継ポイント ― 分岐の中庭 ―

しおりを挟む
「して――この先、ぬしたちはどこへ向かえばよいのじゃ?その禁書とやらに“次なる行き先”は書かれておるのか?」
「それが、そこまでは書いてねぇんすよねぇ」

 玄太は焦ってページをパラパラとめくる。ゲームなら、本の発見と共に進行ルートが確定するのに、禁書は“世界水没計画に王国が抵抗した”ってところで唐突に途切れていた。

「くそっ、急いでるのにぃ!!」
「では、クザンの居場所は依然不明というわけか」

「マジやば……!」

 玄太は本を閉じ、勢いよく立ち上がった。胸の奥にあったドロドロした執着心が、今は純粋な危機感に火をつける。

「こうしちゃいられねぇっす!うかうかしてたら、大洪水で世界が沈んじゃうって!」
「はて?ぬしは、世界なぞどうなっても良いのではなかったのか?」

 いいわけないだろ!っと言った所で、クータンにはその手の言葉のあやは通じない。

「ば、バカっすねぇ!せっかくてんぱい助けても、そうなったら帰る場所無くなっちまうでしょ!それにもしアルカノアキッチンが沈んだら、クータン一生甘乳パン食えねえっすよ!」

 玄太が慌ててまくし立てると、クータンの耳がぴんと立った。 

「否じゃ!否!ぬしよ、何としても粛正を阻止するのじゃ」

 そう言うとクータンは甘乳パンの存続をかけて、小さなおつむをフル回転。そして絞り出されたのは、意外と重要な思考の導線だった。

「む……うぬよ、ひとつ考えてみよ。あやつの魔力、あれは大洪水などと大層なものを呼べると思うか?」

 大きなチカラを引き起こすには、それ相応の媒体が必要だ。青雷や雹みたいに、一点だけを狙う術なら比較的軽い。だが、雨や晴れなど空全体に及ぶ天候操作となれば使う魔力は跳ね上がる。そして規模が増せば増すほど、その消費は桁違いになっていく。

「あーいや、確かにそれは……怪しいかも。だっててんぱい、ダウンバーストで結構息切れしてたし……」

  神が乗り移ろうと、いかに器だけ大きかろうと、魔力が足りなければ大天災など撃てない。しかし、それはクザンも分かっているはず。

 ———じゃあもし、器に魔力を充填できるとしたら?

「魔力を充填……増幅……そんな事って……いや、でも。そんな施設や道具が、もしあったら?」

 玄太の推理に何か引っかかったクータンが、ふっとシャンデリアを見上げた。

「我も不思議じゃったのじゃ。……我がクザンにこっぴどくやられた時は、ここは何もない真っ白い空間じゃったというに」
「え……?じゃあクザンの奴、クータンをボコした後に、この世界を作ったって事すか?」

 静かにうなずくクータン。てんぱいの体を使って天災を呼ぶだけなら、こんな手の込んだ王国は必要ないはず。

「それって……クザンの奴、この場所を『わざわざ作る必要があった』って事なんじゃ?」

 玄太は必死に頭の中にある、崩壊王国のMAPを思い出していた。詰め所、武器庫、訓練場。地上にはそんな場所は心当たりが無い。地下牢、王家の墓所に、魔導研究室……。

「むう?魔導研究室、そう申したか?」
「はっ……そ、それだっ……!」

 玄太が勢いよく顔を上げると、背後から書庫番が鈴を鳴らした。

 チリン ……(肯定)

「ほれみよ。しょこタンも、そうじゃと言うておる」
「はぁ?なんだよ、しょこタンて」

「我がクータンであれば、こやつは書庫番のしょこタンであろう?」
「はは……まあ、理屈ではそっすね」

「でもあそこ、王国兵・三英傑が見張ってるヤベェ場所なんすよねぇ」

 焦りが一気に現実味を帯び、玄太の足が思わず後ずさる。

「でもそこ!てんぱいがそこにいる可能性、高すぎるっす」
「ふむ。そうともなれば、急ぐが吉じゃ」

 クータンの言葉に玄太はうなずきながら本棚をすり抜け、書庫の出口へ向かって駆け出した。すると、背後で チリンと鈴が控えめに鳴ったと思えば、書庫番が当然のように一歩後ろをついてくる。

「ん!?お前も来るの?」
「受け入れよ。ショコタンはもう我らの一員じゃ」

「はぁ?なんすか、ショコタンって」
「我はクータン。なれば、こやつは書庫番のショコタンであろう?」

 チリン……(肯定)

「ふ~ん。ま…、呼びやすくていいか」
「うぬは話が早いの」

 何がどうあれ、こんなところで立ち止まってる暇はない。玄太は大書庫の重い両開きの扉に手をかけ、勢いよく押し開いた。ギィィ……と古い金具が鳴り、白い世界が二人と一体を包む。

「……っしゃ、中庭だ!」
「息が抜けるの」

 広がったのは崩壊王国の虚無の空が見える庭園。円形の広場の周囲を回廊が囲み、真ん中の噴水は止まったまま静かに影を落としている。

「リリン…リリン…」

 ショコタンは、まるで初めてのおでかけに興奮したみたいに、玄太の背後で鈴を二回揺らした。

「こやつ、はしゃいでおるの」
「ま、確かにショコタンは書庫からでるの初めてっすからね」

 玄太は中庭の空気を大きく吸い込みながら、回廊の影に目を向けた。

「さて……魔導研究室って、たしか――」
「地下にある、と言うておったな?」

「っす。しかもそこ、機密エリアなんで道は険しいんすよ……地下牢抜けて、王家の墓所抜けて、その先……はぁ……遠い……」

 玄太はこめかみを押さえ、深いため息を吐いた。

「でも、行くしかねぇっ……よし!階段は――」

 玄太が回廊の奥へ向かって足を踏み出しかけた、その瞬間。

「チリリン……」
「……ん?」

 振り返ると、ショコタンがなぜか噴水の前にぽつんと立っていた。玄太たちと距離が空いてるのに、さっきまでの張り付きが嘘みたいに一か所に佇んでいる。

「おーい?ついてこないんすかー?」

 呼びかける。だがショコタンは、こちらへ来る気配も動く気配もない。ただ、噴水を見つめたまま――チリリン……と、もう一度鈴を鳴らした。

「……ぬしよ、何か様子が変じゃぞ」
「うん。書庫番って基本プレイヤーから剝がれない仕様なのに……こんな離れ方、さすがにおかしいっすよ」

 玄太は噴水へゆっくり近づいた。書庫番はただそこに立って鈴を鳴らしている。

「こやつ、まるで噴水に何かあると言うておるようじゃ」
「え、いや……噴水って、なんもないっすよ?ゲームでもただの飾りで……」

 そう言いながら、玄太はふと噴水の縁に手を置いた。
 ――冷たい。底を覗いても、水は完全に干上がっている。でも。だからこそ、本来起こるはずのない事が起こってしまう。

「よっと!水がねえから中に入れるすね……んで?」

 玄太は縁を飛び越えて、噴水の中に足を入れた。

「ぬし、どうじゃ?」
「なんもないっすよ。ただの――」

 口にしながら、なんとなく視線がズレる。さっきより、クータンの目線が……近い?

「あれ?クータンデカくなったっすか?」
「否。ぬしの背丈が縮んでおるのではないか」

 そんな馬鹿な。これ以上低くなったら困る。しかし、気のせいと言い切れないほどに視界がゆるく沈んでいく。ふ、とクータンが眉を上げた。

「ぬしよ。先ほどより……さらに下がっておるように見えるが?」
「え?……あ、えっ?」

 言われて初めて気づく。本当に周りの景色が数センチ単位で沈んでいる。玄太は思わず噴水の外の床と自分の視線の高さを比べ、ぞくりと震えた。

「あれあれ!?これマジで沈んで……噴水の底が動いてるっ!!?」

 音は一切しない。石が軋む音も何かが起動している気配もない。ただ、足元の円盤は巨大なエレベーターのように、重みを咥えたことを合図に真下へ滑り沈んでいく。

 チリン……。

 噴水の縁に立ったショコタンが鈴を鳴らすと、白い仮面をクータンに向けた。

「むぅ?我も、行けというのじゃな」

 クータンが玄太に向かって飛び込むと、その後ろについてショコタンも噴水の底に降り立った。

「まじかよ…こんな隠しエレベーター、ゲームでも見たことねぇ…!」

 三人を乗せて沈んでいく噴水の底。崩壊王国オンラインでは枯れることが無かった噴水の底に、ゲームの設計者ですら知らないであろう、秘密のショートカットが開通した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)

N2O
BL
執着王子 × 異世界転生魔法使い 魔法使いが逃げられなくなる話。 『上』『中』『下』の全三話、三連休中に完結します。 二万字以下なので、ショートショート𖤣𖥧𖥣 Special thanks illustration by okiagsa様(X:@okigasa_tate)        MBM様(X:@MBMpaper) ※独自設定、ご都合主義。あしからず。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

処理中です...