忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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序章:てんぱい最後の三日間

第9話 そして、異世界へ

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「行っちゃったんすね…」
「ふむ。おぬしが来る少し前に、な」

 玄太はぽつりと呟き、ゆっくりと部屋の中を見渡した。ほんのさっきまで、そこにてんぱいがいたはずの部屋。今は静かすぎるほど静かで、玄太の胸をきゅっと締めつけた。
 そのとき、ふと部屋の隅に目がとまる。

「……あれ?」

 そこには、キャンプ道具一式。その横にはテンガロンハットがちょこんと置かれていた。

「え、なんで…三つの持ち物なのに!忘れてったっすか!?」

 帽子には、まだ天貴のぬくもりがしっかりと残っていた。

「ふむ、今は……置いていったのう」
「えぇ!?それって野宿確定じゃないっすか!」

 玄太の声が思わず裏返る。その場にしゃがみ込み、テントを抱きしめるように持ったまま玄太は動けなかった。

「寝床の確保より、父ちゃんの想い出より…選んだものってなんなの?」

 そう言いながら、玄太の腕はテントを抱きしめながら小さく震えていた。


 *****

 そして異世界へと渡った天貴は―――。


「…はっ!?」

 気が付くと俺は小雨の降る小高い丘にいた。

「えーっと?あ、そっか」

 クータンとの最後のシーンを思い出す。

 数刻前――。

「よし、決めた!どうせ行くときゃ一人だ!ひと思いにやってくれ!」
「ふむ、心得た…ぬしよ、その場の中央に立ち身を委ねよ」

 靴を履いたまま、愛着の湧いた長年の根城の中央に立つ。俺の目の前でクータンはスッと立ち上がり短い前脚を天井へ掲げる。なにやら呪文のようにぶつぶつと言っているが俺の耳では聞き取れない。すると急に足元に、牛の模様の魔法陣?そういや、クータンって一応牛だった。

「なあ、これ大丈夫?牛の世界とか行かない?」
「案ずるな。行先はすでに定められし地。我が手に揺らぎはない」

(いや、それ前脚だけどな?)

 なんてツッコんでる場合じゃなさそうだ。足元の牛の魔法陣は何重にも連なって、ぐるぐると回り出しどんどん加速している。これは、いよいよ発動って感じか!?






「うおっ!俺、マジで行くみたいだ!玄太!!俺!行ってくるからな!!」
「青年よ、天命を背負い、いざかの地へ赴くがよい」

 魔法陣から吹き上がる光に包まれ、俺の視界が一気に白く染まる。

 いよいよか…って、待てよ?ガスの元栓しめたっけーーー?

「うおおおおおおお!!お?おい仔牛ぃぃ!なんか腕が痛ぇぞぉぉぉ!!!」
「ふむ!失念しておったが、異能の付与により前脚が痛むぞ」

「さ、先に言えぇぇ………ひっ………」


 *****


「そうか、俺、異世界に転移して!って、いちち」

 腕にはジンワリと鈍い痛みの余韻が残る。

「てか、俺のは腕だっつーの!!」

 そのツッコミが届く相手はもういない。ふっとクータンの余裕ぶった顔を思い出す。それにしても、マジで来ちまったのか。異世界ってやつに。

「玄太、大丈夫かな」

 いや、俺の今後の方がヤバいんだって!小雨も降ってるし、傘でも持ってきた方が良かったか?とにかく今は、人の心配をしている場合ではないのは確かだ。

「んで!?ここはどこだっと!」

 立ち上がり、ぐるっと周りを一望する。空を見上げてみると、地球と同じような空。足元には、色とりどりの花が咲き乱れてて、雨粒がその花びらをきらきら輝かせてる。薄い赤、青紫、金色の縁取りまで入ってて、完全に宝石。地球だったら普通にこのまま売れそうだ。

「いや、そんなことよりまずは…」

 立ってる小高い丘から見下ろすと、遠くにぽつんと気になる建物が俺の目に飛び込んでくる。

「お!なんか建物あるじゃん!結構遠いけど歩けない距離じゃねえな」

 魔物とやらに出会わないことを祈りつつ、俺は丘を下って一直線に建物へと向かった。
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