9 / 188
序章:てんぱい最後の三日間
第9話 そして、異世界へ
しおりを挟む
「行っちゃったんすね…」
「ふむ。おぬしが来る少し前に、な」
玄太はぽつりと呟き、ゆっくりと部屋の中を見渡した。ほんのさっきまで、そこにてんぱいがいたはずの部屋。今は静かすぎるほど静かで、玄太の胸をきゅっと締めつけた。
そのとき、ふと部屋の隅に目がとまる。
「……あれ?」
そこには、キャンプ道具一式。その横にはテンガロンハットがちょこんと置かれていた。
「え、なんで…三つの持ち物なのに!忘れてったっすか!?」
帽子には、まだ天貴のぬくもりがしっかりと残っていた。
「ふむ、今は……置いていったのう」
「えぇ!?それって野宿確定じゃないっすか!」
玄太の声が思わず裏返る。その場にしゃがみ込み、テントを抱きしめるように持ったまま玄太は動けなかった。
「寝床の確保より、父ちゃんの想い出より…選んだものってなんなの?」
そう言いながら、玄太の腕はテントを抱きしめながら小さく震えていた。
*****
そして異世界へと渡った天貴は―――。
「…はっ!?」
気が付くと俺は小雨の降る小高い丘にいた。
「えーっと?あ、そっか」
クータンとの最後のシーンを思い出す。
数刻前――。
「よし、決めた!どうせ行くときゃ一人だ!ひと思いにやってくれ!」
「ふむ、心得た…ぬしよ、その場の中央に立ち身を委ねよ」
靴を履いたまま、愛着の湧いた長年の根城の中央に立つ。俺の目の前でクータンはスッと立ち上がり短い前脚を天井へ掲げる。なにやら呪文のようにぶつぶつと言っているが俺の耳では聞き取れない。すると急に足元に、牛の模様の魔法陣?そういや、クータンって一応牛だった。
「なあ、これ大丈夫?牛の世界とか行かない?」
「案ずるな。行先はすでに定められし地。我が手に揺らぎはない」
(いや、それ前脚だけどな?)
なんてツッコんでる場合じゃなさそうだ。足元の牛の魔法陣は何重にも連なって、ぐるぐると回り出しどんどん加速している。これは、いよいよ発動って感じか!?
「うおっ!俺、マジで行くみたいだ!玄太!!俺!行ってくるからな!!」
「青年よ、天命を背負い、いざかの地へ赴くがよい」
魔法陣から吹き上がる光に包まれ、俺の視界が一気に白く染まる。
いよいよか…って、待てよ?ガスの元栓しめたっけーーー?
「うおおおおおおお!!お?おい仔牛ぃぃ!なんか腕が痛ぇぞぉぉぉ!!!」
「ふむ!失念しておったが、異能の付与により前脚が痛むぞ」
「さ、先に言えぇぇ………ひっ………」
*****
「そうか、俺、異世界に転移して!って、いちち」
腕にはジンワリと鈍い痛みの余韻が残る。
「てか、俺のは腕だっつーの!!」
そのツッコミが届く相手はもういない。ふっとクータンの余裕ぶった顔を思い出す。それにしても、マジで来ちまったのか。異世界ってやつに。
「玄太、大丈夫かな」
いや、俺の今後の方がヤバいんだって!小雨も降ってるし、傘でも持ってきた方が良かったか?とにかく今は、人の心配をしている場合ではないのは確かだ。
「んで!?ここはどこだっと!」
立ち上がり、ぐるっと周りを一望する。空を見上げてみると、地球と同じような空。足元には、色とりどりの花が咲き乱れてて、雨粒がその花びらをきらきら輝かせてる。薄い赤、青紫、金色の縁取りまで入ってて、完全に宝石。地球だったら普通にこのまま売れそうだ。
「いや、そんなことよりまずは…」
立ってる小高い丘から見下ろすと、遠くにぽつんと気になる建物が俺の目に飛び込んでくる。
「お!なんか建物あるじゃん!結構遠いけど歩けない距離じゃねえな」
魔物とやらに出会わないことを祈りつつ、俺は丘を下って一直線に建物へと向かった。
「ふむ。おぬしが来る少し前に、な」
玄太はぽつりと呟き、ゆっくりと部屋の中を見渡した。ほんのさっきまで、そこにてんぱいがいたはずの部屋。今は静かすぎるほど静かで、玄太の胸をきゅっと締めつけた。
そのとき、ふと部屋の隅に目がとまる。
「……あれ?」
そこには、キャンプ道具一式。その横にはテンガロンハットがちょこんと置かれていた。
「え、なんで…三つの持ち物なのに!忘れてったっすか!?」
帽子には、まだ天貴のぬくもりがしっかりと残っていた。
「ふむ、今は……置いていったのう」
「えぇ!?それって野宿確定じゃないっすか!」
玄太の声が思わず裏返る。その場にしゃがみ込み、テントを抱きしめるように持ったまま玄太は動けなかった。
「寝床の確保より、父ちゃんの想い出より…選んだものってなんなの?」
そう言いながら、玄太の腕はテントを抱きしめながら小さく震えていた。
*****
そして異世界へと渡った天貴は―――。
「…はっ!?」
気が付くと俺は小雨の降る小高い丘にいた。
「えーっと?あ、そっか」
クータンとの最後のシーンを思い出す。
数刻前――。
「よし、決めた!どうせ行くときゃ一人だ!ひと思いにやってくれ!」
「ふむ、心得た…ぬしよ、その場の中央に立ち身を委ねよ」
靴を履いたまま、愛着の湧いた長年の根城の中央に立つ。俺の目の前でクータンはスッと立ち上がり短い前脚を天井へ掲げる。なにやら呪文のようにぶつぶつと言っているが俺の耳では聞き取れない。すると急に足元に、牛の模様の魔法陣?そういや、クータンって一応牛だった。
「なあ、これ大丈夫?牛の世界とか行かない?」
「案ずるな。行先はすでに定められし地。我が手に揺らぎはない」
(いや、それ前脚だけどな?)
なんてツッコんでる場合じゃなさそうだ。足元の牛の魔法陣は何重にも連なって、ぐるぐると回り出しどんどん加速している。これは、いよいよ発動って感じか!?
「うおっ!俺、マジで行くみたいだ!玄太!!俺!行ってくるからな!!」
「青年よ、天命を背負い、いざかの地へ赴くがよい」
魔法陣から吹き上がる光に包まれ、俺の視界が一気に白く染まる。
いよいよか…って、待てよ?ガスの元栓しめたっけーーー?
「うおおおおおおお!!お?おい仔牛ぃぃ!なんか腕が痛ぇぞぉぉぉ!!!」
「ふむ!失念しておったが、異能の付与により前脚が痛むぞ」
「さ、先に言えぇぇ………ひっ………」
*****
「そうか、俺、異世界に転移して!って、いちち」
腕にはジンワリと鈍い痛みの余韻が残る。
「てか、俺のは腕だっつーの!!」
そのツッコミが届く相手はもういない。ふっとクータンの余裕ぶった顔を思い出す。それにしても、マジで来ちまったのか。異世界ってやつに。
「玄太、大丈夫かな」
いや、俺の今後の方がヤバいんだって!小雨も降ってるし、傘でも持ってきた方が良かったか?とにかく今は、人の心配をしている場合ではないのは確かだ。
「んで!?ここはどこだっと!」
立ち上がり、ぐるっと周りを一望する。空を見上げてみると、地球と同じような空。足元には、色とりどりの花が咲き乱れてて、雨粒がその花びらをきらきら輝かせてる。薄い赤、青紫、金色の縁取りまで入ってて、完全に宝石。地球だったら普通にこのまま売れそうだ。
「いや、そんなことよりまずは…」
立ってる小高い丘から見下ろすと、遠くにぽつんと気になる建物が俺の目に飛び込んでくる。
「お!なんか建物あるじゃん!結構遠いけど歩けない距離じゃねえな」
魔物とやらに出会わないことを祈りつつ、俺は丘を下って一直線に建物へと向かった。
2
あなたにおすすめの小説
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)
N2O
BL
執着王子 × 異世界転生魔法使い
魔法使いが逃げられなくなる話。
『上』『中』『下』の全三話、三連休中に完結します。
二万字以下なので、ショートショート𖤣𖥧𖥣
Special thanks
illustration by okiagsa様(X:@okigasa_tate)
MBM様(X:@MBMpaper)
※独自設定、ご都合主義。あしからず。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
