15 / 188
第1章:忘れ物の日々
第15話 忠犬、再起する
しおりを挟む
「てんぱいはおれを選んでた!三つの選択におれを……」
その事実を思い出すたび、うひゃあぁぁぁぁと布団の上を転げ回る。しかし5分と立たずに「こんなおれなんて」と、情けなさに襲われてシクシクと布団にくるまる。
(ほんとおれ、情けない)
そして朝が来る。食う。働く。食う。甘乳パンを買う。クータンに渡す。ついでにおれも食う。毎日、その繰り返し。
「てんぱい、何してんすかねぇ?クータン」
クータンが思念を飛ばしてる間だけが、今の生きがいだった。
「え、てんぱいの野菜の種、芽が出たんすか!?うしっ!」
「へえ、農場の仲間?いっぱいいるんすねぇ」
そして、匂いが染みついた布団も、枕も、みんなの記憶からもてんぱいは日に日に消えていく。
「天貴?だれだっけ?」
そんな声が、農場でふと耳に届くたびにそいつを睨みつける。でも、何も変わらない。じゃあ、そうやっててんぱいが消えていく世界を受け入れるかって?
「否…っす!!」
というわけで、サッと黒縁眼鏡を取り出した。
「それでは只今より、第二回てんぱい異世界転生会議を開催します!」
「…本人もおらぬのに、何を決めるのじゃ?」
首をかしげるクータンに、玄太はビシッと指を突きつけた。
「今回の“てん転会議”は、今まで集めた情報からてんぱいの近況をまとめるんす!」
「ふむ」
キョトンとするクータンを横目に、玄太は部屋の隅からホワイトボードをゴロゴロ引っ張り出してきた。
「ではまず、てんぱいはあっちでも農場で世話になってるんすよね?」
「そのようじゃの」
「じゃあ、その農場の女子はアリスって子で…」
「……」
マーカーをキュキュッと鳴らしながら、今までクータンが持ち帰った断片情報をササッと書き出していった。
「よし、できたっす!こんな感じっす!」
【てんぱい異世界情報まとめ】
・アルカノア農場ってとこで働いてる
・アグリスティアっていう王国らしい
・農場にアリスって女子がいる(※てんぱい狙いの可能性あり・要警戒)
・農場には仲間がたくさん(※誰かてんぱい狙ってる可能性あり・要監視)
・てんぱいの野菜はうまく育ってる
・スカイリンクはゲドってやつの陰謀で使えなかった(※ゲド、ブラックリスト入り)
・最近アグリスティア王国が危機?(※情報不足)
玄太はホワイトボードを見ながら、腕を組んで唸った。
「っふぉ、こうしてみると理解が深いの。ぬしは愉快なことをする」
「う~ん、てんぱい本人の情報が圧倒的に足りないっすねぇ…」
もう一度、書き出したボードをにらみつける玄太。
「あ!大事なこと忘れてたっす!」
慌ててマーカーを握り直し、一行を書き足す。
・青いパンツを履いていった(重要)
「とりあえず、よし…っと!」
ふうっとひと仕事終えた顔をする玄太。同時に、ピコーンとクータンのツノが満タンチャージの合図を響かせる。
「来たっ!」
即座に玄太は正座すると、神妙な面持ちでクータンを見つめた。
「クータン!お願いするっす!」
「ふむ。やむなし」
クータンはふわりと目を閉じると、また体がほんのりと光を帯び始める。玄太は両手をぎゅっと握りしめ、じっとその光を見守った。
(てんぱい…今、どうしてるっすか)
*****
異世界・アルカノア農場。
(ふむ…これは、ただごとではないの)
クータンが降り立った先、そこにはいつもと違う重苦しい空気が漂っていた。農場の中では農夫たちが動き回り、立ち込める煙に巻かれている。
「アグリスティア王国が堕ちた!!」
風に乗って男たちの声が聞こえる。
(戦か…)
そして畑の端では、天貴が空をにらむように立っていた。
「こんな時に、天候なんかじゃろくに戦えない……何も守れねぇよ」
クータンはその姿を、静かに見守った。
(むぅ、限界じゃ)
思念体が活動限界を迎えかけた、その時だった。
「…クータンか!?玄太の頼みで見に来てるんだろ?」
クータンの存在を感じ取った天貴が、こちらを振り向く。
「あいつに伝えてくれ!もう俺の事は忘れて、自分のために──」
そこまで聞くと、クータンの体はふわりと光に包まれ異世界からフッと消えた。
「自分のために、生きてくれ…玄太」
その事実を思い出すたび、うひゃあぁぁぁぁと布団の上を転げ回る。しかし5分と立たずに「こんなおれなんて」と、情けなさに襲われてシクシクと布団にくるまる。
(ほんとおれ、情けない)
そして朝が来る。食う。働く。食う。甘乳パンを買う。クータンに渡す。ついでにおれも食う。毎日、その繰り返し。
「てんぱい、何してんすかねぇ?クータン」
クータンが思念を飛ばしてる間だけが、今の生きがいだった。
「え、てんぱいの野菜の種、芽が出たんすか!?うしっ!」
「へえ、農場の仲間?いっぱいいるんすねぇ」
そして、匂いが染みついた布団も、枕も、みんなの記憶からもてんぱいは日に日に消えていく。
「天貴?だれだっけ?」
そんな声が、農場でふと耳に届くたびにそいつを睨みつける。でも、何も変わらない。じゃあ、そうやっててんぱいが消えていく世界を受け入れるかって?
「否…っす!!」
というわけで、サッと黒縁眼鏡を取り出した。
「それでは只今より、第二回てんぱい異世界転生会議を開催します!」
「…本人もおらぬのに、何を決めるのじゃ?」
首をかしげるクータンに、玄太はビシッと指を突きつけた。
「今回の“てん転会議”は、今まで集めた情報からてんぱいの近況をまとめるんす!」
「ふむ」
キョトンとするクータンを横目に、玄太は部屋の隅からホワイトボードをゴロゴロ引っ張り出してきた。
「ではまず、てんぱいはあっちでも農場で世話になってるんすよね?」
「そのようじゃの」
「じゃあ、その農場の女子はアリスって子で…」
「……」
マーカーをキュキュッと鳴らしながら、今までクータンが持ち帰った断片情報をササッと書き出していった。
「よし、できたっす!こんな感じっす!」
【てんぱい異世界情報まとめ】
・アルカノア農場ってとこで働いてる
・アグリスティアっていう王国らしい
・農場にアリスって女子がいる(※てんぱい狙いの可能性あり・要警戒)
・農場には仲間がたくさん(※誰かてんぱい狙ってる可能性あり・要監視)
・てんぱいの野菜はうまく育ってる
・スカイリンクはゲドってやつの陰謀で使えなかった(※ゲド、ブラックリスト入り)
・最近アグリスティア王国が危機?(※情報不足)
玄太はホワイトボードを見ながら、腕を組んで唸った。
「っふぉ、こうしてみると理解が深いの。ぬしは愉快なことをする」
「う~ん、てんぱい本人の情報が圧倒的に足りないっすねぇ…」
もう一度、書き出したボードをにらみつける玄太。
「あ!大事なこと忘れてたっす!」
慌ててマーカーを握り直し、一行を書き足す。
・青いパンツを履いていった(重要)
「とりあえず、よし…っと!」
ふうっとひと仕事終えた顔をする玄太。同時に、ピコーンとクータンのツノが満タンチャージの合図を響かせる。
「来たっ!」
即座に玄太は正座すると、神妙な面持ちでクータンを見つめた。
「クータン!お願いするっす!」
「ふむ。やむなし」
クータンはふわりと目を閉じると、また体がほんのりと光を帯び始める。玄太は両手をぎゅっと握りしめ、じっとその光を見守った。
(てんぱい…今、どうしてるっすか)
*****
異世界・アルカノア農場。
(ふむ…これは、ただごとではないの)
クータンが降り立った先、そこにはいつもと違う重苦しい空気が漂っていた。農場の中では農夫たちが動き回り、立ち込める煙に巻かれている。
「アグリスティア王国が堕ちた!!」
風に乗って男たちの声が聞こえる。
(戦か…)
そして畑の端では、天貴が空をにらむように立っていた。
「こんな時に、天候なんかじゃろくに戦えない……何も守れねぇよ」
クータンはその姿を、静かに見守った。
(むぅ、限界じゃ)
思念体が活動限界を迎えかけた、その時だった。
「…クータンか!?玄太の頼みで見に来てるんだろ?」
クータンの存在を感じ取った天貴が、こちらを振り向く。
「あいつに伝えてくれ!もう俺の事は忘れて、自分のために──」
そこまで聞くと、クータンの体はふわりと光に包まれ異世界からフッと消えた。
「自分のために、生きてくれ…玄太」
2
あなたにおすすめの小説
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)
N2O
BL
執着王子 × 異世界転生魔法使い
魔法使いが逃げられなくなる話。
『上』『中』『下』の全三話、三連休中に完結します。
二万字以下なので、ショートショート𖤣𖥧𖥣
Special thanks
illustration by okiagsa様(X:@okigasa_tate)
MBM様(X:@MBMpaper)
※独自設定、ご都合主義。あしからず。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる