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第1章:忘れ物の日々
第16話 忠犬、決意する
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クータンのツノから光が消え、現代の玄太の前に戻ってきた。
「クータン!てんぱい、どうだったっすか!?」
飛びつく勢いで駆け寄るとクータンは、いつになく重たい顔をしていた。
「彼の地、あやつのおる国が…堕ちたようじゃ」
「落ちた?……落ちたってなに?」
「あやつの農場も、いま攻められつつある」
「え…クータン、なにいってんの?」
「天候を操れど、それは戦力にあらず…そんな自分を嘆いておった」
玄太の脳が、理解することを拒んだ。耳には届いているはずなのに、言葉の意味が、頭に落ちてこない。
「そして、最後にぬしに伝言じゃ」
玄太は震えながら、何も言わずにクータンの口を見た。
「俺の事は忘れて、自分のために…と」
玄太は、その場でぴたりと止まった。
「以上じゃ」
呼吸すら忘れたように、目を見開いて動かない。まるで、バッテリーが切れたロボットのように。
「…無理」
ただ、心の奥でひとつだけ芽生えた明確な拒絶が、口から漏れた。
「ぬしよ、大事ないか?」
玄太からの反応はない。
だが、よく耳を澄ませば、微かに声がぶつぶつと漏れていた。
「……そうそう、そうだ。でも、うん……そうじゃん、だったら……」
それは小さな独り言だった。しかし、徐々にボリュームを増してくる。
「王国が堕ちた?…でも、てんぱいの農場が堕ちなきゃいいんすよ!」
「戦えない?…じゃあ、戦えるようにすりゃいいんすよ!!」
独り言は少しずつヒートアップして、いつしか叫びに変わる。
「…誰を、忘れろって?」
その言葉だけは、喉に詰まったように出てこない。
「…おれが?」
肩が震えていた。唇が引きつっていた。
「てんぱいを、忘れろって?」
その目には涙の代わりに、怒りと悔しさがゆっくりと満ちていく。
「はぁ…はぁ…何言ってんすか!てんぱいの…ばかちん!」
玄太の目がギラリと光ると、おもむろにテント一式をまるで首根っこをつかむようにガバッと引き寄せた。
「忘れるわけねぇだろがぁぁぁ!!!」
天貴のテント一式をつかんで、ガタガタと揺らしながら叫ぶ玄太。
「そんな遺言みたいな泣き言、許さねえっすよ!!!」
そして、一瞬ピタッと止まって、玄太はテント一式を投げ捨てた。
「ウーバー玄太、届け先は異世界!注文確定!!!」
それは迷いも恐怖もすべてを吹き飛ばす気合の叫びだった。玄太の鼻息が荒すぎて、クータンも思わず一歩あとずさる勢いだ。
「ぬ、ぬし…腹を決めたようじゃの」
クータンに応えるようにズイッと前のめりに迫った。
「まだっ!てんぱいの武器を準備する!」
玄太はパッと立ち上がると、デスクに座ってPCの電源を入れた。
******
カタカタカタ……。真剣な顔でキーボードを叩き、検索をかけていく。そして画面に表示される情報を必死にかき集めては、メモ紙に殴り書きしていく。空を操れる男が弱いわけない!おれのてんぱいは絶対もっと強くなれる!クータンは隣で甘乳パンをもぐもぐしながら、まるで玄太の成長を見守るようにそっと眺めていた。
*****
「っよし!十分っしょ!!」
夜はすっかり更けていた。しんと静まり返って虫の声だけがかすかに聞こえる。
「クータ…」
クータンは食べかけの甘乳パンを大事そうに抱えたまま眠っていた。寝息をくぅくぅと立てながら時おり耳がぴくっと動くのが愛らしい。
(…起こすの、かわいそうっすよね)
でも…。てんぱいは向こうでひとりで踏ん張ってる。おれが行かなきゃ始まらない。静かに深呼吸してから、玄太はクータンのそばにしゃがみこむ。寝ているクータンの背をそっと優しくほんの少しだけ揺らした。
「クータンごめん、起きてほしいっす。そろそろ…」
クータンは目を閉じたまま、口をもごもごと動かす。
「ふぁ…ぬしか?整ったか…むにゃ…」
「うん。準備できた!」
(てんぱいの忘れ物、今届けます!)
ぱちっと目を開けたクータンは、しっぽをひとふりして姿勢を正した。
「ぬしよ、いつでも送れるぞ」
準備はすべて整った。
「うぃっす」
誰もいない部屋の中、目を合わせたふたりの間にぴんと張り詰めた空気が走った。
「クータン!てんぱい、どうだったっすか!?」
飛びつく勢いで駆け寄るとクータンは、いつになく重たい顔をしていた。
「彼の地、あやつのおる国が…堕ちたようじゃ」
「落ちた?……落ちたってなに?」
「あやつの農場も、いま攻められつつある」
「え…クータン、なにいってんの?」
「天候を操れど、それは戦力にあらず…そんな自分を嘆いておった」
玄太の脳が、理解することを拒んだ。耳には届いているはずなのに、言葉の意味が、頭に落ちてこない。
「そして、最後にぬしに伝言じゃ」
玄太は震えながら、何も言わずにクータンの口を見た。
「俺の事は忘れて、自分のために…と」
玄太は、その場でぴたりと止まった。
「以上じゃ」
呼吸すら忘れたように、目を見開いて動かない。まるで、バッテリーが切れたロボットのように。
「…無理」
ただ、心の奥でひとつだけ芽生えた明確な拒絶が、口から漏れた。
「ぬしよ、大事ないか?」
玄太からの反応はない。
だが、よく耳を澄ませば、微かに声がぶつぶつと漏れていた。
「……そうそう、そうだ。でも、うん……そうじゃん、だったら……」
それは小さな独り言だった。しかし、徐々にボリュームを増してくる。
「王国が堕ちた?…でも、てんぱいの農場が堕ちなきゃいいんすよ!」
「戦えない?…じゃあ、戦えるようにすりゃいいんすよ!!」
独り言は少しずつヒートアップして、いつしか叫びに変わる。
「…誰を、忘れろって?」
その言葉だけは、喉に詰まったように出てこない。
「…おれが?」
肩が震えていた。唇が引きつっていた。
「てんぱいを、忘れろって?」
その目には涙の代わりに、怒りと悔しさがゆっくりと満ちていく。
「はぁ…はぁ…何言ってんすか!てんぱいの…ばかちん!」
玄太の目がギラリと光ると、おもむろにテント一式をまるで首根っこをつかむようにガバッと引き寄せた。
「忘れるわけねぇだろがぁぁぁ!!!」
天貴のテント一式をつかんで、ガタガタと揺らしながら叫ぶ玄太。
「そんな遺言みたいな泣き言、許さねえっすよ!!!」
そして、一瞬ピタッと止まって、玄太はテント一式を投げ捨てた。
「ウーバー玄太、届け先は異世界!注文確定!!!」
それは迷いも恐怖もすべてを吹き飛ばす気合の叫びだった。玄太の鼻息が荒すぎて、クータンも思わず一歩あとずさる勢いだ。
「ぬ、ぬし…腹を決めたようじゃの」
クータンに応えるようにズイッと前のめりに迫った。
「まだっ!てんぱいの武器を準備する!」
玄太はパッと立ち上がると、デスクに座ってPCの電源を入れた。
******
カタカタカタ……。真剣な顔でキーボードを叩き、検索をかけていく。そして画面に表示される情報を必死にかき集めては、メモ紙に殴り書きしていく。空を操れる男が弱いわけない!おれのてんぱいは絶対もっと強くなれる!クータンは隣で甘乳パンをもぐもぐしながら、まるで玄太の成長を見守るようにそっと眺めていた。
*****
「っよし!十分っしょ!!」
夜はすっかり更けていた。しんと静まり返って虫の声だけがかすかに聞こえる。
「クータ…」
クータンは食べかけの甘乳パンを大事そうに抱えたまま眠っていた。寝息をくぅくぅと立てながら時おり耳がぴくっと動くのが愛らしい。
(…起こすの、かわいそうっすよね)
でも…。てんぱいは向こうでひとりで踏ん張ってる。おれが行かなきゃ始まらない。静かに深呼吸してから、玄太はクータンのそばにしゃがみこむ。寝ているクータンの背をそっと優しくほんの少しだけ揺らした。
「クータンごめん、起きてほしいっす。そろそろ…」
クータンは目を閉じたまま、口をもごもごと動かす。
「ふぁ…ぬしか?整ったか…むにゃ…」
「うん。準備できた!」
(てんぱいの忘れ物、今届けます!)
ぱちっと目を開けたクータンは、しっぽをひとふりして姿勢を正した。
「ぬしよ、いつでも送れるぞ」
準備はすべて整った。
「うぃっす」
誰もいない部屋の中、目を合わせたふたりの間にぴんと張り詰めた空気が走った。
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