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第2章:てんぱい異世界の足跡
第20話 天貴、種をまく
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「ほんっとアイツったら…あら、それも食べごろね」
「おっけ」
アリスと一緒にブリリアントトマトを積みながら色々と聞きだそうと思っていたのが、聞く前からアリスの口は止まらなかった。あいつ王国の魔法騎士団の団長でー」とか「一生独身のほうがマシ」とか。
「ところで、この農場について聞きたいんだけど」
「え?ええ、説明するわ」
俺は無理やり話題を変えて、この農場のことを詳しく聞いてみた。
「へえ、ミルク関連の加工もやってるんだ」
「あとは農具の開発とか、ハーブの温室……敷地内に住み込み寮もあるわよ!」
「農具の開発まで!?」
「ええ!卵も野菜も、王国いちの収穫量なんだから!」
かなりすごい農場だ!こりゃ、ラッキーだったな。しかし、まだまだこの世界の事は聞きたいことがたくさんありすぎる。
「なあなあ、ここってさ。雨が止んだら、その…太陽が出るんだよな?」
思い切ってぶっこんだ本命にアリスが首をかしげながら答える。
「たいよう?なにそれ?雨が止んだらって事は……照星の事?」
「アカボシ…?それって空からパーッと照らす明るい感じのやつか?」
「ぷっ!なによその言い方、当然じゃない!」
「なるほど、ここのお天道様はアカボシというのか…」
でも、太陽とは別物かぁ。地球じゃないから当然っちゃ当然だけど。そうなると雨がやんでも野菜が光合成できるとは限らない。
「じゃあさ、アカボシの光を浴びてトマトが育つと甘みが出たりする?」
「っぷ!甘みなんてあるわけないじゃない!トマトよ?」
ガ―――――ン!
「トマトがアカボシの光を浴びれば、酸味や雑味が無くなるの。こんなの菜園の基本よ?」
酸っぱくなきゃ成功かよ!この世界、トマトへのハードルが低すぎるぞ。しかし、だ。どうやらこの世界のお日様では光合成が出来ないらしい。
「これじゃあ、地球の種を植えたって美味い野菜はできねえじゃん…」
いや待て。まだ切り捨てるな。情報を整理しろ。
―――玄太!俺の中の玄太!もう一度知恵を貸してくれ!
(どうしたっすか?てんぱい!)
「こっちのトマト、ちゃんと育っても甘くないらしいぞ!」
(日本トマトは、品種改良の努力えげつないっすからねぇ)
「だな。だからもし俺がスカイリンクで雨を止ませても、旨いトマトは出来ないんだ!」
(じゃあ、てんぱい!ついにおやっさん農場の野菜の種の出番がきたっすね!?)
「でも、こっちのお日様はそもそも太陽じゃねえんだよ」
(じゃあ光合成は無理すね。それだとあんま美味くならないっす)
「だよなぁぁぁ、せっかく持ってきたのに……」
(てんぱい、あきらめちゃだめっす!てんぱいの記憶の中にまだ可能性の光が――――)
俺の頭の中で、臨時に行われた「異世界野菜会議」から目が覚める。
「はっ!?」
顔を上げたその時、一人の少女が目の前を通り過ぎた。
「アリス様!おはようございます!」
「おはよう!ライラ!」
「お、ライラ!おはよ……」(ライラ?)
「天貴お兄さん、おはようございます」
トマトを持ったまま固まる俺を覗き込むライラ。
(光を生成するライラ?可能性の光!?))
「あのぉ……私が何か?」
「………あるじゃん!光!!」
突然声を張り上げる俺にびっくりするアリスと、戸惑いを隠せないライラ。
「ひ、光…?」
「ちょっと、突然どうしたのよ?」
今の俺の頭はある仮説でいっぱいだった。昨日見たライラの光から見えた虹色の光彩。あれって、太陽と同じ波長を持ってるってことかもしれねぇ。こっちの野菜は光合成で甘くなる保証はない。そうなると、確かにライラの光はこの世界ではただの照明だ。
でも、もしそうなら。光合成が出来るなら、地球の野菜にとってはまさに彼女は…「太陽の女神!」
「ちょっと天貴さん!ちゃんと説明を…」
「アリス!ライラ!美味しいトマト、作れるかもしれないぞ!」
2人の目がまんまるになる。
「ほら!アリス!早くトマトソース作っちゃうぞ!コンバインさんが腹減って倒れちゃう!ライラも手伝って!」
「え?ええ!」
「食ったら、午後から緊急会議だ!」
楽しそうに話す俺に、アリスもライラもつられるように笑みをこぼす。
*****
収穫を終えて三人でトマトソースを作ると、キッチンはまるでお祭り騒ぎのようだった。
「ライラ、玉ねぎをお願い!」
「はい!」
「天貴さん!鍋、もうちょい火強めて!」
「えっ……と、こうか!?」
「じゃあ天貴さん、お皿取って!」
「えーっと、いち、に…5枚だな!」
「あ、お父様とコンバインさんはBIGサイズよ」
「はは…だな!」
わちゃわちゃと忙しい中にも笑い声が響く。その光景を、少し離れた場所で見ていたラクターとコンバインは、そっと微笑んだ。
「みな、雨続きで沈んでいたが…」
「なんだか、本当に救世主さんが来たみたいですぜ隊長!」
「救世主か…?ふっ、そうだな」
そして、アリスが茹で上がったパスタの上に出来立てのトマトソースをとろりとかけたら……。
「よし!トマトスパゲッティ完成よ!」
「うぉぉぉぉ!うっまそう!」
みんなで作った異世界のトマトスパゲッティ。異世界はじめてのまともな飯にいつの間にか俺のテンションは爆上がり。
「それでは、いただこう!」
ラクターさんの第一声を合図に、それぞれがフォークを手に取り一斉に麺を巻き取る。
「ずるるっ…っ!?うま!うま!!」
真っ先に声を上げたのはコンバインさんだ。目をひんむきながら太ももをばんばん叩く。
「うむ、実にうまい!このソースの出来なら確かに売れそうだ」
ラクターさんも思わず眉を上げている。
「なんだかイケる気がしてきたわ…っぱく」
アリスが慌てて二口目に突入する。
「わ、わたしも食べる!」
ライラも慌ててもぐもぐ祭りに参加。
「天貴さん!これ農場特製のトマトソー…って、今は聞いてないか」
正直俺は、久々の美味い飯にがっつきすぎて正直話してる余裕なし。俺の食いっぷりは誰の目から見ても言葉なんていらなかったと思う。
「ふぅぅぅぅ!ごちそうさんっした!美味かった!」
「はい、ごちそうさまぁ!」
トマトスパゲッティを平らげると、俺はポケットの中の野菜を種を握りしめた。
「じゃ、行くか!アリス、ライラ!緊急招集だ!」
俺とアリス、ライラは再びトマト菜園に戻ってきた。菜園に関わる話なので、種まき担当のシーダさんを呼んでもらった。
「お待たせ!」
「僕も聞かせてもらっていいかな?」
菜園担当のシーダさんとベータ君が現れた。ベータ君は雑草駆除のアストラだったな。今回は関係なさそうだけど、まいいか。
本当はみんなに話したい。地球のトマトとライラの光がもたらすかもしれない、とんでもない可能性のこと。でも、まだ仮説の域を出ない。期待させすぎてガッカリされても困るし、今はなるべく必要最小限の人選で試したいところだ。
「じゃあ、みんな!まずはこれを見てくれ!」
そう言って手のひらに乗せた地球のトマトの種を見せる。
「これは、トマトの種かしら。うちの農場のトマトの種より小さいけど」
「さすが!種まきマイスターのシーダさん!見ただけで分かるとは!」
照れるシーダさんと、少し置いてけぼりの他のメンバーに俺は説明する。
「これはまぁ、言うなれば新しい品種のトマト、かな?」
(この世界では、だけどな!)
日本の農家の皆さんと、おやっさんの汗と努力の結晶がこの種に詰まってる。
(おやっさん、使わせていただきます!)
俺はその小さな生命を、シーダさんの掌にそっと託した。
「ええ…今、空いてる土壌がないから、種を撒き替えるわね」
彼女はうなずくと、スッとしゃがんで土に手をかざす。
「ん?シーダさん、何してんだ?」
「ふふ、見てたら分かるわ!」
ニヤッと笑うアリス。するとシーダさんは、地上からは見えなかった”すでに植えてあった種”を瞬時に取り出し、俺の渡した種を素早い手つきで等間隔で丁寧に土へと埋めていった。
「すげえ、!これは一体どういうチカラなんだ?」
「私のアストラはエネルスキャン。微弱に発する波動や魔力の流れを感知できるわ!」
スキャンする能力で地面の中にある種を察知してたのか!
「この世界の農場女子、すげえ!」
それにしても!この世界は気候が温かいし、農場の土壌も肥沃で文句なし!
「種まきOK!気温環境はばっちりだ!」
「そうね!芽が出るのは7日くらいかしら?」
アリスが期待を宿した目を俺に向ける。
「うん、それくらいだな!芽が出たら、次はライラの出番だ!」
「え?は、はい!よろしくお願いしますっ!」
とはいえ、収穫まで3か月かぁ…。でも、希望ってのは撒いとかなきゃ芽も出ねぇ。そんなことを考えていたら、不意にベータ君がボソッとつぶやいた。
「あの……早く収穫したいなら、なんとかしましょうか?」
「え、ベータ君?でも、雑草の駆除しても収穫は……」
「いえ!僕のチカラは植物の成長を抑えるアストラです」
「植物の成長を抑える!?なるほど、そのチカラを応用してるのか!」
「だけど僕の弟のグロウは逆。植物の成長を促進するアストラ持ちです」
「弟のグロウ君!?なんだその便利能力!?」
マジの農場チート発覚!…と思ったけど、どうやら効果の範囲が狭いらしい。この広い農場全体では使いどころが難しいってことで、今は木材の伐採現場でときどき働いているそうだ。確かに木材を扱う仕事ならグロウ君の能力はまさしく“金の成る木”だろう。
「そうなると、グロウ君はいつ頃来れそうだ?」
「今日は部屋にいるよ!すぐに呼んでくるね!」
どうやらグロウ君のアストラは魔力の消耗が激しくて、今日はお休みだったらしい。悪かったかなと思いつつ、しばらく待っているとベータ君を少し小さくしたようなグロウ君が登場。
「こんにちは…グロウです」
「天貴です!よろしく。僕の救世主さん!」
「え、ぼ、僕なんて全然…そんな…」
期待をかけすぎたせいか、グロウ君は顔を真っ赤に染めてうつむいてしまった。
「お休み中に呼び出しちゃってごめんな」
「いえ、トマトの苗くらいなら…!」
グロウ君は地球のトマトの種を植えた一画の一点に両手をそっとかざす。
「プランナッ…」
そう小さく呟くと、彼の手のひらからじんわりと緑色の波動が広がっていった。
「おお…」
やがてグロウ君が両手で包むようにかざした一点が、じんわりと温もりを帯びていった。やがて、トマトの種を植えた場所の土が、ピクリとわずかに動いた。そして次の瞬間、小さな命が大地を押しのけるようにして、ぽつんと芽を出した!
「おぉ~~~!!」
歓声があがる。目の前で起きたアストラの奇跡に、一同が感動の声を漏らす。グロウ君は少し照れくさそうに笑いながら、それでも俺たちと一緒にその喜びを分かち合った。
このまま一気に収穫まで持っていけるか!?そう思ったのも束の間、グロウ君がそっと言った。
「でも、あんまり急がせすぎると、質が落ちるかもしれません」
「質が、落ちる?」
聞けば、以前木材を急成長させたとき、見た目は立派でもじっくり育った木材と比べると、材質がもろくて、すぐに割れてしまったとか。なるほど。急がせすぎるとうまく育たないのか。人生と同じだ。栽培チート使わせといて、なに名言っぽいこと言ってんだ。
「毎日少しづつ、多分7日くらいで実がなると思います!」
「1週間か!ありがとう、助かる!」
さあ、芽が出たのならお次は太陽の女神様の出番だ!
「じゃあライラ!このトマト畑の上に光の生成をお願いできるかな?」
「は、はいっ!やってみます!」
ちょこちょこと畑の前に立つライラ。小さく息を吸い込み、手のひらをそっと掲げる。
「……ルーメノ」
ぽわん、と優しい光が生まれる。ふんわりと広がっていくその光は、マジで小さな太陽って感じで崇めるに値する神々しさ。これがただの照明とは、異世界人は見る目ねえな。
「虹の光彩…やっぱりこれ、命の光だ!ライラ、みんなもありがとう!」
小さな太陽に見とれる俺の横顔に、アリスもそっと呟いた。
「私たちこそ、希望をありがとう…」
皆で小さな芽を見守る中、その光は静かにトマト畑を照らしていた。
*****
その夜アリスはひとり浴場にいた。湯気の立ちこめる湯船にゆっくりと身を沈める。まぶたを閉じると浮かんでくる、未来視で視た情景。
―笑顔の天貴と青空―
それだけ。でも、不思議なほど心に残った。掌ですくったお湯に、自分の顔がゆらりと映る。
「きっと、晴れるよね?」
フフッとほんの少し微笑んで湯に映る自分に問いかけた。それは小さな希望。天貴の笑顔が未来にあるなら、きっと立ち向かえる。アリスはその未来を信じることを選んだ。
「おっけ」
アリスと一緒にブリリアントトマトを積みながら色々と聞きだそうと思っていたのが、聞く前からアリスの口は止まらなかった。あいつ王国の魔法騎士団の団長でー」とか「一生独身のほうがマシ」とか。
「ところで、この農場について聞きたいんだけど」
「え?ええ、説明するわ」
俺は無理やり話題を変えて、この農場のことを詳しく聞いてみた。
「へえ、ミルク関連の加工もやってるんだ」
「あとは農具の開発とか、ハーブの温室……敷地内に住み込み寮もあるわよ!」
「農具の開発まで!?」
「ええ!卵も野菜も、王国いちの収穫量なんだから!」
かなりすごい農場だ!こりゃ、ラッキーだったな。しかし、まだまだこの世界の事は聞きたいことがたくさんありすぎる。
「なあなあ、ここってさ。雨が止んだら、その…太陽が出るんだよな?」
思い切ってぶっこんだ本命にアリスが首をかしげながら答える。
「たいよう?なにそれ?雨が止んだらって事は……照星の事?」
「アカボシ…?それって空からパーッと照らす明るい感じのやつか?」
「ぷっ!なによその言い方、当然じゃない!」
「なるほど、ここのお天道様はアカボシというのか…」
でも、太陽とは別物かぁ。地球じゃないから当然っちゃ当然だけど。そうなると雨がやんでも野菜が光合成できるとは限らない。
「じゃあさ、アカボシの光を浴びてトマトが育つと甘みが出たりする?」
「っぷ!甘みなんてあるわけないじゃない!トマトよ?」
ガ―――――ン!
「トマトがアカボシの光を浴びれば、酸味や雑味が無くなるの。こんなの菜園の基本よ?」
酸っぱくなきゃ成功かよ!この世界、トマトへのハードルが低すぎるぞ。しかし、だ。どうやらこの世界のお日様では光合成が出来ないらしい。
「これじゃあ、地球の種を植えたって美味い野菜はできねえじゃん…」
いや待て。まだ切り捨てるな。情報を整理しろ。
―――玄太!俺の中の玄太!もう一度知恵を貸してくれ!
(どうしたっすか?てんぱい!)
「こっちのトマト、ちゃんと育っても甘くないらしいぞ!」
(日本トマトは、品種改良の努力えげつないっすからねぇ)
「だな。だからもし俺がスカイリンクで雨を止ませても、旨いトマトは出来ないんだ!」
(じゃあ、てんぱい!ついにおやっさん農場の野菜の種の出番がきたっすね!?)
「でも、こっちのお日様はそもそも太陽じゃねえんだよ」
(じゃあ光合成は無理すね。それだとあんま美味くならないっす)
「だよなぁぁぁ、せっかく持ってきたのに……」
(てんぱい、あきらめちゃだめっす!てんぱいの記憶の中にまだ可能性の光が――――)
俺の頭の中で、臨時に行われた「異世界野菜会議」から目が覚める。
「はっ!?」
顔を上げたその時、一人の少女が目の前を通り過ぎた。
「アリス様!おはようございます!」
「おはよう!ライラ!」
「お、ライラ!おはよ……」(ライラ?)
「天貴お兄さん、おはようございます」
トマトを持ったまま固まる俺を覗き込むライラ。
(光を生成するライラ?可能性の光!?))
「あのぉ……私が何か?」
「………あるじゃん!光!!」
突然声を張り上げる俺にびっくりするアリスと、戸惑いを隠せないライラ。
「ひ、光…?」
「ちょっと、突然どうしたのよ?」
今の俺の頭はある仮説でいっぱいだった。昨日見たライラの光から見えた虹色の光彩。あれって、太陽と同じ波長を持ってるってことかもしれねぇ。こっちの野菜は光合成で甘くなる保証はない。そうなると、確かにライラの光はこの世界ではただの照明だ。
でも、もしそうなら。光合成が出来るなら、地球の野菜にとってはまさに彼女は…「太陽の女神!」
「ちょっと天貴さん!ちゃんと説明を…」
「アリス!ライラ!美味しいトマト、作れるかもしれないぞ!」
2人の目がまんまるになる。
「ほら!アリス!早くトマトソース作っちゃうぞ!コンバインさんが腹減って倒れちゃう!ライラも手伝って!」
「え?ええ!」
「食ったら、午後から緊急会議だ!」
楽しそうに話す俺に、アリスもライラもつられるように笑みをこぼす。
*****
収穫を終えて三人でトマトソースを作ると、キッチンはまるでお祭り騒ぎのようだった。
「ライラ、玉ねぎをお願い!」
「はい!」
「天貴さん!鍋、もうちょい火強めて!」
「えっ……と、こうか!?」
「じゃあ天貴さん、お皿取って!」
「えーっと、いち、に…5枚だな!」
「あ、お父様とコンバインさんはBIGサイズよ」
「はは…だな!」
わちゃわちゃと忙しい中にも笑い声が響く。その光景を、少し離れた場所で見ていたラクターとコンバインは、そっと微笑んだ。
「みな、雨続きで沈んでいたが…」
「なんだか、本当に救世主さんが来たみたいですぜ隊長!」
「救世主か…?ふっ、そうだな」
そして、アリスが茹で上がったパスタの上に出来立てのトマトソースをとろりとかけたら……。
「よし!トマトスパゲッティ完成よ!」
「うぉぉぉぉ!うっまそう!」
みんなで作った異世界のトマトスパゲッティ。異世界はじめてのまともな飯にいつの間にか俺のテンションは爆上がり。
「それでは、いただこう!」
ラクターさんの第一声を合図に、それぞれがフォークを手に取り一斉に麺を巻き取る。
「ずるるっ…っ!?うま!うま!!」
真っ先に声を上げたのはコンバインさんだ。目をひんむきながら太ももをばんばん叩く。
「うむ、実にうまい!このソースの出来なら確かに売れそうだ」
ラクターさんも思わず眉を上げている。
「なんだかイケる気がしてきたわ…っぱく」
アリスが慌てて二口目に突入する。
「わ、わたしも食べる!」
ライラも慌ててもぐもぐ祭りに参加。
「天貴さん!これ農場特製のトマトソー…って、今は聞いてないか」
正直俺は、久々の美味い飯にがっつきすぎて正直話してる余裕なし。俺の食いっぷりは誰の目から見ても言葉なんていらなかったと思う。
「ふぅぅぅぅ!ごちそうさんっした!美味かった!」
「はい、ごちそうさまぁ!」
トマトスパゲッティを平らげると、俺はポケットの中の野菜を種を握りしめた。
「じゃ、行くか!アリス、ライラ!緊急招集だ!」
俺とアリス、ライラは再びトマト菜園に戻ってきた。菜園に関わる話なので、種まき担当のシーダさんを呼んでもらった。
「お待たせ!」
「僕も聞かせてもらっていいかな?」
菜園担当のシーダさんとベータ君が現れた。ベータ君は雑草駆除のアストラだったな。今回は関係なさそうだけど、まいいか。
本当はみんなに話したい。地球のトマトとライラの光がもたらすかもしれない、とんでもない可能性のこと。でも、まだ仮説の域を出ない。期待させすぎてガッカリされても困るし、今はなるべく必要最小限の人選で試したいところだ。
「じゃあ、みんな!まずはこれを見てくれ!」
そう言って手のひらに乗せた地球のトマトの種を見せる。
「これは、トマトの種かしら。うちの農場のトマトの種より小さいけど」
「さすが!種まきマイスターのシーダさん!見ただけで分かるとは!」
照れるシーダさんと、少し置いてけぼりの他のメンバーに俺は説明する。
「これはまぁ、言うなれば新しい品種のトマト、かな?」
(この世界では、だけどな!)
日本の農家の皆さんと、おやっさんの汗と努力の結晶がこの種に詰まってる。
(おやっさん、使わせていただきます!)
俺はその小さな生命を、シーダさんの掌にそっと託した。
「ええ…今、空いてる土壌がないから、種を撒き替えるわね」
彼女はうなずくと、スッとしゃがんで土に手をかざす。
「ん?シーダさん、何してんだ?」
「ふふ、見てたら分かるわ!」
ニヤッと笑うアリス。するとシーダさんは、地上からは見えなかった”すでに植えてあった種”を瞬時に取り出し、俺の渡した種を素早い手つきで等間隔で丁寧に土へと埋めていった。
「すげえ、!これは一体どういうチカラなんだ?」
「私のアストラはエネルスキャン。微弱に発する波動や魔力の流れを感知できるわ!」
スキャンする能力で地面の中にある種を察知してたのか!
「この世界の農場女子、すげえ!」
それにしても!この世界は気候が温かいし、農場の土壌も肥沃で文句なし!
「種まきOK!気温環境はばっちりだ!」
「そうね!芽が出るのは7日くらいかしら?」
アリスが期待を宿した目を俺に向ける。
「うん、それくらいだな!芽が出たら、次はライラの出番だ!」
「え?は、はい!よろしくお願いしますっ!」
とはいえ、収穫まで3か月かぁ…。でも、希望ってのは撒いとかなきゃ芽も出ねぇ。そんなことを考えていたら、不意にベータ君がボソッとつぶやいた。
「あの……早く収穫したいなら、なんとかしましょうか?」
「え、ベータ君?でも、雑草の駆除しても収穫は……」
「いえ!僕のチカラは植物の成長を抑えるアストラです」
「植物の成長を抑える!?なるほど、そのチカラを応用してるのか!」
「だけど僕の弟のグロウは逆。植物の成長を促進するアストラ持ちです」
「弟のグロウ君!?なんだその便利能力!?」
マジの農場チート発覚!…と思ったけど、どうやら効果の範囲が狭いらしい。この広い農場全体では使いどころが難しいってことで、今は木材の伐採現場でときどき働いているそうだ。確かに木材を扱う仕事ならグロウ君の能力はまさしく“金の成る木”だろう。
「そうなると、グロウ君はいつ頃来れそうだ?」
「今日は部屋にいるよ!すぐに呼んでくるね!」
どうやらグロウ君のアストラは魔力の消耗が激しくて、今日はお休みだったらしい。悪かったかなと思いつつ、しばらく待っているとベータ君を少し小さくしたようなグロウ君が登場。
「こんにちは…グロウです」
「天貴です!よろしく。僕の救世主さん!」
「え、ぼ、僕なんて全然…そんな…」
期待をかけすぎたせいか、グロウ君は顔を真っ赤に染めてうつむいてしまった。
「お休み中に呼び出しちゃってごめんな」
「いえ、トマトの苗くらいなら…!」
グロウ君は地球のトマトの種を植えた一画の一点に両手をそっとかざす。
「プランナッ…」
そう小さく呟くと、彼の手のひらからじんわりと緑色の波動が広がっていった。
「おお…」
やがてグロウ君が両手で包むようにかざした一点が、じんわりと温もりを帯びていった。やがて、トマトの種を植えた場所の土が、ピクリとわずかに動いた。そして次の瞬間、小さな命が大地を押しのけるようにして、ぽつんと芽を出した!
「おぉ~~~!!」
歓声があがる。目の前で起きたアストラの奇跡に、一同が感動の声を漏らす。グロウ君は少し照れくさそうに笑いながら、それでも俺たちと一緒にその喜びを分かち合った。
このまま一気に収穫まで持っていけるか!?そう思ったのも束の間、グロウ君がそっと言った。
「でも、あんまり急がせすぎると、質が落ちるかもしれません」
「質が、落ちる?」
聞けば、以前木材を急成長させたとき、見た目は立派でもじっくり育った木材と比べると、材質がもろくて、すぐに割れてしまったとか。なるほど。急がせすぎるとうまく育たないのか。人生と同じだ。栽培チート使わせといて、なに名言っぽいこと言ってんだ。
「毎日少しづつ、多分7日くらいで実がなると思います!」
「1週間か!ありがとう、助かる!」
さあ、芽が出たのならお次は太陽の女神様の出番だ!
「じゃあライラ!このトマト畑の上に光の生成をお願いできるかな?」
「は、はいっ!やってみます!」
ちょこちょこと畑の前に立つライラ。小さく息を吸い込み、手のひらをそっと掲げる。
「……ルーメノ」
ぽわん、と優しい光が生まれる。ふんわりと広がっていくその光は、マジで小さな太陽って感じで崇めるに値する神々しさ。これがただの照明とは、異世界人は見る目ねえな。
「虹の光彩…やっぱりこれ、命の光だ!ライラ、みんなもありがとう!」
小さな太陽に見とれる俺の横顔に、アリスもそっと呟いた。
「私たちこそ、希望をありがとう…」
皆で小さな芽を見守る中、その光は静かにトマト畑を照らしていた。
*****
その夜アリスはひとり浴場にいた。湯気の立ちこめる湯船にゆっくりと身を沈める。まぶたを閉じると浮かんでくる、未来視で視た情景。
―笑顔の天貴と青空―
それだけ。でも、不思議なほど心に残った。掌ですくったお湯に、自分の顔がゆらりと映る。
「きっと、晴れるよね?」
フフッとほんの少し微笑んで湯に映る自分に問いかけた。それは小さな希望。天貴の笑顔が未来にあるなら、きっと立ち向かえる。アリスはその未来を信じることを選んだ。
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