忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第2章:てんぱい異世界の足跡

第28話 天貴、工房へ行く

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 次の日俺は、畑の一画で、またひとつ異世界の常識に驚かされていた。

「プランダッ…!」

 俺の目の前で畑の端っこにしゃがみ込んだベータ君が、指先をスッと土に差し入れるように動かした。すると、そこからうっすらと光るラインが畑の一画に広がっていく。ベータ君の植物の成長抑制のアストラが、地中の植物の成長を止める。

「これでしばらく雑草は生えません。種まきに移ってください」

 俺が昔やってた農業と、違いすぎて泣きそう。

「コンバイン兄貴ー!こっちは慣らし完了でーす!」

 農場スタッフのひとりが、スコップを掲げて手を振っている。その足元には、まるで耕運機で掘り返したかのように、波打っていた。

「ありゃぁ、地表振動!土を柔らかくするアストラだ!名付けてアースウェーブ!」
「コンバインさん!あれってどういう原理なんだ!?」

「原理ぃ……?う~む、分からん!!」
(だはは……まぁ、だろうな!)

 理屈より手と魔力が先に動くのが、この世界の農業らしい。

「天貴!ほら、お前のクワだ!」

 そう言ってコンバインさんが、軽々とクワをぶん投げてくる。

「わわ!ちょ!」

 なんとかそれをパシッとキャッチ。

「危ないですって!俺はラクターさんじゃないんですから!」
「わりぃわりぃ!じゃ、ここから先は汗流すぞ!」

 白い歯を見せて笑うコンバインさん。

(ちぇ…この人、畑仕事してる時はちょっとカッコいいんだよな。)

 うん、でもこうやって土を耕してると、土の匂いが懐かしい。クワを手に改めて畑を見渡すと、みんなが便利なアストラを持ってるわけじゃないって事が分かる。ざっくり耕すのはアストラ班、だけど整地や畝立てはみんなクワを手にコツコツ人力作業。それにしてもこのクワ、なんかめちゃめちゃ耕すのが楽だぞ?一回のふり下ろしで、俺の想像よりも広く、深く、土がめくれていく。

「いや、気のせいじゃないぞ!このクワ、性能バグってる!!」

 パチパチパチパチ……。

 俺が叫んだその瞬間、背後で拍手の音がした。

「ご名答~!晴れ男の天貴くん…だったかしら?」

 びくっとして振り向くと、そこに立っていたのは、すらりと背の高い中性イケメン。陽の光を反射するメガネがきらりと光り、腕を組んだまま俺の作業を観察していた。

「あの、あなたは?」
「私?私はノーグ。農具の発明担当よ?」

 その整った顔立ちと服装は、畑より研究室が似合いそうな出で立ちだ。農具のノーグさん…まぁ、名前覚えやすいのは助かる。

「ところで、このクワって一体なにモンなんですか!?」

 俺の言葉に、ノーグさんがキラリとメガネを押し上げた。

「それは今季からの新作…名付けて爆裂クワよ!!」
「いや、名前っ!!」

 初対面なのに反射的にツッコんでしまった。爆裂て。ノーグさんはそんな俺の動揺など意に介さず、腕を組んで誇らしげに言った。

「そのクワの切っ先には、爆裂鉱石が使われているの」
「爆裂鉱石って!なんすか、その物騒な石」

「あら、知らないの?強い衝撃を受けると内部の魔力が共鳴して、局所的に爆発を起こす超レア鉱石よ」
「いや、それ武器にしたほうが強そうだけど!?」

「ふふ、残念ながら硬度が低いの。打ち合えば砕けるし、武器には向かない。だから使い道がなくて、ほとんど流通してないのよ」
「へぇ…なるほど」

 納得しかけたその瞬間、ノーグさんはキラリとメガネを光らせた。

「でもね?私は気づいたの。爆発の力を真下に伝えれば、土がほぐれるって!」
「は、はぁ…」

「試してみたら大成功!すでに、市場にある分は全部押さえたわ!」
「いや、それ完全に買い占めぇぇ!!」

(この人、発明家ってより経済の脅威だ…)

「つまりこういうこと!」

 ノーグは人差し指を立てて説明を続ける。

「クワを振り下ろすたびに、切っ先の鉱石が圧縮爆発を起こして、地中に振動を伝えるの。だから一振りで通常の五倍……いいえ、七倍の耕し効率!」
(あ。今、倍率盛ったな?)

「使用感に問題なければ鍛冶工房で量産よ!」
「鍛冶工房!?農場なのにそんなものまで!?」

「農場は非武装地帯。武器の製造には国の許可が必要なのになぜ鍛冶工房があるか…気になる?気になるわよね?」

 一気にまくし立てられた理屈とお国事情。最初は片耳で聞いてたのに、気づけば前のめりで聞いてる自分がいる。不思議な鉱物とか、魔法っぽい道具とか…なんかワクワクすんだよな。玄太だったらビシッと正座してふんふんふんって興奮しそうだ。

 正座玄太が脳裏に浮かんで思わずニヤケる俺。

「どう?興味湧くでしょう?ふふっ、あなたも男の子ね?」

 ノーグさんのその言葉に苦笑しつつ、改めてクワを握り直す。さっきとは違う気持ちで、土を耕してみる。

 ボフッ。

(わっ、今の…!?)

 クワの刃が土にあたる瞬間、手元に伝わる微かな爆裂。バチンと小さな反動が手に走って、その勢いのままクワが跳ね上がる。

「これ…威力だけじゃない!反動がいい感じに次の振り上げをサポートしてくれてる!」
「あら、もうそこに気づいたの?勘がいいわね」

 一見ただのクワなのに、まるで、魔法道具を操っているような、そんな快感。土の中がまるで空気になったようにスコスコ耕せる。

「ほっ!ほっ!!これっ!!使いっ!こなせばっ!相当っ!高性能だ、ぞっ!」

 ボフッ!!これもう農業革命じゃん!こういう人が上に立つと、文明って加速するんだろうな。ガシガシと高速で畑を耕す俺を見ながら、農場の皆が驚いている。そんな様子を見ながらノーグさんは誇らしげに微笑む。

「この呑み込みの速さ…あなた、やっぱり普通じゃないわね」
「え?なんですか?」

「いえ…いいわ!来なさい、天ちゃん!私の工房を案内するわ」
「え?でも、畑が…」

 ノーグさんは、振り返りざまにコンバインさんへひらひら手を振る。

「コンちゃん、この子借りるわね~」
「おうよ、連れてけ連れてけ!」

 コンバインさんは片手で“どうぞどうぞ”の仕草。え、なんかもう俺のこと完全にお持ち帰りOKみたいな感じになってる!?

「じゃ、行きましょ」
「は、はいっ!」

 話の展開の推進力がすごい!

(でも、農具工房ってやつ。正直ちょっと…見てみたい!)


 *****

 畑から歩くこと数分。農場の一画に、作業棟らしき建物がいくつも連なっていた。

「へえ、この辺は工場とか工房とか、そういう施設が集まってるんですね」
「そうよ。この辺りには乳製品の加工場、羊毛工場、それに農具の鍛冶場と…」

 ノーグさんが、くるりとターンして手を差し出す。その指先がすっと向いた先に、メカメカしいパーツが埋め込まれた、大きな工房が目に飛び込んできた。

「そしてここが、私の農具発明工房よ!」
「おぉぉぉ!」

 秘密基地感がすごいその建物に、俺は思わずごくりと息を飲む。ノーグさんが扉の取っ手らしきパーツを横に倒す。

「ッゴゴゴゴ…ッ!!」

 低く響く機械音とともに、扉がゆっくりと開いていく。おお…農場の施設とは思えないメカ感…。中からふわりと立ち上るのは鉱物と火薬?あと、ちょっとだけ薬草っぽい香りの混ざった、なんとも言えない発明の香り。

「さぁ、天ちゃん!入って?」

 ノーグさんが一歩先に中へ入り、そのあとをそろりとついていく。

「…うわぁ~!」

 思わず、声が出た。中には、色とりどりの鉱石が棚いっぱいにズラリ。赤、青、緑…見たこともない光を放つやつまである。中央の作業台には大小さまざまなクワにスコップ、黄色い魔石が付いた謎の棒、どう考えても農具に見えない“槍みたいな農具”まで、所狭しと並んでいた。そして、壁一面にはびっしりと貼られた設計図とメモ用紙の嵐が。

【振動鋼ハンマー 試作A→70 試作B→80 試作C→55】
【魔導鉱 安定供給に難あり】
【雷晶石を伝導する畝に必要な素材:鋼糸蜘蛛の糸】


「これ、本当に農具なんですか?メカや武器の開発じゃなくて?」

 口から漏れた呟きに、ノーグさんがくいっとメガネを持ち上げ、キラリと光らせる。

「もちろんよ!私は農具の発明家よ?」
(いや、その笑顔が一番メカ感あるんよ…)

 リリリーンッ。

 突然、工房の入り口のチャイムが鳴った。すぐさまノーグさんが「はいは~い」と軽やかに応じると、扉がゴゴゴと音を立ててスライドオープン。

「お邪魔しま~す、ノーグさん!」

 手には分厚いノートを持つアリスだった。

「アリスちゃんいらっしゃい!依頼の件ね?」
「ええ!武器に変形する農具、どんな感じかなって…あら、天貴!?珍しいところで会うわね」

「ああ、ちょっとな……」
(てか、武器に変形する農具って!?なにその物騒な農具!でもすげえ気になるやつ!)





「ふふ。ちょうど昨日、設計まで進んだわよ?見る?」
「わお!さすが仕事が速い!」

 ノーグさんのその言葉にアリスのみならず俺までワクワクしてくる。

「まずはこれ。一見普通のスコップだけど、格納された4枚の薄刃を縦にスライドさせると、ロングソードになるわ!」

 手持ちシャベルがロングソード!?なにそれかっこよすぎでは!?

「そして、こっちの大型シャベル。中央に折り畳み機構が仕込んであって、畳めばシールドになるわ。内側にはラバーコアを仕込んで衝撃吸収も完璧よ!!」
「すげえ……農具に擬態する武器と防具だ!」

「天ちゃん、言葉に気を付けなさい?あくまでも、武器にもなりえる農具よ?」

 スッとぼけた感じで真面目に言い放つノーグさんにアリスも続ける。

「いい天貴?農場が武装するのは禁じられてるの。これは農具の延長線上で持てるというのが最大のポイントなの」
「名付けて、アグリギアよ!!」

 ノーグさんが両手を広げて高らかに宣言する。

「ふはぁ…天才の発想って、こえぇ」

 横でアリスが満足そうに頷いた。

「いい感じだわ!このまま進めましょ!戦うためじゃなく、農場を守るためにこれが必要なの!」

 その言葉に、ノーグさんも静かに頷いた。

「了解。試作ができたらまた報告するわね」

 アリスは、書き込んでいたノートをパタンと閉じる。

「じゃあノーグさんよろしくね!」
「ええ、アリス。天ちゃんもいつでも遊びに来てちょうだい」

 工房を出た瞬間、背後で金属音が小さく響いた。俺は一瞬だけ振り返と、鉱石の光に照らされたノーグさんの横顔が、少し眩しかった。
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