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第3章:忠犬はてんぱいを追って
第31話 走れ、ゲンタ
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草をかき分け、坂を越え、それでも玄太の足は止まらなかった。見ての通り玄太は走るのは得意じゃない。しかし、すでに魔法陣の余韻が消えたあの場所から、相当な距離を走り続けていた。
「はっ、はっ、ひ~っ!コーラ飲みてぇぇぇ!」
ついには走りが止まる。それでも玄太は少しずつ前に進み続けた。
「クータン…てんぱい大丈夫っすよね……?」
「……」
しかし、クータンからの返事はなく、背中の野菜かごの中でじっと動かずに揺られている。
「クータン?」
未来を見通せるクータンが返事をしない。それが何を意味するのか?まさか…農場はもう!?疲れと足の痛みで思わず弱気になる玄太。
「クータン!ひょっとしててんぱいは…もう!?」
「…………くぅ…くぅ…」
「…おい」
いや、現代であれば眠ってる時間だから仕方ない。ツッコむ暇もなく、玄太は再び前を向いた。
「はぁ…はぁ…よいしょっと!急げ…」
天貴の忘れ物は、小さな相棒が眠る野菜籠を背負いながら、ひたすら届け先を目指した。
「……時にぬしよ…」
「わっ、びっくりしたぁ!寝てたのか!大分近づいたっすよ」
「ふむ。ところでぬしは、転移の時どこか痛まんかったかの」
「よっと!おれ、丈夫だから心配いらないっす!」
「否。そういう事ではない。前脚や後ろ脚、どこか特に痛むところじゃ」
玄太は薄暗い異世界の道を進みながら転移した時の感覚を思い出す。
「うーん、体全部がビリビリして、頭がくらくらになったくらいっすね」
「ふむ、ぬし全体とな」
クータンはそれ以上何も言わなかった。
「ん…?匂いが強くなってきたっすね」
風が吹くと、鼻に焦げた匂いが混じる。焼き畑の時みたいな匂いがする。少し小高い丘から、空に昇る黒い煙の根本を見下ろしてみる。するとついに、横に長く広がる柵のようなシルエットが見えてきた。
「クータンあそこ!」
「防護柵。ふむ、目的地であろうの」
玄太はごくりと唾をのんだ。そのとき、遠くの地平線を大きく旋回する火のような鳥が見えた。柵の外で空中で煙に巻かれて、くすぶるように生まれたそれは、空を舞いながら柵の内部に突撃する。
「火の魔法っ!?ゲームかっての!冗談きついっすよ!」
「攻撃型の異能…容赦ないの」
異世界のリアル戦を目の当たりにした玄太は、本能的に足を止めた。でも、次の瞬間には無意識に足が動いていた。
「ダメだ、今行かなきゃ! てんぱいが!」
火の鳥が火柱に変わり空へと伸びては消え、煙に変わる。
「もうすぐっすよ!てんぱいの武器、絶対届けるっすからね…うっ!」
農場に近づくにつれて、炎で熱せられた風の不快指数が上がっていく。そして間も無く、大勢の人影が見えてくると、クータンが警戒を強めた。
「…ぬしよ、このまま進み、見つかれば厄介なことになりそうじゃ」
「そっすよね。そろそろ警戒モードで」
玄太は兵士に見つからないように、回路から外れて大きく迂回するように、脇の森の中を進む。明かりも土地勘もないが、声のする方向へひたすら突き進むしかない。そして小高い丘の上、柵に囲まれた農場を見下ろすように一望できる場所に出た。しかし、その光景は想像を超える異様さだった。
「…ひでぇ…これが、マジの戦…!」
距離があるとはいえ、聞こえるのは煽るような罵声や怒声。そして悲鳴に似た叫び声。農場のあちこちはから黒い煙が立ち上り、ところどころ焦げて崩れつつある柵。その周りには、剣と槍を持った兵士が集中し、そしてローブをまとった魔術師の姿も見える。まぎれもなく、襲撃の真っ最中。
「せっかくここまで来てるのに、どうやって中に入れば…」
焦る玄太は暗闇に身をひそめながら、農場の外周を見渡す。さすがに正面突破はムリ。柵越えはもっとムリ。そのとき、農場の一番奥の見えにくい場所にある、小さな水路が目に入った。
「あの川?ひょっとして繋がってるんじゃ…?」
兵士は誰も気づいていないが、それは農場の中から柵の下をくぐって外に伸びる細い小さな用水路だった。
「しめた。クータン、泳ぎは得意っすか?」
「泳ぎとな?我が牛生、座布団と籠の中しか知らぬ」
「っすよね。んじゃ、籠の中でちゃんと息止めてるっすよ!」
玄太は身を潜めたまま、大きめに迂回するように用水路に向かって行った。
*****
農場の内側・数刻前
「ぐ、ぐわッ!」
「東側の柵からの侵入を阻止!総員、再配置!」
ラクターさんが弓を引きながら、戦場に響くような声で指示を飛ばす。敵の位置、味方の動き、柵のダメージ…そのすべてを見通して的確に采配を下す。さすが農場の司令塔、ダテに王宮の隊長やってない。
「補強班は急いで柵を補修!コンバインは正門の守備の援護!」
その号令に応え、柵の補強部隊とグロウ君は植物の成長促進アストラで壊れた柵をみるみる補強。そして、コンバインさんは叫びながら気合で開門を阻止する。
「ぐぉぉぉぉ、開けさせねぇぇぇぇぇ!!」
でも、四方から所々に狙われる柵をすべてフォローするには手も足も足りなすぎだ。南側の崩れた柵からは、すでに何人もの兵の侵入を許していた。
しかし。
「農夫はクワしか持てないと思いましたか!?そら、そら!」
「ぐっ、ぐぁ!」
「ふふっ、農具に斬られる気持ちはいかがですか?」
侵入兵には、ノーグさん率いるアグリギア装備部隊が真正面から激突!シャベルソードが鋭く切り込み、スコップシールドがガキィンと火花を散らす!
一方、アリス率いる弓隊は。
「急を要さぬ敵は無視。天貴のカバーを最優先よ!」
その言葉に合わせ、ベータ君とシーダさんが見事な連携で矢を放つ。俺に接近する兵だけをピンポイントで仕留め、他は一切ムダ撃ちなし。まさに効率の鬼。だからこそ、俺は集中できる。農場にとって一番恐ろしいあの魔法、空中をゆらりと舞うあの火の鳥。
(これなら何とかなる!サリィが実在しなくて助かったぜ…)※第23話「天貴、マナを知る」参照
火の鳥の着弾地点を放置すれば、一瞬で燃え広がる。
「そうなる前に…来い、雨雲っ!」
指で空を囲む。天に照準を定めてスキル発動!ゴウッと風が集まり、渦を巻く雲からドバァッと大粒の雨が畑に叩きつけられる。燃え広がる寸前だった火の手は、見事に鎮火されて煙だけがふわりと立ちのぼる。俺のスカイリンク唯一の攻撃、青雷じゃ数に対抗できない。でも、この状況で迷ってる暇なんかない。
「だったら今は、とことんなるしかないっしょ!」
自分でも笑っちゃうけど、でもそれくらいでちょうどいい。だって、あいつならこんな状況でも、こう言うはずだから。
「スカイリンク消防士に!!」
(だろ?…玄太)
*****
一方、柵の外では、なかなか落ちない農場に兵達はヤキモキしていた。
「くそう!また鎮火した!」
「雨を降らせるアストラがいるぞ!」
そこへ、ゲド率いる小部隊が到着する。
「国を堕とした精鋭が!たかが農場に何を手こずっている!?」
「ゲド様!青いツナギの男に雨を呼ばれて、火の手がなかなか回らず…!」
「青いツナギ?あの時の小僧か…ふん」
雨呼びの石による小細工がばれラクター達から屈辱を受けたあの日いた、見慣れぬ青いツナギ小僧。農場から退却する途中、突然アルカノアの空が青く染まった。
「アイツのアストラだったのか…生意気な」
そう言って懐から晴呼びの石を取り出しニヤリとする。かつてこの農場を陥れるために使った雨呼びの石と対になる、赤い宝石だ。
「足の速い者を呼べ!この宝石を、農場に埋めて来るのだ」
(くく…おれはしつこい男だ。同じ手でも何度も使うぞ?)
「はっ!ゲド様!では、この伝令兵を!」
そう言うと、足の速い兵がゲドの前に膝間付いた。
「これを農場内に埋めたら、雨を呼ぶ小僧を探せ!」
伝令兵は敬礼して晴呼びの石を受け取ると、崩れた柵に足早に向かっていった。
「はっ、はっ、ひ~っ!コーラ飲みてぇぇぇ!」
ついには走りが止まる。それでも玄太は少しずつ前に進み続けた。
「クータン…てんぱい大丈夫っすよね……?」
「……」
しかし、クータンからの返事はなく、背中の野菜かごの中でじっと動かずに揺られている。
「クータン?」
未来を見通せるクータンが返事をしない。それが何を意味するのか?まさか…農場はもう!?疲れと足の痛みで思わず弱気になる玄太。
「クータン!ひょっとしててんぱいは…もう!?」
「…………くぅ…くぅ…」
「…おい」
いや、現代であれば眠ってる時間だから仕方ない。ツッコむ暇もなく、玄太は再び前を向いた。
「はぁ…はぁ…よいしょっと!急げ…」
天貴の忘れ物は、小さな相棒が眠る野菜籠を背負いながら、ひたすら届け先を目指した。
「……時にぬしよ…」
「わっ、びっくりしたぁ!寝てたのか!大分近づいたっすよ」
「ふむ。ところでぬしは、転移の時どこか痛まんかったかの」
「よっと!おれ、丈夫だから心配いらないっす!」
「否。そういう事ではない。前脚や後ろ脚、どこか特に痛むところじゃ」
玄太は薄暗い異世界の道を進みながら転移した時の感覚を思い出す。
「うーん、体全部がビリビリして、頭がくらくらになったくらいっすね」
「ふむ、ぬし全体とな」
クータンはそれ以上何も言わなかった。
「ん…?匂いが強くなってきたっすね」
風が吹くと、鼻に焦げた匂いが混じる。焼き畑の時みたいな匂いがする。少し小高い丘から、空に昇る黒い煙の根本を見下ろしてみる。するとついに、横に長く広がる柵のようなシルエットが見えてきた。
「クータンあそこ!」
「防護柵。ふむ、目的地であろうの」
玄太はごくりと唾をのんだ。そのとき、遠くの地平線を大きく旋回する火のような鳥が見えた。柵の外で空中で煙に巻かれて、くすぶるように生まれたそれは、空を舞いながら柵の内部に突撃する。
「火の魔法っ!?ゲームかっての!冗談きついっすよ!」
「攻撃型の異能…容赦ないの」
異世界のリアル戦を目の当たりにした玄太は、本能的に足を止めた。でも、次の瞬間には無意識に足が動いていた。
「ダメだ、今行かなきゃ! てんぱいが!」
火の鳥が火柱に変わり空へと伸びては消え、煙に変わる。
「もうすぐっすよ!てんぱいの武器、絶対届けるっすからね…うっ!」
農場に近づくにつれて、炎で熱せられた風の不快指数が上がっていく。そして間も無く、大勢の人影が見えてくると、クータンが警戒を強めた。
「…ぬしよ、このまま進み、見つかれば厄介なことになりそうじゃ」
「そっすよね。そろそろ警戒モードで」
玄太は兵士に見つからないように、回路から外れて大きく迂回するように、脇の森の中を進む。明かりも土地勘もないが、声のする方向へひたすら突き進むしかない。そして小高い丘の上、柵に囲まれた農場を見下ろすように一望できる場所に出た。しかし、その光景は想像を超える異様さだった。
「…ひでぇ…これが、マジの戦…!」
距離があるとはいえ、聞こえるのは煽るような罵声や怒声。そして悲鳴に似た叫び声。農場のあちこちはから黒い煙が立ち上り、ところどころ焦げて崩れつつある柵。その周りには、剣と槍を持った兵士が集中し、そしてローブをまとった魔術師の姿も見える。まぎれもなく、襲撃の真っ最中。
「せっかくここまで来てるのに、どうやって中に入れば…」
焦る玄太は暗闇に身をひそめながら、農場の外周を見渡す。さすがに正面突破はムリ。柵越えはもっとムリ。そのとき、農場の一番奥の見えにくい場所にある、小さな水路が目に入った。
「あの川?ひょっとして繋がってるんじゃ…?」
兵士は誰も気づいていないが、それは農場の中から柵の下をくぐって外に伸びる細い小さな用水路だった。
「しめた。クータン、泳ぎは得意っすか?」
「泳ぎとな?我が牛生、座布団と籠の中しか知らぬ」
「っすよね。んじゃ、籠の中でちゃんと息止めてるっすよ!」
玄太は身を潜めたまま、大きめに迂回するように用水路に向かって行った。
*****
農場の内側・数刻前
「ぐ、ぐわッ!」
「東側の柵からの侵入を阻止!総員、再配置!」
ラクターさんが弓を引きながら、戦場に響くような声で指示を飛ばす。敵の位置、味方の動き、柵のダメージ…そのすべてを見通して的確に采配を下す。さすが農場の司令塔、ダテに王宮の隊長やってない。
「補強班は急いで柵を補修!コンバインは正門の守備の援護!」
その号令に応え、柵の補強部隊とグロウ君は植物の成長促進アストラで壊れた柵をみるみる補強。そして、コンバインさんは叫びながら気合で開門を阻止する。
「ぐぉぉぉぉ、開けさせねぇぇぇぇぇ!!」
でも、四方から所々に狙われる柵をすべてフォローするには手も足も足りなすぎだ。南側の崩れた柵からは、すでに何人もの兵の侵入を許していた。
しかし。
「農夫はクワしか持てないと思いましたか!?そら、そら!」
「ぐっ、ぐぁ!」
「ふふっ、農具に斬られる気持ちはいかがですか?」
侵入兵には、ノーグさん率いるアグリギア装備部隊が真正面から激突!シャベルソードが鋭く切り込み、スコップシールドがガキィンと火花を散らす!
一方、アリス率いる弓隊は。
「急を要さぬ敵は無視。天貴のカバーを最優先よ!」
その言葉に合わせ、ベータ君とシーダさんが見事な連携で矢を放つ。俺に接近する兵だけをピンポイントで仕留め、他は一切ムダ撃ちなし。まさに効率の鬼。だからこそ、俺は集中できる。農場にとって一番恐ろしいあの魔法、空中をゆらりと舞うあの火の鳥。
(これなら何とかなる!サリィが実在しなくて助かったぜ…)※第23話「天貴、マナを知る」参照
火の鳥の着弾地点を放置すれば、一瞬で燃え広がる。
「そうなる前に…来い、雨雲っ!」
指で空を囲む。天に照準を定めてスキル発動!ゴウッと風が集まり、渦を巻く雲からドバァッと大粒の雨が畑に叩きつけられる。燃え広がる寸前だった火の手は、見事に鎮火されて煙だけがふわりと立ちのぼる。俺のスカイリンク唯一の攻撃、青雷じゃ数に対抗できない。でも、この状況で迷ってる暇なんかない。
「だったら今は、とことんなるしかないっしょ!」
自分でも笑っちゃうけど、でもそれくらいでちょうどいい。だって、あいつならこんな状況でも、こう言うはずだから。
「スカイリンク消防士に!!」
(だろ?…玄太)
*****
一方、柵の外では、なかなか落ちない農場に兵達はヤキモキしていた。
「くそう!また鎮火した!」
「雨を降らせるアストラがいるぞ!」
そこへ、ゲド率いる小部隊が到着する。
「国を堕とした精鋭が!たかが農場に何を手こずっている!?」
「ゲド様!青いツナギの男に雨を呼ばれて、火の手がなかなか回らず…!」
「青いツナギ?あの時の小僧か…ふん」
雨呼びの石による小細工がばれラクター達から屈辱を受けたあの日いた、見慣れぬ青いツナギ小僧。農場から退却する途中、突然アルカノアの空が青く染まった。
「アイツのアストラだったのか…生意気な」
そう言って懐から晴呼びの石を取り出しニヤリとする。かつてこの農場を陥れるために使った雨呼びの石と対になる、赤い宝石だ。
「足の速い者を呼べ!この宝石を、農場に埋めて来るのだ」
(くく…おれはしつこい男だ。同じ手でも何度も使うぞ?)
「はっ!ゲド様!では、この伝令兵を!」
そう言うと、足の速い兵がゲドの前に膝間付いた。
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