35 / 188
第3章:忠犬はてんぱいを追って
第35話 スカイリンクは、進化する
しおりを挟む
小さな仲直りをした俺たちは、二人そろって屋敷に向かった。俺の少し後ろを、背中をわずかに丸めて歩く姿は、まだどこか緊張している。それでも、俺に歩調を合わせてくる足取りは、どこか弾んでいた。
「入れよ!みんなにちゃんと挨拶しようぜ!」
「じゃぁ、おじゃましまーす」
玄太は遠慮がちに靴を脱いで、ちらりと屋敷の奥を見回した。初めて入る大きな屋敷に、目の奥がきょろきょろと落ち着かない。
「にしても、でけえ家っすねぇ…」
「ああ、大勢で住んでるからな!俺もここで下宿してるし」
「へえ…いいすね」
その声はまだ少し鼻にかかっていて、泣いていたのがバレバレだ。そんな玄太の肩を軽く押して、俺はリビングのドアを指さした。
「行けよ。開けてみな?」
(ふっふっふ……玄太のやつ、驚くぞ~)
玄太を誘導しながら、ニヤニヤが止まらない。
「え、入っちゃっていいんすかね?」
少しだけ息を呑んだ玄太が、ドアノブに手をかける。耳が少し赤くなっているのが、なんか可笑しい。
ガチャ……。
――その瞬間。
「あ!天貴お兄さん、おかえりなさい!」
「待ってたぜ!主役たちのお戻りだぁ!」
どっと浴びせられた歓迎と歓声に、玄太は一瞬でフリーズした。目をぱちくりさせたまま、それでも、視線はしっかりごちそうテーブルへ。さすが、食いしん坊の嗅覚だ。
「おわああああぁぁぁっ!?」
叫びと同時に、派手に一歩二歩と後ずさる玄太。
「ま、このごちそう見たらそうなるよな」
テーブルの上には、骨付きの炭火ステーキがドーン!
肉汁あふれるローストチキンの丸焼きがドーン!
焼き立てのパンと、にぎらんサンドの山がドドーン!
さらに、ブリリアントトマトとチーズの山盛りサラダに、黄金色に揚がった謎のカリカリフライ、その他色々からおまけのフルーツまで、全てがキラキラと光っていた。
「異世界ディナーすげえ!だれか、誕生日なんすか!?」
玄太がぐいぐい袖でヨダレを拭いてると、その前にどっしりとした足音が響く。
「ようこそ、アルカノア農場へ。俺はこの農場をやってるラクターだ。よろしくな」
ラクターさんが玄太の前に立ち、ニカッと笑った。
「玄太です!よ、よろしくお願いしまっす!」
(うわ、でけえぇ!異世界版おやっさんだぁ)
「今夜は戦ってくれた皆への感謝の宴だ。それと、君の歓迎会も兼ねて、な」
「え、おれの歓迎……?本当に?」
「それにね、天貴と玄太さんのおかげで農場を守れたこともね」
アリスがふふっと微笑んで、しれっと追い打ち。
「おれとてんぱいの…!?そんなの…神イベントじゃないっすか!!」
玄太のテンションは最高潮。
「さあ、思いっきり食ってくれ!」
ラクターさんの号令と共に一斉に「いただきます!!」と叫んで、宴がスタート。気が付けば玄太は、右手ににぎらんサンド、左手にチキンの丸かじりスタイルで、両手をふるふる震わせてる。その目はもうキラッキラしてて、今にもこの世界に住民票出しそうな勢いだった。
(この国、滅亡してるから無理だけどな)
「ってか、お前、ちょっと落ち着け。初対面でその食い意地はだいぶ攻めてるぞ」
俺が横からツッコむと、玄太は「むひゅっ」て言いながらチキンの骨をキレイに外した。
(っく…今のコイツに何を言っても無駄か)
呆れてふと顔を上げたら、優しい顔で俺を見る女子二人と目が合う。
「天貴、本当にありがと!あなたの新しい技で農場を守れたようなものだわ」
「ほんとです!あの技、すごかったです!どかーんって!」
アリスとシーダさんが、ヒーローを見るような目で俺を見てたけど、俺の中にはちょっとだけ、引っかかるモヤがあった。玄太が俺を支えてくれたところまでは覚えてる。そのあと二人で空に指さして…その後は記憶にモヤがかかってる。
隣ではにぎらん肉をほおばる玄太、そしてチキンをむしゃむしゃしてる玄太。
「…なあ」
なんとなく口を開いた。
「俺の新しい技とか言うけどさ…正直、あんま覚えてないんだよね」
ぽつりと落としたその言葉に、場の空気が一瞬ピタッと止まった。
「……え?」
「だってさ、玄太に“こうしろ”って言われた通りに指差したら…なんかドンって。以上!」
全員がぽかんとした顔になって、開き直った俺に視線が集中する。
「もしかして天貴、あのとき何が起きたか本当に……?」
アリスが戸惑い気味に言いかけたそのとき、元気な声が割り込んできた。
「ってことで!ここで説明タイムっすね!!!」
玄太がずしゃっと立ち上がって、にぎらんサンドの最後の一口を口に放り込んだ。
「今日炸裂したてんぱい必殺の異常気象。その名もっ!!ダウンバーストっす!!」
「ダウンバ……?聞いたことのない言葉だな」
ラクターさんが首をかしげる。
「ダウンバーストっす!上空に溜まった空気の塊が、地表めがけて一気に落ちてくる超下降気流っす!」
「空気の塊が…落ちるのか!?」
玄太に負けない勢いでステーキにかぶりつくコンバインが目をまん丸にして聞き返す。
「そうっす!めっちゃ重たい空気がドォンッと落ちて、ズバァッて破裂して、ビュオーーッて爆風になるんすよ!火なんて一発っす!」
(ドォンッとか、ズバァッとか、こいつらしい説明だな)
「しかもこれ、実在する異常気象なんすよ!」
「で、それを……天貴がスカイリンクで強制的に呼んだって事か……!?」
農場のみんながざわざわっとざわめき始めると、やたら俺に視線が集まってきた。
「俺は実際に起こる天候しか呼び出せないから、さ」
そう言って小さく肩をすくめると、「へぇ~!」っていう感嘆の声があちこちから飛んできた。玄太は「待ってました!」って顔でさらに加速する。
「てんぱいが知ってた天候って、晴れと雨、雷くらいっすよね?やべえやつといえば、台風くらい?」
「ああ。そうだな。ってか、普通はそんなもんだろ?」
「そっすよね!!だから、おれが世界中で実際に起こったあらゆる異常気象を調べてきたんす!その1つが今回のダウンバーストってわけっす!!」
「おい、ネットで調べて来たのか?賢いな、お前…」
「おれ、ゲームで詰まったら速攻調べるタイプなんす」
小声で耳打ちする俺に、玄太はふふんと胸を張る。
「てんぱいのスカイリンクを強化するのは知識!なら、実在するやべえ天候の知識が多いほどてんぱいは強くなるんす!」
「へぇぇ…スカイリンク、やっば…」
自分のスキルなのに、思わず口から漏れたその言葉に、なぜか場がわっと笑いに包まれた。
「なるほどな…つまり、命令する内容次第で、まだまだ色々できるってことか?」
ラクターさんが重々しくつぶやく。
「その通りっす!まだまだ使える異常気象、いっぱい持ってきてるんすよ!」
「知識でアストラが広がる…面白い発想だ」
ラクターさんが口角を上げると、場のボルテージが一気に上がる。
「夢あるな、それ!」
「知識で強くなるのって、なんかいいな!」
アリスも、目をぱちぱちと瞬かせながらうなずいていた。
「知識で…技が増える…?今まで、そんな発想なかった!」
その反応を見た玄太は、「よっしゃ」と言わんばかりにポケットから折りたたんだ紙を取り出す。
「爆弾低気圧!スモッグドーム!コールドスナップに、ヒートウェーブ!てんぱいはまだまだ進化するっすよ!!」
「おお~~~~!!!」
その言葉で、宴は完全にヒートアップした。俺はその盛り上がりのど真ん中で、自分のアストラの可能性に正直ドキドキしていた。そうか…俺のスキルって、そうやって広がるんだ。玄太が調べてくれた、知らない空。その知識が、俺に新しい力を与えてくれる。ひょっとしたら玄太、それを伝えるために異世界へ…?
「……玄太、ありが──」
「締めるのは、ちょっと待つモ!!」
礼を言って感動のまま終わろうとしたこの話。前のめりに割り込んできたモーちゃんに
「もう一つ!モはこの仔牛さん…すっごく気になるモ!」
次の瞬間、みんなの視線がソファのど真ん中でドヤ顔してるクータンに集中する。
「た、確かに!なぜこの仔牛はここにいるんだ?」
ラクターさんまで眉をひそめてクータンをじっと見ている。
「任せるモ!テイマースキルで会話するモ!!」
モーちゃんが片手を突き出すと、頭上にふわりと鼻輪のかたちをした金色の紋章が浮かび上がった。
「アストラ・モーモーコンタクト、発動だモ!」
場の空気がピリッと張り詰めた次の瞬間。
「…ふぉ?牝牛の童よ、何用じゃ」
眠そうで重たいけど、なぜか耳に残る声が場に響いた。みんな一斉に、目をまんまるにしてクータンを凝視する。
『モはモーちゃんだモ!君の味方だモ!』
「……それは頼もしいの。我はクータン、天貴と玄太に愛でられておる」
『それはすごいモ!天貴たちにもテイムの素質があるんだモ!?』
「ふむ、あやつらは良きあるじじゃ」
ふたりが何か感じ合うように見つめ合い、て蹄と手のひらをぺちっと合わせると、空中の紋章がすっと消える。
「よし、通訳するモ!」
くるっとみんなに向き直ったモーちゃんが、胸を張って宣言した。
「この仔牛さんはクータンだモ!天貴と玄太の牛さんで、ふたりにすっごく懐いてるモ!」
その瞬間、場に変な静寂が走った。
「…えっと。今の通訳、いる?」
「いや、ふつうに喋ってたよな?」
「ふむ。そのとおり、我は普通の人語を発しておる」
クータンのマイペースな一言で、モーちゃんがピタッとフリーズする。
「モモモ!?さっきのやり取り、みんな理解してたモ!?」
「モーちゃんこの子、テイマーじゃなくてもしゃべれる仔牛だべ~!」
さすがにこの場で放置しとくわけにもいかず、俺は玄太にそっと目配せした。
「なぁ玄太。ちょっと、説明たのむ」
「えへへ…そっすね。すんませんモーちゃん」
玄太が照れくさそうに一歩前に出て、みんなに向かってぺこりと頭を下げる。
「この子はクータンっす。おれと一緒にここに来たっす。見た目は仔牛だけど、中身はもう…ほぼ人間っす!」
「ふむ。我は天啓の使徒にして、ふたりの運命の導き手なり」
「いや、それちょっと盛ってるっすね!」
笑いと拍手がわっと広がり、クータンはご満悦な様子。
「実は私も、さっきこの子が普通にしゃべっててびっくりしちゃったの!」
そう言ってアリスがクータンの肩に手を置いた。
「じゃあ、その子もアルカノア農場の新しい仲間ってことだな!」
ラクターさんの一言で皆がクータンの周りに集まってくる。
「っは!面白いやつが二人も来たな!俺はコンバイン!よろしく頼む!」
「私ライラよ!クータンすっごくかわいい!よろしくね!」
小さな体から響く不思議な声と、おっとりした仕草にみんなくすくすと笑っていた。気づけば、もう完全に仲間として受け入れられてた。
「クータンは最初てんぱいが育ててたんすけど、おれが託されたんす!」
(玄太?そんなことまで、やけに詳しく説明するんだな?)
玄太がクータンの頭にそっと手を置いた。
「…いわば、てんぱいとおれの…子供みたいなもんす!」
わざとらしく涙を拭く素振りで『良いこと言った!』みたいな玄太。
「お、おい!その表現はちょっと誤解生むだろ!?」
すかさずツッコんだ俺の横で、クータンものそっと口を開く。
「ふむ。玄太には母の味で育ててもらったの」
「ほらそこ!もっとややこしいって!!」
みんながドッと笑って、どこかあったかい雰囲気に包まれていく。
「要するに、すっごい仲良しってことね!」
「なんかもう家族って感じです!」
クータンも交えて、宴会の輪がもうひと回り広がった気がした。
「入れよ!みんなにちゃんと挨拶しようぜ!」
「じゃぁ、おじゃましまーす」
玄太は遠慮がちに靴を脱いで、ちらりと屋敷の奥を見回した。初めて入る大きな屋敷に、目の奥がきょろきょろと落ち着かない。
「にしても、でけえ家っすねぇ…」
「ああ、大勢で住んでるからな!俺もここで下宿してるし」
「へえ…いいすね」
その声はまだ少し鼻にかかっていて、泣いていたのがバレバレだ。そんな玄太の肩を軽く押して、俺はリビングのドアを指さした。
「行けよ。開けてみな?」
(ふっふっふ……玄太のやつ、驚くぞ~)
玄太を誘導しながら、ニヤニヤが止まらない。
「え、入っちゃっていいんすかね?」
少しだけ息を呑んだ玄太が、ドアノブに手をかける。耳が少し赤くなっているのが、なんか可笑しい。
ガチャ……。
――その瞬間。
「あ!天貴お兄さん、おかえりなさい!」
「待ってたぜ!主役たちのお戻りだぁ!」
どっと浴びせられた歓迎と歓声に、玄太は一瞬でフリーズした。目をぱちくりさせたまま、それでも、視線はしっかりごちそうテーブルへ。さすが、食いしん坊の嗅覚だ。
「おわああああぁぁぁっ!?」
叫びと同時に、派手に一歩二歩と後ずさる玄太。
「ま、このごちそう見たらそうなるよな」
テーブルの上には、骨付きの炭火ステーキがドーン!
肉汁あふれるローストチキンの丸焼きがドーン!
焼き立てのパンと、にぎらんサンドの山がドドーン!
さらに、ブリリアントトマトとチーズの山盛りサラダに、黄金色に揚がった謎のカリカリフライ、その他色々からおまけのフルーツまで、全てがキラキラと光っていた。
「異世界ディナーすげえ!だれか、誕生日なんすか!?」
玄太がぐいぐい袖でヨダレを拭いてると、その前にどっしりとした足音が響く。
「ようこそ、アルカノア農場へ。俺はこの農場をやってるラクターだ。よろしくな」
ラクターさんが玄太の前に立ち、ニカッと笑った。
「玄太です!よ、よろしくお願いしまっす!」
(うわ、でけえぇ!異世界版おやっさんだぁ)
「今夜は戦ってくれた皆への感謝の宴だ。それと、君の歓迎会も兼ねて、な」
「え、おれの歓迎……?本当に?」
「それにね、天貴と玄太さんのおかげで農場を守れたこともね」
アリスがふふっと微笑んで、しれっと追い打ち。
「おれとてんぱいの…!?そんなの…神イベントじゃないっすか!!」
玄太のテンションは最高潮。
「さあ、思いっきり食ってくれ!」
ラクターさんの号令と共に一斉に「いただきます!!」と叫んで、宴がスタート。気が付けば玄太は、右手ににぎらんサンド、左手にチキンの丸かじりスタイルで、両手をふるふる震わせてる。その目はもうキラッキラしてて、今にもこの世界に住民票出しそうな勢いだった。
(この国、滅亡してるから無理だけどな)
「ってか、お前、ちょっと落ち着け。初対面でその食い意地はだいぶ攻めてるぞ」
俺が横からツッコむと、玄太は「むひゅっ」て言いながらチキンの骨をキレイに外した。
(っく…今のコイツに何を言っても無駄か)
呆れてふと顔を上げたら、優しい顔で俺を見る女子二人と目が合う。
「天貴、本当にありがと!あなたの新しい技で農場を守れたようなものだわ」
「ほんとです!あの技、すごかったです!どかーんって!」
アリスとシーダさんが、ヒーローを見るような目で俺を見てたけど、俺の中にはちょっとだけ、引っかかるモヤがあった。玄太が俺を支えてくれたところまでは覚えてる。そのあと二人で空に指さして…その後は記憶にモヤがかかってる。
隣ではにぎらん肉をほおばる玄太、そしてチキンをむしゃむしゃしてる玄太。
「…なあ」
なんとなく口を開いた。
「俺の新しい技とか言うけどさ…正直、あんま覚えてないんだよね」
ぽつりと落としたその言葉に、場の空気が一瞬ピタッと止まった。
「……え?」
「だってさ、玄太に“こうしろ”って言われた通りに指差したら…なんかドンって。以上!」
全員がぽかんとした顔になって、開き直った俺に視線が集中する。
「もしかして天貴、あのとき何が起きたか本当に……?」
アリスが戸惑い気味に言いかけたそのとき、元気な声が割り込んできた。
「ってことで!ここで説明タイムっすね!!!」
玄太がずしゃっと立ち上がって、にぎらんサンドの最後の一口を口に放り込んだ。
「今日炸裂したてんぱい必殺の異常気象。その名もっ!!ダウンバーストっす!!」
「ダウンバ……?聞いたことのない言葉だな」
ラクターさんが首をかしげる。
「ダウンバーストっす!上空に溜まった空気の塊が、地表めがけて一気に落ちてくる超下降気流っす!」
「空気の塊が…落ちるのか!?」
玄太に負けない勢いでステーキにかぶりつくコンバインが目をまん丸にして聞き返す。
「そうっす!めっちゃ重たい空気がドォンッと落ちて、ズバァッて破裂して、ビュオーーッて爆風になるんすよ!火なんて一発っす!」
(ドォンッとか、ズバァッとか、こいつらしい説明だな)
「しかもこれ、実在する異常気象なんすよ!」
「で、それを……天貴がスカイリンクで強制的に呼んだって事か……!?」
農場のみんながざわざわっとざわめき始めると、やたら俺に視線が集まってきた。
「俺は実際に起こる天候しか呼び出せないから、さ」
そう言って小さく肩をすくめると、「へぇ~!」っていう感嘆の声があちこちから飛んできた。玄太は「待ってました!」って顔でさらに加速する。
「てんぱいが知ってた天候って、晴れと雨、雷くらいっすよね?やべえやつといえば、台風くらい?」
「ああ。そうだな。ってか、普通はそんなもんだろ?」
「そっすよね!!だから、おれが世界中で実際に起こったあらゆる異常気象を調べてきたんす!その1つが今回のダウンバーストってわけっす!!」
「おい、ネットで調べて来たのか?賢いな、お前…」
「おれ、ゲームで詰まったら速攻調べるタイプなんす」
小声で耳打ちする俺に、玄太はふふんと胸を張る。
「てんぱいのスカイリンクを強化するのは知識!なら、実在するやべえ天候の知識が多いほどてんぱいは強くなるんす!」
「へぇぇ…スカイリンク、やっば…」
自分のスキルなのに、思わず口から漏れたその言葉に、なぜか場がわっと笑いに包まれた。
「なるほどな…つまり、命令する内容次第で、まだまだ色々できるってことか?」
ラクターさんが重々しくつぶやく。
「その通りっす!まだまだ使える異常気象、いっぱい持ってきてるんすよ!」
「知識でアストラが広がる…面白い発想だ」
ラクターさんが口角を上げると、場のボルテージが一気に上がる。
「夢あるな、それ!」
「知識で強くなるのって、なんかいいな!」
アリスも、目をぱちぱちと瞬かせながらうなずいていた。
「知識で…技が増える…?今まで、そんな発想なかった!」
その反応を見た玄太は、「よっしゃ」と言わんばかりにポケットから折りたたんだ紙を取り出す。
「爆弾低気圧!スモッグドーム!コールドスナップに、ヒートウェーブ!てんぱいはまだまだ進化するっすよ!!」
「おお~~~~!!!」
その言葉で、宴は完全にヒートアップした。俺はその盛り上がりのど真ん中で、自分のアストラの可能性に正直ドキドキしていた。そうか…俺のスキルって、そうやって広がるんだ。玄太が調べてくれた、知らない空。その知識が、俺に新しい力を与えてくれる。ひょっとしたら玄太、それを伝えるために異世界へ…?
「……玄太、ありが──」
「締めるのは、ちょっと待つモ!!」
礼を言って感動のまま終わろうとしたこの話。前のめりに割り込んできたモーちゃんに
「もう一つ!モはこの仔牛さん…すっごく気になるモ!」
次の瞬間、みんなの視線がソファのど真ん中でドヤ顔してるクータンに集中する。
「た、確かに!なぜこの仔牛はここにいるんだ?」
ラクターさんまで眉をひそめてクータンをじっと見ている。
「任せるモ!テイマースキルで会話するモ!!」
モーちゃんが片手を突き出すと、頭上にふわりと鼻輪のかたちをした金色の紋章が浮かび上がった。
「アストラ・モーモーコンタクト、発動だモ!」
場の空気がピリッと張り詰めた次の瞬間。
「…ふぉ?牝牛の童よ、何用じゃ」
眠そうで重たいけど、なぜか耳に残る声が場に響いた。みんな一斉に、目をまんまるにしてクータンを凝視する。
『モはモーちゃんだモ!君の味方だモ!』
「……それは頼もしいの。我はクータン、天貴と玄太に愛でられておる」
『それはすごいモ!天貴たちにもテイムの素質があるんだモ!?』
「ふむ、あやつらは良きあるじじゃ」
ふたりが何か感じ合うように見つめ合い、て蹄と手のひらをぺちっと合わせると、空中の紋章がすっと消える。
「よし、通訳するモ!」
くるっとみんなに向き直ったモーちゃんが、胸を張って宣言した。
「この仔牛さんはクータンだモ!天貴と玄太の牛さんで、ふたりにすっごく懐いてるモ!」
その瞬間、場に変な静寂が走った。
「…えっと。今の通訳、いる?」
「いや、ふつうに喋ってたよな?」
「ふむ。そのとおり、我は普通の人語を発しておる」
クータンのマイペースな一言で、モーちゃんがピタッとフリーズする。
「モモモ!?さっきのやり取り、みんな理解してたモ!?」
「モーちゃんこの子、テイマーじゃなくてもしゃべれる仔牛だべ~!」
さすがにこの場で放置しとくわけにもいかず、俺は玄太にそっと目配せした。
「なぁ玄太。ちょっと、説明たのむ」
「えへへ…そっすね。すんませんモーちゃん」
玄太が照れくさそうに一歩前に出て、みんなに向かってぺこりと頭を下げる。
「この子はクータンっす。おれと一緒にここに来たっす。見た目は仔牛だけど、中身はもう…ほぼ人間っす!」
「ふむ。我は天啓の使徒にして、ふたりの運命の導き手なり」
「いや、それちょっと盛ってるっすね!」
笑いと拍手がわっと広がり、クータンはご満悦な様子。
「実は私も、さっきこの子が普通にしゃべっててびっくりしちゃったの!」
そう言ってアリスがクータンの肩に手を置いた。
「じゃあ、その子もアルカノア農場の新しい仲間ってことだな!」
ラクターさんの一言で皆がクータンの周りに集まってくる。
「っは!面白いやつが二人も来たな!俺はコンバイン!よろしく頼む!」
「私ライラよ!クータンすっごくかわいい!よろしくね!」
小さな体から響く不思議な声と、おっとりした仕草にみんなくすくすと笑っていた。気づけば、もう完全に仲間として受け入れられてた。
「クータンは最初てんぱいが育ててたんすけど、おれが託されたんす!」
(玄太?そんなことまで、やけに詳しく説明するんだな?)
玄太がクータンの頭にそっと手を置いた。
「…いわば、てんぱいとおれの…子供みたいなもんす!」
わざとらしく涙を拭く素振りで『良いこと言った!』みたいな玄太。
「お、おい!その表現はちょっと誤解生むだろ!?」
すかさずツッコんだ俺の横で、クータンものそっと口を開く。
「ふむ。玄太には母の味で育ててもらったの」
「ほらそこ!もっとややこしいって!!」
みんながドッと笑って、どこかあったかい雰囲気に包まれていく。
「要するに、すっごい仲良しってことね!」
「なんかもう家族って感じです!」
クータンも交えて、宴会の輪がもうひと回り広がった気がした。
1
あなたにおすすめの小説
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)
N2O
BL
執着王子 × 異世界転生魔法使い
魔法使いが逃げられなくなる話。
『上』『中』『下』の全三話、三連休中に完結します。
二万字以下なので、ショートショート𖤣𖥧𖥣
Special thanks
illustration by okiagsa様(X:@okigasa_tate)
MBM様(X:@MBMpaper)
※独自設定、ご都合主義。あしからず。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる