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第6話 村はずれの小さなギルド
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ギルドのことに詳しそうな武器屋の主人に話を訊きに行くと、
「ギルド?」
「はい、最近この辺りに出来たらしいんですけど……」
「あー、冒険者ギルドってやつか。そういや村はずれにちっこい建物が出来たっけな」
「ちっこい?」
思っていた答えと多少違うがおそらくその建物がそうだろう。
「どこら辺にあるんですか? その建物」
「村の北の方だ。ずっとまっすぐ行きゃあわかるさ」
北の方角を指差し教えてくれる。
「こんな辺ぴなところに冒険者ギルドなんてもん造って冒険者は集まるのかねぇ」
「さあ、どうでしょう。俺今から行ってみますよ」
「そうかい。だったら冒険者たちにうちの店宣伝しといてくれや、村の連中はハサミとかカマしか買ってかねぇからよ」
「はい……じゃあ行ってきます」
武器屋を出ると俺は北に向かって歩いた。
途中、牛を引き連れた村人にしぼりたての牛乳をもらう。
二十分ほど歩いたところで村の境目が見えてきた。
すると、
「ん……あれか?」
辺境の地に似つかわしくないモダンな建物が目に飛び込んでくる。
黒を基調としたデザインの小さい建物がちょこんとたたずんでいた。
「なんか、台風が来たら吹っ飛びそうだな」
本当にギルドなのか半信半疑のまま俺はその建物に近寄っていき扉を開けた。
「失礼します」
建物の中は四畳ほどの部屋にカウンターと椅子があるだけのコンパクトで質素な造りだった。
「あれ? 誰もいない……?」
「あっ、お客さんですか――」
ガン。
「いたっ!」
カウンターの下から声が聞こえたと思ったら頭をさすりながら少女が姿を現した。
「いたたた……えへへ、またやっちゃいました」
俺を見ながら照れくさそうにはにかむ少女。
それにつられて俺も少しだけ微笑む。
「大丈夫?」
「あ、はい。わたしこう見えて頑丈なので平気です! 頑丈なのが取り柄ですから!」
「ならいいけど」
「あっ、それってミルクですかっ?」
少女は俺の持っていた牛乳を見ると声を上げた。
「ああ、牛乳だよ」
「やっぱり背が高い人はミルクを飲むんですね~」
目を輝かせながら「いいな~」と俺の持つ牛乳をみつめている。
「……欲しいのか?」
「い、いえ。わたしは別にそんな……」
「やるよ。もらいもんでよければ」
「え、いいんですか! わーい」
無邪気に喜ぶ少女。
「なあ、ここって冒険者ギルドだよな?」
「はい、そうですよ。わたしは受付を任されているコロンです。あなたはどなたですか?」
牛乳を大事そうに両手で持つと十代前半くらいに見えるコロンと名乗った少女はカウンターの向かい側にあった椅子に腰かけた。
椅子の足が短いのか、それともコロンが小さすぎるのか、カウンターで半分顔が隠れてしまっている。
「俺はスタンス。何か仕事がないかと思ってきたんだよ」
「? 仕事ですか? ここはわたし一人で間に合ってますけど……」
コロンは大きな目をぱちくりさせる。
「いや、そうじゃなくて冒険者の仕事ってあるかな?」
「あ~、な~んだ、冒険者さんになりたいんですね。わたし勘違いしちゃいました、えへへ」
とコロンは屈託のない笑顔を見せた。
「きみって年いくつ? 働いてもいい年齢なの?」
いくら辺境の地でもこんな小さい子どもがギルドで働くのはどうなのだろう。
いろいろと心配になって訊いてみた。
「わたしですか? 十七歳ですよ、えっへん」
「十七!?」
こんな小さいのに俺と同い年かよっ。
小さい胸を張っている少女はとても同い年には見えない。
「わたしのお姉ちゃんがジョパン国のギルドで受付のお仕事をやっているんですけどそれを見てわたしもやってみたいなぁって思っていたらセンザン地区に新しくギルドが出来るって聞いてすぐに応募したんですっ」
コロンは興奮した様子で続ける。
「そしたら見事に受かったんですよっ。ここのギルドは三日前に完成したんですけどスタンスさんがここのお客さん第一号なんですっ」
「へー」
まさか俺とタメだとは思わなかったが正規の職員のようなのでとりあえずは一安心だ。
「それで、依頼はあるのか?」
「え~っと、あるにはあるんですけどまだ出来て間もないギルドなので数が少ないというか、その~……一つだけというか」
「一つしかないのか? 依頼」
「……はい、すみません」
小さくうなずくコロン。
「それはどんな依頼なんだ?」
「こちらですけど」
いそいそと一枚の依頼書をカウンターの上に置いた。
「なになに……依頼ランクA。ミノケンタウロス退治。報酬は金貨五枚……?」
依頼書にはミノタウロスから突然変異したミノケンタウロスがクォーツ地区の山奥で暴れまわっているので退治してほしい旨が書かれていた。
「え? ランクAなのに報酬はたったの金貨五枚?」
依頼にはランクEからランクAまでがありランクに応じて難しさや報酬が変わってくる。
ランクAというのは最も難易度が高く報酬も桁違いに高い。
金貨百枚以上がランクAの報酬の相場のはずだが……。
「はい、普通は依頼者の方がお金を支払うんですけどこの依頼は貧困層の方が住むクォーツ地区の自治体による依頼なので報酬が極端に少ないんです。報酬が危険度に見合っていないので誰も引き受けようとせずこっちの方まで回ってきたんですよ」
ランクAで金貨五枚か……確かに割に合わない仕事だな。
……だが、当面の生活費のためにはお金を稼がないといけないし。
「……これ受けるよ」
背に腹は代えられない。
俺は依頼書を手に取った。
「えっ!? だ、駄目ですよ、初心者の方はランクEの依頼しか受けられませんからっ」
コロンは俺から依頼書を取り戻そうと短い手を伸ばす。
「倒した証拠は角でも持って帰ってくればいいのか?」
「駄目ですったら! それ返してくださいっ、死んじゃいますよっ!」
「クォーツ地区か、結構遠いな」
「聞いてくださいよっ。その依頼はベテランの冒険者さんたちが大勢でやるような依頼なんですっ! あなた一人じゃどうにもなりませんってばっ!」
「じゃあ行ってくるから金貨五枚用意しておいてくれ」
「ちょっと、スタンスさんっ! あなたが死んだらわたしの責任になっちゃうんですよっ……!」
カウンター越しにあたふたするコロンを置いて俺はギルドをあとにした。
「ギルド?」
「はい、最近この辺りに出来たらしいんですけど……」
「あー、冒険者ギルドってやつか。そういや村はずれにちっこい建物が出来たっけな」
「ちっこい?」
思っていた答えと多少違うがおそらくその建物がそうだろう。
「どこら辺にあるんですか? その建物」
「村の北の方だ。ずっとまっすぐ行きゃあわかるさ」
北の方角を指差し教えてくれる。
「こんな辺ぴなところに冒険者ギルドなんてもん造って冒険者は集まるのかねぇ」
「さあ、どうでしょう。俺今から行ってみますよ」
「そうかい。だったら冒険者たちにうちの店宣伝しといてくれや、村の連中はハサミとかカマしか買ってかねぇからよ」
「はい……じゃあ行ってきます」
武器屋を出ると俺は北に向かって歩いた。
途中、牛を引き連れた村人にしぼりたての牛乳をもらう。
二十分ほど歩いたところで村の境目が見えてきた。
すると、
「ん……あれか?」
辺境の地に似つかわしくないモダンな建物が目に飛び込んでくる。
黒を基調としたデザインの小さい建物がちょこんとたたずんでいた。
「なんか、台風が来たら吹っ飛びそうだな」
本当にギルドなのか半信半疑のまま俺はその建物に近寄っていき扉を開けた。
「失礼します」
建物の中は四畳ほどの部屋にカウンターと椅子があるだけのコンパクトで質素な造りだった。
「あれ? 誰もいない……?」
「あっ、お客さんですか――」
ガン。
「いたっ!」
カウンターの下から声が聞こえたと思ったら頭をさすりながら少女が姿を現した。
「いたたた……えへへ、またやっちゃいました」
俺を見ながら照れくさそうにはにかむ少女。
それにつられて俺も少しだけ微笑む。
「大丈夫?」
「あ、はい。わたしこう見えて頑丈なので平気です! 頑丈なのが取り柄ですから!」
「ならいいけど」
「あっ、それってミルクですかっ?」
少女は俺の持っていた牛乳を見ると声を上げた。
「ああ、牛乳だよ」
「やっぱり背が高い人はミルクを飲むんですね~」
目を輝かせながら「いいな~」と俺の持つ牛乳をみつめている。
「……欲しいのか?」
「い、いえ。わたしは別にそんな……」
「やるよ。もらいもんでよければ」
「え、いいんですか! わーい」
無邪気に喜ぶ少女。
「なあ、ここって冒険者ギルドだよな?」
「はい、そうですよ。わたしは受付を任されているコロンです。あなたはどなたですか?」
牛乳を大事そうに両手で持つと十代前半くらいに見えるコロンと名乗った少女はカウンターの向かい側にあった椅子に腰かけた。
椅子の足が短いのか、それともコロンが小さすぎるのか、カウンターで半分顔が隠れてしまっている。
「俺はスタンス。何か仕事がないかと思ってきたんだよ」
「? 仕事ですか? ここはわたし一人で間に合ってますけど……」
コロンは大きな目をぱちくりさせる。
「いや、そうじゃなくて冒険者の仕事ってあるかな?」
「あ~、な~んだ、冒険者さんになりたいんですね。わたし勘違いしちゃいました、えへへ」
とコロンは屈託のない笑顔を見せた。
「きみって年いくつ? 働いてもいい年齢なの?」
いくら辺境の地でもこんな小さい子どもがギルドで働くのはどうなのだろう。
いろいろと心配になって訊いてみた。
「わたしですか? 十七歳ですよ、えっへん」
「十七!?」
こんな小さいのに俺と同い年かよっ。
小さい胸を張っている少女はとても同い年には見えない。
「わたしのお姉ちゃんがジョパン国のギルドで受付のお仕事をやっているんですけどそれを見てわたしもやってみたいなぁって思っていたらセンザン地区に新しくギルドが出来るって聞いてすぐに応募したんですっ」
コロンは興奮した様子で続ける。
「そしたら見事に受かったんですよっ。ここのギルドは三日前に完成したんですけどスタンスさんがここのお客さん第一号なんですっ」
「へー」
まさか俺とタメだとは思わなかったが正規の職員のようなのでとりあえずは一安心だ。
「それで、依頼はあるのか?」
「え~っと、あるにはあるんですけどまだ出来て間もないギルドなので数が少ないというか、その~……一つだけというか」
「一つしかないのか? 依頼」
「……はい、すみません」
小さくうなずくコロン。
「それはどんな依頼なんだ?」
「こちらですけど」
いそいそと一枚の依頼書をカウンターの上に置いた。
「なになに……依頼ランクA。ミノケンタウロス退治。報酬は金貨五枚……?」
依頼書にはミノタウロスから突然変異したミノケンタウロスがクォーツ地区の山奥で暴れまわっているので退治してほしい旨が書かれていた。
「え? ランクAなのに報酬はたったの金貨五枚?」
依頼にはランクEからランクAまでがありランクに応じて難しさや報酬が変わってくる。
ランクAというのは最も難易度が高く報酬も桁違いに高い。
金貨百枚以上がランクAの報酬の相場のはずだが……。
「はい、普通は依頼者の方がお金を支払うんですけどこの依頼は貧困層の方が住むクォーツ地区の自治体による依頼なので報酬が極端に少ないんです。報酬が危険度に見合っていないので誰も引き受けようとせずこっちの方まで回ってきたんですよ」
ランクAで金貨五枚か……確かに割に合わない仕事だな。
……だが、当面の生活費のためにはお金を稼がないといけないし。
「……これ受けるよ」
背に腹は代えられない。
俺は依頼書を手に取った。
「えっ!? だ、駄目ですよ、初心者の方はランクEの依頼しか受けられませんからっ」
コロンは俺から依頼書を取り戻そうと短い手を伸ばす。
「倒した証拠は角でも持って帰ってくればいいのか?」
「駄目ですったら! それ返してくださいっ、死んじゃいますよっ!」
「クォーツ地区か、結構遠いな」
「聞いてくださいよっ。その依頼はベテランの冒険者さんたちが大勢でやるような依頼なんですっ! あなた一人じゃどうにもなりませんってばっ!」
「じゃあ行ってくるから金貨五枚用意しておいてくれ」
「ちょっと、スタンスさんっ! あなたが死んだらわたしの責任になっちゃうんですよっ……!」
カウンター越しにあたふたするコロンを置いて俺はギルドをあとにした。
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