勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

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第65話 トリプルアクセル

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「クォーツ地区から飛んできたぜ。文字通りなっ」
マーキュリーが空から俺を見下ろす。

「マーキュリー、お前どうしてっ!?」
「久しぶりに村に訪ねに行ったらここだっていうからよ」
「いつの間に空飛べるようになったんだ、お前っ?」
「練習したのさ。おれは薬師より魔法使いの方が向いているのかもなっ」
マーキュリーがにかっと笑った。

とそこへ、
「サンダーボルトっ!」
右後方から年老いた男の声。
ガシュウ国の兵士たちの頭上に稲妻が落ちる。

振り向くとそこには、
「ダンテ!? なんでここに!?」
砂煙の間から杖をついたダンテの姿が見えた。

「ほっほっほ、わしだって自分の住んでおる国くらいは守らんとな」
白いあごひげをわしゃわしゃする癖は相変わらずだ。

さらに今度は左後方から、
「「トルネードウインド!!」」
女性の声が重なって聞こえた。

エクスプロージョンを連発していたマヌタフに渦状の突風が二つ襲い掛かる。
「ぐおっ!?」
マヌタフは後ろに吹き飛ばされた。

俺はバリアを解き振り返る。
するとそこにいたのは、
「あんたにしては珍しく苦戦してるみたいじゃない」
「……」
「ってちょっとあんたもなんか言いなさいよっ」
「なんか」
ミネーナとアイリーンだった。

「ちょっと何この子? ねえクロード、この子あんたの知り合いよねっ? ここに来る途中で会ったんだけど!」
「ミネーナ! アイリーン! お前たちまで来てたのかっ」
ミネーナは派手な露出度高めの服を着てアイリーンの手を握っている。
アイリーンはというといつものように俺をみつめにへら~と笑っていた。

「俺は今マヌタフって奴と戦っていて手が離せないんだ! みんなはガシュウ国の兵士たちの動きを止めてくれ!」
「わかったぜ!」
「任せんしゃい!」
「仕方ないわね!」
「おー!」
頼もしいみんなの声が返ってくる。

とそこへ、
「いつまでもよそ見してるんじゃねぇ!」
遠くまで飛ばされていたマヌタフが俺に向かって殴りかかってきた。

「ぐあっ!」

ダブルアクセルを使っているのだろう、スピードもパワーも魔法使いのそれではない。
桁違いの破壊力だ。
俺はその衝撃で地面をごろごろと転がる。

「貴様も大魔法導士なんだろ? だったらオレ様と一緒だな。周りの奴らをゴミクズとしか思ってないだろ? くくくっ」
「ぐっ……俺はお前とは違う」
口から流れ出る血を拭う。

「違うもんか。この状態のオレ様の一撃をくらって立ち上がれる人間なんてこの世に貴様くらいしかいない」
「うぐぐっ……」
膝に力が入らない。手で押さえつけてなんとか立てている。

「貴様もこんな世界飽き飽きしてるんだろ? 本当は全部ぶっ壊してやりたいんだろ。なあ? 後輩」
「お、お前が……先輩面するなっ!」

突然真顔になるマヌタフ。
「ふん。クロード・ディスタンスは天才だと聞いていたが期待外れだったようだ」
そう言いながら一歩ずつ近づいてくるマヌタフ。

「同じダブルアクセルを使っているのにこの力量差。やはり大魔法導士はオレ様一人で充分か」
マヌタフは手を伸ばしてきた。
俺はそれを避けようと空へ飛びあ上がるが足を掴まれ地面に叩き落される。
「がはっ!」

「もう飽きたから殺すぜ」
マヌタフは倒れている俺の首を握りしめるとそのまま片手で持ち上げた。

「か、かはっ……」

「スタンスっ!」
「クロードっ!」
「クロードっ!」
「……っ!」
俺の窮状を見て四人がマヌタフに攻撃を仕掛けようとするが、
「エクスプロージョン!」
マヌタフが四人を吹っ飛ばした。

あ、ああ……みんな……。

とその瞬間俺の頭の中に呪文が浮かび上がってきた。

……俺の知らない魔法だ。

意識が薄れゆく中、俺はそれを口にした。

「……ト、トリプル……アク……セル」

その刹那、俺の体が金色の光に包まれた。

全身に力がみなぎり首の筋肉だけでマヌタフの手をはじき飛ばす。

「なっ!?」

そして、
「くらえっ!」
俺は全力でマヌタフのみぞおちを撃ち抜いた。

「がはぁっ……!!」

口からよだれと胃液を吐き出しながら後ろに吹っ飛ぶマヌタフ。


「そ、そんな隠し玉があった……とは……な……」
マヌタフは地面に突っ伏しながらつぶやき意識を失った。


「……や、やったのか?」
マーキュリーが起き上がりながら訊いてくる。

「ほっほっほ。あのマヌタフをやりおったわい」
ダンテも無事だったようだ。近寄ってくる。

「っていうかあんたそれ近付いても大丈夫なの?」
「……」
ミネーナとアイリーンも手をつなぎながら俺のもとへ歩いてくる。
アイリーンは爆発の瞬間バリアを張っていたらしい。二人とも無傷だ。

みんなが俺のもとに集まった。
「スタンス、あいつら退散していったぜ」
とマーキュリー。
見るとガシュウ国の兵士たちはみな一様に武器を捨てて我先にと逃げ帰っていく。

「おーい! 国王と馬鹿王子に伝えとけよ! 次やったらただじゃ済まないってな!」
声を飛ばしてからマーキュリーが「へへっ、さすがにジョパン国にあんたがいたらもう襲ってこないだろ」と白い歯を見せ無邪気に笑う。

「それにしてもあのマヌタフを倒してしまうとはのう。お主もう魔王も一人で倒せるんじゃないのか」
ダンテが倒れているマヌタフを見ながら言った。

「魔王ね……こんな時にリックは何をやってるのかしらね」
遠い目をするミネーナ。
もしかしてまだリックに未練があるのだろうか?
怒りそうだから訊きはしないけど。

「……その魔法あとで教えて」
俺を指差しながらアイリーンが口を開く。

「これか? 必死だったからよく覚えてないけど、まあいいぞ」
「……やった」
アイリーンはいつものようににへら~と笑った。

「あっ、ずりぃ。おれにも教えてくれよなっ」
「わかったからひっつくな、マーキュリー」


こうしてジョパン国とガシュウ国の戦争は回避されたのだが両国民の多くはその事実を知ることはなかった。
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