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四章 ミートパイ事件
精霊に愛される子
しおりを挟む空が暗くなり始めた頃。
学校では200人近い生徒が講堂や体育館へ運ばれて治療を受けていた。
毒にあたらなかった生徒は、倒れている生徒達の看病をしていた。講堂の様子を見に来たイオもすぐにその手伝いにまわった。
「無茶をしたせいか、通常より毒のまわりが早い……いかん! 脱水症状をおこしておる、すぐに解熱剤を持って来なければ!」
騒がしい講堂の中で、イオがその声を拾ったのはたまたまだった。校医マムは焦った様子でその生徒の傍を離れた。
イオは一人になったその生徒が気になって傍に寄った。
「あっ」
そこに横たわっていたのは寮長ディーン。密かにイオの監視をしている人物である。
(この人は……僕を探している人。でも放っておけないよね)
イオはディーンの隣に駆け寄った。真っ白な肌は熱で赤くなり、大粒の汗が流れていた。
イオはすぐさまタオルを水で冷やしてしぼり、ディーンの額に乗せた。
「っ……、きみ……は……っ」
その冷たさで意識を取り戻したらしいディーンが、薄目を開けて荒い呼吸と共に掠れた声を出した。
「目が覚めたの? 大丈夫? 何か、僕にして欲しい事ある?」
「み……ず……っ」
「水が飲みたいの? 起きあがれる?」
「……ッ……!」
起きあがろうとしたディーンだったが、僅かに動いただけですぐに顔を歪ませ苦しそうに呻いた。
「無理はしないで……飲ませてあげる」
イオはそう言って自身の口に水を流し込むと、迷いなくディーンの口元に顔を寄せて、口移しで水を飲ませた。
「ン……っ、もっと……」
口を離すとディーンにせがまれ、イオは三度口移しで水を飲ませた。
「ありがとう……」
「もういいの?」
「うん……大丈、夫……」
ディーンがそう言ったが未だに苦しげな表情を見て、イオはそっとサンドマンを召喚した。
「お願い……眠らせてあげて。せめて彼が苦しまない様に」
イオの命令にサンドマンは頷いて眠りの粉を振りまいた。
「待って……」
意識を失う直前、ディーンは気力を振り絞ってイオの袖を掴む。
「君の名前……まだ、聞いて、ない……」
「僕の事、調べたんじゃないの?」
「……気付いてたんだ?」
驚いたように目を見開くディーン。
「勝手に、つけまわしてごめん。知ってるけど、でも、君の口から……ちょくせつ聞きたいんだ……」
「……イオ。それが僕の名前」
「なる、ほど……ね。『精霊の愛し子』……とても、いい名前だね……」
ディーンはイオの名前の由来を知っていた。精霊語の為、人間界でも余程精霊に詳しくないと知らないその言葉を。
もっとも、彼は精霊のハーフなので、イオは別段驚きはしなかったけれど。
「イオ……か。そうか……君にとっては、僕は、ただの……人、なんだね」
ディーンの言いたいことはイオにはよくわからなかった。ただ、眠りに着く直前の彼の表情はとても穏やかだったから悪い意味ではなかったのだろう。
『いいんですか? イオ様。こいつイオ様を探ってた奴でしょ』
隣で見ていたサンドマンがディーンを指差して訊ねる。
「でも……悪い人には見えないから」
『イオ様ったら人がいいんだから。そんなんじゃ、いつか騙されてえらい目にあいますよ?』
「いいんだ。見て見ぬふりするよりは騙される方がいいから」
『……はぁ。まっ、そんなイオ様がおれっちは大好きだけどね』
「ありがとサンドマン。あのね、他にも苦しんでいる生徒達がいっぱいいるんだ。彼らも眠らせてあげて欲しいんだけど」
『了解! おれっちにまかせて!』
こうしてイオとサンドマンは苦しんでいる生徒達に眠りを提供し続けた。
しかし、眠りで一時的に苦痛から解放されても根本的な解決にはならない。
解毒剤が無い限り、彼らの苦しみは続くのだ。その苦しみを断ち切れるのは――。
「お願い、アーサー、トシキ……無事に帰ってきて」
イオは月に向かって、マレー谷に居る二人を想い両手を合わせて祈った。
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