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四章 ミートパイ事件
憧れの存在
しおりを挟む「レイ!」
「やっぱりディーンもそこにいたか。丁度いい」
「頭の具合はもういいの?」
「うっ! さっきの事はもう忘れろ……忘れてくれ」
レイはわざとらしく咳払いをしてから話しはじめた。
「先程、城から使いが来た」
「城から?」
「あぁ。実は昨夜、王宮に行ってモルドレット殿下に会って来たんだ。事情を説明したら、すぐに動いてくれた……プリーメル理事長が殿下の護衛騎士団を抜けてこちらの仕事に専念する事になったんだよ」
「プリ―メルって……まさかモルドレット様の護衛騎士団長の?」
「他に誰がいるんだよ」
プリ―メルと言えば、リサイア学園理事長にして、モルドレットの護衛騎士団長を務める男だ。
普段は常にモルドレットの傍を離れずに、その御身を守り続ける彼の右腕的存在だった。
「なっ!? 正気か、モルドレット様!」
「俺も止めようとしたんだけど……『大切なお前がいる学校だ。プリ―メルには暇を出す』って言って即決だったんだよ」
「馬鹿!! そこは血を吐いてでも止めろよ! 万が一、殿下に何かがあったらどうするつもりだ!?」
ガーネット達がここまで怒るのには理由がある。プリ―メルは最も偉大な魔法使い、オディアの弟子にあたる。弓矢の名手であり、軍にいた頃は将軍まで上り詰めた大物だ。そして、オディアの次に頑強な結界の張れる防御魔法にも強い魔導師であった。
モルドレットは今日まで、彼の結界で守られて生活していたのである。プリ―メルを失うということは、彼を守る結界が奪われる事を意味していた。
「モルドレット様の事なら心配いらねーよ。あの人、すっげー強いんだぜ。それに夏休みの間は俺が護衛につく事になったから」
「え? それじゃあ、プリ―メル様は夏休み中も学校に?」
「あぁ。犯人達の狙いは生徒かもしれねーが、はっきりしたことはわからねーからな。用心に越した事は無いだろ? 夏休み中は結界を張って、学校の中で事務仕事に専念するそうだ」
「それにしても……まさかプリ―メル様を出してくるとは……」
「あの人はこの件に負い目を感じてんだよ。学校から学園長を追いだしたのは、他ならぬモルドレット様だったから。もし、オディア様がいれば最初からこんな事件は起きなかっただろうからなぁ……」
確かにこの学校にオディアがいれば、状況は随分変わっていたはずだった。
しかし、オディアは未だ西の果ての地から抜けられない状況にある。
「今オディア様を前線から外す事は戦争の敗北を意味する……だから、身を削る想いでプリ―メルを手放したんだろうぜ。まぁあの人は元々、理事長と護衛隊長を兼任させる事に反対だったらしくて、理事長の方を辞めさせたがっていたみたいけど」
「そうだったのか……モルドレット様がそんなことを」
「あぁ。かっけーだろ? 俺、昔からあの人に憧れてんだ」
「へぇ、レイがねぇ」
意外そうにディーンが相槌を打つ。
「そういえば、レイはモルドレット様と幼い頃から交流があったそうだな」
「まぁ、従兄弟同士だからな。剣術もあの人に教えてもらったし、希少な魔導書をくれたりして結構可愛がってもらったよ」
「お優しい方なんだな」
「おう! 強くて優しくて、俺にとっては兄貴のような存在さ。だから……あの人は、俺が命を懸けて守る」
レイが拳を握りしめてはっきりと宣言した。その言葉には並々ならぬ覚悟が感じられた。
「……そうか。モルドレット殿下の事は心配だが、お前が傍にいれば大丈夫だろう。プリーメル理事長が戻ってくるおかげで、学園は守られそうだな」
「うん。プリ―メル様がいらっしゃる以上、犯人も手が出せないだろうし……それじゃあ、犯人探しの事は風紀委員に任せるよ」
「一番厄介な仕事を……」
あっさりと厄介事を押し付けたディーンにガーネットが顔を顰める。
「そっちの方が燃える癖に。ほら、君の後輩達はやる気満々みたいだよ」
ディーンにそう言われて、ガーネットはコウとシアンを振り返った。二人とも目は爛々と輝きやる気に満ちていた。
「二人とも顔に似合わらず好戦的だよねぇ」
「そうではなくては風紀委員は務まらないんだよ」
「ふふっ、まっ、頼もしいけどね。じゃあそろそろ寮に戻ろうか、エルマン」
話はとりあえず終わったと、ディーンはテーブルに置いてあるお菓子を全部口の中に放り込んで立ち上がった。
「はい……俺、監督生で良かったっす」
「あはは!! 元から君には風紀なんて絶対無理だって。生徒会は生まれ変わっても絶対無理」
「あぁ……完全に復活されましたね、寮長。昨日までは大人しかったのに……」
グサグサと心を刺す言葉に打たれながら、エルマンはディーンと共にガーネット達に別れを告げて風紀室を去った。
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