102 / 176
四章 ミートパイ事件
紙袋の中身
しおりを挟むミートパイ事件に揺れた学園が、いつもの落ち着きを取り戻したのはそれから一週間後の事だった。
こんなにも早く収拾がついたのは、プリ―メルが学園に戻ってきた事も生徒達が安心した一つの要因ではあったが、最大の理由は目前に迫った長期休暇だ。
そして、今日は終業式前日であり、またテスト結果発表が行われる日であった。
この日、今年初めての一年S組の生徒が誕生した。テスト前からS組昇格間違い無しと周囲に言われていたイーヴル使いアレンが、見事に全教科学年一位という期待以上の快挙を成し遂げたのだ。
そして、風紀委員のパーシル、ヴァル、グレイスは見事にA組昇格を果たしていた。
一方でクラスが変わらない生徒もいる。その一人が、落ちこぼれ同盟エントリーナンバー3、トシキである。
「ふぅ……退学は免れたか……」
学年で最下位の成績を収めた彼は、散々成績よりも無事に退学を免れた事に満足した様子で、貼りだされた順位表を見上げていた。
退学を免れた事を知ると、人混みが多いその場を離れて中庭の方へと向かった。
「お、おいっ!」
人気のない廊下を歩いていると、背後から声をかけられた。自分にかけられた言葉であると自覚していたが、トシキは足を止めなかった。それどころか、はっきりと嫌そうな顔をして速度を上げる。
「ちょっ、待てってば!!」
「……何の用でしょうか? レイ生徒会長様」
不機嫌な声を出しながらトシキは足を止めた。しかし、顔は決してレイを見ようとせずそっぽ向いている。
「……あの……その、よ……」
しかし、レイはトシキを引き留めたものの、なかなか話を切り出そうとしない。トシキは不機嫌なのを隠そうともせず、冷たい声で告げた。
「俺、今忙しいので用事が無いなら行ってもいいですか?」
本当は全く忙しくないのだが、この後アーサーやイオ達と茶会の約束をしていたのは事実だった。
『さっさと話を切り上げてアーサー達の所へ向かおう』とトシキが再び歩き出そうとした時だった。
「っ! こ、ここここれっ!」
レイが小さな紙袋をトシキの前に突き出した。
「は?」
「だ、だから!! これ、やるっ!」
唐突過ぎてどうすればいいかわらかないトシキが、腕を組んだまま動かずにいると、レイは無理矢理トシキの手に紙袋を突っ込んだ。
「ちょっ……なんだよこれ?」
当惑しつつ訊ねると、レイは顔真っ赤にしながら、
「いいから!……とっとけ!!」
と、それだけ言ってトシキの前から逃げるように去って行った。
「あいつ、なんなんだよ一体……」
シキはぶつぶつと文句を言いながらも、レイが置いていった紙袋の中をがさごそと探ってみる。
中から出てきたのは意外なものだった。
「なんだ? コレ」
トシキがいつものお茶会場所に到着した時、イオとアーサーは先に着いていて、お茶を飲んでいた。
「あ! トシキ遅かったね!」
「んーちょっとな」
「あれ? トシキが手に持ってるの……それ、ねこじゃらしじゃない!」
イオがすぐにトシキが持っているものに気づいて反応する。
「ねこじゃらし? これが?」
ピンク色の長い稲穂のような毛が先っぽについた棒を、トシキは軽く揺らしながら訊ねた。
「しかもそれは、ケットシー用の高級ねこじゃらしだ。ケットシーが大好きなマミュール草が使われている。マミュール草は入手困難だからかなり高額なんだが、女性にはとても喜ばれるから貴族の間では好きな人への贈り物の定番商品になっているんだ」
アーサーは見た事がある商品のようで詳しかった。
「ケットシー用なのに人気なのか?」
「貴族の中にはペットを飼っている人が多いからな。普通はねこに使われるんだ。ケットシー用とはいえ『ねこじゃらし』だから」
「ふぅん。貴族御用達の高級品ねぇ……ミュウ!」
トシキは早速ミュウを召喚した。
『みゅうっ!』
「ほらほら~」
『みゃ!? みゃっ! みゃっ! みゃみゃっ!!』
「あははっ! 本当に好きみたいだな。ミュウ、気に入ったか?」
トシキがねこじゃらしを左右に揺らすと、ミュウが嬉しそうに飛び跳ねてじゃれてくる。
『みゃ! みゃっー!』
「ふふっ。贈り物の定番、ね……あの馬鹿。絶対ゆるさねーつもりだったけど、ミュウの可愛い姿が見れたから今回だけは許してやっか」
ねこじゃらしにこめられた謝罪の気持ちを受け取ったトシキは、じゃれついてくるミュウを見ながら微笑みを浮かべてそう呟いた。
109
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる