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一章 新入生歓迎会
グッドラック!
しおりを挟む追いかけっこ開始の笛が鳴る。
二、三年生が一斉に森に向かって走り出した。早速あちこちから悲鳴や叫び声が上がる。とは言っても、トシキ達の周りは不気味なほど静かで、音声はアイテムから出てくるものだ。
アーサーは紅茶のおかわりをして、イオはクッションに腰をかけながら新聞をめくっている。トシキは時々チャンネルを変えるように画面を切り替えながらクッキーを頬張っていた。
「あ。こいつ確か剣術が上手いってことで、そこそこトトカルチョ人気だった奴だ」
「どれどれぇ~? お。誰かと対戦してるねぇ」
「どっちが優勢なんだろうな。剣は専門外でわかんねー」
「一年生の方、脇が甘い。それに、重心が安定していない……これは駄目だな」
アーサーの指摘通りだった。一年生は数分であっさりと負けてしまった。
「同じ剣使いならこっちのほうがマシだ」
アーサーが指出したのは小さいコマにしていた画面でトシキはそちらを大画面に切り替えた。
「へぇ。双剣使いねぇ」
「難しそう……」
「双剣は珍しいがいくつか流派がある。これは東から来たべリアル流だな」
「あ、見つかったよ双剣使いさんのお名前。グレイス君だって」
新聞をチェックしていたイオが声をあげる。
「B組だって。トトカルチョ予想は大穴ってところだね」
「ふぅん。アーサーはどう思う?」
「未熟だな。逃げ切るのは無理だろう」
「あのー……さっきマシとか言って無かったか?」
「さっきのA組のエディとかいう奴よりはマシだと言う意味だ。こちらも周囲への注意を怠っているし、何より猪突猛進すぎる。腕の未熟さより当人の性格も問題かもしれん」
「あー……一人はいるよね、戦場で飛び出しちゃう奴」
「もう一人魔剣使っている人発見したよ!」
イオが指差した画面をアップにしてみるとそこには魔剣使いと槍使いのコンビがいた。
「あらら……完全に囲まれてるよ」
「逃げ場はないね。戦うのかな?」
「どうもそのようだな」
二年生八人に囲まれた剣使いと槍使いだが、その後見事な奮闘を見せる。
「わぉ! コンビネーション抜群だね!」
「お互いの弱点をうまくカバーしあっている。それに両者ともなかなかの使い手だな」
「お。初めてアーサーが誉めたな」
「ってことは二人とも優秀なんだねー。名前は……多分剣使いの方がパーシル君で槍使いがヴァル君かな? 二人ともB組だって」
「実力を見る限りA組に入っても申し分なさそうだな。次の組み分けの時には昇格しているだろう……ん? あれは風紀か」
良く見ると、風紀のバッチをつけた小柄な人物が二年生達を撃退した二人に話しかけている。
「風紀は確か鬼役で参加していないはずだよね?」
「あぁ。見廻りしていたはずだ……よく聞き取れねーが、これはもしかして風紀に勧誘してる?」
どうやら注意でも捕まえるわけでもなく風紀への勧誘だったようだ。スカウトの目が光っているのは間違いないらしい。
「A組に昇格する前に風紀入りが確定しそうだねー……あれ? アーサー、どうしたの?」
「あの風紀……出来る」
「確かに刀を持っているけど……一目でわかるもんなのか?」
「あの歩き方や姿勢は、長年修練を続けてきた者の構えだ。剣も今は鞘に収まっていてよく見えないが装飾からみて間違いないく銘ある剣だろう……一度立ち合ってみたいな」
「駄目だよ! 正体ばれちゃうよっ」
「うっ……そうだな。残念だが諦めよう」
アーサーは残念そうに肩を落としながら呟いた。
「おっ、なぁなぁ! こいつめちゃくちゃ強いぞ!」
画面を弄っていたトシキが興奮した様子で話しかける。
画面の中では鞭を振るう小柄な少年と逃げ惑う男達が映し出されている。
「って、コレ風紀じゃん。それにしても容赦なく攻撃してるね。少しやりすぎじゃない?」
「実に無駄のない素晴らしい鞭捌きだな」
「相方らしい人、随分呆れた顔してるよ」
「風紀が攻撃してるってことは、違反者ってことか。あ、相方さんの傍らに服がズタボロの奴がいる」
「恐らく強姦未遂だな」
「え゛?」
「マジ?」
「歓迎会では毎年強姦未遂の被害があるらしいと聞いた。でも口止めされたり当人のプライドが邪魔して被害届けをだす人間は少ないらしい。だから風紀が現行犯で捕まえる為に見廻りを強化したと聞いた事がある」
「ふーん。じゃあ、同情することねーな。どんどんやっちまえ!!」
「そこだぁ! 雷落とせぇ!」
相手が悪い事が判明した途端、やりすぎではないかと言っていたイオ達がエールを送り始める。
やれやれと二人を見ていたアーサーは、画面にそれが移った瞬間、顔を強張らせる。
「あれは……っ」
「マッドベア!」
「っ、風紀達が危ない! イオ、トシキ!」
「ラジャー!」
「はいはーい!」
二人とも状況を一瞬で把握したようだ。画面には、風紀の少年に襲いかかろうとしているマッドベアが映し出されていた。
アーサーは透明マントを手に掴み、トシキも後に続いて飛び出そうとしていた。
「待って!」
「ンだよイオ! 早く行かねーとあいつらあぶねぇぞ!」
何せマッドベアは一撃で人一人即死させる攻撃力を持つ魔物である。トシキの言っている事はもっともだった。
しかし、イオは画面を指出して、アーサー達に訴えた。
「マッドベアが……三頭いるっ!」
「何だと!?」
「はぁ!? マジかよ!」
イオの指摘に驚いてアーサー達は画面を見つめる。
分割された画面の中で確かに別々の場所にマッドベアが出現していた。
「チッ……! こうなったら三人別れて退治に向かうしかないな」
「北の方は任せろ」
「僕は一番近い湖に向かうよ」
「じゃあ、おれはあの鞭使いを助けに行く!」
「幸運を祈る!」
「うん!」
「お前らもな!」
そして、それぞれが互いの幸運を祈り、別れて走り出した。
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