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転生した俺の新しい生活
しおりを挟むこの話をする上で、俺が転生したBL小説の内容はよくある話なので、省略させてもらいたい。
説明が足りない部分は、想像で補ってくれ。
転生する前の俺は、すごく怠惰な生活を送っていた。20歳でフリーター。バイトはしていたが、就職は面倒で考えていなかった。
そんなダメ人間の俺が、いつものように目を覚ますと、揺りかごに揺られながら天井を見上げていた。20歳の大人がそんな状況になるわけがない。そこで俺は「転生したんだ」と直感的に理解した。
そして、どんな世界に転生したのかも、すぐにわかった。
なぜなら、赤ちゃんに転生した俺の名前が、転生する前に読んでいたBL小説の悪役令息の名前だったからだ。
『ペロペ・ロン・チーノ・パースティ』
それが俺の新しい名前だった。どう見てもペペロンチーノすぎた。
しかしこの世界にはペペロンチーノという概念がないのか、俺は「チーノ」と呼ばれた。
小説で出てくるキャラの名前がふざけすぎていて、正直面白くない作品だったが、あまりにインパクトが強すぎて一生忘れられない。
この小説は中世ヨーロッパ風の世界を舞台にしている。
しかし、身分制度とドレスだけの“なんちゃって中世ヨーロッパ”の世界観で、作者の浅さが露呈していた。
内容もよくあるテンプレ展開で、特に語ることもない。
そんな、よくある異世界BL小説の悪役令息になった──。
⸻
BLの世界に入ってから12年が経った。
その間、俺は公爵家の次男として甘やかされつつも、それなりに礼儀を身につけて成長した。
確か小説のチーノは、12歳の頃には立派な悪役としての責務を果たしていたはずだ。
身分の低い人を当たり前のようにいじめたり、婚約者である王子にうざがられるほどアタックしていた。
俺は小説とはまったく違う生き方を選んだが、それでも12年間でどんなに性格を変えても、小説通り王子との婚約は決まってしまった。
王子とは5歳で知り合い、10歳で婚約した。
ちなみに、王子の名前はリターシャ・マルーゲ。マルゲリータかよ。
俺とリターシャは婚約者だが、初めて会った時から親友のように接していて、全く恋愛として見ることができない。
お互いにそう思っているだろうから、小説通りに婚約破棄になるのは変わらないだろう。
⸻
転生してから15年が経った。
最近、リターシャが頻繁に家に来るようになった。そして、まるでお母さんのようになってきた。
俺の部屋を使用人以上に片付けてくれるし、家に来るとお菓子を山ほど持ってきて、やたらと甘やかしてくる。
リターシャが生活の一部になっていて、なんだかよくない気がした。
⸻
転生してから16年が経った。
ある日、部屋でリターシャにもたれかかって一緒にくつろいでいたら、リターシャの顔が近付いてきて、そのまま口が触れ合った。
急なことで驚いてリターシャの顔を見ると、口元を腕で隠し、目線を逸らす。
しかし、もたれかかるほど近くにいたせいで、リターシャが耳まで赤くなっていることに気づいてしまった。
そんな姿を見て思わず言ってしまった。
「お前さ、なんでキスしたの?」
「……わからない」
⸻
転生してから18年が経った。
春になり、俺はアカデミーの2回生になった。
この年から、小説のストーリーが始まる。
小説は、主人公のリン・ペッパー・ランティがリターシャと出会うところから始まり、そのまま入学式でリターシャが生徒会長だと知るのだ。
今頃、リターシャとリンは出会っているかもしれないと思うと、少し胸がズキズキと痛んだ。
⸻
小説のストーリーが始まってから数ヶ月が経った。
俺は完全に小説とは違う存在で、ストーリーからフェードアウトしている。
リンから見れば、俺はリターシャの隣にいる、全く恋愛関係のない友達(名ばかりの婚約者)といったところだ。
要するに、モブだ。リターシャといつも一緒にいるモブ。
学校生活ではリターシャと一緒にいるため、リンに頻繁に出会う。
リンはリターシャに会うと、ウサギのようにぴょんぴょん跳ねながら近づいてきて、あざと可愛く話す。
そんなリンに話しかけられると、リターシャはまんざらでもなさそうにニコニコしている。
第三者から見ると、婚約者の俺よりリンの方が、よっぽどリターシャとお似合いに見えるだろう。
俺は、リンと話すリターシャを見て、なぜか胸が締め付けられるほど苦しくなる。
今ここで言いたい。
リターシャの婚約者は俺なんだぞって。
——
転生してから19年が経った。
俺とリターシャは今日、学園を卒業する。
そして今日は、小説の内容が終わる日でもある。
小説では、主人公が卒業するリターシャに告白し、それを最後まで邪魔しようとしたチーノがリターシャに追放される。
だが、現実ではもう小説とは大きく話が変わっている。どうなるかは未知数だ。
「以上で卒業式を終わりにする。一同、礼。」
卒業式が終わり、学生生活最後のパーティーが始まった。
この学校では定期的にパーティーがあったが、俺は面倒であまり参加しなかった。
しかし、生徒会長であるリターシャは出席していて、今回のパーティーでも多くの人に囲まれている。
そんなリターシャに近づけず、ワインの入ったグラスを片手に窓際の壁にもたれかかる。
三年間の学生生活を思い返してみると、ほとんどリターシャと一緒にいたな、と気づいて、思わずハハッと笑ってしまった。
やっと、自分の気持ちに気づいた。
俺は、リターシャが好きだと。
でも今さら気づいても遅い。
俺の視線の先には、リンとリターシャが二人きりで話している。
周囲にいた人々も、リンが来た瞬間に空気を読んだように解散した。
みんな、二人がお似合いだと思っているのだろう。
リンがリターシャに告白して、成立する。
そしてその場で、俺は婚約を破棄されるんだ──そう思った瞬間、持っていたグラスを机に置き、その場を後にしていた。
⸻
気がついたら、公爵邸の自分の部屋にいた。
学生生活を誰よりも早く切り上げ、部屋にこもっていた俺のもとに、長年仕えていた執事が「お客様です」と言い、了承を待たずに客が部屋に入ってくる。
もう誰かわかっていた。
俺の了承なしに部屋に入ってくるのは、リターシャしかいないからだ。
リターシャはベッドに寝転がっている俺に近づき、そのまま俺を踏まないように腰を下ろす。
そして少しの沈黙のあと、搾り出すように言葉を発した。
「チーノ、婚約関係なんだけど……。」
絞り出したその言葉は、最後まで言い切られず、俺とリターシャしかいない部屋に、重たい空気が流れる。
一向に続きを話さないリターシャに痺れを切らして、それまで顔を合わせていなかったリターシャの顔を見て、怒鳴るように言った。
「俺との婚約を破棄するために来たんだろ!? ……俺じゃなくて、リンが好きになったんだって。」
俺の言葉か、あるいは涙を見てか、リターシャは衝撃を受けたような顔をした。
今のセリフと涙で、俺がリターシャをどう思っているか、どんなにバカでも理解できるだろう。
今までそんな素振りを見せなかったのに、今さら親友だと思っていた婚約者が自分を好きだったなんて、リターシャからしても迷惑な話だろう。
でも、リンやリターシャのことを思い出すだけで、涙が止まらなかった。
仕方ない。
この気持ちに気づけなかった俺が悪いんだ。
だけど、時間が欲しい。気持ちの整理をつけるための。
「悪い、今日は帰って……くれ。婚約破棄については、またおいおい連絡す──」
言い終わる前に、今まで経験したことのない強い力で抱きしめられた。
驚いて抱きついてきた張本人の顔を見ようとすると、手でぐっと頭を抑えられる。
「待って、今すごい変な顔してるから。顔見ないで。」
「なんで、だよ」
俺が見ようとすると、リターシャはさっきより強い力で抱きしめてくる。
「うっ!」
「……あ、ごめん。チーノが俺を好きなのが、嬉しくって加減が……」
「はぁ!?言って、ない!まだ好きって言ってないだろ!」
「やっぱり好きでいてくれたんだ。嬉しい。やっと両想いになれた。」
「え?」
衝撃の一言。
やっと、ということは、ずっと俺を好きだったってことなのか?
でも、リターシャはリンが好きなはずじゃ──
「待って、リタはリンが好きなんじゃないのかよ」
「え?なんでリンくん?俺はずっとチーノが好きだけど。」
「だって2年間ずっと恋人みたいだったじゃん」
「俺とリンくんが?違うよ。ただの後輩だよ。」
「……。で、でもお前がそう思ってても、リンは違うかもだろ」
「ないない。リンくん、俺がチーノ一筋なの知ってたし。
リンくんの好きな人は、スーテイ・キールだよ。
リンくんと俺は、いい同盟関係だったんだよ」
「同盟?」
「いや……!なんでもない。そんなことより、本当は今日、チーノにパーティーの終わりに結婚しようってプロポーズするつもりだったのに、勝手に帰るし、家で泣いてるし……ほんと手が焼けるね」
「うるさい。てか、勝手に結婚って……急すぎるだろ」
「急じゃないよ。みんな知ってたし、あとはチーノにプロポーズするだけだったんだよ」
「おい、俺がお前を好きじゃなくて断ったらどうするつもりだったんだよ」
「何言ってんの。親にも言ってるんだから、チーノが断れるわけないだろ」
「ほんとにお前、俺がお前のこと好きでよかったな。」
「うん。ほんとに幸せ者だよ。」
——
卒業してから1ヶ月が経った。
俺としては全く相続していなかったのでスピード婚なのだが、リターシャは前々から計画していたようでお互いに認識の違いがある。
俺のために計画してくれていたのだと知ると、嬉しい思い出いっぱいになった。
——
結婚式が終わり初夜だ。
部屋に戻ると、リターシャは躊躇いなく上着を脱ぎながらワイングラスを手に取った。
「お疲れさま、チーノ」と言ってグラスを差し出してくる姿は、どこか余裕があって、大人びて見える。
俺がそっと受け取ると、その指先が自然に俺の手を撫でるように滑る。
「……なんか、お前、妙に慣れてね?」
「ん? まぁ、段取りは完璧にしておきたくてね。君の初夜だから」
「お、俺のって……お前のは?」
「俺? うーん……どうだと思う?」
「はああ!? ……マジで慣れてたらぶっ飛ばすからな」
リターシャは笑った。いつものように、ふざけたような、でもどこか本気の笑い方だった。
「そんな顔するなって。相手がチーノだから、本気で準備してきたの。今さら逃げないでね?」
そう言うと、リターシャはグラスをテーブルに置き、俺の足元に膝をついた。
「おい、何して──」
言いかけた言葉は、首筋に落ちたキスでかき消される。
キスは浅くて、でもやたらと手慣れていて、くすぐったくも熱が走る。
シャツのボタンを一つずつ丁寧に外されながら、リターシャが耳元で囁いた。
「緊張してるなら、俺が気持ちよくしてあげる。何も考えなくていいから」
ぞくっとするような声。
冗談のようで、本気のトーン。
本当に、こいつは慣れてるのかもしれない。そう思った瞬間、なんだか変に悔しくなって、俺は抵抗するように言った。
「……俺だって、何もされっぱなしってわけじゃねーぞ」
「へえ、楽しみにしてる」
シャツが滑り落ちる。
リターシャの手は、俺の肌の温度を探るように胸元から腹部へと這ってくる。
その動きがいやらしくて、無意識に息が漏れた。
「ほら、もう素直になってる。かわいい」
「……うるせぇ」
リターシャは余裕の笑みを浮かべながらも、目だけは真剣で、どこか切なげにも見えた。
俺の体を知り尽くすような触れ方をしながらも、どこかで俺の反応一つひとつを大切にしている。
「全部、俺に任せて。ちゃんと気持ちよくなるから」
ささやく声と共に、熱を帯びた夜が静かに、確実に始まっていった。
リターシャの手が、俺の腰をなぞるたびに、体の芯がじわじわと熱くなる。
唇を奪われながら、シャツもズボンも脱がされていくのに、もう抗う気力すらない。むしろ、どこまでも任せてしまいたい。
そんな感情が体の奥から溢れてくる。
ベッドに押し倒され、リターシャが俺の両手を取った。
細くて長いリボンのようなものが、手の中で擦れたのがわかった。
「ちょ、何だよそれ」
「……チーノってさ、たまにすぐ逃げようとするだろ? 今日は逃がさない」
そう言って、リターシャは俺の手首を優しく、でもしっかりと縛りはじめた。
ベッドのヘッドボードに腕を引き上げられ、両手が上で固定される。
その感触に思わずびくっとする。
「っ……なにこれ……っ、冗談じゃ──」
「動かないで、今のチーノ、すっごく綺麗だから」
耳元で囁かれるその声に、全身が痺れたように震える。
視線を逸らそうとしても、縛られた腕のせいで逃げ場がない。
「お前……ほんとに、慣れて──」
「違うよ。チーノにだけ……こういうことしたかった」
リターシャの手が太ももをゆっくり撫で上げ、敏感な部分へ触れた瞬間、声が勝手に漏れてしまった。
それを嬉しそうに笑う顔に、悔しさよりも、愛しさが勝ってしまう。
「可愛い声……もっと聞かせて」
唇が胸元に落ち、舌先がゆっくりと舐める。
執拗に、そしてとろけるように、丁寧に愛撫されるたび、体が勝手に跳ねる。
「っ……うあ……っ、バカ……っ」
「チーノの全部、俺のものにするって決めたんだ」
口の端で囁きながら、リターシャの指が、後ろの入口に触れた。
「リ、タ、何……っ、まだ心の準備──」
「優しくする。だから……安心して、任せて」
最初は指一本。
冷たい潤滑油を塗られてから、ゆっくりと中に挿し込まれる。
その異物感に身をよじろうとするが、縛られた腕では逃げられない。
それすらも、リターシャの意図なのだと分かって、体の奥がぞわぞわと熱くなる。
「……奥まで、ほぐすから……力抜いて」
二本、三本と入る頃には、頭が真っ白になっていた。
自分の体が、こんなにも感じやすかったことに、自分で驚く。
「……もう、充分だね」
ベッドの上、リターシャの体がゆっくりと重なってきた。
「チーノの中……ずっと、入りたかった」
熱く硬くなった彼が、俺の中にゆっくりと挿し込まれてくる。
異物感、圧迫感、そして、それを超える快感。
「っ……はぁ、あ……や、だ……これ……っ、なんか……っ」
「俺のこと、忘れられなくしてあげる」
俺の両腕は、まだ縛られたまま。
自分では触れることもできないまま、リターシャの動きに全てを委ねている。
激しくなるたび、腰を打ち付けるたび、奥が擦れて、絶え間ない快感が襲ってくる。
「あっ、リタ……っ、やだ、もう……変になりそ……」
「いいよ、変になって。俺のだけになって」
奥まで繋がっている感覚。
ずっと欲しかったものが、やっと、ここにある。
最後は、涙が滲むほど気持ちよくて、何度も名前を呼んで、果てた。
⸻
夜が明けるまで、リターシャは何度も俺を抱いた。
腕をほどかれたとき、もう力が入らず、リターシャの胸の中で子猫のように丸まるしかなかった。
優しく髪を撫でながら、「大好きだよ」と囁いてくれる声が、夢のようで幸せだった。
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