どこにでもあるBL小説の悪役になったけど、BLする気なかったのにBLになった。

了承

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リターシャ目線

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初めてチーノに会ったのは、俺が五歳の時だった。

王宮の茶会に現れた彼は、見た瞬間に「綺麗なやつだな」と思った。
金色の髪と、氷みたいな瞳。顔立ちが整いすぎてて、思わず息を呑んだのを覚えてる。

でも次の瞬間、その美形の口から飛び出した第一声がこれだった。

「お前がリターシャか。思ったよりちっちゃいな」

「……は?」

いきなり言われた俺は面食らったけど、次に聞こえたのはくくっと笑う声。

「ごめん。でも、もっと堅物な王子が来ると思ってたから、意外と話しやすそうで安心した」

その言い方があまりにも自然で、気取ってなくて、なんか拍子抜けした。

「そっちこそ、見た目めちゃくちゃ整ってるくせに喋ると砕けてんじゃん」

「見た目と性格は別だからな。顔に騙されんなよ、王子様」

「……はは、なるほどね」

それが、俺とチーノの最初の会話だった。

まるで何年も前から友達だったみたいに、すっと距離が縮んだ。
それが嬉しくて、気づいたら俺はずっとチーノの隣にいた。

10歳になった。
振り返ると、いつの間にかチーノのことが好きになっていた自分に気づく。
でも、俺たちは相変わらず親友だった。特別な感情を隠して、普段通りに接していた。
チーノは変わらず冷静で、誇り高く、でも時折見せる優しさがたまらなく好きだった。
一緒にいると、不思議と安心できて、どこか居心地が良かった。

それでも、ただの友達のままでいるのは嫌だった。
もっと近くにいたい、特別な存在でありたいと願った。

だから、俺は両親に何度もお願いした。
「チーノを婚約者にしてほしい」と。

親にとっては、チーノは立派な公爵家の次男であり、申し分ない婚約者候補だった。
それに、俺たちの関係は深く、これ以上ない相性の良さだったはずだ。

数回の話し合いを経て、ついに両親は了承してくれた。
そうして、俺たちの婚約が決まったのだ。

チーノはそのことをどう思っていたのかはわからない。
ただ、特に反対もなく、俺の願いを受け入れてくれた。

俺はそれだけで十分だった。
これからもずっと、チーノと一緒にいられると思うと胸が熱くなった。

16歳の春。
俺はいつものようにチーノの家に向かっていた。理由なんてない。ただ、あいつといると心がざわつかず、どこか落ち着ける気がしたんだ。だからある時からチーノの世話をする等になった。

チーノはいつものように静かに、でもどこか強いオーラを纏いながら俺を見ていた。
俺は自然と隣に腰を下ろし、そっと肩を貸す。

その瞬間、チーノが不意に体を寄せてきて、俺にもたれかかってきた。
その軽い重みと距離感が、俺の胸の奥に熱い何かを燃え上がらせた。

無言で寄り添う時間の中、俺は理性が揺らぎ、衝動を抑えきれなくなった。
ついに、唇を重ねてしまう。

驚いたように目を見開くチーノ。
だが、その瞳はほんの少しだけ潤んでいて、耳が真っ赤に染まっているのがわかった。

「なんでキスしたんだ?」
冷静さを保とうとするチーノの声は、少し震えていた。

「……わからない」
その一言は曖昧で、でもどこか真実味があった。

俺はその答えに、胸を締め付けられた。

それでも、俺は覚悟を決めた。
本気でチーノを落とすために、動き始めることを。

18歳の春
学園生活にも慣れ、後輩のリンという可愛い少年ができた。
彼は明るくて、俺のことを尊敬してくれているのがよくわかった。
最初はただの後輩だったが、次第に俺たちは“同盟”を組むようになった。

なぜ同盟を組んだのかと言うと、実はチーノが俺とリンが話す時に、嫌そうな目をすることがあったからだ。
あの冷静で誇り高いチーノが、リンの前では微妙に態度を変えるのを俺は見逃さなかった。
だからリンと相談して、あえてチーノがいる時にあざとくリンが俺に話しかけるようにした。

その目的は明確だった。
まずはリンの好きな相手、スーテイ・キールの前でも、俺がリンを大切にしている姿を見せて、彼にもやきもちを焼かせる。
それと同時に、チーノにも俺への独占欲を感じてもらいたかったからだ。

リンは俺の計画に協力的で、上手く立ち回ってくれた。
俺がリンと楽しそうに話す姿を見て、チーノのあの少しだけ嫌そうな目を見るのが、どこか嬉しかった。
「やっぱりチーノは俺のことを気にかけてくれてるんだな」
そう思うと、心がじんわり温かくなった。

19歳

卒業パーティの最中、チーノの姿が見えなくなったことに気づいたのは、周囲の騒がしさがひと段落ついた頃だった。

「……あいつ、どこ行った?」

気にするなという方が無理だった。

なぜなら、今日。俺は──
チーノにプロポーズするつもりだったからだ。

ずっと準備してきた。
両親にも報告して、チーノの家とも話は通してある。
あとは本人に気持ちを伝えるだけ。
何も問題はない。──はずだった。

けれど、ふと振り返ったそのとき、チーノの目が俺とリンを見ているのに気づいた。

俺とリンは、ほんの少し会話をしていただけだった。
世間話、というほどのものでもない。
けれど、リンが楽しげに笑っていて、俺もつられて笑っていたのは確かだ。

──チーノには、それが「楽しく談笑していた」ように見えたのかもしれない。

「……まさか、そんなことで」

不安が胸を刺した。
急いで屋敷に戻ったと、執事が言った。
その一言で、全てを察した。

「……やば」

スーツの上着も直さず、俺はパーティを抜け出した。



ドアをノックすると、執事が通すより早くドアの向こうから気配がする。

「チーノ、いる?」

応答はなかった。けれど、俺はノックもそこそこにドアを開けた。

部屋の中、チーノはベッドに横になっていた。
横顔は見えないが、表情が冴えていないのは背中からでも伝わってくる。

静かに近づいて、ベッドの端に腰を下ろす。
一瞬、彼の肩がぴくりと揺れた。

本当なら、もっと特別な場面で言うつもりだった。
たくさんの人の前で、祝福されながら。
それが叶わなくなった今──俺は、ただ率直に言うしかなかった。

けれど言葉がうまく出ない。
喉に何かが詰まって、やっと出てきたのは、ずっと胸にあった一言だった。

「チーノ、婚約関係なんだけど……」

それ以上、言葉が続かなかった。

数秒の沈黙のあと、チーノがこちらを振り向いた。
潤んだ目、怒ったような、泣きそうな顔。

そして──

「俺との婚約を破棄するために来たんだろ!? ……俺じゃなくて、リンが好きになったんだって。」

その声は、俺の胸にナイフを突き立てた。

「……は?」

なにを言ってるんだ、こいつは。
俺が、リンを? ふざけんな。
俺がどれだけお前を見てきたと思ってんだ。

なのにこいつは……俺がリンと楽しく話してた、それだけでこんな──

目の前で、チーノが泣いていた。
それを見た瞬間、頭よりも先に体が動いた。

強く、でも傷つけないように、俺はチーノを抱きしめた。

「……待って、今すごい変な顔してるから。顔見ないで」

「あ?」

抵抗する気配があったから、もう少しだけ、強く抱いた。

「……あ、ごめん。チーノが俺を好きなのが、嬉しくって加減が……」

「はぁ!?言って、ない!まだ好きって言ってないだろ!」

「やっぱり好きでいてくれたんだ。嬉しい。やっと両想いになれた。」

それを聞いたチーノの目が、ほんの少し見開かれた。

「……え?」

「待って、リタはリンが好きなんじゃないのかよ」

「え?なんでリンくん?俺はずっとチーノが好きだけど」

「だって2年間ずっと恋人みたいだったじゃん」

「俺とリンくんが?違うよ。ただの後輩だよ」

「……。で、でもお前がそう思ってても、リンは違うかもだろ」

「ないない。リンくん、俺がチーノ一筋なの知ってたし。
リンくんの好きな人は、スーテイ・キールだよ。
リンくんと俺は、いい同盟関係だったんだよ」

「同盟?」

「いや……!なんでもない。そんなことより、本当は今日、チーノにパーティーの終わりに結婚しようってプロポーズするつもりだったのに、勝手に帰るし、家で泣いてるし……ほんと手が焼けるね」

「うるさい。てか、勝手に結婚って……急すぎるだろ」

「急じゃないよ。みんな知ってたし、あとはチーノにプロポーズするだけだったんだよ」

「おい、俺がお前を好きじゃなくて断ったらどうするつもりだったんだよ」

「何言ってんの。親にも言ってるんだから、チーノが断れるわけないだろ」

「……ほんとにお前、俺がお前のこと好きでよかったな。」

「うん。ほんとに幸せ者だよ。」

俺はずっと、お前だけが好きだった。

たぶん、世界で一番めんどくさくて、
けど、世界で一番愛しいお前が──やっと俺のものになった。

19歳と1ヶ月後

チーノと結婚した。

「本当に一緒に暮らしてるんだな」って、
目が覚めてすぐ、隣で眠るチーノの寝顔を見ながら、毎朝しみじみ思う。

俺の腕の中で、すうすうと気持ちよさそうに眠るチーノ。
その睫毛の先まで、愛しくて仕方ない。

静かに手を伸ばして、柔らかい髪に指を通す。
撫でるたび、チーノは少し眉を寄せて、ぎゅっと俺のシャツの裾を握った。

……可愛い。

起こすのが惜しくなるくらい、こんなに無防備で俺に身を預けてくれるなんて、夢みたいだ。

けど、そろそろ朝ごはんの支度をしなきゃな。

「チーノ、起きて。パン焼けちゃうよ」

「……ん……あと三分……」

「じゃあその間にキスしてもいい?」

「だめ……っ」

そう言いながらも頬が赤くなるあたり、許してるのと同じ。
俺はそっと額にキスを落とすと、ゆっくりベッドを抜け出した。

キッチンでは、チーノの好きなミルクパンと、ほんのり甘めの野菜スープを用意する。
味見をしながら思う。

——こんな風に、チーノのために毎日を過ごせるって、なんて幸せなんだろう。

これまで何度も想像してきた光景。
でも、想像よりずっとあったかい。

チーノは最近、まだ少し照れくさそうにしてる。
急な結婚だったから、無理もない。

でも、俺はちゃんと前から準備してた。
いつか迎える初夜のことも、結婚生活も、全部。
チーノが俺を好きになってくれるって信じてたから。

「おはよう、リタ……」

眠たげな声とともに、キッチンに入ってくるチーノ。
寝癖が跳ねてて、シャツの袖を引きずってて、それでも誰より綺麗で。

「……ん? どうした、ジロジロ見て」

「いや、嬉しいだけ」

「……バカ」

バカって言われても、ニヤけてしまうのは止められない。

たった1ヶ月で、こんなにも心が満たされるなんて。
ああ、結婚してよかった。

……いや、違う。
チーノと結婚できて、俺は世界で一番幸せだ。

次は——
もっともっと、チーノを俺色に染めてやろうと思う。

「ねぇチーノ、今日は昼から出かけよう。ふたりだけで」

「え?なんで」

「お祝いしなきゃ。結婚1ヶ月記念日」

「は!?そんなの聞いてねぇし……!」

「俺は聞いてる。ずっと前から、今日の予定、空けてた」

「ほんとにお前ってやつは……っ」

呆れたように笑うその顔が、俺の世界のすべてだ。

——今日も、明日も、これからもずっと。
チーノは俺の隣で、生きていてくれればいい。
それだけで、他に何もいらないんだ。







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