エシュロン ~ テロと戦う盗聴者

國上 絢女

文字の大きさ
1 / 10

第零話 幕開け

しおりを挟む

 広いメインルームに、殺伐とした機械音が響いていた。この閉鎖的な空間は白一色であり、全くと言っていいほど面白みに欠けている。

 俺はいつものように、選別された電子メールを確認する。幾度となくやった作業であり、不自然な情報を見逃すことはない。

 毎日、”テロリズム”、”ダビディアン教団”、そして” ”9 11” などといった有害なキーワードを見ていると、つくづくこの世の中はおっかないな、と思う。

 そして、この仕事にはきりがない。どれだけ多くの情報を確認しても、また、沢山の情報が押し寄せてくる。そこがこの仕事の面白みだ、という者もいるのだが、俺はそうは思わない。

 この仕事に就いてからというもの、システムエンジニアの凄さを、肌で感じるようになった。コンピューターの性能を高めてくれ、我々の仕事を楽にしてくれるからだ。

 ただし、選別できる情報の精度は上がっても、全体としての犯罪の件数は変わらない。そのため、仕事の量も雀の涙ほどにしか変わりがない。

 それに追い打ちをかけるように、エドワード・スノーデンの告発があった。その内容と言うのが、PRISMで有線データ通信さえも盗聴されていることだった。

 この告発をきっかけに、人々による "エシュロン" というシステムが世に認知され始めた。
 当然のように、この事実を知った人々は、エシュロン対策を行い始めた。代表的なものに通信傍受シギントシステムへのハッキングがある。アメリカでは大規模なサーバーのダウンが起こったと聞いている。
 また、日常的にシステムに探知されるキーワードを電子メールに付記するといったことは、我々にとって地味にダメージはが大きい。
 この対策に敢えて総称をつけるならば、コンピューターに負荷を与える操作と言ったところだろう。

 情報を吟味する側の俺達としては、非常に迷惑な話だ。
隠された世界を彼が世界中に広めたことで、俺達の労働時間が増えたのだから。

 ただし、通信傍受シギントシステムは明らかな人権侵害だ。無差別に人を監視し、個人情報を集める。そんなことが、正しいはずがない。

 しかし、エシュロンによってテロが未然に防がれているのも事実だ。日本青軍最高幹部であった、重信房子の逮捕のきっかけも、エシュロンが極秘裏に、日本に帰国して潜伏しているという情報を得たことだった。

 このことからも、エシュロンはある意味で、”表裏一体だ” と言える。

 だから、俺はこの問題を極力考えないようにしている。深く考えれば考えるほど、善悪の判断がつかなくなる気がして恐ろしい。

 俺の同僚にも、大きな事件に関わったことにより、自責の念にとらわれ、亡命した者もいる。先輩の話では、重大な事件解決に走った者の約者4割が、精神的苦痛により、仕事を辞めたそうだ。

 故に、俺は毎日 ”事件に出会いませんように” と祈っている。

 そんな時、ある一通のメールが、俺の目に飛び込んできた。

 『日本の ”9・11” だ』

 このメールを見た瞬間、俺の体に戦慄が走った。

 明らかに異質で、ほかのものとは一線を画している。文体から考えても、一般市民が興味本位で調べたものでもなく、エシュロン対策でもない。

 テロ、もしくは事件に関わることだというのが容易に推測できる。

 そして、確信を持って言えることが一つだけあった。

「これによって、俺は事件に巻き込まれる」と

 俺はただただ、嘘で在ってくれ、と祈るばかりだった・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

某時刻
東京都内の一画にて秘密裏に話し合いが行われた。

「おい、何やってんだ! あのメールを見られたら俺らにも捜査が及ぶじゃねーか!」

「そう焦るなって! 簡単にあのメールが見られるわけないだろ。それよりも、金は払えるんだろうな」

「ああ、お前の働き次第だがな」

「それよりも、奴の乗る機は押さえてあるのか?」

「ああ、もちろんだ。実行者はどうなった? 用意してあるんだろ」

「二人な。いい奴が居たんだぜ。入国申請も済ませてある」

「おお! 珍しい事もあるもんだな。それじゃあ、調停だ・・・」


 これは、日本の歴史に残るテロ計画の一部始終だった・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

日本での同時多発テロ及び、内閣総理大臣殺害に関する協定書

・概要
 今回の飛行機ハイジャック等のテロ(以後本件とする)において、以下三名とそれに関わる者は、下記の計画の遂行を第一に考え、行動する。

・協定者
 ・アイマン・ラディン(アルケイダ 最高指導者)
 ・坂口 隆之(江戸 坂口組 三代目組長)
 ・鈴木 哲也(IT企業 社長)

・計画
1 9月11日の午前7時、成田空港発ソウル行きの、ボーイング767号機を高度3千メートル付近でハイジャックする。
※鈴木哲也監修のジャックウェア”改”でオートパイロットを改ざんし、突入を支援する。

2 鈴木システムで、管制のコントロールを奪い、対応を遅延させる。

3 状況に応じて、○○門ヒルズ及び、○宿パークタワー等に突入する

4 突入後の救助活動現場に、車両を進入させ、歩行者を殺傷する。
※車両に自動小銃等を搭載し、被害を拡大させる。

5 最後に車両を爆破し証拠の隠滅を図る。

発効日
・20XX年 8月13日
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

見上げた空は、今日もアオハルなり

木立 花音
青春
 ──私の想いは届かない。私には、気持ちを伝えるための”声”がないから。  幼馴染だった三人の少年少女。広瀬慎吾(ひろせしんご)。渡辺美也(わたなべみや)。阿久津斗哉(あくつとおや)。そして、重度の聴覚障害を抱え他人と上手くうち解けられない少女、桐原悠里(きりはらゆうり)。  四人の恋心が激しく交錯するなか、文化祭の出し物として決まったのは、演劇ロミオとジュリエット。  ところが、文化祭の準備が滞りなく進んでいたある日。突然、ジュリエット役の桐原悠里が学校を休んでしまう。それは、言葉を発しない彼女が出した、初めてのSOSだった。閉ざされた悠里の心の扉をひらくため、今、三人が立ち上がる!  これは──時にはぶつかり時には涙しながらも、卒業までを駆け抜けた四人の青春群像劇。 ※バレンタイン・デイ(ズ)の姉妹作品です。相互にネタバレ要素を含むので、了承願います。 ※表紙画像は、ミカスケ様にリクエストして描いて頂いたフリーイラスト。イメージは、主人公の一人悠里です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...