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外伝 ~ヨツバ王国編~
キラウとハヅキ
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「キラウ」
「……その名前で呼ぶのは止めなさい」
「なら、アイラと呼んだ方が良いのか?」
「アイラ、か……もう、今更名前なんてどうでもいいわ」
キラウという名前はあくまでも他の人間が彼女に名付けた渾名でしかなく、キラウ本人はこの名前を気に入ってはいない。しかし、彼女の本名である「アイラ」という名前は既に捨てた名前であるため、彼女はずっと自分の事を名乗らずに生きてきた。
しかし、そんな彼女に対してレナは右手を伸ばす。自分を殺すつもりなのかとキラウは身構えるが、予想に反してレナは彼女の額に手を伸ばす。いったい何の真似かとキラウは戸惑うと、彼女はレナの右腕に宿った聖痕から妙な気配を感じとる。
「この聖痕は元々はハヅキ、いや俺の叔祖母ちゃんの物だ」
「ハヅキの……」
「御祖母ちゃんは死んだ。だけど、この聖痕を俺が引き継いだ時に魂の残滓が聖痕に残っている……魂を扱う死霊使いならそれを感じ取れることが出来るんじゃないのか?」
「……私にどうしろというの?」
「どうもしない。お前の好きにすればいい……叔母さん」
レナの言葉にキラウは眉を顰め、家系では確かにアイラとマリアの姉である彼女はレナの叔母という立ち位置になる。彼女は自分の額に触れた右手越しに感じられるハヅキの「魂」の存在に目を細め、やがて観念した様に瞼を閉じて意識を集中させた――
――次にキラウが意識を取り戻すと、そこは真っ黒な空間に覆われた場所である事に気付き、彼女は周囲を振り返る。この世界には何度か見覚えがあり、彼女が死にかける度に訪れた世界だった。
『生と死の境界線……またここへ来たのね』
この漆黒の空間の事を彼女は死後の世界に繋がる場所だと思いこみ、レナが宿していたハヅキの魂の残滓を通じて彼女はこの世界へと辿り着く。しばらく待つと、彼女の背後から聞き覚えのある声がした。
『アイラ』
「……ハヅキ」
振り返りもせずにキラウは自分の背後にハヅキが存在する事を感じ取り、彼女はため息を吐き出す。あれほど憎んでいた相手が傍にいるというのに自分の心は落ち着いており、もう復讐する気力もない。
『アイラ、私は貴女の事を……』
「今更話すつもりはないわ」
『…………』
「もう、死んでしまったあんたに私は興味はない」
語り掛けようとするハヅキに対してアイラは冷たく対応し、もう彼女の事はハヅキにとってはどうでもいい存在だった。理不尽な理由で自分を追放し、過酷な人生を与えたハヅキに対してアイラは激しい憎悪を抱いていた。しかし、もう既に死んでしまったハヅキに対してアイラの憎しみは徐々に薄れていく。
死んでなおもレナを通じて自分に邂逅しにきたハヅキに対し、キラウは何も感情が湧かなかった。憎しみはもうないが、彼女に対する愛情もなく、今のキラウにとってはハヅキなど本当にどうでもいい存在だった。
それでもキラウがハヅキに会いに来た理由はけじめを付けるためであり、彼女は振り返る。そこにはアイラを育ててくれていた頃の若かりし姿のハヅキが存在した。
「ハヅキ、貴女は私の事を愛していたのかしら?」
『ええ、当然です』
「そう、だけど私は貴女の愛情など感じなかった……今更愛していたと言われても、私自身が愛情を感じ取れなかったらそれは「愛」と言えるのかしら?」
『それは……』
キラウの言葉にハヅキは言い返す事が出来ず、今更どんな言葉を告げようとハヅキ家がキラウを追い出したという事実に変わりはない。片方が愛情を注いだと言い張ったとしても、もう片方が愛情など感じられなかった場合、それは本当に愛情と呼べるのか、その答えは誰にも分からない。
「ハヅキ、これだけは覚えておきなさい」
『何を……ですか?』
「私の人生は不幸続きだった。それは貴女のせいよ」
「ええ、そうですね……貴女には苦労を掛けました」
ハヅキはキラウの言葉に涙を流し、自分のせいで娘がどれほど苦労してきたのかと考えると涙を流さずにはいられない。しかし、そんなハヅキに対してキラウは怒りを抱く。
「同情なんてするな!!私は自分の人生に後悔なんてしていない!!」
『……アイラ?』
「お前に追放された後、私は散々な目に遭った……だけど、もしも人生をやり直せるとしても私は同じ道を歩む。私はここまでの自分の行動に後悔なんてしていない、私はもう何者にも従わない……ここから先は私の自由よ」
『アイラ?貴女は何を……』
「それだけを言いに来ただけよ……母さん」
『っ……!?』
最後にキラウはアイラに微笑むと、自分の母親に対する復讐心は消え去り、彼女に愛してほんの僅かではあるが残っていた愛情を示す。そんなキラウの言葉にハヅキは目を見開き、やがて娘が自分と決別して自由に生きる道を選んだことを悟る。
『……ならば私から言える事は自由に生きなさい。後悔の無い人生を歩みなさい。例え……それが愚者へと至る人生だとしても』
「言われずともそうさせてもらうわ。今更地獄なんて怖くはない、私は自由に生きさせてもらうわ」
本来ならばハヅキはキラウを止めるべき立場だろう。だが、もう死人である彼女にはキラウを止める事はできない。ならば最後は親として娘の選択した道を認めた。二人はゆっくりと振り返ると、もう二度と会う事はないと悟り、永久の別れを迎えた――
「……その名前で呼ぶのは止めなさい」
「なら、アイラと呼んだ方が良いのか?」
「アイラ、か……もう、今更名前なんてどうでもいいわ」
キラウという名前はあくまでも他の人間が彼女に名付けた渾名でしかなく、キラウ本人はこの名前を気に入ってはいない。しかし、彼女の本名である「アイラ」という名前は既に捨てた名前であるため、彼女はずっと自分の事を名乗らずに生きてきた。
しかし、そんな彼女に対してレナは右手を伸ばす。自分を殺すつもりなのかとキラウは身構えるが、予想に反してレナは彼女の額に手を伸ばす。いったい何の真似かとキラウは戸惑うと、彼女はレナの右腕に宿った聖痕から妙な気配を感じとる。
「この聖痕は元々はハヅキ、いや俺の叔祖母ちゃんの物だ」
「ハヅキの……」
「御祖母ちゃんは死んだ。だけど、この聖痕を俺が引き継いだ時に魂の残滓が聖痕に残っている……魂を扱う死霊使いならそれを感じ取れることが出来るんじゃないのか?」
「……私にどうしろというの?」
「どうもしない。お前の好きにすればいい……叔母さん」
レナの言葉にキラウは眉を顰め、家系では確かにアイラとマリアの姉である彼女はレナの叔母という立ち位置になる。彼女は自分の額に触れた右手越しに感じられるハヅキの「魂」の存在に目を細め、やがて観念した様に瞼を閉じて意識を集中させた――
――次にキラウが意識を取り戻すと、そこは真っ黒な空間に覆われた場所である事に気付き、彼女は周囲を振り返る。この世界には何度か見覚えがあり、彼女が死にかける度に訪れた世界だった。
『生と死の境界線……またここへ来たのね』
この漆黒の空間の事を彼女は死後の世界に繋がる場所だと思いこみ、レナが宿していたハヅキの魂の残滓を通じて彼女はこの世界へと辿り着く。しばらく待つと、彼女の背後から聞き覚えのある声がした。
『アイラ』
「……ハヅキ」
振り返りもせずにキラウは自分の背後にハヅキが存在する事を感じ取り、彼女はため息を吐き出す。あれほど憎んでいた相手が傍にいるというのに自分の心は落ち着いており、もう復讐する気力もない。
『アイラ、私は貴女の事を……』
「今更話すつもりはないわ」
『…………』
「もう、死んでしまったあんたに私は興味はない」
語り掛けようとするハヅキに対してアイラは冷たく対応し、もう彼女の事はハヅキにとってはどうでもいい存在だった。理不尽な理由で自分を追放し、過酷な人生を与えたハヅキに対してアイラは激しい憎悪を抱いていた。しかし、もう既に死んでしまったハヅキに対してアイラの憎しみは徐々に薄れていく。
死んでなおもレナを通じて自分に邂逅しにきたハヅキに対し、キラウは何も感情が湧かなかった。憎しみはもうないが、彼女に対する愛情もなく、今のキラウにとってはハヅキなど本当にどうでもいい存在だった。
それでもキラウがハヅキに会いに来た理由はけじめを付けるためであり、彼女は振り返る。そこにはアイラを育ててくれていた頃の若かりし姿のハヅキが存在した。
「ハヅキ、貴女は私の事を愛していたのかしら?」
『ええ、当然です』
「そう、だけど私は貴女の愛情など感じなかった……今更愛していたと言われても、私自身が愛情を感じ取れなかったらそれは「愛」と言えるのかしら?」
『それは……』
キラウの言葉にハヅキは言い返す事が出来ず、今更どんな言葉を告げようとハヅキ家がキラウを追い出したという事実に変わりはない。片方が愛情を注いだと言い張ったとしても、もう片方が愛情など感じられなかった場合、それは本当に愛情と呼べるのか、その答えは誰にも分からない。
「ハヅキ、これだけは覚えておきなさい」
『何を……ですか?』
「私の人生は不幸続きだった。それは貴女のせいよ」
「ええ、そうですね……貴女には苦労を掛けました」
ハヅキはキラウの言葉に涙を流し、自分のせいで娘がどれほど苦労してきたのかと考えると涙を流さずにはいられない。しかし、そんなハヅキに対してキラウは怒りを抱く。
「同情なんてするな!!私は自分の人生に後悔なんてしていない!!」
『……アイラ?』
「お前に追放された後、私は散々な目に遭った……だけど、もしも人生をやり直せるとしても私は同じ道を歩む。私はここまでの自分の行動に後悔なんてしていない、私はもう何者にも従わない……ここから先は私の自由よ」
『アイラ?貴女は何を……』
「それだけを言いに来ただけよ……母さん」
『っ……!?』
最後にキラウはアイラに微笑むと、自分の母親に対する復讐心は消え去り、彼女に愛してほんの僅かではあるが残っていた愛情を示す。そんなキラウの言葉にハヅキは目を見開き、やがて娘が自分と決別して自由に生きる道を選んだことを悟る。
『……ならば私から言える事は自由に生きなさい。後悔の無い人生を歩みなさい。例え……それが愚者へと至る人生だとしても』
「言われずともそうさせてもらうわ。今更地獄なんて怖くはない、私は自由に生きさせてもらうわ」
本来ならばハヅキはキラウを止めるべき立場だろう。だが、もう死人である彼女にはキラウを止める事はできない。ならば最後は親として娘の選択した道を認めた。二人はゆっくりと振り返ると、もう二度と会う事はないと悟り、永久の別れを迎えた――
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