不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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蛇足編

怒らせたな

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「――死んだわね」


落下したレナを見てキラウは勝利を確信し、仮にレナが魔鎧で攻撃魔法を防いでいたとしてもこの高さから落ちれば無事では済まない。魔鎧術の事はキラウも知っており、魔力を纏う間は他の魔法は一切使えない事も把握していた。


「思っていたよりも呆気なかったわね……」


キラウはその場を立ち去ろうとしたが、直感で危険を感じ取った。満月の夜の吸血鬼は能力を完全に解放され、本能で危険を感じ取ったキラウは回避行動を取った。

彼女が動いた直後に地面から三日月状の風の刃が放たれ、危うく身体が切り裂かれる所だった。突然の攻撃にキラウは焦りを抱き、何が起きたのか理解できなかった。しかし、すぐに彼女は異様な殺気を感知する。


(この殺気は……何!?)


人間が放てるとは思えないほどの殺気を感じ取り、まるで竜種と対峙したかのような圧迫感を抱く。キラウは下を見ると、そこには建物の屋根の上に立つレナの姿があった。


(生きていた!?あの高さから落ちて!?)


いかに武芸者と言えども高度数百メートルから落ちて無事なはずがなく、どうやって彼が生き延びたのかとキラウは驚く。しかし、レナの方は興奮した様子でキラウを睨みつけ、大剣を振りかざす。


「この野郎!!」
「くぅっ!?」


が再び繰り出され、それを見たキラウは回避に専念した。彼女は攻撃を避ける際に風の精霊の力を感じ取り、信じられない事に森人族でもないはずの少年が精霊魔法を駆使していた。


「そんな馬鹿なっ!?」


先の戦闘でもレナは風の精霊を従えさせていたが、通常ならば精霊魔法は人間では扱えない。だからキラウもレナが精霊を従えている事に驚きを隠せず、その一方でレナは怒りのままに攻撃を続ける。

シュンやハヤテが繰り出す風の斬撃と原理は同じであり、彼等は自分の魔力と風の精霊の力を合わせて斬撃を放つ。原理さえ分かればレナでも真似できるが、覚えたての技という事で命中精度は低い。


(これじゃ駄目だ……こうかっ!?)


攻撃を繰り返す事にレナは魔力を調整し、精霊から借りる力を引き出す。少しずつではあるが彼が繰り出す斬撃が形を整え始め、やがてキラウは避け切れずに身体に掠り傷を受ける。


「こ、このっ!!調子に乗るな!!」
「だああっ!!」


キラウは杖を構えて黒炎を放つが、それに対してレナは風の斬撃を繰り出す。通常ならば相性的には風属性の魔法は火属性の魔法には弱いが、精霊魔法は相性の不利を覆せる。

黒炎はあくまでもキラウが闇属性と火属性の魔法を組み合わせた合成魔術であるため、精霊の力は一切借りていない。ダインならば暗闇の中で魔法を発動する場合は闇の精霊を味方にして効果を強化できるが、あくまでも闇の精霊を従える事ができるのは闇魔導士だけである。

死霊使いも闇魔導士と同じく闇属性の系統だが、ダインと違ってキラウは森人族であるために風の精霊ならばともかく闇の精霊を従える事はできない。種族によって従えられる精霊は限定され、正面から風の斬撃は黒炎を打ち破ってキラウに衝突した。


「がはぁっ!?」
「世界の果てまで吹っ飛べっ!!」


攻撃を受けて墜落するキラウに大してレナは駆け出すと、目元を紅色に輝かせながら大剣を振りかざす。彼はキラウに接近すると、反撃の隙も与えずに大剣を振り払い、特大の風の斬撃を放つ。

普通の人間ならばこの一撃で真っ二つに切り裂かれていただろうが、キラウは森人族であるために風属性に対する耐性を持っている。それに彼女もハヅキ家の生まれであるため、魔術師としての資質は高い。魔法の才能がある者は魔法耐性も高く、通常ならば身体が切り裂かれる所をキラウは吹き飛ばされるだけで済んだ。



――あぁあああああっ!?



キラウの悲鳴が街中に響き渡り、彼女を遥か彼方まで吹き飛ばしたレナは興奮が収まり、剣鬼の能力を解除した。そして彼は風の精霊を従えて着地すると、掌に風の精霊を漂わせて呟く。


「ありがとな」


風の精霊はレナの言葉が理解したのかは不明だが、彼の手元から飛び去ってしまう。先ほど落下したレナが無事に生き延びられたのは風の精霊のお陰であり、子供の頃に屋敷の屋根から落ちた時にアリアが彼を助けたように風の精霊がレナの窮地を救った。


「ぷるっくりんっ」
「おっとと……プルミンもありがとうな。後で好きなの何でも買ってやるからな」
「ぷるるんっ(約束やで)」


口元に張り付いていたプルミンが元に戻り、レナは彼を腕に抱きかかえてキラウが消えて行った方向に視線を向けた。いくらキラウであろうと先ほどの攻撃を受けて無事なはずがなく、もう二度と会わない事を祈ってレナは立ち去った――





――後に街の人間達の中で夜中に女性の悲鳴を聞こえたという者達が大勢現れ、すぐに警備兵は街中を調べ回ったがその日は特に大きな事件もなく、悲鳴をあげたという女性の存在は確認できなかった。人々は夜中に泣き叫ぶ女の幽霊が現れたと思い、夜の日は決して出歩かないようになったという。
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