伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ

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魔法の契約

第13話 魔法の練習

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――収納魔法を覚えた日の晩、森の中でナイは短剣を手にしていた。彼の正面から10メートルほど離れた場所に的を描いた樹木が存在し、短剣を振りかざす。


「ふっ!!」


投げる寸前に肉体強化を発動させ、全力で短剣を投げ放つ。ナイが放った短剣は的の中心に刃が突き刺さり、それを見たナイは握り拳を作る。狩猟に役立つのではないかと考えて以前から短剣投げの練習をしており、実際に何度か獲物を仕留めた事もある。


「魔法よりも自分で投げた方が早い、か」


的から短剣を引き抜く際にナイはクロウから言われた言葉を思い出し、収納魔法を利用して異空間から短剣を射出させるよりも、自らの手で短剣を投げつけた方が効率的だとクロウは語った。

ナイは試しに掌の中に「黒渦ゲート」を作り出すと、回収した短剣を異空間に収納する。そして短剣を投擲した場所と同じ距離で掌を構えると、黒渦から短剣を「射出」させた。


「はあっ!!」


気合の掛け声と共にナイは短剣を放とうとしたが、黒渦から飛び出した短剣は的に届く前に失速し、狙いを大きくずれてしまう。それを見たナイはため息を吐きながら短剣を回収する。


「はあっ……確かに今のままじゃ使い物にならないな」


クロウの言う通りに現状では黒渦を利用して短剣を飛ばす方法は、実戦で役立ちそうにない。的に当てる事もできないどころか無駄に魔力を消費してしまった。

肉体強化を使用した状態で短剣を投げつける方がであり、こちらの方が魔力の消費も抑えられて正確に狙いを当てられる。だが、ナイはどうしても納得できない点があった。


(投げた方が早いと言ったけど、本当にそうなのか?)


短剣を手にした状態でナイは考え込み、確かにクロウの言葉も一理あると思ったが、試しにナイは身体を伏せた状態で右手を伸ばす。


(この体勢からだと流石に短剣は投げられないけど……こっちならできるな)


右手を伸ばしたナイは黒渦を出現させると、再び異空間に短剣を取り込み、的に目掛けてもう一度射出させる。先ほどよりも的に近い位置だったため、狙いは少しずれたが樹木に当てる事はできた。


「やっぱりそうだ。これならどんな体勢でも撃てるぞ」


上手く的に当てられた事にナイは喜び、肉体強化を発動したとしても地面に伏せている状態では短剣を投げる事はままならない。だが、収納魔法を利用した攻撃法ならば右手が自由に動かせる体勢なら攻撃できる。


「う~ん……名前でも付けようかな?黒射とか?」


黒渦から短剣を射出させる攻撃法を今後は「黒射」と名付け、改めてナイは樹木に突き刺さった短剣に視線を向ける。自分で投擲した時よりも威力は弱かったのか、短剣の刃は樹皮に先端部分が突き刺さっている程度であり、ナイが手を伸ばす前に勝手に抜け落ちてしまう。


「ありゃりゃっ……威力と速度をもうちょっと上げないと使い物にならなそうだな」


黒射の弱点は肉体強化を発動させた状態で投げつける短剣よりも威力は弱く、現状では魔物との戦闘では役立ちそうにない。だが、もっと練習すればより早く撃ち込めるようになるかもしれないと考える。

短剣を回収したナイは黒渦を発現させて異空間に取り込もうとした時、頭痛を覚えてうずくまる。どうやら何度も魔法を利用した影響で魔力を失い、一気に疲労感が押し寄せてきた。


「うっ……まだ三回しか使ってないのにこの有様か。いや、これは俺の魔力が少ないせいだな」


現在のナイの魔力量では黒射の連続使用は肉体の負担が大きく、今よりも魔力を増やさなけば満足に練習もできない。今日の所は大人しく帰る事にしたが、明日からはナイは魔力を伸ばすための鍛錬と、黒射の練習を本格的に行う事にした。


(よし、師匠をあっと言わせてやる!!)


クロウはナイの黒射は実戦では使い物にならないと言ったが、猛練習を行って黒射を実戦で使用できる段階まで磨き上げ、師を驚嘆させる事を誓う――





――それから一カ月の時が流れ、ナイは魔法の練習に励む。クロウの元には一度も立ち寄らず、黒射を磨くために毎日の練習を行う。


「よ~し……これだけ集めれば十分かな?」


自分が暮らす滝の裏の洞窟の中でナイは大量の小石を拾い集めた袋を手にすると、黒渦を展開して小石を全て異空間に取り込む。全ての小石を収納すると、流れ落ちる滝に目掛けて掌を構えた。


「まずは黒射を閉じる癖を直さないとな……」


これまでのナイは黒渦から物体を射出させる際、魔法を解除して無駄に魔力を消費していた。しかし、今回は大量の小石を異空間に取り込み、黒渦を維持した状態で全ての小石を射出させる練習を行う。


「うりゃっ!!」


気合の掛け声と共にナイは黒渦を右手に展開すると、異空間に取り込んだ小石を勢いよく射出させた。いつもの調子で黒渦を解除しそうになるが、慌てて意識を集中して黒渦を保つ。

発射された小石は滝に飲み込まれてしまったが、どうにか黒渦の維持に成功した。一か月前よりも黒渦の操作もできるようになり、この調子で練習を行う。


「よし、今度は連続して発射してみるか……おりゃっ!!」


黒渦を維持した状態で小石を二発、三発と続けて撃ちこむ。まだぎこちなさはあるが、徐々に連射の間隔が短くなっていく。それでも小石の威力はお粗末な物で激しく流れ落ちる滝に全て飲み込まれてしまう。


(実戦で使うとしたら滝をするぐらいの威力がないとな……よし、練習あるのみだ!!)


小石ならばいくらでも川原で回収できるため、ナイはこれから毎日滝に目掛けて小石を連射させる練習を行う――





――さらに一か月の月日が経過すると、新しい修行としてナイは黒渦のを図る。右手に魔力を集中させて限界まで魔力を放出し、円を描くように流動させて黒渦を作り出す。


「ふぎぎぎっ……で、できた!!」


魔力を限界まで搾り出して作り上げた黒渦の規模は直径一メートルほどであり、これだけの大きさで十分だった。


「ふうっ、流石にこれだけ大きいのを作るのは堪えるな……でも、これぐらいじゃないとは入りそうにないからな」


ナイは自分の後方に存在する物に視線を向け、もっと早くに黒渦を拡大化させなければ実戦では役に立たないと判断する。そのためには練習あるのみあった――




――クロウと別れてから三か月ほど経過した頃、最近は全く顔を見せなくなったナイを心配してクロウは彼の元に赴く。魔力感知でナイの居場所は理解できるのだが、収納魔法を覚えてからは全然顔を見せなくなった彼にクロウは不安を抱く。


「全く、何をやっとるんじゃあいつは……ちょっと叱り過ぎたか?」


ようやく魔法を覚えられる段階にまで成長したのでクロウはナイに色々な魔法を教える準備をしていたのだが、最近は山小屋に来る事もなくなったので心配して様子を見に行く。ナイはどうやら滝の裏の洞窟にいるらしく、面倒ながらもクロウは徒歩で向かう。


「はあっ、はあっ……この程度の距離で息が切れるとは、儂も老いたな」


森の中をずっと歩き続けたためにクロウは疲労を覚え、樹木に背中を預けて身体を休める。転移魔法を利用すれば一瞬で目的地に辿り着ける事は理解できているが、クロウは普段から魔法に頼り切りの生活は送らず、滅多な事では魔法を使わない様に生活している。

魔法を使わないのは他にも理由があり、クロウの場合は老人であるために若い頃と比べて魔法を使用すると肉体の負荷が大き過ぎて身体を壊す危険性があった。特に転移魔法のような特殊な魔法は魔力消費量が大きく、四年前にナイに転移魔法で山の外に送り出した時も体調を崩して一晩も寝込んでしまった。


(儂の寿命も長くはないかもしれんな……だが、死ぬ前にナイにだけは儂の究極の魔法を伝授しなければ)


クロウは誰とも結婚しておらず、自分に子供がいないのでナイの事を弟子というよりは我が子のように大切に思っていた。彼に厳しい修行を付けるのは愛情の裏返しであり、そんな彼だからこそ自分の編み出した魔法の継承者に相応しいと考えていた。


「さて、そろそろ行くとするか……ぬうっ!?」


立ち上がろうとしたクロウだが、急に目つきを鋭くさせる。彼は山の中に異質な魔力を感じ取り、突然に出現した魔力に困惑する。


「この魔力は……まさか、がもう目覚めたのか!?」


季節は冬の終わりを迎えようとしており、動物が冬眠から目覚める時期だった。だが、冬眠を行うのは動物だけとは限らず、実はこの山にはクロウでさえも厄介に思う魔物が一匹だけ存在した。


「い、いかん!!すぐにナイの元に向かわなければ……はぐぅっ!?」


急いで立ち上がろうとしたクロウだったが、勢いをつけすぎて腰を痛めてしまい、その場で見悶える。腰をやったせいでまともに歩く事もできず、彼は心の中でナイに念じる。


(ナ、ナイ……ペンダントはちゃんと身に着けておるんだろうな!?)


魔除けのペンダントをナイが所持していればどんな魔物でも彼に近寄ることもできないが、もしもナイがペンダントを所持していなければ大変な事になる。一刻も早く彼の元へ向かいたい所だが、腰の痛みが治まるまで動けそうになかった――
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