伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ

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修行の旅

第44話 クロウの言伝

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――魔樹の魔力が感じ取れない場所まで移動すると、三人は森の中にある泉に辿り着く。ずっと走り続けたせいで喉が渇き、三人仲良く泉に顔を沈めて水をがぶ飲みする。


「んぐっ、んぐっ……ぷはぁっ!!生き返ったっ!!」
「はあっ……もう、死ぬかと思いましたよ」
「ウォンッ♪」


喉が潤うとナイ達は地面に寝転がり、しばらくは身体を休めて体力の回復を待つ。待っている間にナイは助けてくれたエリナにお礼を告げた。


「エリナ、さっきは助けてくれてありがとう。ほら、ビャクもお礼を言え」
「ウォンッ!!」
「えへへ、照れるっすね」


魔樹から救ってくれたエリナにナイとビャクは感謝するが、どうして自分達が最初に捕まった時に短剣を矢で弾き飛ばしたのかを尋ねる。


「でも、さっきはなんで俺の短剣を矢で弾いたの?あれもエリナがやったんだよね?」
「えっ!?な、何の話ですか?そんなの知りませんけど……」
「あれ?」
「クゥンッ?」


最初に雑草に足元が拘束された際、ナイは短剣で雑草を切って逃げ出そうとした時、何処からか飛んできた矢のせいで短剣を弾かれてしまった。靴を脱ぎ捨てる事で窮地を脱したが、もしも対処が遅れていたら今頃は魔樹の餌食になっていただろう。

短剣を弾いた矢を撃ったのがエリナではない場合、他の何者かの仕業となる。しかし、ナイは木々の間を潜り抜けて飛んできた矢を見た時にエリナの仕業だと思っていた。


(エルフのエリナなら矢の軌道を曲げて飛ばす事もできると思ったけど、あれがエリナの仕業じゃないとしたら……いったい誰がやったんだ?)


エリナでなければ他の誰かがナイの短剣を撃ち落とした事になるが、その相手はエルフ並の弓の技量と魔法の使い手としか考えられない。何者なのかは不明だが、状況的に考えてナイとビャクを魔樹の「餌」にしようとしていた可能性が高い。


(いったい誰の仕業だ?まさか今も近くにいるんじゃ……)


魔力感知を発動させてナイは周囲の様子を伺うが、先ほどと同じように魔樹の魔力が広範囲に広がっているせいで上手く他の生物の魔力が感知できない。


「くそっ、やっぱり駄目か……」
「えっと、どうしたんですか?」
「それは……その前にもエリナはどうしてここにいるのか教えてくれる?まさか山からわざわざ俺を追いかけて来たの?」
「あ、その……実はクロウ魔術師から兄貴への言伝を頼まれまして、それで兄貴を追いかけてここまで来たっす」
「師匠から!?」


エリナはクロウに頼まれて急いでナイを追いかけてきた事を明かし、彼女はクロウの伝言を詳細に伝えた――





――自分の言う事を聞かずに山から勝手に抜け出して村に戻ったナイに対し、師としてクロウは罰を与える。その罰の内容は「一年」は山に戻る事を禁じ、当分の間は旅に出るように命じた。

今の時代では廃れてしまったが、昔の魔術師は弟子がある程度の魔法の技量を身につけると、自分の元を離れさせて「修行の旅」に出させる習慣があった。若い頃のクロウも旅に出て世界各国を渡り歩き、仲間と共に過酷な旅を乗り越えて成長したという。

今回の一件がなくともクロウは近々ナイを旅に出す予定であり、旅に必要な資金をエリナに渡してナイの後を追いかけるように頼む。エリナの師匠であるマリアもこの機会にナイと共に旅に出るように命じたという。


「……というわけでしばらくは兄貴と一緒に行動させてもらいます!!いや~旅に出るのなんて二十年ぶりでわくわくしますね」
「そ、そうなんだ……それにしても修行の旅か。師匠はまだ俺の事を弟子だと思ってくれているんだ」
「ウォンッ!!」


クロウが自分を破門していなかった事を知ってナイは安堵し、最悪の場合は二度と顔を合わせてくれないかと思った。しかし、いきなり旅に出ろと言われてもナイは旅支度を整えていない。


「でも困ったな……一応、着替えの類とかは異空間に預けてるからなんとかなるけど、お金なんて持ってないのに」
「あ、それなら大丈夫ですよ。あたしが兄貴に渡してくれと頼まれたお金がここに……あれぇっ!?」
「ど、どうした!?」
「ウォンッ!?」


エリナはクロウから渡された路銀が入った小袋を腰に括り付けていたのだが、いつの間にか袋が破けて中身がすっからかんになっていた。どうやら先ほど魔樹から逃げ出した時に袋が破られていたらしく、彼女は顔面を真っ青にしながら謝罪する。


「す、すす、すいません!!お金、全部落としたみたいです……」
「ええっ!?この森の中で!?」
「あ、あたしが戻って回収してきます!!大丈夫、すぐに見つけ出しますから!!」
「ちょ、駄目だって!!また襲われるぞ!?」


魔樹に襲われるかもしれないのにエリナが一人で戻ろうとしたのをナイは引き留め、残念だがクロウが用意してくれた路銀は諦めるしかなかった。不用意に戻れば再び魔樹の餌食となる恐れがあった。


「本当にお金は全部落としたの?」
「そうみたいです……ううっ、本当にすいません」
「仕方ないよ……けど、どうしてさっきは魔樹の攻撃を止めようとしたの?あいつのせいで俺達は散々な目に遭わされたんだけど」


ナイが気になったのはエリナが魔樹に攻撃を仕掛けようとした事を阻止した理由であり、どうして彼女は魔物であるはずの魔樹と戦う事を反対したのか尋ねると、エリナは魔樹の生態を語り始める。


「魔樹はエルフの間では決して殺してはならない魔物として語り継がれているんです。確かに魔樹は恐ろしい魔物ですけど、自然を守るために必要な存在なんです」
「自然を守るため?」
「あたしやマリア様が生まれるよりもずっと前の話になるんすけど、この辺りは草原だったそうです。だけどエルフが魔樹を植えたのを切っ掛けに植物が増え始め、この森が誕生したそうです。魔樹は魔物や動物を襲う恐ろしい魔物ですけど、吸収した生物の栄養を自分だけではなく、大地に与える益魔獣でもあるんです」
「益……魔獣?」


魔樹は動物だろうと魔物だろうと人間だろうと構わずに襲い掛かる危険な存在だが、大地に栄養を与えて植物が育ちやすい環境を整える「益魔獣」だとエルフの間では伝えられていた。

魔樹が生息する森は他の場所よりも植物が育ちやすく、数百年前までは草原だった地に森が誕生したのは魔樹のお陰である。緑の自然を愛するエルフにとっては森を形成する魔樹を大事に扱い、だから無暗に傷つける事や殺す真似は決して許されない。


「魔樹が死んだ場合、大地の栄養が枯渇して植物は枯れていき、最悪の場合は森自体が死んでしまう可能性もあるみたいです。だから兄貴といえども魔樹に手を出すのは駄目っすよ!!」
「そ、そうだったのか……倒しちゃいけない魔物もいるんだな」
「クゥ~ンッ……」


これまでナイは魔物は人間に害を与えるだけの存在だと考えていたが、魔物の中には自然に大きな影響を与える存在も居る事を初めて知り、今度からは魔樹と遭遇した場合は手を出さずに逃げる事に決めた。
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