貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
84 / 1,110
忌み子と呼ばれた少年

第84話 親友との約束

しおりを挟む
――その日の夜、ナイは全ての準備を整えると倉庫から抜け出す。そして村の外に向かおうとした時、家の前に誰かが立っている事に気付く。


「……よう、ナイ」
「ゴマン……?」


家の前に立っていたのはゴマンだと気付いたナイは驚き、時刻はもう深夜を迎えているというのにどうして彼が家の前にいるのかと戸惑う。一方でゴマンは真剣な表情を浮かべ、ナイの格好を見て尋ねる。


「お前、行くつもりか……」
「……うん」


ゴマンの言葉にナイは頷き、どうやら彼には気づかれていた様だった。当然と言えば当然の話であり、ドルトンが来たことを知らせたのはゴマンであり、ナイがドルトンに何を頼んでいたのかも見ていたのだろう。

彼はナイの返事を聞いて考え込み、やがて背中に背負っていた家宝の盾を差し出す。その行為にナイは驚くが、ゴマンは盾を差し出しながら告げた。


「これ……貸してやるよ」
「えっ……」
「言っておくけど、やるわけじゃないからな!!あくまでも貸すだけだ、だから絶対に生きて戻って来いよ!!必ず返せよな!!」
「ゴマン……」


盾を差し出してきたナイはゴマンの行動に動揺を隠せず、てっきり彼は止めるためにここへ来たのかと思った。しかし、ゴマンはナイに無理やりに盾を押し付けると、黙って背中を向けた。


「爺さんの仇を討ちに行くんだろ?」
「……うん」
「やっぱりそうか……なら、頑張れよ」
「ゴマン?」
「僕は一緒に行かないぞ……行ってやりたいけど、足手まといになるのは分かり切っているからな」


赤毛熊の強さをよく知っているゴマンは自分がナイに付いて行っても役に立たない事は重々承知していた。正直に言えばゴマンとしてもナイの力になりたい所だが、自分が付いて行っても役に立たないと考えていた。

実際にゴマンが付いてくる事を告げてもナイは彼を置いていく事は間違いなく、赤毛熊との戦いで彼を危険に晒すわけにはいかない。だからこそゴマンは家宝の盾を持ちだし、彼に託して必ず返しに来るように約束させる。


「いいか、絶対にそれを返しに来いよ!!その盾が無くなったら僕が親父に殺されるんだからな!!絶対に……絶対に生きて戻って来いよ!!」
「……分かったよ、必ず戻ってくる。それまではこの盾を借りるね」
「ああ……絶対に爺さんの仇、取って来いよ!!」


ゴマンは言いたいことを告げるとその場から走り去り、最後の言葉は涙声だった。ゴマンもこれがもしかしたらナイとの最後の会話になるかもしれないと予想していたのだろう。

ナイは確かに強くなった。だが、必ず赤毛熊を倒して戻ってくる保証はない。もしかしたらナイもこれが最後のゴマンとの会話かもしれないと思うと、彼の託してくれた盾を強く握りしめる。


(ありがとう、ゴマン……生きて戻ったら必ず返すよ)


盾を背中に背負ったナイは村の外に向けて歩み出し、この時に彼は他の人間に気付かれない様に「無音歩行」と「隠密」を発動させる。見張り役の村人達はナイの存在に気付く様子もなく、そのまま何事もなくナイは村から抜け出した――




――村を出たナイは山に登ろうとしたが、村の外を少し歩くと狼の鳴き声が響き渡り、草原からビャクがこちらに駆けつける光景を目にする。どうやらビャクも別れ際のナイの雰囲気の異変を察していたらしく、山から下りて彼を迎えに来たらしい。


「ウォンッ!!」
「ビャク……来てくれたのか」
「クゥ~ンッ」


ビャクは黙って地面に伏せると、自分の背中に乗り込むように促す。その行為にナイは頷き、どうやらビャクもナイの目的を勘付いていた。

昔は子犬程度の大きさだったが、現在のビャクは大人の馬と同程度の大きさを誇り、しかも馬よりも早く走る事が出来る。たった二年でナイを乗せて走れるほどに成長したビャクは森が存在する方向へ目掛けて移動を行う。


「行こう、ビャク!!」
「ウォオオンッ!!」


ビャクは雄たけびを上げながら草原を駆け抜け、その姿を目撃した草原の魔物達は驚いた様に離れていく。白狼種であるビャクの威圧に圧倒され、あのボアでさえも怯えて逃げ出す。


「フゴォッ!?」
「ギギィッ!?」
「キュイイッ!?」


ナイを乗せて草原を駆け抜けるビャクを見てボア、ゴブリン、一角兎は驚いた様に道を開き、その光景を後目にナイは深淵の森の方向に視線を向ける。ここまで来た以上は引き返す事は出来ず、赤毛熊を倒すまではナイは村に戻るつもりはなかった。


「待ってろよ……赤毛熊!!」
「ウォオオンッ!!」


ナイの気合を込めた怒鳴り声とビャクの咆哮が草原へ響き渡り、魔物達は彼等を恐れて近寄る事も出来なかった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

処理中です...