貧弱の英雄

カタナヅキ

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逃れられぬ運命

第156話 村へ帰る

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「――全く、ギルドマスターめ……いくら相手が貴族と言えど、こうも簡単に口を割るとは……」
「ナイの噂が知れ渡ってからこの屋敷には冒険者や傭兵、それどころか商人まで訪れています。今の所は全員追い返していますが……」
「本当に申し訳ない……冒険者ギルドの方へは儂が掛け合って冒険者はここへ近づけさせないようにしておこう。本を正せば儂のせいじゃ、すまん」
「いえ、別にそれは気にしないでください。でも、この様子だと屋敷を出るのも難しくて……」


屋敷には赤毛熊を倒したナイに会うために毎日人が訪れ、中には冒険者以外にも一般人も集まっていた。赤毛熊のせいでこの地方の人々は苦しめられていたが、その赤毛熊を倒したのが何と成人もしていない少年と聞けば興味を抱くのも無理はない。

ドルトンは急いで屋敷の門を修理して誰も入ってこられない様にしたが、いくら言い聞かせても人々は聞く耳を持たず、毎日のように屋敷の前に集まってくる。流石にこれ以上に人が集まると業務妨害になり得るため、これ以上にナイを匿うのも限界だった。


「ドルトンさんに迷惑はかけられないし、近いうちに出て行こうと思います」
「ナイ、儂は迷惑などとは思っておらんぞ」
「いえ、そろそろここを出て行こうと思っていたんです。行きたい場所があるので……」
「ほう、何処へ行くつもりじゃ?」
「村です。一度、村に帰ろうと思います」
「何!?まさか、一人で村に戻るつもりか!?」


ナイの言葉を聞いてドルトンは驚き、マホは首を傾げる。ナイの言う村とは当然だが彼が育った村であり、ドルトンはまさかナイが誰もいない村でまた生活を送るつもりなのかと焦りを抱く。


「いえ、村に戻るのは荷物を整理するためです。それに爺ちゃんの墓参りや、他の人たちの墓もどうなっているのかも気になるので……」
「そ、そうか……だが、その後はどうする?」
「とりあえずはビャクを連れて旅に出ようと思います。爺ちゃんが昔、冒険者だった時は色々な場所に巡りまわった話を聞いた時から旅には興味があったので……」
「ほう、旅か。それは悪く無いかもしれんな。この街に落ち着くよりはそちらの方がいいかもしれん」


村に戻った後、荷物を整理した後はナイが旅に出る事を決意すると、ドルトンもマホも止めはしなかった。どのみち、この街ではナイは落ち着いて暮らす事は出来ず、旅をして見分を広める事は悪い事ではない。


「うむ、若いうちに旅をするのも儂も悪く無いと思うぞ。儂とドルトンが冒険者だった頃、世界中を渡り歩いた事を思い出すのう」
「旅に出るというのであれば確かに荷物も整理した方がいいのう。そうそう、それとこれを渡しておこう。冒険者ギルドから受け取ってきた謝礼金じゃ」
「えっ……うわっ!?」


マホは机の上に小袋を置くと、かなり重量があるのか置いた時に大きな音がなり、それをナイに押し付ける。ナイは戸惑いながらも小袋の中身を確認すると、その中には大量の銀貨と金貨が何枚か入っていた。


「こ、これどうしたんですか!?」
「それは冒険者ギルドから受け取ったお主の取り分じゃ。赤毛熊には高額の賞金が掛けられておったからのう。無論、街でお主が倒したコボルト亜種等の魔物の討伐報酬分も含まれておる」
「でも、こんなにいっぱい貰えませんよ……」
「受け取っておけ。それは正当な報酬じゃ、お主もこの街を救った英雄の一人じゃ」


大金が入った小袋を受け取ったナイは冷や汗を流すが、マホからすればナイの活躍で魔物の大群を指揮していた厄介なゴブリンメイジを倒したのであり、この街の危機を救ったと言っても過言ではない。

最終的には魔物の大群はマホの広域魔法で一掃したと言っても、ナイがゴブリンメイジを倒したお陰で魔物達は同士討ちを行い、その間にマホは広域魔法の発動の準備を整える事が出来た。その事もあってナイの受け取った報酬にはマホの感謝と街の噂の迷惑料も兼ねて増額していた。


(このまま儂の弟子にならんか、といいたい所じゃがこの状況でそれを言うのは忍びないのう。全く、あの男、余計な真似をしおって……)


マホとしてはナイを自分の弟子に勧誘したいところだが、街に流れた噂のせいでナイはこの街には落ち着く事は出来なくなり、結果的にはナイに迷惑をかけてしまった。それもあってマホはナイを弟子に勧誘する事ができず、迷惑をかけておいて自分の弟子にならないかなど流石に厚かましいと思った。


(マホさん、僕を弟子にしたいと言ってたけど……やっぱり、旅に出ると言っても何も言わないし、本気じゃなかったのかな。まあ、仕方ないか)


だが、ナイの方は自分が旅に出ると告げてもマホが止めもしない事から彼女は自分を弟子にしたいという話はやはり冗談だったのかと思う。お互いにすれ違い、結局はナイはマホの弟子になる事はなかった――
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