貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第606話 お仕置き

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「よし、じゃあお兄さん。今から外で暴れてきてよ……その間に僕はお姉さんたちと一緒に逃げるからさ」
「…………」
「あれ、お兄さん?聞こえてる?ちょっと効きすぎたかな?」


ナイが自分の命令を聞いても黙り込んでいる事に少年は不思議に思うが、そんな彼に対してナイはゆっくりと近寄る。その行為に少年は疑問を抱き、自分の血の効果が強すぎたのかと思った。


「ちょっとお兄さん、聞いてる?さっさと外に……」
「ふんっ!!」
「うぐぅっ!?」
「ナイ殿っ!?」
「まさかっ……!?」


吸血鬼に接近したナイは手を伸ばして口元を抑え付け、そのまま力ずくで持ち上げる。その光景を見た他の者達はナイが操られていないのかと驚く。

最も驚いたのは吸血鬼であり、唾液よりも効果が高い血液が混じった酒を飲んだにも関わらずにナイが操る事が出来ない事に戸惑う。しかし、すぐに少年はナイの様子を見て気付いた。


(こ、こいつ……まさか、毒耐性の技能を!?)


吸血鬼の唾液や血液は相手を操る毒として分類され、毒耐性の技能を持つ人間には通じにくい。少し前にテンがナイならば耐えられるかもしれないと言いかけたのはそれが理由である。

但し、あくまでも耐性があるというだけで無効化できるわけではなく、時間が経過する事にナイも意識が薄れ始め、少年の言う事を聞く操り人形と化す。だが、その前に少年の口を塞げば命令を聞かずに済む。


「むぐぐっ……!!」
「はあっ、はあっ……皆、今のうちに逃げて!!」
「わ、分かったでござる!!」
「皆さん、早く逃げて!!」
「あ、ありがとう……ナイ君!!」
「ううっ……」
「はあっ、はあっ……」


リンダが三人を連れ出し、人質になっていた者達を今のうちに外へ連れ出す。この時にクノは自分の手足に視線を向け、縛り付けられている手首や足首の関節を外して縄抜けを行う。


「この程度の拘束、忍者の拙者には通じないでござるよ!!」
「ふぐぅっ……!?」
「くっ……このっ!!」


クノが縄を解いたのを見て少年は焦り、このままではまずいと思った彼は両手を開く。この時に少年の爪が刃物の様に鋭利に伸びると、自分の口元を塞ぐナイの腕に目掛けて放つ。


「むぐぅっ!!」
「くっ!?」
「ナイ殿!?大丈夫でござるか!?」


腕に爪を突き刺されたナイは苦痛の表情を浮かべるが、それでも決して吸血鬼の顔面から手を離さない。その行為に吸血鬼は驚愕し、一方で突き射した爪に異変が起きていた。

確実に腕を貫いたと思われた爪だが、筋肉が圧縮して信じられない硬さを誇り、事前にナイは「硬化」と呼ばれる技能を発動させて身を防ぐ。硬化は筋肉を圧縮させて防御力を高める技能であり、覚えてはいたが最近は滅多に使わなかった技能なので発動が少し遅れてしまう。


「このぉっ!!」
「うがぁっ!?」
「おおっ!!」


吸血鬼を掴んだ状態でナイは壁に向けて叩き込み、頭部に強烈な衝撃を与える。いくら人間よりも頑丈な肉体を持つ吸血鬼といえど、頭部に衝撃を受ければ脳震盪は免れずに意識を失う。


「あがぁっ……!?」
「ふうっ、はあっ……」
「ナイ殿、やったでござるな」
「うっ……」
「えっ……ナイ殿!?」


しかし、吸血鬼を気絶させた途端にナイも倒れ込み、慌ててクノが彼を抱き上げる。するとナイが意識を失っている事に気付き、すぐに外へと向かう――





――こうして事件を多発させていた吸血鬼の確保に成功し、意識を失っていたナイが目を覚ましたのは夜明けだった。毒耐性のお陰で吸血鬼に操られずに済んだが、その間に事件は解決していた。

捕まえた吸血鬼は口元を塞がれ、魔法金属製の拘束具で動けない様にすると、ひとまずは闘技場へと送り込まれる。普通の人間ならば監獄送りなのだが、生憎と吸血鬼は人間ではなく魔人族という事で警備が強化された闘技場で一旦は預かる事になる。

これまでに事件を起こしたが人間は吸血鬼の少年が自白した事で彼等も被害者だと判明し、無事に釈放される。宿屋に立て籠もった男も謝罪を行い、彼の記憶は宿屋に訪れる前にあの少年と遭遇し、自分に従うように強制された事を話す。

実はヒナ達を人質に捉えた時は男は少年に操られていたが、脱走の際は興奮状態だと色々と問題があるという事で効果は切れていた。そのために見張りを行っていた時は既に操られていなかったが、少年の力を目の当たりにして逆らえずに従うしかなかったという。

他の事件と違って最後の犯人は意識がありながら吸血鬼に従っていたという事で犯罪に加担したため、厳重注意を受けた。しかも冒険者でありながら魔物に屈したという事実は重く、結局彼は冒険者稼業を辞めた。

その後、少年の吸血鬼は闘技場で捕まり、これまでに彼が奪った金品を何処に隠したのか尋問が行われる。吸血鬼は希少種族なので殺される事はないが、少なくとも国外追放は免れない事は確定していた。
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